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「ホームレス問題の経済学」. 学習院大学経済学部 鈴木 亘. 講義の目的. 現在、日本が直面している格差問題、貧困問題のひとつの象徴である「ホームレス問題」に関して、理解を深める。 ホームレス問題は何故起こるのか、問題の解決のためにはどのようなことが必要なのか、経済学的観点から考察する。 経済学は、問題解決志向的学問。ホームレス問題を通して、経済学という学問の特徴・性質を知る。. 写真は何れもインターネット新聞 JanJan から転載. ホームレスのイメージ. 皆さんは、ホームレスを見たことがありますか。どのようなイメージをお持ちですか。 怠け者、乞食 くさい、汚い
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「ホームレス問題の経済学」 学習院大学経済学部 鈴木 亘
講義の目的 • 現在、日本が直面している格差問題、貧困問題のひとつの象徴である「ホームレス問題」に関して、理解を深める。 • ホームレス問題は何故起こるのか、問題の解決のためにはどのようなことが必要なのか、経済学的観点から考察する。 • 経済学は、問題解決志向的学問。ホームレス問題を通して、経済学という学問の特徴・性質を知る。
写真は何れもインターネット新聞JanJanから転載写真は何れもインターネット新聞JanJanから転載
ホームレスのイメージ • 皆さんは、ホームレスを見たことがありますか。どのようなイメージをお持ちですか。 • 怠け者、乞食 • くさい、汚い • 危ない、怖い(犯罪に関係している) • アルコール中毒、精神疾患を抱えている • 何を考えているか分からない関係が無い人々 • 空き缶などのゴミ回収をしている • 日雇い建設労働者
ホームレスとはどのような人々か • 厚生労働省「ホームレスの実態に関する全国調査(概数調査)結果」(平成22年3月現在)
厚労省全国ホームレス調査(2007年)によれば、全国のホームレス総数は18,564人(2003年の調査に比べて6,732人、率にして26.6%の減少)。2010年の概数調査ではさらに減少し、13,124人。ただし、ホームレスの定義が欧米と日本では異なることに注意。路上生活者が減少しているに過ぎない。厚労省全国ホームレス調査(2007年)によれば、全国のホームレス総数は18,564人(2003年の調査に比べて6,732人、率にして26.6%の減少)。2010年の概数調査ではさらに減少し、13,124人。ただし、ホームレスの定義が欧米と日本では異なることに注意。路上生活者が減少しているに過ぎない。 • 統計が不備であるが、1995、6年ごろから、都市部を中心に急増したと見られる。全国的には1998年ごろから急増。 • 特に、東京、横浜・川崎、大阪、名古屋などの都市部に集中。都市では、日常的風景に。
2007年厚労省実態調査から • 平均年齢57.5歳とほとんどは中高年である(ただし、若者も最近増えている)。 • 性別は95.2%が男性
野宿生活者の生活場所(公園が減少しつつある)野宿生活者の生活場所(公園が減少しつつある)
路上生活直前の職業(日雇いが多いが、 最近はそれ以外も増加しつつある)
路上生活直前の雇用形態(日雇や非正規から、路上生活直前の雇用形態(日雇や非正規から、 正規、常用雇用も増加しつつある)
路上生活に至った理由(仕事関係が大勢を占める)路上生活に至った理由(仕事関係が大勢を占める)
路上生活直前の住居形態(ドヤや飯場などから、通常の路上生活直前の住居形態(ドヤや飯場などから、通常の 賃貸住宅が最近は目立つ)
現在の仕事による収入月額(ホームレスの就労率は現在の仕事による収入月額(ホームレスの就労率は 実は7割程度と高い。また、現金収入も平均4万程度と高い。
今後どのような生活を望むか(最近、やや減ったとはいえ今後どのような生活を望むか(最近、やや減ったとはいえ 就労希望率は高いし、就職活動も行なっている)
ホームレスは意外に働きもの。就労意欲がある(ただし、最近高齢化で減退しつつある)。ホームレスは意外に働きもの。就労意欲がある(ただし、最近高齢化で減退しつつある)。 • しかも、就労収入はかなりある。「乞食ではない」という点は、世界的に見ても珍しい。 • 若者や中年ではなく、その多くが中・高齢者の男性である。 • 発生の経緯は、正規⇒非正規⇒日雇と段階的な落層が中心。 • ただし、最近は、そのようなパターンに当てはまらない人々も増加。高齢化、長期化も著しい。
ホームレスの分布状況 • 鈴木亘「小地域情報を用いたホームレス居住分布に関する実証分析」, 2004年10月, 『季刊・住宅土地経済』No.54,pp. 30-37 • 鈴木亘「GISを用いたホームレスの生活圏分析と都市政策」,2003年4月,山崎福寿・浅田義久編「都市再生の経済分析」 ) • Suzuki,W. “What Determines the Spatial Distribution of Homeless People in Japan?”,2008年10月, Applied Economics Letters Vol.15, No.13, pp. 1023-1026
非定住者(日雇労働市場を中心に分布、駅舎周辺にも分布)非定住者(日雇労働市場を中心に分布、駅舎周辺にも分布)
職業へのアクセスがきわめて重要。 • 食料環境、健康との関連性も高い。 • したがって、都市中心の商業地・住宅地と重なることになる。 • ホームレス居住で住宅価格、家賃下落。 • 鈴木(2004)によれば、ホームレスが10人増加すると3%程度地価が下がるという関係となっている。 • 周辺住民との摩擦が必然的となる。
経済学からみたホームレス発生の原因 • 各種調査では、失業や失職、倒産などの就労要因が原因。 • 日本では、就労のみが強調。就労したいのに就労できない状態にいることが原因。 • しかし、あまりに簡単に野宿生活に落ちる人々の存在。また、失業率との連動の低さ。 • 平均4万円の現金収入でホームレス生活。 • 低家賃賃貸市場の機能不全も原因(市場の失敗)⇒就労対策だけが支援策ではない。
ホームレスの人々や予備軍である低所得者に対する賃貸住宅市場に「情報の非対称性」による市場の失敗があり、十分な供給できず。ホームレスの人々や予備軍である低所得者に対する賃貸住宅市場に「情報の非対称性」による市場の失敗があり、十分な供給できず。 • ①家賃滞納の可能性 • ②社会生活能力、近隣住民の反応 • ②借地借家法 • ③保証人、敷金、礼金、賃貸拒否 • ⇒住宅弱者といえる。高齢者、障害者同様、住宅弱者対策として政策的対応が正当化される。家賃補助、公営住宅割当、住宅扶助単給、公的保証(地域生活移行支援)。ハウジングファースト論の根拠。
ホームレス対策の経済学的根拠 • セーフティーネット不備論の不備 • 外部性 ・・・①結核などの伝染病 • ②公園や駅、道路などの公共空間占有 • ③一般市民が悲しい気分になる • ④周辺環境の悪化と地価・賃貸料の低下(10人で3%、鈴木2004) • ⑤医療扶助の利用増(無保険状態の放置は非常に高くつく) • 外部性の対処として、ペナルティーか公費による支援策の選択。
情報の非対称性・・・生活保護へのモラルハザードと、低家賃住宅市場の問題情報の非対称性・・・生活保護へのモラルハザードと、低家賃住宅市場の問題 • 当てはまらない人ももちろん居るが、生活保護に対するモラルハザードがある。生活保護にいずれかかるから、労働調整して貯蓄、生産形成しない、自立をしないという行動。特に、現在地保護が認められたことにより、ホームレスの生活保護は非常にかかりやすくなった。 • 低家賃住宅市場では、情報の非対称性に起因する市場の失敗(敷金、礼金、保証人) 、借地借家法、家賃滞納、近隣住民の迷惑⇒「住宅弱者」 への介入の正当性
非価値財 • ひとたびホームレスになってしまえば、様々な不可逆性(様々な行政サービスを得るためには住所設定必要、路上生活は犯罪に巻き込まれやすい) 消費者として合理的な判断が難しい人々の存在。 • 対策としては、①公共空間の占有に刑罰・罰金、②公費をかけた支援策の2択。前者は、ホームレスの場合機能せず、結局高く付くために、②が政策的対応となる。
ホームレスの就労問題~ホームレス脱却の難しさ~ホームレスの就労問題~ホームレス脱却の難しさ~ • 鈴木亘.「ホームレスの労働と健康、自立支援の課題」, 単著, 日本労働研究雑誌((独)労働政策研究・研修機構)2007年6月号, pp.61-74
データ(墨田区ホームレス実態調査) (1)調査方法 • (1)第一次調査 • ①調査地域 墨田区全域 • ②調査対象 墨田区内に起居する全ホームレス • ③調査期間 平成16年10月~11月 • (2)第二次調査(本調査) • ①調査地域 墨田区全域 • ②調査対象 第一次調査で把握されたホームレス • ③調査期間 平成16年12月
・墨田区委託調査。 • ・調査の実施は、NPOふるさとの会、研究者、緊急地域雇用創出特別対策推進事業費 を用いた元ホームレス調査員。 • NPOふるさとの会はアウトリーチや炊き出しを通じてこの地区のホームレスとのコミュニケーションを持つ。元ホームレス調査員の動員によりさらに信頼性が確保。 • 質問をプラカードにして恣意性を統御。
表Ⅰ-2 第一次調査:墨田区内のホームレスを把握する調査表Ⅰ-2 第一次調査:墨田区内のホームレスを把握する調査 表Ⅰ-3 第二次調査:墨田区のホームレス生活実態調査
賃金率(1日あたり収入)と労働日数の関係(対数)賃金率(1日あたり収入)と労働日数の関係(対数)
まとめ ①ホームレスの賃金率と労働日数には負の関係がある。⇒バックワードベンド+生活費・生命維持費のターゲットがあるのではないか。 ②賃金と健康間の悪循環も明確(健康の悪化⇔賃金率低下、賃金率低下(→)労働日数→健康の悪化、就労選択には健康は関係なし) ③職種選択の介在の可能性
①高賃金率のバックワードベンドならば、生活保護同様の貧困の罠の可能性(生活保護へのモラルハザードを含む)→罠の障壁除去により自立促進ができる(移行支援事業、敷金支給、生活費貸付、生活支援の継続、保険料・税の免除)①高賃金率のバックワードベンドならば、生活保護同様の貧困の罠の可能性(生活保護へのモラルハザードを含む)→罠の障壁除去により自立促進ができる(移行支援事業、敷金支給、生活費貸付、生活支援の継続、保険料・税の免除) • 生活維持費ターゲットの低賃金率の人々は、最低賃金を割り、過酷な長時間労働。廃品回収を条件とした食料援助、一般的な食糧援助の可能性。 ②健康と就労間の悪循環を断つ方法として、労働市場への介入(就労創出、賃金補助、最低賃金)は非効率、医療・健康への支援は効率的。
ホームレスの健康~健康面からの脱却の難しさ~ホームレスの健康~健康面からの脱却の難しさ~ • 鈴木亘「仮設一時避難所検診データを利用したホームレスの健康状態の分析」,2006年2月,『医療と社会』Vol.15 No.3,pp.53-74 • 鈴木亘「医療扶助の適正化と改革のあり方に関する一試論」,単著, 2006年12月,『季刊shelter-less』No.30,pp.125-137