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数理科学者のための 免疫学小辞典 ver. 0. For 免疫数理研究会 最終更新:6月27日 作者:中岡慎治. 免疫学を初めて学ぶ数理科学者が簡単な辞書代わり、 もしくは勉強を進める手がかりとして利用できることを 意図して作成しました。分子レベルでの知見はできる 限り省略し、キーワード毎に教科書的知識をまとめています。 非専門家(作者は数学系)が書いたものなので、正確な 事実を知るためには専門書で改めて勉強して下さい。 今後、読者のフィードバックを元に内容を更新予定です。. 羊土社:イラストレーターの やさしい使い方から論文・学会発表までのサンプル画像
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数理科学者のための免疫学小辞典 ver. 0 For 免疫数理研究会 最終更新:6月27日 作者:中岡慎治 免疫学を初めて学ぶ数理科学者が簡単な辞書代わり、 もしくは勉強を進める手がかりとして利用できることを 意図して作成しました。分子レベルでの知見はできる 限り省略し、キーワード毎に教科書的知識をまとめています。 非専門家(作者は数学系)が書いたものなので、正確な 事実を知るためには専門書で改めて勉強して下さい。 今後、読者のフィードバックを元に内容を更新予定です。 羊土社:イラストレーターの やさしい使い方から論文・学会発表までのサンプル画像 を学術目的で使用 ・記載内容に誤り、誤字・脱字がある場合はフィードバックを頂けると幸いです。 ・自己責任の範囲でご利用いただけます (学術(非商用)目的であれば著作権フリー)。 ・作成は免疫生物学(南江堂)と免疫学ハンドブック(オーム社)等を参考にしましたが、文責は中岡にあります。
目次 各項のネズミをクリックすれば目次に戻ります (パワーポイントの場合:PDF は目次) 免疫学の歴史・・・3,4 MHC・・・5,6 抗原抗体反応・・・7 CD分類・・・8 T細胞・・・9 B 細胞・・・10 ヘルパーT細胞・・・11 制御性T細胞・・・12 CTL・・・13 NK 細胞・・・14 NKT 細胞・・・15 マクロファージ・・・16 樹状細胞・・・17 顆粒球・肥満細胞・・・18 免疫器官・・・19,20 細胞分化の系譜・・・21,22 免疫応答マップ・・・23 自然免疫・・・24 適応免疫・・・25 細胞性・液性免疫・・・26 サイトカイン・・・27 抗体の種類・・・28 共刺激・・・29 抗原認識・・・30 活性化・・・31,32 免疫寛容・・・33,34 炎症反応・・・35 免疫記憶・・・36 アレルギー・・・37,38 自己免疫・・・39 移植免疫・・・40 免疫療法・・・41--43 FACS・・・44 ELISA・・・45 ウェスタンブロット法・・・46 実験マウス・・・47,48
免疫学の歴史 1/2 • 1796 年 ヒト天然痘の予防法導入 Edward Jenner (ジェンナー) による牛痘 (vaccinia) 発見 • 19世紀後半 細菌学・免疫学の創始 Robert Koch (コッホ) は、感染症が微生物によって 引き起こされることを発見 Louis Pasteur (パスツール) は、ニワトリコレラ・狂犬病 に対するワクチンを開発 北里柴三郎と Emil von Behring (ベーリング) は、 ワクチンを受けた個体の血清中から抗体を発見 Elie Metchnikoff (メチニコフ) は、マクロファージを発見 参考文献: 免疫生物学 pp.1-2 人物像は Wikipedia 免疫・「自己」と「非自己」の科学
免疫学の歴史 2/2 • 獲得免疫系が多様性を生み出す機構解明 免疫系は自己成分には反応せず、非自己成分を排除する。また、獲得免疫応答では 暴露された抗原に特異的な抗体だけが産生されるが、その動作原理は長らく不明だった。 MacFarlane Burnet (バーネット) によるクローン選択説 (1950年代) 体内には多数の異なる抗体産生細胞が予め存在しており、そのそれぞれが異なる特異性 をもつ抗体を産生し、抗原レセプターとしてそれを細胞表面に保有していると仮定した。 抗原がこのレセプターに結合すると特定の細胞増殖が活性化され、これを祖先とする同一の 細胞集団(クローン)が選択的に増殖すると考えた。また、自己の成分と反応するような クローンは前もって排除、もしくは増殖を禁止されていると考えた(免疫寛容)。 利根川進による、レセプター遺伝子の再編成機構発見 (1976) 残された問題は、ほとんど無限に近い特異性を持つ抗原レセプターが 限られた数の遺伝子によりどのようにコードされているか?という問題である。 免疫グロブリン可変部は、DNA組換えによって組み合わせの原理により 多様性を獲得する機構で説明される。T細胞についても同じ機構が存在する。 参考文献: 免疫生物学 pp.14-17 人物像は Wikipedia 免疫・「自己」と「非自己」の科学
MHC • 主な特徴 体内の全ての細胞(注)では、主要組織適合遺伝子複合体 (major histocompatibility complex; MHC) によってコードされた膜糖タンパク分子に、(自己)抗原が結合したものが数万個存在する (右図)。MHC分子は個体によって非常に多様性に富み(多型性 polymorphic)、何種類ものMHC 分子の遺伝子情報をもっている(多遺伝子性 polygenic)。ヒトでは第6染色体上に直列に並んでいる一群の遺伝子で決定され、ヒト白血球抗原(human leukocyte antigen; HLA) とも呼ばれる。T 細胞は自己のMHC 分子を発現する細胞から抗原提示を受けるが、自己と異なるMHC 分子を異物と見なし、攻撃排除しようとする。このように、MHC 分子は T 細胞が自己と他者の区別をする目印になる。 MHCクラスI分子 (左) とMHCクラスII分子 (右) の 細胞外領域。赤い部分はMHC分子に提示された抗原 (注) 正確には次項 クラス I とクラス II 参照。クラス I は ほとんど全ての有核細胞および血小板の細胞表面 に発現 参考文献: 免疫生物学 pp. 93--121, 画像は wikipedia
MHC • 主な働き MHC分子は抗原提示を行うことで細菌やウイルスなどの感染病原体の排除や、癌細胞の拒絶、臓器移植の際の拒絶反応などに関与し、免疫にとって非常に重要な働きをするが、働きの違いによって大きく二つに分類できる。 MHC にはクラス I 分子とクラス II 分子があり、前者は細胞質内のペプチドを CD8 T 細胞に提示し、後者は細胞内小胞で分解されて生じるペプチドを CD4 T 細胞に提示する(細胞外から来たペプチドを提示)。MHC クラス II 分子を発現している 細胞はマクロファージ、樹状細胞、B 細胞といった抗原提示細胞に限られる。 一般に、ウイルスなど感染細胞内で増殖する病原体や癌細胞内で産生される抗原に対しては MHC クラス I を介した抗原提示、細菌など細胞外で増殖する病原体や毒素に対しては、抗原提示細胞のMHC クラス II を介した抗原提示により免疫反応が活性化される。例外として、樹状細胞はクロスプレゼンテーションにより、細胞外からの抗原を MHC クラス I 分子によって CD8 T 細胞に提示することができる。 参考文献: 免疫生物学 pp. 93--121
抗原抗体反応 • 抗体 (antibody) • 抗原 (antigen) 抗原である粒子性分子と特異的に結合する血漿蛋白。抗体は対応する抗原に特異的 に結合する。抗体の全体的構造は共通しており、免疫グロブリン(Ig)と総評される。 抗体は、感染や免疫に応答して B 細胞の最終分化細胞である形質細胞によって 産生される、可溶性の免疫グロブリンである。ウィルス・毒素などの細胞への侵入 を妨げる中和、細菌表面にくっついてマクロファージなどの貪食能を亢進するオプソニン化、 補体系を活性化して細胞を融解することが主な働きである。 抗体の種類にてもう少し詳しく説明 抗体と反応する分子。抗原と物理的接触をする抗体分子表面部位を抗原結合部位 (antigen-biding site) 、抗原表面部位を抗原決定基(エピトープ) という。T細胞、B細胞 が細胞表面に発現している高度に多様性をもったレセプターを抗原レセプターといい、 各リンパ球は単一の抗原特異性を有している。 T 細胞のエピトープは MHC 分子に結合し、 T 細胞レセプター (TCR) と MHC 複合体との結合を通じて特定の T 細胞に認識される。 B 細胞は、表面(膜型)の免疫グロブリンが B 細胞レセプター (BCR) として機能する。 参考文献: 免疫生物学 pp. 93--121
CD 分類 • モノクローナル抗体 • Cluster of Differentiation 免疫グロブリンの遺伝子の構造は、個々の B 細胞においてそれぞれ異なっている。 B 細胞1クローンを増殖させることで、タンパク質として単一の配列をもち単一の特異性 をもつ抗体を、モノクローナル抗体という。ある抗原に応答している動物から得られた B 細胞と、癌化した B 細胞 (ミエローマ細胞) で免疫グロブリン遺伝子をもっていないものを 融合させること(ハイブリドーマ)で得られる。モノクローナル抗体は分化の系譜を調べる際や、 リウマチやクローン病(抗 TNF-α抗体)、癌の抗体(乳ガンなど)に利用されている。 CD分類とは、ヒト白血球を主としたさまざまな細胞表面に存在する分子(表面抗原)に 結合するモノクローナル抗体の国際分類。白血球やその他の細胞は、細胞表面に 糖タンパクなどでできたさまざまな分子を発現しており、この分子の違いを見分けることで 細かい細胞の違いを識別することができる。これらの分子は、モノクローナル抗体が結合する 抗原として識別することができ、表面抗原あるいは表面マーカーと呼ばれる。 参考文献: Wikipedia: CD 分類 生命科学 p. 262
T 細胞 • 主な特徴 • 主な働き 獲得免疫を担うリンパ球の一つで、抗原に特異的に結合する受容体分子である T 細胞 受容体 (TCR) を細胞表面にもつ。骨髄で発生した前駆細胞が胸腺における分化の 途上で遺伝子組換えを行い、抗原と結合する部位の構造にほとんど無限に近い 多様性を生じさせる。適切なリンパ球を末梢に送り出すため、胸腺において正の選択と 負の選択という二重教育を受ける。正の選択では胸腺上皮細胞において、自己の MHC 分子とこれに結合した自己ペプチド抗原に対して特異的な胸腺細胞が選択的 に増加する。正の選択を受けなかった T 細胞は死滅する。負の選択では、自己抗原 に強い親和性をもつ自己反応性の細胞が消去される。胸腺から出た T 細胞は二次 リンパ組織に移動して生存・成熟する。 T 細胞には機能的に異なる様々な亜集団が存在する。B 細胞が抗体を産生する 形質細胞 (plasma cell) に分化する際、ほとんどの場合で CD4 陽性 T 細胞との 相互作用が必要になる。CD8 陽性 T 細胞は感染細胞を傷害して除去する働き を担い、CD4 陽性 CD25 陽性 Foxp3 陽性 T 細胞は免疫応答を抑制する働きを担う。 参考文献: 免疫生物学 pp. 221--237, 255--274
B 細胞 鳥類では骨髄で産生された前駆細胞がファブリキウス嚢 (Bursa Fabricius) で 分化成熟するため、器官の頭文字を取ってB細胞と命名された。哺乳動物には この器官は存在せず、骨髄(Bone Marrow)で分化成熟する。偶然にも頭文字が 同じであることから、そのままB細胞という名称が定着した。 • 主な特徴 • 主な働き 獲得免疫を担うリンパ球の一つで、骨髄で分化・成熟する。抗原に特異的に結合する 受容体分子である B 細胞受容体 (BCR) を細胞表面にもつ。B 細胞の分化段階は、免疫グロブリン(Ig) H 鎖と L 鎖の連続的再編成とその発現によって定義される。プロ B 細胞、プレ B 細胞を経て IgM 分子を表面にもつ 未熟 B 細胞になる。骨髄から脾臓へと移動して成熟 B 細胞となり、IgM に加えて IgD を発現する。抗原感作を受けるまではナイーブ B 細胞と呼ばれる。脾臓など二次リンパ組織にて抗原の存在下でヘルパー T 細胞との 相互作用を経た後、B 細胞は胚中心にて体細胞突然変異によってクラススイッチを行い、産生する Ig のタイプが変わる。加えて、親和性成熟 (affinity maturation) によって、抗体の親和性を高めるようにする。抗体を産生する形質細胞へと最終分化し、リンパ節や炎症部位へと移動する。 液性免疫を担う抗体を産生する。B細胞の一部は記憶細胞として長く残り、次回の侵入の際に素早く抗体産生が開始できるようになる(免疫記憶)。 参考文献: 免疫生物学 pp. 226--232, 341--359 免疫学最新イラストレイテッド第3章 wikipedia
ヘルパー T 細胞 (helper T cell) • 主な特徴 細胞表面にCD4抗原を発現しているリンパ球の亜集団。サイトカインの産生パターンに よって更に詳しく分類される。 Th1 細胞 主にIL-12の存在下で分化し、IFN-γを産生。細胞性免疫を媒介し、自己免疫疾患、遅延型 アレルギーにも関与するといわれている。T-bet は Th1 細胞分化に関わる転写因子 Th2 細胞 IL-4 によって分化し、自らも IL-4 を産生。液性免疫を媒介し、即時型アレルギーにも関与するといわれている。GATA-3 は Th2 細胞分化に関わる転写因子 Th17 細胞 IL-6 と TGF-βが同時に存在する下で分化し、IL-17 を産生。炎症反応を媒介し、関節炎にも関与するといわれている。RORγt-3 は Th17 細胞分化に関わるマスター転写因子 参考文献: 免疫生物学
制御性 T 細胞 (regulatory T cell) • 主な特徴 免疫応答を抑制する機能をもち、免疫寛容を担う T 細胞。胸腺で分化して発生する 内在性と、抗原刺激により末梢ナイーブ T 細胞から誘導される誘導性が存在 内在性 Foxp3+ Treg の分化 未成熟胸腺細胞が胸腺上皮細胞に提示される自己ペプチド・MHC 複合体に対して 高い親和性をもつ TCR を発現すると Foxp3 発現が誘導され、Treg へと分化する。 誘導性 Foxp3+ Treg の分化 末梢ではナイーブ Foxp3- T 細胞が TGF-β 存在下で抗原刺激を受けると Foxp3 を 発現して Treg へと分化する。IL-6 は TGF-β存在下では分化を阻害、IL-2 は促進する。 その他の免疫応答の制御に関わる T 細胞 内在性で胸腺内で分化する NKT 細胞や、誘導性でナイーブ T 細胞から分化する Tr1 細胞 (Foxp3 陰性で IL-10 を産生する) などが存在する。 参考文献: 実験医学 vol. 25 no. 18 (2007) 制御性 T 細胞と免疫恒常性のメカニズム
CTL (細胞傷害性 T リンパ球) • 主な特徴・働き Cytotoxic T Lymphocyte の略名で、CD8 抗原を発現しているリンパ球の亜集団。 感染細胞や腫瘍などを攻撃する。感染細胞にパーフォリンで孔を開けてグランザイム といった顆粒を注入するか、標的の Fas (Fas-Fas リガンド結合はカスパーゼを活性化) を刺激して、アポトーシスを誘導させて死滅させる。また、IFN-γ を産生してウィルスの 増殖を阻害、同時に細胞性免疫を活性化させる。 TCR が抗原提示細胞 (APC) 表面上の MHC クラス I 分子と共に提示された非自己抗原 を認識し、同時に共刺激分子からのシグナルが入ることで初めてナイーブ CD8 T 細胞 は増殖・活性化する。共刺激分子の発現は主に樹状細胞が担い、感染を感知したときに 生じる。エフェクター T 細胞の増殖に共刺激因子は必要ないが、エフェクター CTL の クローン増殖には同一の APC に結合しているヘルパー T 細胞が促進する場合もある。 Th1 細胞が産生する IL-2 や INF-γ によって CTL の増殖は促進される。 ナイーブな CD8 陽性 T 細胞からは、独立して(短命の)エフェクター細胞と(長期生存の) 記憶細胞に分化する説1) とエフェクター細胞から免疫記憶細胞へと分化する説2) という 2つのシナリオが存在する。 参考文献: 免疫生物学 p.328--333, 304--306, 315 1) Emma Teixeiro et al, Science 323 (5913), 502 2) Oliver Bannard et al, Science 323 (5913), 505.
NK 細胞 (natural killer cell) • 主な特徴・働き 感染細胞や腫瘍などを傷害する細胞性免疫を担うリンパ球で、CTL と同様の細胞 傷害のメカニズムをもつ。ただし、抗原特異的なレセプターをもたないため、自然免疫系 の一部として迅速に応答できる。 NK 細胞は IFN-α, IFN-β や IL-12 によって活性化される。NK 細胞は感染細胞を 非特異的に傷害するといっても、通常の非感染細胞は攻撃しない。感染などによって 変化した自己を認識する機構が備わっており、NK 細胞の活性化レセプターと抑制型 レセプターによって制御されている。抑制型(レクチン様もしくはキラー)レセプターにより、 正常細胞上の MHC クラス I と結合したときにはネガティブシグナルが送られ、NK 細胞 の活性化は抑制される。 多くの病原性ウィルスは、 MHC クラス I 分子にペプチド抗原 が提示されるのを阻害する戦略を発達させているため、MHC クラス I 分子の発現量は 低い。非感染細胞は IFN に反応して MHC クラス I 分子の発現を増加させて NK 細胞 に対して抵抗性になるが、感染細胞に対しては活性化の抑制が解除され、NK 細胞が 応答する (missing self 説)。CTL は MHC クラス I 分子の発現量が高いと感染細胞を 認識しやすいことから、NK 細胞は感染細胞除去において CTL と相補的な役割を担って いるとみなすことができる。NK 細胞は NK1.1 という分子を発現しており、これは NK 細胞のマーカーの1つである。 参考文献: 免疫生物学 p.82--85
NKT 細胞 • 主な特徴・働き NK 細胞のマーカーである NK 1.1 を発現する T 細胞を NKT 細胞と呼ぶ。NKT 細胞 は通常の T 細胞が MHC に提示されたペプチド抗原を認識するのに対し、 CD1d という MHC クラス I 分子に提示される糖脂質抗原を認識するユニークな細胞である。 NKT 細胞は Vα14 TCR の発現の有無によって2種類に分類される。Vα14 TCR を発現し、糖脂質α-GalCer (galactosylceramid) と CD1d 複合体を認識する 亜集団は invariant Vα14 NKT 細胞と呼ばれ、CD1d 拘束性はあるが Vα14 TCR 以外を発現するものは non-invariant NKT 細胞という。これらの分布は組織間で 差が大きいといわれている。NKT 細胞はNK 細胞と非常によく似た細胞表面分子を 発現している。 NKT 細胞は活性化よって IFN-γや IL-4 を大量に産生し、いわゆるアジュバント(賦活) 効果によって、ナイーブのヘルパー T 細胞の Th1 または Th2 細胞への分化や活性化 に影響を与える。NKT 細胞には CD4 陽性と CD4CD8 ともに陰性が存在し、 CD4+ NKT細胞は Th2 反応と免疫制御に関わり、CD4-CD8- は抗腫瘍作用に働く ことが知られている。 参考文献: 免疫学最新イラストレイテッド第6章、 実験医学 vol. 25 no. 18 (2007) 制御性 T 細胞と免疫恒常性のメカニズム
マクロファージ (macrophage) • 主な特徴・働き マクロファージや樹状細胞 (DC) は、感染初期の段階に LPS (リボ多糖) 受容体や Toll 様受容体 (TLR) などを通じて抗原を認識する。ウイルスや死細胞を取り込み (食作用)、炎症反応を亢進させて免疫細胞を炎症部位に誘導する。また、分解ペプチド MHC クラス II に結合させ、補助刺激と共に T 細胞に提示して活性化する(抗原提示)。 マクロファージ(DC)の補助刺激活性は微生物由来の物質によって誘導される。IFN-γ によりマクロファージは更に活性化し、殺菌作用を亢進させる。細菌に IgM 抗体が 結合すると、補体系によるオプソニン化が誘導され、補体レセプターをもつ食細胞に よって速やかに取り込まれる。マクロファージは IL-12 を分泌して Th1 細胞の分化を 促進する。マクロファージは主にリンパ組織に局在するが、血中の細菌などを 取り込んで処理・抗原提示をする単球が血管外の組織に遊走することで、組織固有 のマクロファージに分化する。 腫瘍に浸潤したマクロファージの中には、腫瘍の増殖を助けたりしてしまう腫瘍関連 マクロファージ(Tumor associated macrophage; TAM) というものが存在し、腫瘍の 増殖と転移を促進してしまう可能性がある。また、IL-10 など免疫抑制性のサイトカインを 放出して腫瘍の免疫回避を助ける制御性マクロファージというものも存在する。 参考文献: 免疫生物学 p.39--43, 64--91
樹状細胞 (dendritic cell) • 主な特徴・働き 樹状細胞は分枝状・樹状形態を示し、T 細胞刺激活性が最も強い抗原提示細胞である。 リンパ組織をはじめ非リンパ組織にも広く存在する。樹状細胞は表面マーカーや成熟段階 に応じて細かく分類されるが、大きく分けて2つのタイプがある。一つはミエロイド系樹状細胞 (conventional DC:表皮ランゲルハンス細胞と単球系) 、もう一つは形質細胞様樹状細胞 (plasmacytoid DC) と呼ばれている。マウスの場合、conventioanal DC は、CD11c, DC4, CD8α, CD11b, CD205 の5つのマーカーによって定義される。CD8αは樹状細胞の成熟 (活性化) の目安となるマーカーである。 樹状細胞は MHC クラス II 分子を通じて CD4 T 細胞に抗原提示をするだけではなく、クロスプレゼンテーションによって CD8 T 細胞にも抗原提示を行うことができる。クロスプライミングは免疫応答を、クロストレランスは免疫寛容を誘導する。DC の分化には可塑性があり、成熟段階・発現マーカーに応じて機能的に異なる働きをする。一般に、定常状態において未熟 樹状細胞は死細胞など自己抗原を取り込むが、炎症など成熟刺激がないため自己反応性 T 細胞を除去・不活化して末梢寛容を誘導する。一方、感染性微生物が侵入した場合には、感染・炎症とそれに伴うサイトカイン産生によって成熟し、免疫応答を活性化する役割を担う。 (注) 亜鉛濃度が減少に伴って樹状細胞の成熟が促進される機構が存在 (MHC クラス II の細胞表面における発現レベル上昇 参考文献: 免疫生物学 p.276, 307--309 免疫学最新イラストレイテッド第5章
顆粒球・肥満細胞 • 顆粒球 (granulocyte) 好塩基球 (basophil) 塩基性色素で染色される顆粒を有する白血球。肥満細胞と類似の機能を有する。 好中球 (neutrophil) 中性色素に染まる特殊顆粒をもつ顆粒球で、末梢血中の白血球の中で最も数が多く、 白血球の40~60%を占める。殺菌・貪食能をもつ。 好酸球 (eosinophil) 好酸性顆粒をもつ白血球で、寄生虫の感染防御に重要。 肥満細胞 (mast cell) 肥満細胞は IgE を介した I 型アレルギー反応の主体で、IgE 分子に抗原が結合すると、 肥満細胞から脱顆粒(ヒスタミン放出など)と活性化が起こる。 参考文献: 免疫生物学
免疫器官 (一次リンパ組織) • 骨髄 (bone marrow) 免疫細胞は全て造血幹細胞から分化して発生する。骨髄は造血の場であり、赤血球、単球 (monocyte)、多核白血球 (好中球、好酸球、好塩基球の総称)、血小板を産生。 ほ乳類において B 細胞発生の場であり、造血(骨髄)幹細胞の源でもある。 • 胸腺 (Thymus) T 細胞発生の場となる臓器で、胸腺は胎生・幼児期では末梢リンパ組織へ遊走するリンパ球が産生される場所で、生体では T 細胞産生は減少し、一次リンパ組織以外で成熟 T 細胞の分裂によって維持される。 参考文献: 免疫生物学 p.7--11, 221--287 画像は Wikipedia
免疫器官 (二次リンパ組織) • 脾臓 (spleen) 老化した血球を除去する赤脾髄と、B 細胞・T 細胞・形質細胞を成熟させ、病原体に 対する免疫応答の場となる白脾髄が存在する。白脾髄は T 細胞領域と B 細胞領域に はっきり分けられる。血中リンパ球は脾臓中心動脈から辺縁洞に入り、白脾髄または 辺縁帯 (marginal zone) に移動する。血流に直接入った抗原は脾臓で抗原提示細胞 に補足され、白脾髄でリンパ球の感作が起こる。辺縁帯では、マクロファージや樹状細胞 によるアポトーシスによる死細胞の貪食が行われる。 • 末梢リンパ節 (peripheral lymph node) T 細胞は、一般に樹状細胞によって運び込まれた抗原によってリンパ組織で感作を受ける。 皮膚から浸入した病原体に対する免疫応答は一般にリンパ節で起こり、リンパ節は血管系 とリンパ系の循環経路が交叉する場所に存在する。組織中の未熟樹状細胞は抗原を 取り込んで活性化を受けた後、局所リンパ節へと移動する。ナイーブ T 細胞が血中から リンパ節へと移動すると、皮質で多くの樹状細胞と出会うことになる。感染巣の下流にあり、 同部位からの抗原がリンパ系を経て流入してくるリンパ節を所属リンパ節 (draining lymph node) という。 参考文献: 免疫生物学 p 7--11
免疫細胞系譜 1/2 従来モデル (教科書に載っている) erythroid cell 赤血球 食細胞・赤血球系共通前駆細胞 マクロファージ T リンパ球 造血幹細胞 B リンパ球 リンパ系共通前駆細胞 リンパ球は、大きくTリンパ球とBリンパ球に分けられるが、両者は長らく特別に近縁な細胞であろうと 想定されてきた。そのため、血液細胞の分化経路としては、最初にT/Bリンパ球共通前駆細胞と それ以外の系列の共通前駆細胞に分岐するというモデルが信じられてきた。
免疫細胞系譜 2/2 新しいモデル(ミエロイド型モデル) 食細胞・赤血球系共通前駆細胞 赤血球 マクロファージ 食細胞・T-系共通前駆細胞 T細胞のもとになる前駆細胞は、 B細胞をつくる能力を失った後も、 マクロファージをつくる能力を保持 している 造血幹細胞 食細胞・リンパ系共通前駆細胞 B リンパ球 食細胞・B-系共通前駆細胞 Haruka Wada, Kyoko Masuda, Rumi Satoh, Kiyokazu Kakugawa, Tomokatsu Ikawa, Yoshimoto Katsura and Hiroshi Kawamoto, Adult T-cell progenitors retain myeloid potential, Nature, 452 768--772, 2008 参考文献:
免疫応答マップ • 自然 vs 適応 & 細胞性 vs 液性 細胞性免疫 (貪食を含める) CTL Mφ NK Th1 好中 Th17 Treg DC NKT 自然免疫系 適応免疫系 好酸 Th2 肥満 好塩基 B 液性免疫 (脱顆粒を含める) (注意) このような対立軸では分類不可能な場合もあるので、上記の分類はあくまで恣意的なものです。
自然免疫 (innate immunity) • 基本性質 ウィルスや細菌など病原体が体表面にある上皮を越えて侵入・増殖し始めると、通常は組織に存在するマクロファージによって認識され、病原体を貪食して破壊する。マクロファージは炎症反応を引き起こし、血中から好中球や血清蛋白 (補体系:complement system) などが誘導される。補体系は酵素カスケードの誘導を通じて活性化され、細菌の傷害と一連の強い炎症反応を引き起こすと共に、病原体と結合しオプソニン化することで、マクロファージなどの貪食能を亢進する。マクロファージ由来のサイトカイン IL-12 は Th1 細胞への分化を促進し、炎症性サイトカイン TNF-αによる炎症反応亢進、(ウィルスに対して) インターフェロン 産生による感染防御 (と IL-12 産生による NK 細胞の活性化) を行う。ケモカインはリンパ球など白血球の遊走を亢進する。 マクロファージや樹状細胞は抗原を認識し、活性化して補助刺激分子の発現や抗原提示、サイトカインの産生を行うことで、リンパ球を活性化して適応免疫系との橋渡しをする。上記以外の自然免疫系の細胞として、顆粒球 (好中球・好酸球・好塩基球)・肥満細胞、γδ型 T 細胞 (注) が知られている 。適応免疫応答との対比から、自然免疫系は抗原非特異な 応答である。 (注) γδ型 TCR をもつ T 細胞で、抗原認識メカニズムは未だ明確ではないが、微生物共通の糖脂質抗原や熱ショックタンパク質 などと直接結合して認識することがある。IFN-γ を産生する。 参考文献: 免疫生物学第2章
適応免疫 (adaptive immunity) • 基本性質 適応免疫応答は、病原体を取り込んで活性化した樹状細胞やマクロファージが T 細胞に抗原提示して活性化することから始まる。個々のリンパ球は一つの特異性しかもたないが、全体として非常に多様な抗原特異的レセプター (レパートリー) をもつ。抗原に結合する レセプターをもつ細胞個体がクローン増殖を行い、同一の特異性をもつ集団によって抗原の除去にあたる。レセプター遺伝子の再編成によって、組み合わせの原理で多様性を維持している。一次リンパ器官では、自己の MHC を認識できて自己抗原と反応しないリンパ球のみが選択され、二次リンパ器官へと移動する。末梢組織で抗原提示細胞から抗原提示を受けた後、リンパ球はクローン増殖を繰り返しながらエフェクター細胞へと分化していく。エフェクター細胞の寿命は短く、抗原が除去されるとほとんどがアポトーシスを起こして 死滅するが、一部が記憶細胞として存続する。 リンパ球の活性化・抑制は他の細胞との相互作用に影響される。たとえば NKT 細胞の 産生する IFN-γ と IL-4 は、CD4 T 細胞が Th1・Th2 に分化する上で影響を及ぼす。 制御性 T 細胞の働きにより、免疫応答は抑制される。アレルギー・自己免疫疾患・臓器 移植片拒絶の制御やワクチン開発・免疫療法の開発には、適応免疫応答の理解と制御 が必要である。 参考文献: 免疫生物学第1章
細胞性・液性免疫 (cell mediated/humoral immunity) • 細胞性免疫 細胞性免疫とは、自然免疫系においてはマクロファージによる貪食や NK 細胞による 感染・腫瘍細胞の傷害、適応免疫系においては抗原特異的な T 細胞が主体の免疫応答を指す。Th1 細胞や CTL が分泌する IFN-γ はマクロファージを活性化し、マクロファージが分泌する IL-12 は ナイーブ T 細胞の Th1 細胞への分化を促進する。同時に、IFN-γ は Th2 細胞分化の転写因子である GATA-3 を抑制することがしられている。細胞性免疫応答は、遅延型過敏症や自己免疫疾患につながる可能性がある。 • 液性免疫 液性免疫とは抗体によって担われる免疫応答で、自然免疫系では補体系、適応免疫系 では B 細胞が主体の免疫応答を指す。B 細胞が抗体を分泌する形質細胞へと分化するためには、多くの場合 Th2 細胞との相互作用が必要で、Th2 細胞が分泌する IL-4, IL-5 や IL-13 は、ナイーブ B 細胞の形質細胞への分化を亢進する。IL-4 はナイーブ T 細胞の Th2 細胞への分化を促進すると共に、Th1 細胞の転写因子である T-bet を抑制することがしられている。液性免疫応答は、I 型アレルギーにつながる可能性がある。 参考文献: 免疫生物学8,9,10章
サイトカイン • 基本性質 細胞間の情報伝達に関与する生理活性をもつ高分子ペプチドで、インターロイキン (IL)、 インターフェロン (IFN)、腫瘍壊死因子 (TNF) などの総称。サイトカインは多義性 (作用 する細胞によって異なる生理活性を発現) と冗長性 (類似した機能を発現するものが複数存在) をもつ。サイトカインレセプターは、その構造に基づき7つのファミリーに分類されている (各種サイトカインと産生細胞・その機能については別紙参照)。 ケモカインは細胞の走化性を誘導するサイトカインの総称であり、主として炎症部位への白血球の遊走を誘導する。T ・B 細胞はレセプター CCR7 と CXCR4 を発現し、リンパ節やパイエル板 の HEV (高内皮細静脈) に強く発現している CCL21 は、CCR7 陽性の ナイーブ T 細胞に対して強い遊走誘導能をもつ。二次リンパ器官では、活性化した CD4 T 細胞の一部は CXCR5 陽性となり、B 細胞領域へ移動すると共に CD40L を発現して、B 細胞の形質細胞への分化を誘導する。急性炎症では、IL-1 や TNF-αによって繊維芽細胞や血管内皮細胞から CXCL1--3,8 の産生が誘導され、好中球の浸潤を誘導する。 続いて組織内・血管内皮細胞から CCL2,3,5 が産生され、単球や活性化 T 細胞が誘導 される。乳癌細胞(前立腺癌も)の多くが CXCR4 を発現し、肺 (リンパ節・骨髄) に転移 しやすいことが報告されている (血管新生も誘導)。CXCR4, CCR5 はそれぞれ T 細胞 好性 HIV、マクロファージ好性 HIV のコレセプターであり、病態に関係している。 参考文献: 免疫学ハンドブック2部10、11章
抗体の種類 • 基本性質 B 細胞が産生する抗体は、血中や粘膜への分泌型の他にB細胞の細胞表面に結合した型(膜型)がある。それぞれは Y 字型を しており、抗原が結合する可変部とそれ以外の定常部とに区別 される。抗体は、定常部の構造の違いにより5種類に分類される (IgG と IgA は更にサブタイプをもつ)。 IgG 抗体は全体の 75%を占め、血管内外に平均して分布 する。ウイルス・細菌・真菌など様々な種類の病原体と結合し、補体・オプソニンによる食作用、毒素の中和を行う。IgM 抗体は全体の約10% を占め、成熟した B 細胞で最初に発現し、 感染の初期に発現する。IgA 抗体は、全体の10-15% を 占める粘膜免疫の主役である。 ① Fab領域 ② Fc領域 ③H 鎖 ④L 鎖⑤ 抗原結合部位 IgD 抗体は全体の 1% 以下でB細胞表面に存在し、抗体産生の誘導に関与する。IgE 抗体は全体の 0.001% 以下と極微量しか存在せず、寄生虫に対する免疫反応に関与していると考えられる。寄生虫の稀な先進国においては、特に気管支喘息やアレルギーに大きく関 与している。石坂公成が発見。 参考文献: 免疫学ハンドブック1部3章、画像は Wikipedia
共(補助)刺激 (co-stimulation) • 基本性質 リンパ球の活性化には、抗原レセプター (TCR or BCR) を介したシグナルと共に、共刺激 シグナルが必要である (two signal theory)。共刺激分子 CD80 (B7-1) と CD86 (B7-2) は、 T 細胞上の CD28 に結合することによって T 細胞にシグナルを伝える。これらリガンドは、 抗原提示細胞が発現する (マクロファージと B 細胞は活性化したときのみ発現し、樹状細胞が最も効率が良い)。CD40 は、活性化に伴って T 細胞に発現し、CD8 T 細胞と比較して CD4 T 細胞に高頻度で発現する。CD40 を介したシグナルは B 細胞にとって最も重要な 共刺激であり、抗原レセプター刺激下では活性化・増殖・クラススイッチを引き起こす。 リガンドの CD40L (CD154) は抗原提示細胞が発現し、CD40 を介したシグナルは MHC クラス II 分子や CD80/CD86 といった他の共刺激分子の発現が亢進される。 CTLA-4 (CD152) は T 細胞応答の負の制御分子で、活性化と共に発現される。CTLA-4 のリガンドは CD80/CD86 で CD28 と等しく、CD28 と比べて親和性が 20~100 倍高い。PD-1 (program death-1) は活性化 T 細胞が発現し、そのリガンド PD-L1 と PD-L2 に 結合すると、免疫応答を抑制性に制御する。これらリガンドは活性化した B 細胞・単球・ 樹状細胞をはじめ、T 細胞にも発現されている (B-T 相互作用で B 細胞を抑制している 可能性)。他にも、B 細胞の形質細胞への分化や樹状細胞の分化・成熟、炎症性 Th2 の 誘導に関わるとといわれる OX40/OX40L (リガンドは樹状細胞が発現) などがある。 参考文献: 実験医学:樹状細胞による免疫制御と臨床応用、免疫学ハンドブック1部7章、2部6章
抗原認識 (recognition) • 基本性質 自然免疫系の細胞 (主に抗原提示細胞) は、Toll 様受容体 (Toll like receptor;TLR) など パターン認識受容体 (pattern recognition receptor;PPR) によって抗原関連分子パターン (pathogen associated molecular patterns; PAMPs) を認識する。その他認識分子として C 型レクチンが知られている。これら認識分子に病原菌が結合すると、オプソニン化や貪食・炎症応答がもたらされる。哺乳類の TLR は11種知られており、ヒトでは10種類ある。 TLR2 はグラム陰性細菌のリポタンパク質、グラム陽性細菌由来のペプチドグリカンなど 多様な分子の認識に関わる。 TLR4 はリポ多糖 (lyposaccalyde;LPS) を認識する。 TLR7 はウィルス由来の一本鎖 RNA、TLR9 は非メチル化 CpG (と微生物に共通の構造である糖鎖) を認識する (注)。マクロファージは TLR3 を除く他全ての TLR を発現し、cDC (ミエロイド DC) は TLR1--5, 8、pDC (プラズマサイトイド DC) は TLR7, 9 を発現する。 樹状細胞の活性化を起こす危険シグナルがいくつか知られている。 PAMPs など病原体 由来のものだけではなく、ネクローシス (壊死) によって放出された熱ショックプロテイン (heat shock protein;hsp) や尿酸などダメージ関連分子パターン (DAMP;damage-associated molecular pattern) も、危険シグナル (免疫応答開始の合図) となり得る。 (注) TLR1 はトリアシルリポペプチド、TLR3 は二重鎖 RNA (一部のウィルス)、TLR5 はフラジェリン、TLR6 はジアシル リポペプチドを認識、TLR1 と TLR6 はTLR2 とヘテロダイマーを形成して認識にあたる。TLR8, 10 の機能は不明 参考文献: 実験医学:樹状細胞による免疫制御と臨床応用、免疫学ハンドブック2部1章
活性化1 (activation) • 基本性質 免疫細胞の多くは、活性化を通じて機能的に異なる働きをするようになったり、エフェクター機構 (病原体を破壊・排除する生体の機構) を有するようになる。エフェクターリンパ球は、 更に分化することのないリンパ球で、ナイーブ細胞や記憶細胞とは区別される。ナイーブ CD4 T 細胞は、特異的な抗原ペプチド・MHC クラス II 複合体の認識 (+補助刺激分子の存在と適量のサイトカイン) によって、様々なエフェクター機能をもつ亜群 (Th1, Th2, Th17, nTreg) に分化する。 ナイーブ CD8 T 細胞は、主として樹状細胞による活性化によって エフェクター細胞 (CTL) に分化する (注1)。B 細胞の活性化と形質細胞への分化は、抗原 刺激と(微生物由来抗原以外のほとんどでは) MHC クラス II 分子を介した (同一抗原を 認識する) ヘルパー T 細胞との相互作用が必要である。Treg は炎症状態で活性化し得る。 マクロファージは結合した細菌を貪食して殺菌するが、活性化することで細胞内での殺菌 作用が亢進し、ナイーブ T 細胞への抗原提示能の増強・IL-12 産生・TNF-αや抗菌活性 代謝物 (NO;一酸化窒素など) 産生能をもつようになる (注2)。 活性化には、Th1 細胞 (もしくは CTL) による IFN-γや CD40 と CD40L 結合によるシグナルが必要である (注3)。 (注1) 同一の抗原提示細胞上の抗原を認識する CD4 T 細胞によって補われる補助刺激活性によって活性化する場合もある。 (注2) マクロファージの活性化維持には多大なエネルギーが必要で、局所的な組織破壊を伴ってしまう。 (注3) 異なる刺激により、創傷治癒性・制御性マクロファージへの機能的変化が起こり得る。 参考文献: 免疫生物学 317--318, 334--335, 342--345, Nature Rev. Immunol. Vol. 8, pp 958-969
活性化2 (activation) • 続き 樹状細胞は、成熟・活性化によって抗原提示細胞としての機能が大きく変化する。貪食によって抗原を取り込んだ未熟樹状細胞は、抗原をペプチドまで分解し、MHC に結合させて一時的に細胞内に蓄積する。ウィルス・微生物の侵入を危険シグナルとして受け取った場合 、未熟樹状細胞は活性化されて蓄積していた MHC が細胞表面へと移行して抗原を提示する。危険シグナル以外にも、たとえば CD4・CD8 T 細胞が発現・産生する CD40L や IFN-γによって、DC の活性化が起こる場合もある。活性化により、MHC・(CD86 など) 共刺激分子の発現上昇や各種サイトカインの産生を通じてT 細胞への刺激能を得る。なお、樹状細胞の成熟・活性化は、サイトカインなど環境因子に左右される点に注意する。たとえば、免疫寛容を能動的に行う制御性樹状細胞に分化誘導を受ける場合もある。 シグナル伝達は、細胞によってある種のシグナルが他の種類のシグナルに変換される過程を表す。一般には細胞膜上の受容体に細胞外シグナル分子が結合することに始まり、最終的には核内の転写因子による特定遺伝子の転写調節や、アポトーシスによる細胞死などの効果をもたらす。TLR4 を介した LPS 刺激は転写因子 NF-κB の活性化につながり、感染に対する宿主防御に関する遺伝子を活性化する。また、活性化されたリンパ球のプログラム死は、主に Fas レセプターを介して開始される。 実験医学:樹状細胞による免疫制御と臨床応用、免疫生物学 209,210 Current Opinion in Immunology 2004, 16:21–25 参考文献:
免疫寛容1 (tolerance) • 基本性質 免疫寛容が成立するに至る色々なメカニズムが存在する。中枢リンパ組織 (胸腺 or 骨髄) でリンパ球が自己抗原に出会うと、3通りの運命を辿る。多価の自己抗原で架橋された自己反応性リンパ球は、アポトーシスにより排除される (クローン消失)。低価の自己抗原で弱く 架橋されたリンパ球は不活化され、抗原に反応できない状態になる (クローナルアナジー)。もしくは、更なる遺伝子再編成により、自己抗原に反応しない抗原レセプターに置換される (レセプター編集)。胸腺における寛容状態の成立を中枢性免疫寛容 (central tolerance) と呼び、末梢組織で生じるリンパ球の寛容を末梢性免疫寛容 (peripheral tolerance) という。 胸腺では、全ての細胞が合成するようなタンパク質は提示されるが、特定の組織・細胞のみで産生されるタンパク質が胸腺で提示されるとは考えにくい。末梢組織でも、自己抗原に 反応する可能性を排除する機構が存在する。抗原認識に補助刺激シグナルを伴わない 場合、ナイーブ T 細胞はアナジー (anergy) 状態に陥り、抗原と出会ったり抗原提示細胞が抗原を提示しても、エフェクター細胞へと分化・増殖しない。たとえリンパ球が抗原と共に 存在していても、活性化に必要な程度の抗原との親和性が得られない場合は、抗原に反応しない免疫学的無視 (immunological ignorance) と呼ばれる状態に陥ることもある。 参考文献: 免疫学ハンドブック1部11章5、6節、免疫生物学 408--410
免疫寛容2 (tolerance) • 続き 抗原から持続的に刺激を受けると、T 細胞の場合は CD95 (Fas) と CD95L (FasL) 発現が 誘導されて、アポトーシスに陥る可能性がある (activation induced cell death:AICD;活性化誘導性細胞死)。リンパ球を活性化する抗原量には至適な量があり、高濃度の抗原で刺激 された場合や低濃度の抗原量で刺激されたリンパ球の中には、寛容に陥るものもある (それぞれ高(低)域寛容;high/low-dose tolerance と呼ぶ)。 末梢で、自己反応性 B 細胞は様々な機構によって抑制される。自己反応性ヘルパー T 細胞が不在であれば、T 細胞層から濾胞への遊走が抑制されてアポトーシスを起こす。可溶性 自己抗原と遭遇した場合はアナジーとなる。また、Fas リガンドを発現した自己抗原特異的な T 細胞により、自己反応性 B 細胞は Fas 依存的に除去される。 抗原が投与されるルートによっても影響を受ける。静脈内投与や経口投与された場合は寛容が起こりやすい (後者を経口免疫寛容という)。脾臓に存在する樹状細胞とマクロファージの働きによって、免疫寛容が誘導されるメカニズムも存在する。また、制御性 T 細胞の働きによって免疫寛容が能動的に誘導されている。CTLA-4 や PD-1 など、負の制御をしている 共抑制分子によってもアナジーが誘導される。また、制御性マクロファージ・樹状細胞は、 免疫応答を抑制するよう働く。 参考文献: 免疫学ハンドブック1部11章5、6節、免疫生物学 408--410
炎症反応 (inflammation) • 基本性質 体内に病原体が侵入すると、侵入部位の組織は IL-1 や TNF-α などを産生して、炎症 反応を引き起こす。炎症が起こると組織に様々な白血球が浸潤してくるが、炎症反応は急性炎症と慢性炎症に大別される。急性炎症では組織で様々なケモカインが産生され、発現量は数時間の内にピークに達する。血管から好中球が素早く浸潤してきて、12時間後にはピークに達し、24時間後にはその多くが消失する。その後、単球や T 細胞が 誘導されてくる。炎症部位に浸潤した単球はマクロファージに分化し、サイトカインや ケモカインの産生を通じて、炎症性細胞の浸潤をより増加させる。白血球の細胞浸潤が長く続くもの (臨床では7,8日以上) を、慢性炎症という。 炎症刺激がないとき、樹状細胞は補助刺激分子を提示しないので、T 細胞は抗原提示を受けても免疫寛容状態になる。過剰な炎症は、自己免疫疾患にもつながる可能性がある。腸内細菌は、局所的に炎症反応を引き起こして免疫を誘導するが、炎症が慢性的に続くと慢性腸炎 (慢性腸炎とは腸が常に炎症を起こしている症状で、食べ物が消化されずに、腸内で発酵・腐敗した状態) になる。慢性炎症は悪性リンパ腫をはじめ、大腸癌・乳癌・ 前立腺癌と深く関わっており、転移への関与も示唆されている。喘息などはアレルギー性の炎症である。炎症を発動する上で、NF-κB という核内の転写因子の活性化が重要 である。 参考文献: 免疫学ハンドブック1部11章5、6節、免疫生物学 408--410
免疫記憶 (memory) • 基本性質 抗原への暴露が2回目以降になると、適応免疫応答はより速やかかつ効果的になり、 特異的な応答が長時間持続するようになる。この特徴を免疫記憶という。ワクチン接種は、免疫記憶の維持機構を利用したものである。リンパ球が活性化された後、エフェクター 細胞へと分化するまでには4,5日要し、いったん抗原が除去されると、エフェクター細胞のほとんどはアポトーシスによって死滅する。そのうちの一部は記憶細胞へと分化する。 記憶細胞のほとんどは細胞分裂を止めて休止期にあるが、少数は常に (ゆっくりした) 抗原非依存の自己増殖をしている。活性化された B 細胞の一部は形質細胞へは分化せず、胚中心において体細胞突然変異を繰り返して高い親和性をもつようになり、一部は記憶細胞へと分化する。記憶 B 細胞から産生される IgG 抗体は既に高い親和性をもつ抗体となっており、またクラススイッチに必要な3,4日の期間が不要となる。ナイーブ CD8 T 細胞が30時間以上かかるサイトカイン産生開始を、記憶 T 細胞は6時間程度で産生し始める。二次抗原刺激後、エフェクター細胞へと6時間以内に分化するものを エフェクターメモリー T 細胞、それまでに一度増殖しするものをセントラルメモリー T 細胞と区別する。抗原刺激非依存性のメモリー T 細胞の維持にとって、IL-7 や IL-15 が重要であると考えられている。 参考文献: 免疫生物学 19, 401, 412、免疫学ハンドブック2部7章
アレルギー1 (allergy) • 基本性質 アレルギー (もしくは過敏反応;hypersensitivity) は、本来ならば無害であるはずの抗原に対する免疫応答によって起こる疾患で、アレルギーの元となる抗原をアレルゲンという。アレルギーは、発症メカニズムによって I ~ IV 型に分類される (I ~ III 型は抗体を介した過敏反応であり、IV 型は細胞性免疫反応である。I 型のみをアレルギーと称し、それ以外を過敏症ということも多い)。アレルギーは、単一のサイトカインでコントロールされる程単純ではなく、阻止には Th2 型のサイトカイン (IL-4, IL-5 など) を標的にした治療のみでは期待通りの結果は得られていないようである。近年では、抗 IgE 抗体 (IgE 抗体を 中和) は効果が確認されており、プロバイオティクス投与によって腸内細菌のバランスを保つことで、アレルギー発症を防ぐ試みも進行中である。 I 型反応・・・IgE 抗体を介した過敏反応で、 IgE が肥満細胞に結合すると、肥満細胞は (ヒスタミンなどの) 顆粒を放出し、また (好酸球らと共に) B 細胞のクラススイッチと IgE 産生を促進する。B 細胞の IgE クラススイッチは、早期分泌 IL-4 の存在下で活性化した Th2 細胞によって開始される。I 型反応は抗原が侵入してから数分以内 (2~30分) にみられることから、即時型過敏症と呼ばれることもある。花粉症・喘息・アトピー・全身性アナフィラキシーが該当する。 参考文献: 免疫生物学 12 章、免疫学ハンドブック1部13章、3部3章
アレルギー2 (allergy) • 基本性質 II 型反応・・・IgG や IgM クラスの抗体(もしくは補体)が、細胞に直接結合して傷害を与える場合を指す。たとえば、赤血球が標的細胞であれば溶血が起こり、溶血性貧血の原因となる。血液型不適合、輸血における溶血、抗生物質ペニシリン投与で稀にみられる溶血と血小板の破壊が該当する。 III 型反応・・・可溶性アレルゲンに抗体が結合して、免疫複合体が過剰に形成されると、 マクロファージは処理しきれずに組織に沈着する。沈着した複合体は補体を活性化し、 アナフィラトキシン生成による組織傷害と白血球の活性化 (好中球の浸潤など) が起こる。血清病などが該当する (注1)。 IV 型反応・・・抗原特異的なエフェクター T 細胞を介して起こる。Th1 細胞が抗原に反応 して分泌する IFN-γ がマクロファージを活性化することでみられる遅延型過敏反応と、CTL による細胞破壊がある。 II, III 型反応は数時間以内に反応が起こるが、IV 型反応 は典型的に1~3日かかる。接触性皮膚炎などが該当する (注2)。 (注2) 結核菌感染の既往の有無を調べるためのツベルクリン反応は、遅延型過敏反応を利用している。 (注1) 抗蛇毒血清 (毒蛇で免疫したウマより採取した血清で、現在でも中和抗体として利用されている) など、異化されにくい外来抗原を大量に注入した場合に起こり得る。 参考文献: 免疫生物学 12 章、免疫学ハンドブック1部13章、3部3章
自己免疫 (autoimmunity) • 基本性質 自己免疫疾患は、特異的な適応免疫応答が自己に対して成立した場合に発生する。 自己免疫反応は、自己抗原に対する抗原特異的な T 細胞の活性化で始まると考えられ、 T 細胞応答が組織傷害の原因となる。CTL やヘルパー (I 型) T 細胞によるマクロファージの不適切な活性化による傷害と、自己反応性 B 細胞が産生する自己抗体による傷害が 考えられる。 自己免疫疾患は、臓器特異的疾患 (I 型糖尿病や多発性硬化症) と全身性疾患 (SLE; 前身性エリトマトーデスや関節リウマチ) に分けられる (が、厳密に分けるのはある意味で困難)。組織傷害の機序により、自己免疫疾患はアレルギーとの対比から (I 型の IgE に よる反応を除いて) 3つ (II 型:細胞表面や間質の抗原に対する抗体、III 型:可溶性の抗原に対する免疫複合体の形成、IV 型:T 細胞を介した疾患) に分類できる。自己免疫疾患の発症感受性は、環境・遺伝因子と特に MHC 遺伝子との関連が示唆されている。 自己免疫疾患の発症機序は様々で不明な場合も多いが、感染が引き金となって惹起されるケース、自己抗原によく似た外来抗原に対する交差反応 (分子擬態) によって引き起こされるケース、免疫寛容が破綻するケースなどがある。 免疫生物学 13 章前半、免疫学ハンドブック1部14章、3部3章 岩見真吾 (著) :ウィルス感染が起因となる交差反応に対する自己免疫モデル 参考文献:
移植免疫 (transplantation immunity) • 基本性質 (注2) 遺伝的に全く同じ別の生体からの移植片をシンジェネイックグラフト (syngraft)、 異種生体からの移植片をジェノグラフト (xenograft;異種移植片) という (注1) 赤血球の移植である輸血は 4種類の ABO 式および2種類の Rh 式しかないので、移植は比較的容易 臓器や皮膚などの移植片 (graft) に対する拒絶反応は免疫反応であり、高度に多型性をもつ MHC 分子に対して、T 細胞の反応がほとんど確実に起きてしまう (注1)。移植片の提供者をドナー (donor)、受容者をレシピエント (recepient) という。同種であるが系統の異なる生体からの移植片は、同種移植片 (allograft;アログラフト) という (注2)。レシピエントが 認識するアログラフトの抗原をアロ抗原 (同種抗原) といい、レシピエントの免疫系が認識 できる場合は、アロ反応性と呼ぶ。アロ移植片は、10~13日後には拒絶が起こる。MHC が一致した場合の移植でも、移植片の MHC 分子と結合した非自己ペプチドにより、拒絶 が起きてしまう。移植片含有の樹状細胞が、最も有効なアロ抗原提示細胞になっている。 胎児は父親由来の MHC も発現しているので、母親とはアロの関係である。胎児が母親に拒絶されない色々なメカニズムが存在するが、近年制御性 T 細胞が関わっていることが 明らかになった。移植片に存在するドナーの T 細胞がレシピエントの樹状細胞などに反応して引き起こす合併症を、移植片対宿主病 (graft-versus-host disease; GVHD) という。 近年、制御性樹状細胞が制御性 T 細胞を誘導し、T 細胞の反応による GVHD 阻止に 有効であることが発見された。 参考文献: 免疫生物学 13 章後半、免疫学ハンドブック2部17章、理研プレスリリース
免疫療法 1 (immunotherapy) • ワクチン (vaccination) 毒性を弱めた (無くした) 病原体 (抗原) を注入することで (免疫記憶の成立により) 体内に抗体を作り、以後感染症にかかりにくくする方法。不活化ワクチンは、死んだウイルスを細菌を使用する。生ワクチンより副反応が少ないが、液性免疫しか獲得できない。その分免疫持続期間が短いことがあり、複数回接種が必要なものが多い。生ワクチンでは、毒性を弱めた微生物やウイルスを使用する。液性免疫のみならず細胞免疫も獲得できるため、一般に不活化ワクチンに比べて獲得免疫力が強く、持続期間も長い。しかし生きている 病原体を使うため、ワクチン株の感染による副反応を発現する可能性もある。 近年の免疫学発展と遺伝子組み換え技術、化学合成などの技術革新により、より戦略的なワクチン設計が可能になってきている。DNAワクチンとは、プラスミド DNA (細菌由来の環状 DNA) に抗原を発現する遺伝子を組み込んだもので、生体に投与すると抗原に 特異的な免疫反応を誘導する。従来のワクチンに比べて製法が簡便でコストも抑えられるため、各種感染症や癌、アレルギー疾患などに対する新たなワクチンとして広く研究・ 臨床応用されている (特に動物用のウィルス感染・腫瘍ワクチン)。 参考文献: Wikipedia と 科学技術振興機構報 第473号
免疫療法 2 • ペプチド・抗体・サイトカイン療法 アレルギー、もしくは癌由来のペプチドによって免疫応答を増強させる方法をペプチド療法、抗原に対するモノクローナル抗体を利用する方法を抗体療法、IFN-γ や IL-2 等を用いる 方法をサイトカイン療法という。 • リンパ球(養子)移入療法 (adoptive therapy) 腫瘍もしくは慢性感染に広く用いられる細胞性免疫を用いた療法で、腫瘍組織浸潤リンパ球 (TIL;Tumor Infiltrate Lymphocyte) 療法、CTL 療法、活性化自己リンパ球 (autologous activated lymphocyte) 療法等がある。TIL 療法では、腫瘍局所に浸潤している腫瘍特異的なリンパ球を体外で増殖させて、生体内に戻す。リンパ球は手術時しか取れないことに加え、臨床応用されたが有効性が確認されていないことから、最近はあまり行われていないらしい。CTL 療法では、患者から採取した CTL に体外で腫瘍抗原を認識させてから体内に戻す。 抗腫瘍効果は確認されているが、メラノーマ (悪性黒色腫) 関連抗原非特異的な腫瘍が、 縮退せずに増加を促してしまったという副作用の報告もある。活性化自己リンパ球療法は、末梢血からリンパ球を採取・IL-2 などを加えて活性化してから体内に戻す方法であり、 癌細胞を取り出す必要がなく負担の軽い方法である。 J. of Clinic. Invest. Carl H. June, Adoptive T cell therapy for cancer in the clinic 免疫学ハンドブック 2部18 章、3部5章、がん治療 navi 参考文献:
免疫療法 3 • 樹状細胞療法 (DC therapy) DC は、抗原提示を通じて生体内で抗原未感作のナイーブ T 細胞を活性化できる。樹状細胞療法とは、患者から抗原と樹状細胞を取り出して生体外部で DC を活性化させ、再び生体内に戻すことで生体内での免疫応答を活発化させる方法である。とりわけ、抗原として認識されずに免疫応答が働かない腫瘍の治療法として、効果が期待されている。 免疫応答を抑制する (制御性) DC の働きを利用して、自己免疫疾患などを抑える働き にも利用できる可能性をもっている。 • アジュバント (ajuvant) :賦活作用 ほとんどのタンパク質は、それだけでは免疫原性 (immunogenicity) が弱い (全くない) ため、強い免疫応答を誘導させるために添加する混合物をアジュバントという。ワクチン投与のとき、alum (水酸化アルミニウム) を混ぜておくことがある。その他、LPS (リポ多糖) や微生物成分は、効果的なアジュバントである。ほとんどの場合、アジュバントは 抗原提示細胞 (特に樹状細胞) に作用する。また、NKT 細胞は T 細胞を活性化させる サイトカインの産生等を通じて、T 細胞に対して強力なアジュバント効果をもたらす。 参考文献: 免疫生物学 p.68,310,355,582,617,690, 実験医学増刊:樹状細胞 (2008)
FACS (fluorescence activated cell sorting) (注) FACSはベクトン・ディッキンソン社の登録商標だが、流体を利用した細胞測定法の一般名称FCM: flow cytometory(フローサイトメトリー)のほぼ同義語として広く利用されている。 • 主な特徴 FACS はフローサイトメトリーの一般名称(注)。細胞が浮遊する 液体を高速で流して測定する。細胞を蛍光標識することで1個1個の細胞の蛍光強度を解析する。蛍光の強度・種類をもとに 細胞を分離・同定したり、細胞群を構成する種々の細胞の存在比を短時間で解析できる。また、DNA を蛍光標識することにより、 細胞内での DNA の存在量を解析することができる。細胞分離 装置 (セルソーター) により、大きさや蛍光などの条件に基づき、細胞を生きたまま分離できる。 免疫細胞の場合、細胞表面マーカーと特異的に反応する モノクローナル抗体を蛍光標識させたものを用いて、細胞の種類を分類する。前方散乱光 (Forward Scatter; FSC) にて大きさ、 側方散乱光 (Side Scatter; SSC) にて細胞質密度等を測定する。個々の細胞の測定パラメータ(蛍光強度等)から構成した細胞数頻度分布を(1パラメータ)ヒストグラムという。2種類のパラメータについて表した頻度グラフをサイトグラムと呼ぶ。 ヒストグラム サイトグラム 参考文献: 生命科学 p 159 画像は Wikipedia
ELISA (Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay) (注) 和訳は(色々あるらしいが)酵素免疫測定法、エライザ(サ)と呼ばれる。 聞くところによれば、femtomolar (=10の15乗分の1モル) まで検出できる腕前 を必要とされるらしい。 • 主な特徴 試料中に含まれる抗体あるいは抗原の濃度を検出・定量する際に用いられる方法 (注)。微量の目的物質を1 attomole(=10の18乗分の1モル)という高感度で検出することができ、定量性と特異性に優れている。短時間で大量のサンプルを 測定でき、放射性物質を用いないため安全性が高く、安価で簡便であるというメリットがある。測定原理の違いから、直接吸着法、サンドイッチ法(非競合法)と競合法が知られている。 サンドイッチ ELISA 法 競合法:目的物質に対する抗体を結合させた固相に、サンプルと酵素標識抗原を添加して抗原抗体複合体を形成させる。非競合法:マイクロプレートのウェルやプラスチックチューブなどの固相に、予め目的物質に対する抗体を結合させる。抗体の特異的な抗原抗体反応によって、目的のタンパク質を得る。捕獲抗体とは別のエピトープを認識する一次抗体を加え、固相・捕獲抗体・抗原・一次抗体という複合体を形成する方法を、サンドイッチ (ELISA) 法 という。サンドイッチ法はサンプル中の目的物質量を高感度で測定することができるが、 原理上、目的物質に2分子以上の抗体が結合する必要があるため、目的物質の分子量が 小さいと測定できない場合がある。 参考文献: 画像は Wikipedia
ウェスタンブロッティング • 主な特徴 電気泳動の優れた分離能と抗原抗体反応の高い特異性を組合わせて、タンパク質混合物から特定のタンパク質を検出する手法。免疫染色により、抗体の特異性を利用して抗原 (タンパク)の存在および局在を、顕微鏡下で観察できるようになる。検出法には酵素を用いる系、蛍光を用いる系などがある。また免疫沈降法という手法により、目的のタンパク質がどのようなタンパク質と結合しているかも調べる事ができる。イムノブロット (Immunoblot) と 呼ばれることもある。 GFP に対する抗体で行ったウェスタンブロッティングの例。レーン 1 は分子量マーカ。レーン 2 と 4 には黒い物が見える。これが抗体が結合したタンパク質を表すバンドと呼ばれるもの。レーン 3 にはバンドがないことから、レーン 3 のサンプルにはGFPが検出限界量以下しか含まれていないといえる(Wikipedia より抜粋)。 (注) DNA 断片を検出するサザンブロッティング (開発者のエドウィン・サザン(Edwin M. Southern) の名に由来) に続いて、RNA を検出するノーザンブロッティングと並んで半ば洒落で名付けられた。ちなみに様々な手法にイースタンブロッティングと名前がつけられているようが、いずれも確立したものはないらしい。 参考文献: 画像は Wikipedia
実験マウス1 • 主な特徴 実験動物としてよく利用されているのは C57BL/6 (黒色、通称 B6 )と BALB/c (アルビノ、通称BALB)という系統のマウスで、ヒトの疾患モデルとして(遺伝子改変などを加えて)利用されて いる。C57BL/6 はガン・免疫研究をはじめ、毒性・微生物分野など幅広く使用されており、BALB/c は免疫・モノクローナル抗体研究やスクリーニング等の分野に使用されている。 C57BL/6 • 遺伝子改変マウス 遺伝子操作により、外部から特定の遺伝子 (DNA) を導入して作成したトランスジェニックマウスや、特定の遺伝子を破壊して欠失させたノックアウトマウス、逆に特定の遺伝子に付加置換したノックインマウスなどの総称。トランスジェニックマウス (外来遺伝子導入マウス) と遺伝子ターゲッティングマウスに 分類される (続く)。 BALB/c 参考文献: 理研、画像は理研バイオリソースセンター http://www.brc.riken.go.jp/lab/animal/
実験マウス2 • 遺伝子改変マウス (続き) トランスジェニックマウスは人為的に外来遺伝子を導入したマウスで、ノック・ダウン/イン (遺伝子ターゲッティング) マウスも、トランスジェニックの一種である。トランスジェニックは、特に外来遺伝子を染色体上の不特定の場所に挿入させることを指す (マウスの受精卵に注入して作製)。一方、遺伝子ターゲッティングでは、ある特定の(内在性)遺伝子を操作 する (胚性幹細胞を用いたキメラマウス作製)。狙った遺伝子と相同な配列を持ち、内部に遺伝子機能を失わせるような欠失や挿入などを導入した DNA を (プラスミド等を用いて) 相同組み換えすることにより、ゲノム上の遺伝子と入れ替える。 • 免疫ヒト化マウス 基礎研究はマウスを中心に行われているが、成果を医療に応用するには、ヒトへの影響を知る必要がある。これには倫理的・物理的制約が存在してしまうが、免疫ヒト化マウスはヒトの免疫系を体内にもつので、ヒトの病態をマウスに再現することができる。ヒトの 造血幹細胞を、免疫機能障害を持つ生後まもないマウスへ移植することにより作製する。このマウスにはヒト由来のT・細胞やヒト型の抗体がみられる。 参考文献: 鈴木 操, 日本薬理学雑誌 Vol. 129 (2007) , No. 5 325--329 アブストラクト