250 likes | 380 Views
現代文明論 7. ルソーによる近代社会批判(人間不平等論)と新たな社会構築の原理(社会契約論). 18 世紀(啓蒙時代). ジャン=ジャック・ルソー(1712-1778)の主な著作 『 学問芸術論 』1750 年 『 人間不平等起源論 』1755 年 『 新エロイーズ 』1760 年 『 社会契約論 』1762 年 『 エミール 』1762 年. 学問芸術論. ディジョン・アカデミー懸賞論文の課題 「学問・芸術の 復興 は習俗の純化に寄与したか」 ・ルソーの回答
E N D
現代文明論 7 ルソーによる近代社会批判(人間不平等論)と新たな社会構築の原理(社会契約論)
18世紀(啓蒙時代) • ジャン=ジャック・ルソー(1712-1778)の主な著作 『学問芸術論』1750年 • 『人間不平等起源論』1755年 • 『新エロイーズ』1760年 • 『社会契約論』1762年 • 『エミール』1762年
学問芸術論 • ディジョン・アカデミー懸賞論文の課題 「学問・芸術の復興は習俗の純化に寄与したか」 ・ルソーの回答 「学問・芸術の進歩は、習俗の腐敗に寄与したか、それとも純化に寄与したか」(課題の言い換えに意味がある) 学問・芸術の進歩=文明の進歩 啓蒙時代の進歩の観念と真正面から対決、独自の思想を構築
『学問芸術論』の論争後、生活態度を変えるーー帯剣をやめる、時計を売る、高価な下着をあきらめる、楽譜写しの仕事で生計を立てる、ジュネーヴの市民を名乗る→本来の自己に戻る(パリに出て、有名人になろうとしていた)『学問芸術論』の論争後、生活態度を変えるーー帯剣をやめる、時計を売る、高価な下着をあきらめる、楽譜写しの仕事で生計を立てる、ジュネーヴの市民を名乗る→本来の自己に戻る(パリに出て、有名人になろうとしていた)
学問芸術論の第1部の要点 • 学問、文学、芸術は、人間の根源的自由を抑圧。文明は、礼儀正しさや洗練をもたらしたが、同時に人々はいかなる徳ももたないのに、いかにもすべての徳を備えているかのような外観を身につけてしまった。 • 「悪の最初の起源は不平等なのです」(ポーランド王への返事)
文明の進歩のもう一つの側面の発見 • 学問、芸術、科学、技術が進歩し、その進歩のおかげで生活が改善され、便利になった、要するに文明の進歩の恩恵に浴することをルソーは否定しない。しかし、習俗(生活の仕方)という観点からすると、文明の進歩は習俗を退廃させている。否定的な側面がある。 • 文字の文化=文学→習俗の退廃の第一段階(「レナル氏への手紙)
徳 • 徳=健全な習俗を支える中心概念 • 「魂の力であり強さである」(「学問芸術論」17ページ) • 「学問と芸術の光明がわれわれの地平に上るにつれて、徳は消え失せた」(18ページ) • 『英雄にとってもっとも必要な徳とはなにか』(ルソーの徳は、道徳的範疇をはみだし政治性を帯びた概念。個人の慎重、節制、公正よりも、公共精神にもとづく政治的行動=祖国愛のほうが英雄には必要)
スパルタ賛美とアテナイ批判 • 「ギリシャ全体が腐敗したときも、なおスパルタには徳が存在した。ギリシャ全体が奴隷となったときも、スパルタだけはなお自由であった。」(「ボルド氏への最後の回答)
奢侈批判 • 「奢侈は、文学や芸術と同じように、人間の無為と虚栄から生まれた」(学問芸術論、29ページ) • 「生活の便利が増大し、芸術が完成され、奢侈が拡がるにつれて、真実の勇気は衰え、武人の徳は消滅する。」(同上)
奴隷状態 • 「政治と法律が、集合した人々の安全と幸福に備えるのに対して、それほど圧政的ではないが、おそらくいっそう強力な学問、文学、芸術は、人々がつながれている鉄鎖の上に花飾りを広げ、彼らがそのためにこそ生まれたと思われるあの根源的自由の感情を押し殺し、彼らにその奴隷状態を好ませ、彼らをもって文明国民peuples policésと称せられるものを作り上げる。」(学問芸術論、16ページ) • 比較せよ 「人間は自由な者として生まれながら、いたるところで鎖につながれている。」(社会契約論、冒頭、110ページ)
市民=主権者 • ルソーの望む政治 • 市民が主権者である国家、民主制の政治 • 現実は? • 文明生活を享受する近代人は、もはや自己自身ではあり得ない精神の疎外状況にある(スタロバンスキー『透明と障害』のテーマ)
「知識・学問よりも徳の重視 • 奢侈に対する嫌悪と批判 • 都会的で優雅な表面の下に隠された偽善と対照をなす素朴で無垢な状態への賛美などが、すでに現れているのは注目に値する。」(小林善彦『誇り高き市民』岩波書店、147ページ)(151ページも引用)
人間不平等起源論(1755) • 自由で平等な、理想的な自然状態から始まり、最後に専制政治の奴隷状態に至る人類の不幸を物語る一般的歴史ーー人類の堕落、退歩の観念
「人為の人と自然の人とを比較して、人間の本性のいわゆる完成のなかに、その不幸の真の源があることを示した。…この瞑想から『不平等論』が生まれた。(『告白』による)「人為の人と自然の人とを比較して、人間の本性のいわゆる完成のなかに、その不幸の真の源があることを示した。…この瞑想から『不平等論』が生まれた。(『告白』による)
自然状態の人間 • ホッブズによる自然状態「万人の万人に対する戦い」(『リヴァイアサン』) • ロック:平和な状態(『市民政府論』) • ルソー 「もはや存在せず、おそらくは少しも存在したことのない、たぶん将来も決して存在しないであろうような一つの状態」(理論仮説としての自然状態)→「文明ゼロ度の自然状態」(小林善彦、188ページ)
2つの原理 • 「一つは、人間は誰もがみずからの幸福と自己保存を望むこと、 • もう一つは、人間は誰もが他者の苦しみに憐れみの情を感じるものだということ」(中山元、解説、311ページ)
自然人 • 善良でも邪悪でもなく、美徳も悪徳も存在していない。 • 自己愛(自己の安楽と保存に熱心な関心を与えるもの) • 憐れみの情(感性的な存在としての同胞が滅びたり苦しんだりするのを見ることに嫌悪を起こさせる感情)→以上2つが人間の本源的な感情 • 自然の不平等は存在しない。不平等は社会と制度とともに増大(自然的または身体的不平等、道徳的または政治的不平等) • 人間は、自然状態では、自己保存の感情だけで生きる
所有 • 「ある土地に囲いをして『これは俺のものだ』ということを思いつき、人々がそれを信ずるほど単純なのを見出した最初の人間が、政治社会の真の創立者であった。」(不平等論、全集、232ページ) • 自己愛→利己心(自尊心)へと変質
不平等論の注9 • 「みずからを不幸にしてきた理由」 • 「一方で、これほどまでに多くの学問を深く探究し、これほどの技術を発明し、これほどの力を行使し、深淵を埋め立て、山を削り、岩を破砕し、河を航行できるようにし、荒れ地を開拓し、池を掘り、沼を干し、大地に巨大な建物を建造し、海を船舶と船乗りで埋め尽くした。 • 他方では、これら一切の事業が、人類の幸福にどのような真の利点をもたらしたかと、しばらく沈思黙考してみると、そのあいだにきわめて大きな不均衡が存在することに驚かざるをえない。」(光文社、中山元訳、209-210ページ)
有害物質、虚弱な生活、火災や地震 • 「異物を混ぜ入れた食物、食物に使われている有害な調味料、腐敗した食料品、偽造された薬品、中身をごまかして販売する薬屋、それを間違って調合する薬剤師、それを入れた容器に含まれる毒のことを考えていただきたい。・・・自然が与えてくれた教訓を軽蔑したことで、わたしたちがどれほど大きな代価を支払わされているか、実感できるはずである。」(215ページ)
社会契約論民主主義の原理 • ホッブズHobbes(1588-1679)の近代的市民=「私」の利益を追求するもの→経済活動の自由 • ロックLocke(1632-1704) 自らが労働して財産をつくる、政府は市民の財産を保護する • ルソー すべての者が主権者であり同時に従属者になる契約=社会契約←一般意志
「公共」空間の登場 • 「公共」空間という次元がその哲学的近代に到達したのは、おそらく啓蒙、フランスあるいはアメリカ革命、カントの言説とともにでしょう」(デリダ、日延べされた民主主義、現代思想,1989.11, p.52) • 「世論=公論というものの歴史となると、これはヨーロッパの政治的言説に結びついているように思われます。」(同上、p.50)
一般意志 • 国家は「1つの意志をもつ1個の精神的な存在」=一般意志 • 1 一般意志は、国家のすべての成員の幸福を目的とする • 2 この意志はその国家においては一般的なものであるが、他の国との関係では一般的ではない
3 この意志はその内部に複数の個別意志を蔵している3 この意志はその内部に複数の個別意志を蔵している • 4 政治体の一般意志は、法として表現される • 5 個々の成員や集団の意志が全体の意志に服することが求められるとしても、個々の成員を傷つけることは許されない (中山元、社会契約論解説、493-495ページ)
共和国 • 3つの政治体制 君主政、貴族政、民主政 • 「政府は主権者ではなく、主権者の召使い(執行人)にすぎない」(社会契約論、120ページ)→政治哲学におけるルソーの最大の貢献 • 共和国(レピュブリック)とは、公的な事柄(レス・プブリカ)を優先する国家