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量子渦 および量子乱流の世界. 東京大学大学院総合文化研究科 小林未知数. 共同研究者 : 坪田誠(大阪市立大理) 川口 由紀(東大理 ) 新田宗土 (慶応大物理 ) 上田 正仁(東大理). 2010 年 6 月 23 日 駒場原子核理論 研究室 セミナー. 発表内容. 超流動とボース ・アインシュタイン 凝縮体 量子乱流と その歴史的背景 古典乱流と量子乱流 量子乱流のエネルギースペクトルと統計 その他の話題:スピノル BEC と非可換 量子 渦 まとめ. なぜ(今さら)量子 乱流か?.
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量子渦および量子乱流の世界 東京大学大学院総合文化研究科 小林未知数 共同研究者: 坪田誠(大阪市立大理) 川口由紀(東大理) 新田宗土(慶応大物理) 上田正仁(東大理) 2010年6月23日駒場原子核理論研究室セミナー
発表内容 超流動とボース・アインシュタイン凝縮体 量子乱流とその歴史的背景 古典乱流と量子乱流 量子乱流のエネルギースペクトルと統計 その他の話題:スピノルBECと非可換量子渦 まとめ
なぜ(今さら)量子乱流か? 超流動液体4Heで実現される超流動乱流(量子乱流)は低温物理学において非常に重要なトピックスの1つであった。 近年、超流動乱流において古典乱流との類似性が発見され、超流動乱流(量子乱流)を用いて古典乱流を要素還元的に理解するという視点において、低温物理学の範囲を超えて重要視され始めた。 超流動乱流(量子乱流)という分野は、新しい時代を迎えようとしている!
超流動とBEC 液体ヘリウムは低温で超流動状態となり、粘性を持っていないかのように振る舞う 超流動薄膜
超流動とBEC (Microscopic) 超流動はボース・アインシュタイン凝縮(BEC)によって引き起こされる ボース系では低温において巨視的な数の原子が、1粒子の基底状態を占有し、巨視的な波動関数を形成する。 原子集団は巨視的波動関数としてコヒーレントに運動し、超流動を引き起こす。
BECとU(1)ゲージ対称性の破れ BECの本質は巨視的波動関数の存在である Y(x)=|Y(x)| exp[i(x)]:位相(x)が決まる→U(1)ゲージ対称性の破れ 絶対零度における平均場ハミルトニアン
超流動のダイナミクス (Macroscopic) • 全流体は粘性のある成分(常流体)とない成分(超流体)とに分けられる。 • 粘性のない振る舞いは超流体の振る舞いを見ている • 1 K以下では常流体はほとんどない • 二流体モデルを用いて超流動現象の多くを説明することができる
2流体モデルを最も特徴づける現象:熱対向流2流体モデルを最も特徴づける現象:熱対向流 超流動中に温度勾配をつけると‥ 常流体:低温側へ 超流体:高温側へ • 流体全体としては流れていないように見えるが、それぞれの成分が反対方向に流れている。 • 非常に大きな熱伝導度(通常の液体の約106倍)
熱対向流における層流-乱流転移 二流体の相対速度がある値を超えると、今まで散逸を伴わなかった熱対向流に散逸が生じる Feynman この散逸こそ超流体中の循環が量子化された量子渦のタングル状態:超流動乱流状態である!(1955)
量子渦と量子乱流の発見 • Vinen • 超流動4Heにおける量子化された循環k= h/mを観測:量子渦の発見 • タングル状態の量子渦と常流体との摩擦である相互摩擦力(mutual friction)を観測:超流動乱流の発見(1957)
k 量子渦の特徴 (Macroscopic) • すべての量子渦はいたるところで同じ循環 k = ∳ vs・ds = nh / m を持つ(実際には n≥ 2 の渦は不安定で n= 1 の渦へと分裂する)。 • 渦の粘性拡散がなく、安定に存在する。 • 渦芯のサイズは数Å(液体4He):非常に微視的な渦→古典流体の渦では最も粗雑な近似である渦糸近似が、量子渦ではRealisticとなる。
量子渦の特徴 (Microscopic) 波動関数の位相が2pずれている部分があると、その中心では波動関数を定義できず(r = 0)欠陥(defect)となる。
量子渦 欠陥は線状に走り、量子渦となる 原理的には2pだけでなく、2pの整数倍nだけの位相のずれが可能である。 n:トポロジカル不変量
量子渦の観測 超流動4He中の渦タングル 超流動4He中の渦格子 G. P. Bewley et al. Nature 441, 588 (2006) Packard 1982
渦糸近似による超流動乱流のシミュレーション渦糸近似による超流動乱流のシミュレーション 渦糸要素の時間発展 量子渦:渦糸近似が有効 x0:渦糸要素の位置ベクトル vind:渦糸が作る超流動速度場(ビオ・サバール則で与えられる) vsa:外部から駆動する超流動速度場 vm:量子渦と常流体の相互摩擦力
渦糸近似による超流動乱流のシミュレーション渦糸近似による超流動乱流のシミュレーション 超流動乱流中の渦糸タングル vs vn 渦糸近似を用いて量子渦のダイナミクスを計算し、熱対向流中における超流動乱流との定量的な一致を得た (Schwarz 1988)。 「超流動乱流=量子渦糸タングル」という描像が裏付けられた。
熱対向流中の超流動乱流における膨大な研究が行われた熱対向流中の超流動乱流における膨大な研究が行われた しかし、 熱対向流は超流動固有の現象であり、よって熱対向流によって作り出された超流動乱流は古典乱流との対応を全く持っていない! 超流動乱流の古典乱流との関係は全く謎のままであった!
超流動乱流研究の新しい幕開け J. Maurer and P. Tabeling, Europhys. Lett. 43 (1), 29 (1998) 近年、状況は一変する 古典流体にて乱流を作る方法と同じ方法である。→古典乱流との対応を議論することが可能になった 回転円盤中に形成される超流動乱流 実験条件 T> 1.4 K
超流動乱流と古典乱流の類似性 J. Maurer and P. Tabeling, Europhys. Lett. 43 (1), 29 (1998) 超流動転移温度以下においてもKolmogorovの-5/3乗則が観測された 超流動乱流と古典乱流の類似性が観測された!
エネルギー保有領域においてスケールl0 のエネルギーが注入される Kolmogorov則:一様等方古典乱流における統計則
Kolmogorov則:一様等方古典乱流における統計則Kolmogorov則:一様等方古典乱流における統計則 慣性領域ではエネルギーが散逸されずに高波数へと流れてゆきエネルギースペクトル E(k)がKolmogorov則で与えられる. C : Kolmogorov定数
Kolmogorov則:一様等方古典乱流における統計則Kolmogorov則:一様等方古典乱流における統計則 エネルギー散逸領域ではエネルギーがKomogorov長のスケール lKで散逸される
Kolmogorov則:一様等方古典乱流における統計則Kolmogorov則:一様等方古典乱流における統計則 e: エネルギー注入率 e: エネルギー輸送率 P(k) : k 空間におけるエネルギー流束 e : エネルギー散逸率
量子乱流と古典乱流の類似性 常流体 + 超流体中の量子渦 両者が相互摩擦力 (mutual friction) を介して結合し、1つの古典乱流のように振る舞うという描像で理解されてきた 常流体の存在しない絶対零度近傍の超流動乱流(量子乱流)でも古典流体との類似性はあるのか?
古典乱流と量子乱流 地球上の乱流 スモークワイヤ法によるトンボ周りの流れの可視化(工学院大中村瑞木氏) 自然界のほとんどの流れは乱流であるとともに流体力学最大の難問である
Leonardo da Vinci による乱流研究の幕開け 配水管から流れる水によって作られる乱流の渦構造のスケッチ • Leonardo da Vinci • 乱流は渦によって形成される • 乱流は渦の階層構造を持つ • 同じ階層の渦間に相互作用が働く
Leonardo da Vinci による乱流研究の幕開け Navier-Stokes方程式の数値解析(京大工 木田重雄氏) 一様等方乱流中の低圧力旋回渦の中心軸と芯領域の可視化 乱流において渦は重要な役割を果たす
Kolmogorov則とRichardsonカスケード エネルギー保有領域:大きな渦の生成 慣性領域 大きな渦が小さな渦へと分裂する:Richardson cascade エネルギー散逸領域:粘性により渦が消滅する
Richardsonカスケード Navier-Stokes方程式のシミュレーション エネルギー注入なしの減衰乱流 ↓ 大きな渦度領域をランダムに幾つか配置し、時間発展 ↓ 確かに渦は小さい渦へと分裂していっている 定常乱流ではこのプロセスが定常的に起こっている? 高渦度の等値面図
Richardsonカスケードと自己相似性 名古屋大学大学院工学研究科・金田研究室による乱流の大規模シミュレーション 乱流中においてRichardsonカスケードによる渦の自己相似的な構造が現れている →Kolmogorov則と密接な関係がある?
古典乱流の渦 • 渦度 w= rot vが連続的 • 循環 kが任意の経路で任意の値をとる • 渦は粘性によって生成消滅を繰り返す • 渦の定義が困難(どの物理量のどの値を基準とするべきか) • Richardsonカスケードは概念的なものに過ぎない(誰も見た人がいない)
量子乱流中の量子渦 • 循環 k = ∳ v ・ds = h / mが量子渦回りに量子化される • 量子渦は安定な位相欠陥である • 渦芯は非常に細い(回復長のオーダー)
量子渦は古典流体の渦と異なって安定かつ循環がそろっており、明確に定義できる量子渦は古典流体の渦と異なって安定かつ循環がそろっており、明確に定義できる →ぼやけてはっきりしない古典流体の渦にまとわりついているよけいな自由度を取り除いた、渦の本質のみの形 量子渦を構成要素とする量子乱流は構成要素がはっきりしない古典乱流の理想系となりうる(乱流の量子化)。 量子乱流こそがKolmogorov則とRichardsonカスケードの関係を明らかにするかもしれない。 →量子乱流もKolmogorov則を示す可能性がある
量子流体のダイナミクスを記述する方程式であるGross-Pitaevskii方程式を用いて量子乱流の数値シミュレーションを行う。量子流体のダイナミクスを記述する方程式であるGross-Pitaevskii方程式を用いて量子乱流の数値シミュレーションを行う。 エネルギースペクトルやエネルギー流束などの物理量を計算し、古典乱流との類似性を調べる。 研究目的
量子乱流のエネルギースペクトルと統計:GP方程式を用いた解析量子乱流のエネルギースペクトルと統計:GP方程式を用いた解析 ボース場のハミルトニアン(4He:ボース粒子)(デルタ関数型の短距離反発芯相互作用)
Gross-Pitaevskii方程式 ボース凝縮している系において揺らぎを無視する
Gross-Pitaevskii方程式 ハミルトン方程式からGP方程式(非線形Schrödinger方程式)を得る 量子渦
散逸項の導入 渦の再結合 GP方程式は圧縮性流体の方程式であり、渦の再結合時や渦芯の大きさまで小さくなった渦輪の消滅時に回復長より短いスケールの短波長圧縮性素励起を放出する(系の温度が上がる) ⇒渦と相互作用し乱流のダイナミクスに影響を与える
散逸項の導入 短波長圧縮性素励起を取り除くため、GP方程式に散逸項を導入する GP方程式のフーリエ変換
シミュレーションパラメーター (長さは回復長で規格化: x = 1) 空間:周期境界条件における擬スペクトル法 時間:Runge-Kutta法
減衰乱流 初期状態:ランダム位相 初期速度場:ランダム ↓ 乱流が形成される
減衰乱流 渦 位相 密度 0 < t < 6 g0=0 減衰無し g0=1 減衰あり
乱流のエネルギーとエネルギースペクトル 運動エネルギーを渦の部分と圧縮性素励起の部分に分ける
乱流のエネルギー 散逸がないと圧縮性素励起のエネルギーが支配的となる。 散逸を導入することで圧縮性素励起のエネルギーが散逸し、渦のエネルギーが支配的となる。
減衰乱流 量子乱流中の量子渦が古典乱流との類似性を示した!
定常乱流 X0 : ランダムポテンシャルの特徴的スケール ®サイズX0の渦が生成される
定常乱流への成長 エネルギー散逸とエネルギー注入のバランスにより定常乱流が実現される 渦 密度 ポテンシャル 非圧縮性運動エネルギー Ekiniが常に支配的
定常乱流への成長 エネルギー散逸とエネルギー注入のバランスにより定常乱流が実現される 非圧縮性運動エネルギー Ekiniが常に支配的