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日本国際経済学会関西支部 国際シンポジウム 2014 年3月 29 日(土) TPP 、RCEP と日本の通商戦略 アジア太平洋の新たな通商秩序を展望する. 杏林大学教授(総合政策学部 / 大学院国際協力研究科) (一財)国際貿易投資研究所客員研究員 馬田 啓一 (K. UMADA). 目 次. Ⅰ WTO 離れとメガ FTA の潮流 1. WTO 交渉の失速 2. 21 世紀型貿易とメガ FTA Ⅱ 正念場の TPP 交渉 3. TPP の背景:米国の狙い 4. TPP 交渉の争点
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日本国際経済学会関西支部 国際シンポジウム2014年3月29日(土)TPP 、RCEPと日本の通商戦略 アジア太平洋の新たな通商秩序を展望する 杏林大学教授(総合政策学部/大学院国際協力研究科) (一財)国際貿易投資研究所客員研究員 馬田 啓一(K. UMADA)
目 次 ⅠWTO離れとメガFTAの潮流 1. WTO交渉の失速 2. 21世紀型貿易とメガFTA Ⅱ正念場のTPP交渉 3. TPPの背景:米国の狙い 4. TPP交渉の争点 5. 交渉の行方:漂流か Ⅲ同床異夢のRCEP 6. 日中韓FTAの思惑 7. 動き出したRCEP:運転手は・・・ 8. RCEPはAECを超えられない? Ⅳ メガFTAと日本の通商戦略 9. 21世紀型の通商戦略 10. TPPとRCEP:日本の役割
はじめに(要旨) ■WTO離れとメガFTA時代の到来 ●WTOドーハ・ラウンドは利害対立で失速、存続の危機。 ●21世紀型貿易のルールづくりの主役は今やメガFTA。 ■変わるアジア太平洋の通商秩序:メガFTAの主戦場 ●TPPは21世紀型FTAモデル。米国はTPPをテコにFTAAP実現を主導。 ●TPP拡大を警戒する中国は、非TPPの枠組みとして東アジア経済統合 (日中韓FTAとRCEP)の実現を急ぐ。 ●強まる米中の角逐、市場経済対国家資本主義の対立が先鋭化。 ■日本の通商戦略の課題 ●メガFTA時代の通商戦略は、21世紀型貿易のルールメーカーを目指す。 ●成長戦略の条件:メガFTAの重層的アプローチによって、アジア太平洋 の成長を取り込む。TPPは日本のFTA戦略の試金石。 ●TPPとRCEPをFTAAPにつなぐ、アジア太平洋の懸け橋となれるか。
Ⅰ WTO離れとメガFTAの潮流 1. WTO交渉の失速 2. 21世紀型貿易とメガFTA
1.WTO交渉の失速 ■2001年11月、ドーハ・ラウンド(多角的貿易交渉)の開始。農業、非農産 品市場アクセス(NAMA:Non-Agricultural Market Access)、サービス、 貿易円滑化、ルール(貿易救済措置)、知的財産権、開発、環境の8分野。 ■先進国と途上国の利害対立で難航。農業とNAMAの2分野を最優先。 08年7月の7カ国非公式会合は、大筋合意の寸前で交渉決裂。 ■第8回WTO閣僚会議(11年12月)は、膠着したドーハ・ラウンドについて 「近い将来の包括合意を断念する」ことを決定。部分合意を模索。 ■第9回閣僚会議(13年12月)で3分野(貿易円滑化、農業の一部、開発)の バリ・パッケージ合意。農業補助金をめぐる米印対立も、土壇場で妥協。 ドーハ・ラウンド崩壊の危機を回避したが、先行きは依然不透明。 ■WTO交渉の制度上の問題点:①シングル・アンダーテーキング(一括受 諾方式)、②コンセンサス(全会一致)方式、③途上国のS&D(Special and Differential Treatment:特別かつ異なる待遇)条項などの制約で、 意思決定が困難、もはや限界。 ■主要国の通商戦略の軸足は、WTOからFTAにシフト。
2.21世紀型貿易とメガFTA ■21世紀型貿易の特徴は、企業による国際生産ネットワークの構築、貿易 と投資の一体化。グローバルなサプライ・チェーン(供給網)の効率化が 企業の競争力を左右する。 ■21世紀型貿易のルールづくりでは、国際生産ネットワークの結びつきを 妨げる措置はすべて貿易障壁となった。国境措置(on the border)から 国内措置(behind the border)への重点シフト。 ■新たな通商秩序は、関税撤廃が中心の20世紀型貿易から、国内規制の 撤廃・調和を目指す21世紀型貿易の時代に変貌しつつある。21世紀貿易 のルールづくりの主役はWTOでなく、メガFTAだ。 ●Baldwin, R., “21st Century Regionalism: Filling the Gap between 21st Century Trade and the 20th Century Rules ,” Policy Insight, No.56, May 2011. ■地域主義のマルチ化=メガFTAの形成:TPP(Trans-Pacific Partnership Agreement:環太平洋経済連携協定)、RCEP(Regional Comprehensive Economic Partnership:東アジア地域包括的経済連携)、TTIP(Transatlantic Trade and Investment Partnership:環大西洋貿易投資パートナーシップ) など。
表1 メガFTAの世界経済に占める位置付け(2012 年) (資料)ジェトロ
図1アジア太平洋地域における経済連携の重層関係図1アジア太平洋地域における経済連携の重層関係 APEC (FTAAP) 東アジアサミット (ASEAN+8) ASEAN+6 (RCEP) ASEAN+6 ASEAN+3 ASEAN(AEC) • 香港 • 台湾 • パプアニューギニア インドネシア フィリピン タイ ロシア カンボジア ラオス ミャンマー 中国 韓国 シンガポール マレーシア ベトナム ブルネイ 日本 米国 カナダ メキシコ ペルー チリ 豪州 ニュージ-ランド インド TPP (資料) 経済産業省
Ⅱ 正念場のTPP交渉 3. TPPの背景:米国の狙い 4. TPP交渉の争点 5. 交渉の行方:漂流か
3.TPPの背景:米国の狙い(1) -Stop Asia Only(アジアだけの経済圏を阻止)- ■東アジアの地域主義を警戒 ●ASEAN、日中韓の間で活発化する二国間FTA締結。 ●東アジア共同体を視野に入れた広域FTA構想:ASEAN+3(日中韓)、 ASEAN+6(印豪NZ追加)⇒RCEPに収斂(2012年)。 ●中国の影響力拡大、東アジア市場からの米締出しを懸念。 ■ブッシュ政権がAPEC(アジア太平洋経済協力会議)ハノイ会合(06年)で、 FTAAP(Free Trade Area of the Asia-Pacific:アジア太平洋自由貿易圏) 構想を提案、米抜きの広域FTAを牽制。 ■オバマ政権のアジア回帰(バランスの再調整):「アジア太平洋国家」とし て、東アジアの問題に積極的に関与する姿勢を打ち出す(2009年11月)。
3.TPPの背景:米国の狙い(2)-TPP拡大によるFTAAP実現-3.TPPの背景:米国の狙い(2)-TPP拡大によるFTAAP実現- ■TPPは、P4(シンガポール・NZ・チリ・ブルネイ、06年5月発効)と呼ばれる FTAが母体。参加国・分野を拡大し、TPP協定へとバージョンアップ。 ■ブッシュ政権がTPP交渉参加を表明(2008年9月) ●APEC内の協議でFTAAPの短期実現は困難と判断、その理由は? 一部の加盟国が①非拘束原則に固執、②東アジア経済統合を優先。 ●パスファインダー(pathfinder) ・アプローチ(先遣隊方式)の採用、 APECの外からTPP拡大を通じてFTAAP実現を目指す。 ■米国に続き、豪州、ぺルー、ベトナム、マレーシアがTPPに参加、当初、 9か国で21分野について交渉(2010年3月~)。その後、加墨(12年12月)、 日本(13年7月)も参加。その他、韓国もTPP参加方針を表明(13年11月)。 タイ、フィリピンなどASEANの一部、台湾などがTPP参加に関心。 ■APEC横浜ビジョン(10年11月):FTAAP実現の道筋(TPP・ASEAN+3・ ASEAN+6の3ルート)を提示。
3.TPPの背景:米国の狙い(3)-TPPは国家輸出戦略の柱-3.TPPの背景:米国の狙い(3)-TPPは国家輸出戦略の柱- ■オバマは当初、TPP交渉に消極的。 ●大統領選挙中(2008年)、ブッシュ政権のFTA路線批判、北米FTAや 米韓FTA の見直しを主張。労組が民主党の支持基盤。 ●オバマ政権の1年目は、サブプライム危機の影響で国内対策を優先、 通商政策(WTO・FTA交渉)は後回し。 ■ 10年1月の一般教書演説で軌道修正、「5年間で輸出倍増、200万人の 雇用を創出」を目標とした国家輸出戦略を打ち出す。 ●巨額の財政赤字とゼロ金利で財政金融政策は手詰まり、輸出重視へ。 ●TPPは、アジア太平洋地域への輸出拡大を通じて米国の成長と雇用拡 大につながると期待、TPP交渉に本腰。 ■TPPは、TTIP(米欧FTA)とともに米国の通商政策の重要な2本柱。 21世紀型貿易のルールづくりの主導権を狙う。
3.TPPの背景:米国の狙い(4)-中国の国家資本主義に照準-3.TPPの背景:米国の狙い(4)-中国の国家資本主義に照準- ■中国の国家資本主義に対する高まる懸念 ●国家資本主義(state capitalism):市場原理を導入しつつも、政府が国 有企業を通じて積極的に市場に介入。自由貿易体制と共存できるか。 ●国有企業が政府の優遇措置・補助金で競争上優位、貿易紛争が頻発。 ■TPP交渉では国有企業規律も争点。将来の中国参加を想定したルール づくり。TPP参加の条件として、問題の多い中国に国家資本主義からの 転換とルール遵守を迫るというのが、米国のシナリオ。 ■中国は米国主導のTPP拡大を警戒、対抗措置として東アジア経済統合 (日中韓FTAとRCEP)の実現を急ぐ。米中による陣取り合戦。 ■TPPをめぐる米中の角逐は、市場経済対国家資本主義の対立の構図と 捉えるべき。
4.TPP交渉の争点(1)-TPPは21世紀型のFTAモデル-4.TPP交渉の争点(1)-TPPは21世紀型のFTAモデル- ■TPPは、米国主導で高度で包括的な「21世紀型のFTA」を目指す。 ①高い水準の自由化。 ②「WTOプラス」のルールづくり:米国が重視する分野は、 貿易円滑化、 投資、政府調達、知的財産権、競争政策、環境、労働等。 ■TPP交渉には米産業界の意向が色濃く反映。 ●米産業界にとって、TPPは米企業のビジネス環境を改善させる絶好の チャンス。その狙いは、市場アクセスの改善と制度・ルールの統一。 ●TPPのための米国企業連合(U.S. Business Coalition for TPP)が、 「TPPに関する15の具体的要望書」を発表(2010年9月)。 ■経団連の「TPPを通じて実現すべき重点項目」は、米産業界の要望と共通。 ●公平な競争条件確保、貿易手続きの簡素化、模造品・海賊版対策、 制度・規格の調和、政府調達の開放、投資自由化・保護等。
表2 TPP交渉の21分野 注:◎は年内合意のめど、○は実質合意に近づく、△は進展、×は見通しつかず (2014年2月末現在) (資料) 経済産業省、日本経済新聞
4.TPP交渉の争点(2)-物品市場アクセス:センシティブ品目の扱い-4.TPP交渉の争点(2)-物品市場アクセス:センシティブ品目の扱い- ■物品市場アクセス(関税撤廃)の例外措置:米国は、豪州に対する砂糖 (米豪FTAでは除外)、NZに対する乳製品、ベトナムに対する繊維、 日本に対する自動車等、センシティブ品目を関税撤廃の例外とする考え。 ■交渉の進め方をめぐる対立:米国のエゴが丸出し。①二国間方式(既存 のFTAを残し、未締結国との間で二国間FTAを締結)を主張する米国と、 ②多国間方式 (統一的に関税撤廃交渉を行い、その決定は既存のFTA に適用)を主張する豪州、シンガポール、NZが対立。現在、二国間ベース で交渉。最終調整の方法は未だ不確定。 ■日本の農産物5項目(コメ、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物)と、 米国の自動車の関税撤廃を巡る日米協議は平行線。「聖域」の解釈に 違い。
4.TPP交渉の争点 (3)-TPPのルール:米国の主張と他国の反発- ■投資:米国は投資家保護のため、 ISDS条項の導入を主張、豪州と対立。 条件付き(公衆衛生、安全、環境など公共の利益のための措置は提訴の の対象外)で導入の方向。 ●ISDS条項(Investor-State DisputeSettlement:投資家対国の紛争処理 手続):投資家が投資受入国の政策により被害(直接・間接収用)を 受けたとき、国際仲裁機関(国際投資紛争解決センターなど)に提訴。 ■知的財産権の保護:WTOのTRIPS(Trade-Related Aspect of Intellectual Property Rights:知財の貿易関連側面)プラスの規定を要求する米国に 対し、新興国が反対。米の主張:著作権保護期間を延長(50年→70年)、 新薬の特許期間延長(安価なジェネリック製造の妨げ)、非親告罪化 (著作権侵害を職権で刑事手続き)など。 ■政府調達:公共事業など物品・サービス調達の開放。WTO政府調達協定 (日米加星のみ参加)並みか、それを上回る水準とするかで対立。 マレーシアはブミプトラ政策(マレー人優遇)の廃止を拒否。
4.TPP交渉の争点(3)-TPPのルール:米国の主張と他国の反発-4.TPP交渉の争点(3)-TPPのルール:米国の主張と他国の反発- (つづき) ■競争政策(国有企業規律):米国は国有企業と民間企業との対等な競争 条件の確立を要求。国有企業依存の大きいベトナム、マレーシアが反対。 米国は中国を仮想対象国としているため、強硬姿勢。 ●米国が新興国に譲歩の兆し(国内だけで活動する国有企業に対して、 一定の優遇を認める)、膠着状態は打開の方向へ。 ■原産地規則:繊維製品について「ヤーン・フォワード」ルール(TPP参加国 の原料を使用)を主張する米国に対し、中国産糸を輸入するベトナムが 反発。同ルール採用のメキシコ、ペルーが例外扱いに反対。 ●関税番号変更基準と付加価値基準、第3者証明制度と自己証明制度 の統一で対立。 ■労働と環境:「底辺への競争」(貿易投資の促進のため環境基準や労働 基準を緩和)を阻止、高い基準を規定。規定の実効性を担保するために 紛争解決の対象とするかどうか、新興国と対立。 ■ルール受入れと関税撤廃のギブ&テイクの二国間交渉が、一部膠着状態。
5.交渉の行方、漂流か(1) -21世紀型と20世紀型の狭間で- ■TPP交渉の先行きは不透明 ●交渉参加12カ国は2013年末の交渉妥結を目指したが、越年。 今年2月のTPP閣僚会合でも、大筋合意は先送り。 ●4月の日米首脳会談がヤマ場。5月のAPEC貿易相会合(青島)に 合わせてTPP閣僚会合を開催、合意を目指す案も浮上。 ●このタイミングを逃すと、11月米議会中間選挙の影響で実質的な 協議は難しくなり、TPP交渉は漂流、長期化の可能性が高い。 ■TPP交渉の停滞は、関税撤廃をめぐる日米対立が最大の要因。 ●アジア太平洋の21世紀型貿易ルールづくりを先導する立場の日米が、 20世紀型貿易の次元で揉めている。関税撤廃という20世紀からの宿 題でどう折り合うかが、交渉妥結のカギ。 ●新興国は、日米協議の着地点を見極めてからカードを切る考え。
5.交渉の行方、漂流か(2)-TPA法案は両刃の剣-5.交渉の行方、漂流か(2)-TPA法案は両刃の剣- ■米議会のTPP批准には超党派の支持が必要だが、予断を許さない。 ●民主党の支持基盤は労組、TPP反対の保護貿易主義者が多い。 ●共和党=自由貿易主義という従来の図式崩壊。保守的な草の根運動 「ティーパーティ(茶会)」の支持受けた議員はTPPに反対。 ■TPA法案は追い風か、それとも逆風か ●TPA(Trade Promotion Authority:貿易促進権限):ファースト・トラック条項。 米大統領が批准法案について一括・無修正の審議を議会に求める 権限。2007年7月以降、米政府はTPAを喪失。 ●オバマ政権は昨年3月、議会にTPA復活を打診。今年1月、超党派議 員によってTPA(正確には、Trade Priorities Act of 2014)法案が提出。 TPA反対派に配慮し、交渉への議会の関与を強めた法案。 ●TPP交渉への影響は両刃の剣。米政府は、 ハードルの高いTPP交渉 合意によりTPA2014法案を成立させる考え。米交渉の柔軟性低下。
Ⅲ 同床異夢のRCEP 6. 日中韓FTAの思惑 7. 動き出したRCEP:運転手は・・・ 8. RCEPはAECを超えられない?
6.日中韓FTAの思惑 ■FTAの空白地帯が一転、前倒しされたロードマップ ●2003年から日中韓FTAの民間共同研究を実施、10年から産官学共同 研究に格上げ、11年末に終了(中国の提案で前倒し)。 ●12年5月の日中韓サミットで12年中の交渉開始の方針で一致。11月の 日中韓経済相会合で交渉開始を宣言。13年3月第1回交渉会合。 ■交渉開始をめぐる日中韓の思惑 ●中国はTPPに対抗、積極姿勢に転換。米と陣取り合戦(日韓と連携)。 日中韓FTAをテコに、RCEP交渉の主導権を狙う。 ●韓国は米欧と二国間FTAを締結済み、残る中韓FTA優先。 ●日本はFTA競争で韓国の後塵、挽回狙う。日中・日韓より日中韓FTA。 ■今後の見通し:RCEPより早期の合意目指す(14年3月第4回会合) 。 ●15分野の交渉。焦点は、物品、サービス、投資、知的財産。 日本が自由化率について「まず6割、10年内に9割」提案。中国難色。 ●中韓FTA(12年5月開始)が先行。影落とす領有権・歴史認識の問題。
7.動き出したRCEP:運転席は・・・ (1)-ASEANプラスをめぐる確執- ■ASEAN+3とASEAN+6の2構想 ●ASEAN+3をメンバーとする東アジア自由貿易地域(EAFTA:East Asia Free Trade Area)構想と、ASEAN+6による東アジア包括的経済連携 (CEPEA:Comprehensive Economic Partnership in East Asia)構想を めぐり、中国と日本が牽制し合い、政府交渉は先延ばし。 ●踏み絵を嫌ったASEANは、周辺6か国との「ASEAN+1」FTA網を完成 (2010年)、FTA効果を享受。 ■日中共同提案(2011年8月)の意義 と目的 ●提案の骨子:①+3か+6かの問題は「ASEANプラス」の形で棚上げ、 ②3分野(物品貿易、サービス貿易、投資)の自由化を作業部会で検討、 ③ ASEAN Centrality を尊重(議長はASEAN)。でも中国が黒子? ●2つの構想をめぐる確執による膠着状態から抜け出すための打開策。 日中痛み分けの折衷案。 ●中国が「非TPP」の枠組みづくりで柔軟姿勢、ASEANの取り込み狙う。
7.動き出したRCEP:運転席は・・・ (2)-RCEP交渉は前途多難- ■ASEAN+3首脳会議と東アジアサミット(2011年11月、インドネシア)で、 RCEP(東アジア地域包括的経済連携)案を了承。 ●日中共同提案を踏まえ、 ASEANが東アジア経済統合の一般原則と 枠組みを提案、ASEAN+3とASEAN+6の2構想はRCEPに収斂。 ●参加・不参加は6ヵ国の判断に委ねる(ただし、事実上はASEAN+6)。 3分野の自由化を最優先、例外を認める低レベルの協定。 ■ASEANの重い腰を上げさせた理由とは? ①日中韓FTAの交渉開始を警戒、運転席の確保、 ②TPP参加による ASEAN分裂を懸念、結束維持のため強い求心力が必要。 ■2012年11月、ASEAN+6の16ヵ国がRCEP交渉開始を宣言(東アジア サミット・カンボジア)、15年の合意を目指す。 ●各国は同床異夢、思惑は様々。顔の見えない運転手。 ●5つの「ASEAN+1」FTAの一本化(原産地規則、自由化水準、例外規定、 関税削減方式などバラバラ)は困難。21世紀型ルールは道遠し。
表5 RCEPの概要(8原則と交渉分野) (注) 政府調達、労働、環境などは一部の参加メンバーの反対で、交渉分野に含まれていない。
8.RCEPはAECを超えられない? ■2003年10月のASEAN首脳会議で、15年までにASEAN経済共同体 (AEC:ASEANEconomic Community)を創設することに合意。 ■同年11月にAECブループリント(AEC実現の行程表)を発表。非拘束原 則のため、スコアカード(点検評価リスト)で各国に ピア・プレッシャー。 ■危ぶまれるAEC実現のシナリオ:15年1月初から12月末に先延ばし。 ●AECの進捗率は80%、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムの 新規加盟国(CLMV)と原加盟6カ国との域内格差が大きな壁。 ●物品の域内関税はCLMVの一部品目を除き、15年までに撤廃。 ●非関税障壁撤廃や貿易円滑化(シングルウィンドウなど)は遅延。 ●サービス貿易・投資の自由化は遅延。 ■ASEANの中心性(東アジアの主導権を狙う小国集団の野心を反映) による制約:ASEAN主導のRCEPはAECを超えられない。 高いレベルのRCEPを望む日本、豪州、NZにとっては骨の折れる交渉。
表6 AECブループリントの戦略目標 (資料)経済産業省
Ⅳ メガFTAと日本の通商戦略 9. 21世紀型の通商戦略 10. TPPとRCEP:日本の役割
9. 21世紀型の通商戦略(1)-メガFTA時代のルールづくり- ■メガFTA時代の幕開け:日本は、2013年3月に日中韓FTA、4月に日EU・ FTA、5月にRCEPの交渉開始、7月にTPP交渉参加。他方、米国とEU間 のTTIP(米欧FTA)も7月に交渉開始。メガFTA交渉を見据えた通商戦略 が不可欠。 ■21世紀型通商戦略:メガFTA時代の21世紀型貿易ルールづくりに参画。 ■アジア太平洋地域は新通商秩序に向けて、メガFTAの主戦場。 成長戦略の条件:メガFTAの参加は日本企業にとってビジネス・チャンス。 ●成長するアジア太平洋地域の需要を取り込む:中長期的に人口減少で 日本の国内市場は縮小、海外市場の獲得に活路。 ●21世紀型貿易ルールが確立すれば、グローバル・サプライチェーンの効 率化が可能。日本を拠点とした国際生産ネットワークの構築も加速。
9. 21世紀型の通商戦略(2)-TPPは日本のFTA戦略の試金石- ■TPPは日本のFTA戦略の試金石。 ●TPP交渉が妥結すれば、日中韓FTAやRCEPの交渉に弾みがつく。 ●逆に、TPP交渉が漂流すれば、他のFTA交渉の停滞を招く恐れ。 日本が両交渉で主導性を発揮する通商戦略のシナリオも狂う。 ■「20世紀からの宿題を片付ける」思い切った政治決断が必要。 ●「1ミリも譲れない」と頑なに農産物の関税撤廃を拒み続けるのか。 ●農産物5項目を聖域とするかぎり、TPPのみならずRCEPや日中韓FTA の交渉でも身動きが取れず、主導性発揮への期待は失望に変わる。 ●農業保護の手段を、関税(価格支持)から直接支払(所得補償)に段階 的に移行すべき。関税に固執する日本は欧米に比べて周回遅れ。 ●農業再生に向けた構造改革と規制撤廃は、成長戦略の1丁目1番地。
10.TPPとRCEP:日本の役割(1)-日米による中国包囲網-10.TPPとRCEP:日本の役割(1)-日米による中国包囲網- ■米国は、TPPを通じて中国の国家資本主義と闘う構え。 東アジア諸国が次々とTPPに参加し、中国の外堀が埋まれば、中国も 丸裸でTPPに参加せざるを得なくなる。中国の恐れる最悪なシナリオ。 ■米国内の大きな関心事:TPPとRCEPの関係は代替的か、補完的か。 ●中国包囲網の完成には、TPPへのASEANの取り込みが不可欠。 ●ASEANにとってRCEPは求心力(加盟国すべてが参加)だが、 TPPは 遠心力(参加組・不参加組に二分)。 ●RCEPによるTPP離れ(ASEANがTPPより楽なRCEPに流れる)を警戒。 ■米国の本音としては、 TPPの存在価値を高め、中国包囲網を強力なもの にするため、日本のTPP参加は不可欠。TPP拡大の呼び水効果を期待。 ■日本は、中国の国家資本主義にどう向き合うべきか。中国市場のビジネ ス環境改善という観点から、「中国を21世紀型貿易の枠組みに取り込む」 (日米が共有する理念)ため、米国と共闘を組むことは日本の国益と一致。
10. TPPとRCEP:日本の役割 (2) -アジア太平洋の懸け橋となれるか- ■日本が目指すFTA戦略は重層的アプローチ。TPP・日中韓FTA・RCEP の同時並行的な展開。 ■APEC横浜ビジョンが日本のFTA戦略の原点。TPPとRCEPの融合で FTAAPの実現。地政学的な利点を生かして、日本は懸け橋の役割。 ■TPPとRCEPのつなぎ役に、APECを活用。 ●APECはFTAAPのインキュベーター(孵化器)。 ●TPPとRCEPがFTAAPを上から引っ張り、APECが下から押し上げる。 ■東アジア経済統合(日中韓FTAやRCEP)を高いレベルのFTAに引き 上げるためには、TPPをテコに日本の強いイニシアティブが必要。 ●東アジアのFTA交渉で中国が主導権を握るかぎり、国家資本主義と 相容れない高いレベルの包括的なFTA(21世紀型の貿易ルール)は 望めない。
参考文献 (拙稿) 「メガFTA時代のWTO:主役か、脇役か」『季刊国際貿易と投資』No.95(2014. 3) 「オバマの通商戦略に死角はないか:WTOとメガFTAの対応」『季刊国際貿易と投資』No.94(2013. 12) 「TPPとアジア太平洋の新通商秩序:経済連携の潮流をどう読むか」『世界経済評論』Vol.57 No.5(2013. 9) 「APECとTPPの良い関係・悪い関係:アジア太平洋の新通商秩序」『季刊国際貿易と投資』No.92(2013. 6) 「TPPとRCEP:ASEANの遠心力と求心力」 『季刊国際貿易と投資』No.91(2013. 3) 「TPPと日米経済関係:強気な米国と弱気な日本」 『季刊国際貿易と投資』No.90(2012. 12) 「TPPと国家資本主義:米中の攻防」 『季刊国際貿易と投資』No.89(2012. 9) 「TPPと東アジア経済統合:米中の角逐と日本の役割」 『季刊国際貿易と投資』No.87(2012. 3) 「日本の新通商戦略と農業問題:TPPの視点」『季刊国際貿易と投資』No.86(2011. 12) 「米国のTPP戦略と日本の対応」『季刊国際貿易と投資』No.85(2011. 9) (注) 『季刊国際貿易と投資』は、国際貿易投資研究所(http//www.iti.or.jp)発行(ホームページから入手可能)。 (著書) 山澤逸平・馬田啓一・国際貿易投資研究会編著『アジア太平洋の新通商秩序:TPPと東アジアの経済連携』 勁草書房(2013. 10) 石川幸一・馬田啓一・木村福成・渡邊頼純編著『TPPと日本の決断』文眞堂(2013. 2) 馬田啓一・浦田秀次郎・木村福成編著『日本のTPP戦略:課題と展望』文眞堂((2012. 5) 山澤逸平・馬田啓一・国際貿易投資研究会編著『通商政策の潮流と日本:FTA戦略とTPP』勁草書房(2012. 4)