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[2010 年度研究報告の要旨 ] Ⅴ 今後の日本の社会保障制度のあるべき方向. 公的年金制度改革案の再検討 ・・・ 2007 年度研究報告を見直す 林田 雅博 1. プロローグ. 映画「春との旅」 ・・・ ある老人(仲代達矢)と、その孫娘(徳永えり)の物語 ・ 19 歳の孫娘が一人で祖父を扶養するような事態は回避しなければなら ない 。公的年金制度の役割は、私的扶養依存を脱却し、 日本 全体で世代間扶養を行おうとする ものである 。 ・ このような問題意識からスタート、公的年金制度がその役割を果たしつつ永続するにはどうすれば良いか再検討してみたい。 2.
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[2010年度研究報告の要旨] Ⅴ 今後の日本の社会保障制度のあるべき方向 公的年金制度改革案の再検討 ・・・2007年度研究報告を見直す 林田 雅博 1
プロローグ 映画「春との旅」・・・ある老人(仲代達矢)と、その孫娘(徳永えり)の物語 ・ 19歳の孫娘が一人で祖父を扶養するような事態は回避しなければならない。公的年金制度の役割は、私的扶養依存を脱却し、日本全体で世代間扶養を行おうとするものである。 ・ このような問題意識からスタート、公的年金制度がその役割を果たしつつ永続するにはどうすれば良いか再検討してみたい。 2
図1 公的年金制度の体系 3 図1 公的年金制度の体系 3
日本の公的年金の特徴 (1)国民皆年金・・・自営業者も無業者も国民すべてが国民年金制度に加入、基礎年金給付を受ける。厚生年金等の被用者年金は、基礎年金に上乗せの2階部分として、報酬比例年金が給付される。 (2)強制加入・社会保険方式・・・ 年金加入者は拠出した保険料に応じて年金が給付される。基本的には保険料を納めないと年金はもらえない。納めた期間が長ければ支給年金も多くなる。国民が全員参加で公的年金を支えることを義務づける強制加入の仕組みになっている。ただし、無業者など保険料負担が困難な被保険者(加入者)に対しては保険料免除の制度があり、受給権を保障している。 4
日本の公的年金の特徴-2 (3)世代間扶養・・・公的年金は、基本的には現役世代の保険料負担で高齢者世代を支える、という世代間扶養の考え方で運営されている。各々が私的に行っていた老親の扶養・仕送りを、社会全体の仕組みに広げたものである。 現役世代が生み出す財の一定割合を、その時点の高齢者世代に再分配するという仕組みをとる⇒物価スライドによって実質的価値を維持した年金が給付される。 5
「2007年度研究報告」の結び ① 2004年の年金制度改正は、「賦課方式」の基本的枠組みを温存した。 想定を上回る少子高齢化が進行すれば、年金財政の見通しが狂い、積立金が早期に枯渇する懸念もある。2階部分を「賦課方式」から「積立方式」へ移行しなければならない。 ② 公的年金について、その財政状況、および世代別の受益(年金をいくらもらえるか)と負担(保険料をいくら払うか)の割合をみると、世代間に大きな格差が存在する。世代間格差を是正する財政的にも妥当な方法は、年金給付額の削減と税金(消費税)の投入である。 6
「2007年度研究報告」の結びー2 ③現行基礎年金は全額税方式化し財源は全て消費税でまかなうこと、2階部分の報酬比例年金は、積立方式とすることが妥当である。 2010年度研究報告においては、以上の2007結論を 再度見直し、より妥当な結論を得ることとする。 7
公的年金給付の性格 • 公的年金制度は、ヨーロッパにおいて産業革命以降に発生した、都市部労働者の老後の貧困問題を解決する社会保険のひとつとして発展。 • 互助組織や救貧法のような制度では問題解決が不十分⇒試行錯誤の結果、社会全体でこれらリスクに備えるものとして社会保険のシステムが編み出された・・・このシステムは19世紀後半のドイツに登場、その後多くの国で採用された⇒日本の厚生年金もその流れを汲む。 • 社会保険給付の受給は、保険料納付に対する権利⇒保険事故が発生すれば必ず受給できなければならない。8
公的年金給付の性格-2 • 公的年金はこのような歴史的過程を経て誕生したものである ⇒年金給付は、それまでの基本的生活を維持できる給付であることが必要。 ⇓ • 現行制度において・・・①モデル年金の所得代替率(S45参照)を50%以上としていること、②現役時の平均収入と加入年数に応じて報酬比例年金の給付額が決定されることなどは・・・その現れ。 9
公的年金の財政方式1.「賦課方式」 ・ 公的年金給付は、その時々に生産された財のうちから、困窮化せずに基本的生活を継続できるだけの財を獲得する権利を、受給者に付与するものでなければならない。 ・ 給付の財源はその時々に調達するーすなわち、現役被保険者の財獲得権利を保険料の形で徴収し、受給者への給付財源とすることが基本になる。 以上考察⇒最も単純明快な財政方式は「賦課方式」である。 「賦課方式」=その年度の年金給付財政を、その年度の保険料により賄う。 10
「賦課方式」の特徴 ① 年金給付に必要な費用を、その時々の現役加入者からの保険料で賄う方式。 ②発足後、制度が成熟するまでは、年月の経過とともに受給者数が増加し、それに伴い年金給付費は増加⇒保険料(率)もそれにあわせて引き上げていくことになる(S13図2参照)。 ③ 制度成熟段階では、賃金・物価上昇に対応して年金額を改定しても、人口構成に変化がなければ、保険料収入も賃金の上昇に伴って増加⇒保険料(率)はインフレの影響を受けずに済む((S13図2参照) 。 11
賦課方式の特徴-2 ③ 保険料(率)は年金受給者と被保険者の人数比に依存する⇒少子高齢化が進行すれば、被保険者数に対する受給者数の比率が上昇⇒保険料(率)が上昇するという性質をもつ。 ④ このような人口構成の変化に伴って保険料(率)が上昇すると、生涯を通じた年金給付額と保険料負担額の比率に世代間の格差を生じさせ、現役被保険者に不安感を与える恐れがある。 ⑤ 先進諸国では、スウェーデンが制度の一部に積立方式を入れている以外、賦課方式を採用。 12
図2 公的年金の財政方式の概念図13 図2 公的年金の財政方式の概念図13
図3 「賦課方式」の世代間扶養イメージ 14 図3 「賦課方式」の世代間扶養イメージ 14
財政方式2.「平準保険料方式(積立方式)」財政方式2.「平準保険料方式(積立方式)」 ・ この方式は、将来の年金給付費と将来の被保険者の標準報酬月額(S38参照)を推計、これらに基づき将来の年金給付を賄うための一定の保険料率を算定し、この率を実行保険料率とする(S13図2参照)。 ・ 当初は実行保険料率>賦課保険料率、保険料収入>給付費となり、積立金が形成されるので、「積立方式」と呼ぶ場合もある。 ・ 給付費が将来推計どおり推移すれば、時間経過とともに、平準保険料率<賦課保険料率となり、年間給付費>年間保険料収入になる。この時点以降は、財源は保険料と積立金の運用収入で賄っていくことになる。15
「平準保険料方式(積立方式)」の特徴 ① 受給者・被保険者(加入者)の年齢構成や積立金の運用利回り等が、見通しどおりに推移する限り、人口の高齢化が進んでも保険料(率)を変更しなくてよい。 ② 想定を超える賃金や物価の上昇があり、運用利回りがそれに及ばない場合には積立不足を生じ、現役被保険者が保険料の追加負担をしない限り、賃金・物価上昇に見合う年金給付ができない。 ③ 生涯を通じた平均的な給付額と保険料負担額の比率が、世代により大きく異なることはない。 16
「賦課方式」⇒「積立方式」への切替 • 賦課方式を積立方式に切替える場合には ⇒切替時の現役世代は、自らの将来の年金の積立に加えて、そのときの受給世代等の年金給付財源を重ねて負担しなければならなくなる。 ⇓ • いわゆる「二重の負担」が生じ、これにどう対応していくかが大きな問題となる。 17
財政方式3.「段階保険料方式」 ・ 1942年発足した日本の厚生年金制度(当時は労働者年金保険)は、当初「平準保険料方式」を採用。 ・ 1948年、戦後の急激なインフレの渦中、負担能力などを考慮し、「平準保険料率」よりも低い暫定的な保険料率を設定。 ・ 1954年、厚生年金法の抜本改正に際し「平準保険料率」を保険料率とすることに対し強い反対があり、段階的に保険料率を引き上げ収支を合せる財政方式=「段階保険料方式」をとらざるを得なくなった。 ・ 日本の公的年金は、完全な「賦課方式」ではなく、 「段階保険料方式」であり、将来の給付に備えて積立金を持っている(S19表1参照)。 18
表1 公的年金各制度の期末積立金残高(金額単位:10億円) 19表1 公的年金各制度の期末積立金残高(金額単位:10億円) 19
「段階保険料方式」の考え方 • 保険料(率)を段階的に引き上げていく点では、「賦課方式」の要素を持つ。一方、制度成熟に伴い積立金が形成され、この活用により一定の保険料水準で運営を行う点では「積立方式」の要素を持つ。 • 日本の厚生年金、共済年金、国民年金いずれも、現在の積立金の水準(S19表1)からみれば賦課方式を基本とした方式である。 • さらに、2004年年金制度改正で、100年後の積立金を厚生年金、国民年金ともに支出の1年分と想定した(S21図4)⇒100年後には、公的年金財政は現在以上に賦課方式の要素の濃い財政方式に。 20
図4 厚生年金・国民年金積立金の年間支出に対する積立度合見通し (出所)厚労省「平成21年財政検証結果レポート」P3021(注)厚生年金基金の代行部分含む財政見通しである。図4 厚生年金・国民年金積立金の年間支出に対する積立度合見通し (出所)厚労省「平成21年財政検証結果レポート」P3021(注)厚生年金基金の代行部分含む財政見通しである。
財政方式の選択について ・ 厚労省の考え方⇒ “積立方式、賦課方式のどちらが適切か、という議論ではなく、どのように組合せ、両者の長所を生かすかという視点が重要。現行制度は、一定の積立金保有により、将来の保険料水準や給付水準を平準化するとともに、賦課方式における少子高齢化に伴う負担上昇や給付低下を回避する財政方式をとっている” ( 「平成21年財政検証結果レポート」より抜粋) 22
財政方式の選択について-2 • 鈴木学習院大教授の主張⇒ “2004年・年金改革によって、賦課方式が継続され、厚生年金の保険料率は2017年に労使折半18.3%に固定される。この制度では、想定を上回る少子高齢化の進行により、2060年に積立金が枯渇する。早急に積立方式に移行すべきである” (鈴木亘『だまされないための年金・医療・介護入門』東洋経済新報社 2009年 P145~152) 23
公的年金の財源に関する議論 • 日本の現行制度・・・1階部分の基礎年金の財源が税と保険料が半分ずつであり、2階部分(被用者年金の報酬比例部分)の財源は全額保険料(労使折半)である(S25図5参照)。1階部分に税財源が入っているが、保険料拠出(25年以上)が給付要件になっており、社会保険方式である。 • 2008年に、新聞3社が年金改革案を公表、議論が活発化⇒日経新聞が基礎年金財源の税方式化を提案、朝日新聞は社会保険方式維持を主張、読売新聞は税方式による最低保障年金創設を提案。 • 民主党・改革案の「最低保障年金」も全額税財源の税方式である(S26図6参照)。 24
図6 民主党の年金改革案 26 図6 民主党の年金改革案 26
公的年金の財源方式1.「社会保険方式」 • 一定以上(25年以上)の期間、年金保険料を拠出することが受給の条件、「拠出なければ給付なし」の制度。給付は拠出と連動、その分権利性が強い。 • “保険料拠出が条件”⇒最大の問題点は、無年金、低額年金者が多数発生すること。2007年4月・65歳以上の無年金者は42万人。厚労省推計・65歳以上の無年金者は今後さらに増加、118万人に膨れ上がる見込み。 • 被保険者から年金保険料を徴収、徴収記録を正確に残す必要あるが、漏れなく保険料を徴収することには困難を伴う⇒現に「年金記録問題」が発生!記録漏れ、給付漏れ多発! 27
公的年金の財源方式2.「税方式」 • 年金保険料の拠出を年金の受給要件とせず、一定期間の日本国内居住などを要件とする方式。 • 税方式化論者の主張する長所⇒①制度未加入、保険料未納問題が解決、無年金者・低額年金者の発生をなくせる、②保険料徴収事務・年金管理記録が不要になる、③年金受給世代も消費税を負担し続けるので、現役組の負担を軽減できる。 • 課題・問題点(1)⇒多額の税財源調達が必要。基礎年金財源を全額消費税で調達すれば、消費税率5%前後の引上げが必要(日経新聞試算)。民主党案「最低保障年金」の必要財源21.5兆円、消費税換算6.8%の引上げ必要(堀一橋大教授試算)。 28
公的年金の財源方式2.「税方式」-2 今後、高齢化が進行するなかで年金だけに5~7%も投入できるかが課題。朝日新聞提案は、“年金財源の税方式化は非現実的”と判断、年金に消費税の多くを回せば医療や介護、少子化対策が十分できない恐れがある、と主張。 • 課題・問題点(2)⇒支給対象者をどうするかも大問題 ⇒ 所得が多い高齢者にも全額税財源の基礎年金を支給するのか? 年金保険料の意図的未納者も支給対象とするのか? 他の所得や資産がある人にも「全額税財源・最低保障年金」を支給してよいのか? 29
公的年金の受益と負担の世代間格差について • 公的年金制度は 「世代間扶養」の仕組みの下で実施されている社会保障制度であり、個人や世代の損得を論じる性格のものではない。 • 一方で「保険料を払った分が戻ってこないので払い損」という、いわゆる「損得」の意見がある。年金研究者間でも、世代間の受益と負担に大きな格差が存在すると主張する「世代間不公平論」が根強い。 • 代表的な世代間不公平論の是非を検討する。 30
公的年金の世代別・生涯受給率と生涯保険料負担率(学習院大鈴木教授の試算)公的年金の世代別・生涯受給率と生涯保険料負担率(学習院大鈴木教授の試算) • 構築モデルにより世代別の受益負担格差を試算。 • 受益=報酬比例部分、基礎年金、配偶者分の基礎年金を含めた厚生年金。負担=厚生年金保険料。年金保険料には事業主負担分(1/2)を含む。 • 生涯保険料率=生涯保険料÷生涯賃金額(%)、生涯受給率=年金生涯受給額÷生涯賃金額(%) 各数値は運用利回り(3.2%)による現在割引価値 (出所) 貝塚編『年金を考える-持続可能な社会保障制度改革』中央経済社2006年 鈴木亘『だまされないための年金・医療・介護入門』東洋経済新報社2009年 鈴木亘『年金は本当にもらえるのか?』ちくま新書2010年7月 31
図7 厚生年金の生涯保険料率と生涯受給率(鈴木教授計算)32図7 厚生年金の生涯保険料率と生涯受給率(鈴木教授計算)32
図8 生涯純受給率(生涯受給率-生涯保険料率)(鈴木教授計算)33図8 生涯純受給率(生涯受給率-生涯保険料率)(鈴木教授計算)33
厚労省の計算(平成21年財政検証)との対比 • 厚労省が「平成21年財政検証」において示した、保険料負担に対する年金給付の倍率と、鈴木教授のデータに基づく倍率を対比させると次ページ図9の通りで、大きな差異がある。 • このような大きな差異が生じた原因は以下2点か。 (1)鈴木教授は、保険料の事業主負担分を労働者に帰着させている(生涯保険料に含めている)のに対し、厚労省は事業主負担分は含めていない⇒個人別負担を把握するミクロの計算では、手取り賃金から天引きされる従業員分に負担を限定すべきで、厚労省計算が妥当と思われる。事業主負担は保険料総額の半分なので、これを含めれば負担率が2倍に過大表示されることになる。34
図9 厚生年金給付負担倍率(厚労省と鈴木教授の比較) 35図9 厚生年金給付負担倍率(厚労省と鈴木教授の比較) 35
厚労省計算(平成21年財政検証)との比較-2厚労省計算(平成21年財政検証)との比較-2 (2)鈴木教授は、賃金、保険料、年金受給額すべて、運用利回り(平成16年「社会保障の給付と負担の見通し」の想定利回り3.2%)で割引いた現在価値を使用。 厚労省計算は、保険料額や年金給付額を賃金上昇率(平成21年財政検証・経済前提「中位ケース」では1.5%)を用いて65 歳時点価格に換算。 ⇒積立方式で、将来の給付に備え現在保有すべき積立金を求めるには、運用利回りによる割引計算が必要。一方賦課方式では、その年度の賃金の一部を保険料として拠出し、それを財源として生活維持に必要な年金額を給付する⇒ 賃金上昇率による計算が妥当。運用利回りと賃金上昇率には約2倍の差異がある⇒ 将来受給する年金額を運用利回りで割引くと、受給額の現在価値が過小になる。 36
厚労省計算(平成21年財政検証)との比較-3厚労省計算(平成21年財政検証)との比較-3 • 以上を総合、鈴木教授計算は、保険料負担を過大に、年金受給を過少に見積もっていることになり、給付負担倍率の数値は、厚労省計算の方が、より妥当であろうと考えられる。鈴木教授のいう「純受給率マイナス世代」は存在しない。 • “1955年以降生まれの世代がもらう年金は払った保険料より少ない”と言う議論が、複数の書籍で堂々と世に喧伝されているのは憂慮すべき事態である。 • なお、現在価値への割引率を運用利回り(3.2%)によった場合と、賃金上昇率(1.5%)によった場合の差異を試算してみたので、図10に示す。 37
年金給付負担倍率の計算方法による差異試算 図10の試算に使った数値 ① 筆者の1966年4月~2005年6月の各年度ごとの支払い保険料 (=標準報酬月額×各年度保険料率)*標準報酬月額・・・保険料、年金額決定の計算のもとになる報酬で、その人の月給与額を一定の幅でランク分けしたもの。現在、最高額62万円から最低額9万8千円までの30ランクに分かれている。 ② 現在までの受給年金+今後平均余命より2年長く生存すると仮定したときの予想受給額(賃金上昇率とマクロ経済スライドを加減) [試算-1] 賃金上昇率(1.5%)で現在価値へ割引(割増)、事業主負担保険料除き [試算-2] 賃金上昇率(1.5%)で現在価値へ割引(割増)、事業主負担保険料含む [試算-3] 運用利回り(3.2%)で現在価値へ割引(割増)、事業主負担保険料除き [試算-4] 運用利回り(3.2%)で現在価値へ割引(割増)、事業主負担保険料含む38
図10 厚生年金給付負担倍率の計算方法による差異 39図10 厚生年金給付負担倍率の計算方法による差異 39
給付負担倍率の差は不公平な格差なのか • 厚労省計算がより妥当であり、純受給率マイナス世代はない、としても、給付負担倍率には世代間の格差が厳然と存在する。これは不公平なのか・・・ • 公的年金の役割・性格・歴史まで立戻って検討することが必要。 ・ 公的年金制度は、「世代間扶養」の仕組みの下で実施されている社会保障制度である。歴史的には、①負担については、戦後の経済混乱の中で負担能力にギリギリ見合った低い保険料としていたが、その後、保険料を段階的に引き上げてきたこと、 ②給付については、経済発展の中で物価や賃金の上昇に応じた改正を後代の負担で行ってきたこと、40
給付負担倍率の差は不公平な格差なのか-2 また、③長寿化に伴い支給開始年齢の引き上げ等の改正を行ってきたことなどが、倍率格差が生ずる背景。高齢者世代が過少な負担でバラマキ年金を謳歌してきたのではない。 ・ 公的年金制度が定着する前の日本では家単位の私的な高齢者扶養が当然であったが、「家」制度の廃止・核家族化進行に伴い、社会全体での「世代間扶養主体」に転換せざるを得なくなっている。現行年金制度は、このような「世代間扶養」の考え方を基本にしているのであり、一面的な保険料負担と給付の対比だけに基づく「世代間不公平論」は当を得ていない。 41
給付負担倍率の差は不公平な格差なのか-3 • ただ、少子高齢化進行に伴い、高齢者世代に比べ現役・将来世代の負担が相対的にかなり大きくなっていること、年金財政の見通しも楽観を許さないことは事実である。 ⇒現役・将来世代の負担軽減および年金財政の強化のために、年金給付課税強化によって実質的に給付を抑制したり、相続税・贈与税の課税強化による税財源や消費増税の一部を投入することは不可避であろう。 42
2004年の公的年金改革のポイント ・ 2004年に公的年金の大改正が行われた。目的は、年金財政を安定化させ、少なくとも100年間は持続可能な制度(有限均衡方式)とするもの。そのポイントは下記のとおり。 (1)「マクロ経済スライド」による年金給付水準の自動引下げ。 ただし“所得代替率50%以上”を維持 ・・・ 年金額の計算では、「平均標準報酬月額(S38参照)」を現在の賃金水準に読替える「再評価制度」および「物価スライド制」によって、インフレなどによる実質減価を回避することになっているが、2004年改正では「再評価率」「物価スライド率」から、年金被保険者数減少率(0.6%予定)分と平均余命伸び率(0.3%予定)を控除する「マクロ経済スライド」が導入された。要は⇒給与や物価が上がっても、年金給付は、そのままスライドしては増やしませんよ! ということ。(所得代替率はS45参照) 43
2004年の公的年金改革のポイントー2 (2)引上げ上限額(率)を設定した年金保険料の段階的引き上げ・・・厚生年金保険料は毎年+0.354%引上げ、2017年以降は18.3%とし、国民年金保険料は毎年+280円引上げ、2017年以降は月額16,900円とすることに。 (3)積立金を使う・・・⇒ 財政均衡期間終了時の積立金は年金給付費1年分程度へ減る。 ⇒この改革で有限均衡期間(100年間)の財政は維持できると見込んでよいか、検証が必要⇒厚労省は5年毎に公的年金の「財政検証」を行い、公表することに。 44
「平成21年財政検証」について 厚労省は2009年2月、 「平成21年財政検証」の結果を公表。そのポイントは次の通り 経済前提(表2、3参照)が基本ケース(経済中位・出生中位)ならば ⇒①平成50年(2038年)以降の所得代替率(注)は、50.1%を維持できる。 ⇒②100年後(2105年度)の積立金積立度合(前年度末積立金/当年度支出合計)は1.0倍になる。 (注)所得代替率:標準的な年金受給世帯(平均的賃金で40年厚生年金に加入していた夫婦世帯)が受給する年金の、現役被保険者の平均的手取り賃金に対する比率 45
表3 平成21年財政検証の出生率前提47 • 合計特殊出生率 2005年実績 2055年 出生高位: 1.55 1.26 ⇒⇒⇒ 出生中位: 1.26 出生低位: 1.06
公的年金の各改革案の評価 ・ 新聞3社の改革案・・・日経・朝日・読売 ・ 民主党改革案 ⇒税財源の最低保障年金導入、年金一元化 ・ 学習院大・鈴木教授 “積立方式へ移行せよ” ・ 一橋大・高山教授 “年金目的消費税で、現役世代の負担増回避を” ・ 上智大・堀教授 “2004年改正に基づく現行制度を持続すべき” 48
エピローグ • 次の①について、2007年研究の結論を再検討・修正し、さらに②についても考え方を示したい。 ① 公的年金制度が持つ重要な役割は、子ども世代が親世代を社会全体で扶養する「世代間扶養」である。この役割を果たしつつ、公的年金制度が永続するにはどうすべきか。 ② 年金制度への不安・不信感を払しょくするには何を行うべきか。 49