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This study focuses on the uncertainty in setting mid-term CO2 reduction targets in Japan due to uncertain future climate change impacts. It employs the Act-then-Learn approach to simulate optimal CO2 reduction targets considering long-term uncertainties. The research utilizes a dynamic Ramsey model and the ETA-MACRO model with various modifications. By introducing three scenarios for 2020 CO2 reduction goals, the study aims to determine a hedging strategy for effectively addressing unpredictable future emission targets.
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日本の中期的CO2排出削減におけるヘッジング戦略-Act then Learnアプローチを用いたシミュレーション- 畠瀬 和志 神戸大学 経済学研究科 研究員
研究の背景と方針 研究の背景 • 政府が2015年・2020年といった中期的なCO2削減目標を設定するにあたっては、CO2による気候変動の程度が不確実であることが大きな問題となる • CO2によって将来、大きな気候変動が起こるなら、長期的に大きな削減が必要である。逆に、気候変動の程度が小さいならば削減量は大きくなくても構わない。 • しかし、現時点では長期的にどの程度の削減が必要か判断しにくい。このように長期の削減目標が不確実な状況下で中期的な削減目標を設定するのは難しい。 研究の方針 • Act then Learnアプローチ(Manne & Richels, 1992)を用い、長期のCO2削減目標が不確実な状況下で確率的な最適化シミュレーションを行って日本における2020年のCO2削減目標を検討する • シミュレーションには、ラムゼー型動学モデルを用いる。GAMSライブラリで公開されているETA-MACROモデルに (1) Act the Learnアプローチの導入 (2) 生産関数の変更 (3) 技術進歩の内生化の変更を施して使用する。 環境経済・政策学会 2010年大会
Act then Learnの概念図(Manne & Richels, 1992 を参考に作成) エネルギー部門の 意志決定(仮決定) 2050年におけるCO2削減量の想定 エネルギー部門の 意志決定(最終的) 削減量小 削減量中 削減量大 2000~2019年 2020~(不確実性解消) • 最終的なCO2削減目標に3種類のシナリオ(削減量小・中・大)を想定し、2020年に初めて3種類のシナリオのどれを選択すべきかが判明する、と仮定 • 2020年以前は将来の削減目標が不確実なため、それぞれのシナリオが1/3の確率で実現すると仮定し、確率的な最適化問題を解く • 2020年以前における、確率的に最適なCO2削減経路を「ヘッジング戦略」と呼ぶ 環境経済・政策学会 2010年大会
ヘッジング戦略のシミュレーション例 • 2000年~2019年までの経路が「ヘッジング戦略」を示す • 2020年以降が分岐しているが、実際には3種類のシナリオのどれかが選択される。ヘッジング戦略の採用により、どのシナリオが実現しても対応出来るようにする。 環境経済・政策学会 2010年大会
シミュレーションモデル:(1)Act then Learnの導入 • 2050年におけるCO2削減量として3つのシナリオs = 1, 2, 3 を設定 • 時間tをt1=0, 1, …, Tinfoとt2=Tinfo+1, …, T の2つの期間に分割。Tinfoは不確実性が解消され、シナリオ1, 2, 3のどれを選択するかが明らかになる時点。 • 以上を前提として、効用最大化問題を設定: • 上の効用最大化問題において、t1=0, 1, …, Tinfoの期間の の値はシナリオ1, 2, 3の間で共通とする 環境経済・政策学会 2010年大会
シミュレーションモデル:(2)ETA-MACROモデルの生産関数の変更シミュレーションモデル:(2)ETA-MACROモデルの生産関数の変更 総生産 ETA-MACROからの変更部分 σQ(可変) 付加価値 エネルギー σ =1 σE(可変) 資本 労働 化石エネルギー 新エネルギー 環境経済・政策学会 2010年大会
シミュレーションモデル:(3)技術進歩の内生化シミュレーションモデル:(3)技術進歩の内生化 • 化石エネルギーFのコストは通常の習熟曲線(single-factor learning curve)に従って減少すると仮定 • 新エネルギーNのコストはTwo-factor learning curve(Kypreos, 2006)に従って減少すると仮定 • R&Dの知識ストックはKypreos(2006)にならって外生的に与える。 • 化石エネルギー・新エネルギーの累積経験量は、エネルギー投入量より推計 環境経済・政策学会 2010年大会
パラメータ設定:(1)ヘッジング戦略のシナリオパラメータ設定:(1)ヘッジング戦略のシナリオ • 2050年のCO2 削減シナリオ(削減量小・削減量中・削減量大の3シナリオ)について、下の表に示す5種類のヘッジング戦略(ケース)を設定 • 5種類のヘッジング戦略は、以下の2つの観点から設定 • -「削減量大シナリオ」を1990年比80%削減に固定し、削減量中・削減量小を変化させたケース(H**-**-80) • - 「削減量中シナリオ」を1990年比50%削減に固定し、削減量大・削減量小を変化させたケース(H**-50-**) 各ヘッジング戦略における1990比CO2削減率 環境経済・政策学会 2010年大会
パラメータ設定:(2)主要パラメータに対する感度分析パラメータ設定:(2)主要パラメータに対する感度分析 • ヘッジング戦略はパラメータによっても変化するため、主要なパラメータを変化させて感度分析を行う • パラメータのLower value・Central value・Upper valueは既往研究を参考に設定 感度分析におけるパラメータ設定 環境経済・政策学会 2010年大会
パラメータ設定:(3)共通パラメータ 環境経済・政策学会 2010年大会
標準パラメータ(Central value)での結果:CO2排出量の時間変化 • 「削減量大」が80%削減のときは、H60-70-80(70%が削減量中)・H40-60-80 (60%が中) ・H20-50-80 (50%が中)の間でヘッジング戦略にさほど差がない • 「削減量大」が70%削減に減れば、ヘッジング戦略のCO2排出量は急激に増える 環境経済・政策学会 2010年大会
標準パラメータ(Central value)での結果:新エネルギーシェアの時間変化 • CO2排出量と同様、ヘッジング戦略は「削減量大」が1990年比80%削減であるか、それ以下であるかで非連続的に変わる。「削減量中」「削減量小」の値はさほど影響しない。 • 「削減量大」が80%減のシナリオ(3種類)では、2020年におけるシェアが8~9%となる。 環境経済・政策学会 2010年大会
標準パラメータ(Central value)での結果:CO2削減に伴うGDP減少 • GDP減少率は、対Business as Usual比として計算 • 結果の傾向は新エネルギーシェアと同様。GDP減少率は2020年時点で対BaU比0.1%以下と小さいが、これは内生的技術進歩によるエネルギーコスト低下のため。 環境経済・政策学会 2010年大会
標準パラメータ(Central value)での結果:炭素価格の時間変化 • 資本ヴィンテージモデルは、計算2期目である2005年のCO2排出量(=化石エネルギー投入量)を外生的に求めるため、炭素価格は2010年以降しか計算出来ない • 結果の傾向は新エネルギーシェア・GDP減少率と同様。 環境経済・政策学会 2010年大会
結果の要点:標準パラメータでの計算 • ヘッジング戦略におけるCO2排出経路は、削減量大シナリオが1990年比80%削減か、それ以下(70%以下)かの間でギャップが生じる • 「削減量大」が80%削減であれば、H60-70-80(70%が削減量中)・H40-60-80 (60%が中) ・H20-50-80 (50%が中)の間でさほど排出量が変わらない • 「削減量大」が70%削減に減れば、排出量は急激に増える • ヘッジング戦略におけるCO2排出量は、「削減量大」が80%削減の3つのシナリオにおいて、Act then Learnなしケースの70%削減程度である • 新エネルギーシェア、GDP減少率、炭素価格の変化パターンはCO2排出量と同様である(「削減量大」が80%削減か、それ以下かで変わる) • 削減量大が80%削減のシナリオにおいて、2020年の新エネルギーシェアは8~9%。同じ時点でCO2排出量が1990年比+10%~+15%であることを考えると、CO2削減をもっと進める場合は更なるシェア拡大が必要。 環境経済・政策学会 2010年大会
CO2排出量の変動幅:パラメータ感度分析(2020年、対最大値比)CO2排出量の変動幅:パラメータ感度分析(2020年、対最大値比) • 変動幅は、[最大値-最小値]/最大値により計算 • エネルギー間の代替弾力性σE、資本減耗率δ、新エネルギー初期コストc0Nの3つの影響が顕著 環境経済・政策学会 2010年大会
2020年におけるCO2排出量:パラメータ感度分析2020年におけるCO2排出量:パラメータ感度分析 • 「Central」における、80%削減を含む左3つと含まない右2つの間のギャップが、パラメータの大小によってどう変わるかが政策的に重要 • 資本減耗率δが小さい場合、ギャップが極度に拡大する。ギャップが明瞭に縮小するのは資本減耗率δが大きい場合のみであり、それ以外ではギャップは同程度か拡大。 環境経済・政策学会 2010年大会
新エネルギーシェアの変動幅:パラメータ感度分析(2020年、対最大値比)新エネルギーシェアの変動幅:パラメータ感度分析(2020年、対最大値比) • 資本減耗率δ、新エネルギー初期コストc0N、習熟曲線の経験指数β の3つが大きく影響 環境経済・政策学会 2010年大会
2020年における新エネルギーシェア:パラメータ感度分析2020年における新エネルギーシェア:パラメータ感度分析 • 資本減耗率δが小さい場合、左3つと右2つのギャップが極度に拡大。ギャップが明瞭に縮小するのが資本減耗率δが大きい場合のみという点ではCO2排出量の図に似ている • ギャップをさほど変化させないパラメータが多い。 環境経済・政策学会 2010年大会
GDP減少率の変動幅:パラメータ感度分析(2020年、対最大値比)GDP減少率の変動幅:パラメータ感度分析(2020年、対最大値比) • 資本減耗率δ、純粋時間選好率tpref、新エネルギー初期コストc0Nの3つが大きく影響 • 対最大値で表示した変動幅は最大98%と大きいが、GDP減少率そのものは0.01%~0.35%程度と小さい 環境経済・政策学会 2010年大会
2020年におけるGDP減少率:パラメータ感度分析2020年におけるGDP減少率:パラメータ感度分析 • 資本減耗率δが小さい場合、左3つと右2つのギャップが極度に拡大。新エネルギー初期コストcn0が大きい場合もギャプが拡大する。それ以外はあまりギャップを変えない。 • GDP減少が非常に少ないパラメータ設定ではギャップが縮小する。 環境経済・政策学会 2010年大会
炭素価格の変動幅:パラメータ感度分析(2020年、対最大値比)炭素価格の変動幅:パラメータ感度分析(2020年、対最大値比) • 資本減耗率δ、新エネルギー初期コストc0N 、経験指数β の3つが大きく影響 • GDP減少率と同様に対最大値の変動幅が非常に大きいが、炭素価格は値そのものの変動幅も大きい 環境経済・政策学会 2010年大会
2020年における炭素価格:パラメータ感度分析2020年における炭素価格:パラメータ感度分析 • 全体としては、GDP減少率のパラメータ感度分析と似たパターンである • 資本減耗率δが小さい場合、左3つと右2つのギャップが極度に拡大。新エネルギー初期コストcn0が大きい場合もギャプが拡大する。それ以外はあまりギャップを変えない。 環境経済・政策学会 2010年大会
結果の要点:パラメータ感度分析 • 資本減耗率δと新エネルギー初期コストc0Nは特に影響力が大きく、CO2排出量・新エネシェア・GDP減少・炭素価格の全てに大きな影響を及ぼす。 • 削減量大シナリオが80%削減か、それ以下(70%以下)かの間で経路にギャップが生じるが、これはパラメータが異なっても生じる場合が多い。 • ギャップはあまり変わらないか拡大する場合が多いが、若干縮小する場合もある • 資本減耗率δが小さい場合、4つの変数全てにおいてギャップが極度に拡大 • 資本減耗率が大きくなれば、ギャップは明瞭に縮小する • ここではパラメータを単独で変化させているが、それでも標準パラメータ下で1990年比+10% であったCO2排出量が-15%程度まで下がる。 • 複数パラメータを変化させると-25%以下まで下がるだろう • 特に、資本減耗率5%+エネルギー代替弾力性2.5の組み合わせは現実的 環境経済・政策学会 2010年大会
なぜ資本減耗率δが小さいと“ギャップ”が拡大するか?:CO2排出量の例なぜ資本減耗率δが小さいと“ギャップ”が拡大するか?:CO2排出量の例 • H20-50-80はAct then Learnなしの80%削減付近に位置するのに対し、H30-50-70は50%削減~70%削減の間となる(“ギャップ”が極めて大きい) • ヴィンテージ資本モデルでは資本減耗率が低いとエネルギーの急速な代替が難しく、H20-50-80では早期からのコンスタントで大きなCO2削減が必要になると考えられる。 環境経済・政策学会 2010年大会
なぜ資本減耗率δが小さいと“ギャップ”が拡大するか?:新エネシェアの例なぜ資本減耗率δが小さいと“ギャップ”が拡大するか?:新エネシェアの例 • 資本減耗率が低いとエネルギーの急速な代替が難しく、H20-50-80においては早期からのコンスタントな新エネルギー普及が起こる • 2020~2035年の間でH20-50-80 とH30-50-70の「削減量大」の傾きが同程度になる。 H20-50-80ではこれ以上速く新エネルギー普及が出来ないため、80%削減付近に位置。 環境経済・政策学会 2010年大会
結 論 • 本研究では、2050年のCO2削減目標に削減量小・中・大の3シナリオを想定し、2020年にどのシナリオを選択すべきか判明するという仮定の下で、~2020年におけるCO2削減のヘッジング戦略を検討した。 • ~2020年のヘッジング戦略においては、削減量大シナリオが1990年比80%削減か70%削減以下かの間で、CO2削減経路にギャップが生じる • このギャップは、パラメータを変化させても生じることが多い • 資本減耗率に由来する「急速なエネルギー代替の困難性」が、このギャップ形成に関わっている可能性が考えられる • したがって、日本の中期的CO2削減目標を見積もる際には、1990年比80%削減を確率的な可能性として考慮するか否かが決定的となる • 感度分析において、資本減耗率と新エネルギー初期コストは特に影響力が大きく、 CO2削減目標を見積もる際はこれらの値も重要である 環境経済・政策学会 2010年大会