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ことば・人・越境 フィリピンの言語政策から. 松永稔也 東海大學日本語文學系. はじめに. フィリピン 7,000 以上の島から構成 100 以上の言語が使用されている 母語話者人口の多い言語でも人口比 30 %未満である. はじめに. フィリピンを例に「ことば・人・越境」を考えてみる 「ことば・人・越境」シンポジウムの二つの視点 1.「国民国家における国語の編成」 「国語と母語の葛藤」 2.「人の越境と教育」. 16 世紀~, 300 年以上にわたるスペイン人による植民地支配. 度重なるスペイン語教育政策の発令とその挫折 19 世紀末,
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ことば・人・越境フィリピンの言語政策から • 松永稔也 • 東海大學日本語文學系 第1節
はじめに フィリピン • 7,000以上の島から構成 • 100以上の言語が使用されている • 母語話者人口の多い言語でも人口比30%未満である 第1節 はじめに
はじめに • フィリピンを例に「ことば・人・越境」を考えてみる • 「ことば・人・越境」シンポジウムの二つの視点1.「国民国家における国語の編成」 「国語と母語の葛藤」2.「人の越境と教育」 第1節 はじめに
16世紀~,300年以上にわたるスペイン人による植民地支配.16世紀~,300年以上にわたるスペイン人による植民地支配. • 度重なるスペイン語教育政策の発令とその挫折19世紀末, • 対スペイン関係改善運動 スペイン語を中心に一部タガログ語(Tagalog) • 革命政府の憲法における言語条項 • アメリカ植民地政策の開始.英語教育の重視 • 1934-1935年,独立準備政府(Commonwealth)発足のための憲法制定.タガログ語を基礎とする国語の制定(1937年).文法書および辞書の編纂(1939年). • 1942年~,日本軍政期.日本語教育.日本語およびタガログ語が国語 • 1959年,国語の名称の変更.ピリピノ語(Pilipino)へ. • 1973年憲法の制定議会における言語議論 • 1974年の国語と英語による二言語併用教育政策の開始 • 1987年憲法の制定議会における言語議論,国語の名称の変更,フィリピノ語(Filipino)へ.国語と英語による二言語併用教育政策の継続 • 1988年~,コラソン・アキノ(Corazon Aquino)大統領によるフィリピノ語使用に関する大統領令とセブ地域の反発 • 1999年~,地方語を教授言語とするリンガ・フランカ(lingua franca)教育政策の試行 • 2003年,グロリア・マカパガル・アロヨ(Gloria Macapagal-Arroyo)大統領による英語教育の強化にかかわる大統領令
はじめに 本発表 • 国語の制定→特定の言語の国語化とフィリピン諸語の周辺化(地方語化) • 地方政府主導の反国語の動きとその限界 • 新しい形の運動の存在 • 議会での新しい動き • 課題 第1節 はじめに
憲法における言語条項 第14章6条 フィリピンの国語はフィリピノ語である.現存のフィリピンおよびその他の諸言語を基礎として,この言語はさらに発展され豊富なものにされるべきである. 法の定めるところにより,また,議会が必要と認める場合,政府は公式なコミュニケーション用語として,また,教育制度における教授言語としてフィリピノ語の使用を開始,維持するべく措置を講ずる. 第14章7条 コミュニケーションと教育の目的となるフィリピンの公用語は,フィリピノ語および,法の定めがあるまで英語である. 地方語は諸地域において補助的な公用語であり,そこでの補助的な教授言語とする. スペイン語とアラビア語は,任意の言語,選択的言語として促進される. • 一言語的な言語条項ではなく,多言語を含意した言語条項である 第2節 フィリピンにおける国語の制定
1935年憲法 国語議論の出発点 • アメリカ植民地支配下にあった1934年,10年後の独立が決定. • それに向けた独立準備政府(Commonwealth)発足のための1935年憲法制定議会 • 国民国家の成立要件のひとつとしての言語議論 第2節 フィリピンにおける国語の制定
1935年憲法制定議会の言語議論 • 国語の必要性の有無について(必要である/必要ない,あるいは決定の先送り) • どの言語が国語・公用語として適当か(フィリピン諸語/英語,あるいはスペイン語) • フィリピン諸語の選択方法(一つの言語を採用する/複数の言語の併記,複数言語の融合) 第2節 フィリピンにおける国語の制定
1935年憲法制定議会の言語議論 • 議会は土着のすべての言語を共通の国語の基礎として採用すべく措置を講ずる.法律で別段の定めをするまでは英語とスペイン語が公用語として存続する ↓ • 議会は土着言語のうちのひとつを共通の国語の基礎として採用すべく措置を講ずる.法律で別段の定めをするまでは英語とスペイン語が公用語として存続する 第2節 フィリピンにおける国語の制定
1935年憲法制定議会以降の動き • 1936年,国語候補の調査などを行う国語研究所(National Language Institute)の設立 • 1937年,同研究所によるタガログ語推薦同年,大統領令によるタガログ語を基礎とした国語の採用 • 1939年,タガログ語の文法書およびタガログ語-英語辞書の出版 第2節 フィリピンにおける国語の制定
1935年憲法制定以降の言語議論の展開 • フィリピン諸語の選択のあり方に関わる議論国語は単一の言語からなるべきなのか,複数の言語が含意されるべきなのか • 英語とフィリピン諸語タガログ語中心主義的な国語への反発=英語の実用言語としての優位の主張 VSナショナリズム的観点からの国語推進派 第2節 フィリピンにおける国語の制定
国語議論のその後 • 憲法における言語条項の変遷1935年憲法~1973年憲法~1987年憲法一言語(タガログ語)指向→多言語指向 • 国語の名称の変遷国語→ピリピノ語(1959年)→フィリピノ語(1987年) • 二言語併用教育政策1974年より国語と英語による二言語併用教育政策の実施 第2節 フィリピンにおける国語の制定
地方政府の反応ー母語の葛藤? すべての言語が「地方」語であり,言語の地位は対等 →多言語社会における,特定の言語の地位(国語)の制定 →諸言語の「その他の言語」化あるいは諸言語の「地方語」化 第3節 セブアノ語話者の抵抗
1987年憲法における言語条項 第14章6条 フィリピンの国語はフィリピノ語である.現存のフィリピンおよびその他の諸言語を基礎として,この言語はさらに発展され豊富なものにされるべきである. 法の定めるところにより,また,議会が必要と認める場合,政府は公式なコミュニケーション用語として,また,教育制度における教授言語としてフィリピノ語の使用を開始,維持するべく措置を講ずる. 第14章7条 コミュニケーションと教育の目的となるフィリピンの公用語は,フィリピノ語および,法の定めがあるまで英語である. 地方語は諸地域において補助的な公用語であり,そこでの補助的な教授言語とする. スペイン語とアラビア語は,任意の言語,選択的言語として促進される. 第3節 セブアノ語話者の抵抗
1988年大統領令第335号 • 地方,国家を問わず,すべての事務所における業務通達,通信におけるフィリピノ語の使用にむけて措置を講ずること • コミュニケーションや通信をフィリピノ語によって書き記すことを担当するための人員を各部局に一人ないし複数任命すること • 事務所,建物などの名称をフィリピノ語に翻訳し必要な場合には小さな文字で英語よる訳名をそえること • 公職宣誓のフィリピノ語化 • 職員向けのフィリピノ語能力の訓練プログラムの実施 第3節 セブアノ語話者の抵抗
セブアノ語 • ネグロス島(Negros),セブ島(Cebu),ミンダナオ島(Mindanao)などで母語として,また地域共通語として 用いられる • タガログ語,またルソン島北部で用いられるイロカノ語(Ilocano)とともにフィリピンの三大言語を構成 • タガログ語に次ぐ母語話者人口 第3節 セブアノ語話者の抵抗
セブ州の反応(1989年条例) • 国語は現在のところ発展途上であり今後さらに発展していくものであると憲法において明記されていること • フィリピン議会はフィリピノ語の使用に対して明白な決定をしていないこと • 大統領令第335号の法的正当性への疑問 • タガログ語をフィリピノ語として押し通すことは明らかにフィリピン人に対する詐欺行為であり憲法条文に対する裏切りである 第3節 セブアノ語話者の抵抗
セブ州の反応(1989年条例) 1989年のタガログ語使用禁止条例 • セブ州における公用語は司法も含めて,英語および/もしくはセブアノ語とする • タガログ語もしくはタガログ語に基礎をおく言語の教授言語としての使用の禁止 • 意味のあるナショナリズムのために,フィリピン国歌はセブアノ語で歌うこと • タガログ語の教科書を英語のものに変更すべく努力すること • セブアノ語への翻訳業務などを遂行する委員会を組織すること 第3節 セブアノ語話者の抵抗
セブ州の反応(1995年条例) 1995年の英語使用条例 • セブ州内の学校において教授言語として英語を使用 • セブアノ語を特に初等の学年における教育の補助言語とすること • 本条例の執行委員会の設置 • 委員会による罰則規定の設定 など 第3節 セブアノ語話者の抵抗
セブ州の動きの意義と限界 意義 • 州レベルで成文化した抵抗を見せた初めての事例であること→民事訴訟,国会での動きなどに波及 • 公用語,教育言語としての母語の使用 • 成文化に具体的かつ実体的な政策を織り込んだ点(代替案の整備,罰則規定など) 第3節 セブアノ語話者の抵抗
セブ州の動きの意義と限界 限界 • セブ州の人々の国語,地方語に対する価値判断を元にした政策にまで発展させられなかったこと • セブ州の人々が,法令を認知するに至らなかったこと • 法令の廃止(1999年) タガログ対セブアノの地域間政争,政治的デモンストレーションというそしりを受ける 第3節 セブアノ語話者の抵抗
新しい運動のかたち(その1)DILA-Philippines • Defenders of theIndigenous Languages of the Archipelago 第4節 新しい運動のかたち
新しい運動のかたち(その1)DILA-Philippines • 2001年11月2日に組織 • 現在300人を超える参加者 • DILAはインターネット上での活発な議論 • 2001年11月の創設以来,ウェブサイト上での意見投稿,資料投稿および議論は2008年1月までに18000以上を数える→月平均にして240近い投稿数 第4節 新しい運動のかたち
新しい運動のかたち(その1)DILA-Philippines DILAの主張 • タガログ語非母語話者は二つの外国語による教育を余儀なくされている • 一つの言語(タガログ語)の特権化は差別を形成してしまうものである →これらが政府,公的機関主導で行われている 第4節 新しい運動のかたち
新しい運動のかたち(その1)DILA-Philippines DILAの使命 • 政府と公的機関による言語差別に対する人々の(批判的)認識を培うこと • 言語政策の変更を実現し,土着の諸言語を再活性化すること • 諸言語をフィリピン社会における正当な位置へと復帰させること 第4節 新しい運動のかたち
新しい運動のかたち(その1)DILA-Philippines DILAの特色 • タガログ語中心主義者をTagalista(s)と呼称 • タガログ語中心主義に対する辛辣な攻撃 • フィリピン諸語の語彙についての検討,言語政策研究理論の紹介,フィリピン以外の地域での言語議論についての紹介なども行っている 第4節 新しい運動のかたち
新しい運動のかたち(その1)DILA-Philippines DILAの課題 • ウェブ上の議論から今後の展開 • タガログ語をも言語の平等の議論に含んでいけるかどうか→反国語議論が自民族・自言語中心主義に陥らないために 第4節 新しい運動のかたち
新しい運動のかたち(その2)Solfed • Solfed = Save Our Languagesthrough Federalism Foundation, Inc. 第4節 新しい運動のかたち
新しい運動のかたち(その2)Solfed • 2003年4月30日に,パナイ島イロイロ市においてNGOとして登録 • 実体的活動を行う • 連邦制の導入による言語保護を運動方針とする 第4節 新しい運動のかたち
新しい運動のかたち(その2)Solfed 活動 • 連邦制に基づいた改正憲法案の議会への提出 • 言語に関する会議,討論会への参加 • 言語保護の一環としてのブトゥアン語(Butuanon)による教育シラバスの作成と実行 • 新聞,ラジオ,テレビなどでの運動の広報活動 第4節 新しい運動のかたち
新しい運動 限界と可能性 限界 • インターネットへのアクセスの自由度の問題 • 地域での活動の限界 可能性 • DILA,Solfed相互の情報交換も行われている • トップ・ダウン的な動きとの連動の可能性 • 「下からの」活動は大きな動きとなりうるか? 第4節 新しい運動のかたち
母語擁護を明確に打ち出した言語政策提言 ミンダナオ島出身の上院議員Aquilino Pimentel, Jr. による2007年9月8日フィリピン上院議会特別演説 ”Preserve Our Languages/ Strengthen the Republic” 第5節 母語擁護を打ち出した言語政策提言
母語擁護を明確に打ち出した言語政策提言 話者人口の多い主要なフィリピン諸語も含めてタガログ語をのぞくすべてのフィリピンの言語が消滅の危機にあるとの認識 • 教育カリキュラムの改正初等教育における地方語の使用 • フィリピンの政治体制の移行言語的な構成を考慮した10州による連邦制へ 第5節 母語擁護を打ち出した言語政策提言
母語擁護を明確に打ち出した言語政策提言 教育カリキュラムの改正1999年のLingua Franca教育政策における地域共通語の使用 • 二言語併用の教育よりも効果的であるとはいえすべての母語話者に対応することが難しい • 提供される教授言語が学習者に適した言語になるとは限らない →教授言語の増加は予算の増加も意味する. 第5節 母語擁護を打ち出した言語政策提言
母語擁護を明確に打ち出した言語政策提言 連邦制への移行 • 「市民の言語的な傾向を主要な基礎とする」ことの難しさ地域の多数派言語の採用=現在のフィリピンと同様の状況の縮小版を生み出す • 各州の現状に合わせた柔軟な制度の採用→各州の動きを一元化しない,中央政府等の連携の可能性を保持すること,など 第5節 母語擁護を打ち出した言語政策提言
母語擁護を明確に打ち出した言語政策提言 連邦制をめぐる思惑 • 中央集権制度の持つ不公平感への対応として→税収の中央集積と不平等な配分など • フィリピンの宗教的対立の解決策決して言語問題だけが連邦制採用の理由ではない 第5節 母語擁護を打ち出した言語政策提言
おわりに 本発表のまとめ • 国語の制定→特定の言語の国語化とフィリピン諸語の周辺化(地方語化) • 地方政府主導の反国語の動きとその限界 • 新しい形の運動の存在 • 議会での新しい動き 第6節 おわりに
おわりに 課題1(母語話者の運動の課題) • 国語の成立にともなう母語話者の葛藤,母語への危機意識が,自らの母語のみならずすべての人にとっての母語への配慮に結びつくことの困難 • 反国語と自言語中心主義が表裏一体となる危険性 第6節 おわりに
おわりに 課題2(言語政策研究の課題) 言語政策研究における記述 • 客観性を保つというあり方 • 調査・研究を通して社会に関わっていくというあり方 第6節 おわりに
おわりに 課題2(言語政策研究の課題) • 国語の成立や普及を歴史的事実として記述するという「国語中心的」なフィリピン言語政策研究 • 母語話者の葛藤,母語への危機意識という「非-中心的な」言語政策的視点を持つ研究 第6節 おわりに
おわりに 課題2(言語政策研究の課題) 言語政策の記述が,社会言語的な現実の形成にも影響を与えているのだとする自覚を持てば→社会への影響を自覚すること →あるいは,社会への影響を意識的に行使すること,も必要ではないか? 第6節 おわりに
言語政策(分析)視点時系列的に見た言語政策の過程(その2)言語政策(分析)視点時系列的に見た言語政策の過程(その2) 時系列的に見た言語政策の過程 • status planning (地位計画) • corpus planning(実体計画) • acquisition planning(習得政策)とprestige planning(威信計画)
status planning 言語の地位に関わる政策言語地位の成文化(憲法をはじめとする法令における言語条項など) • corpus planning実際の使用に関わる政策文字言語化,辞書・文法書の作成
acquisition planningstatus, corpusの確立に伴い(同時期に,時期を移して)行われることが多い政策 • prestige planning言語を用いる人々の,言語に対する評価に関わる政策→status planningとの異同
フィリピンにおける国語の成立 • 本発表では,主にstatus planningを中心に報告を行う