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国際経済 5. 現代の貿易理論. 名古屋大学経済学部 柳瀬 明彦. 伝統的貿易理論の問題点と新しい貿易理論. 伝統的貿易理論:比較優位に基づいて貿易が行われる リカード・モデル:比較優位の決定要因は国の間の生産技術の違い ヘクシャー=オリーン・モデル:比較優位の決定要因は国の間の生産要素賦存状況の違い ⇒ 生産技術と要素賦存状況がともに 似通った 国の間では貿易は起きない,ということになる しかし,現実的には 似通った 国同士の貿易が活発に行われている 伝統的貿易理論では説明できない ⇒ 「 規模 の経済」に基づく新しい貿易理論. 『 通商白書 2007』 より.
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国際経済5. 現代の貿易理論 名古屋大学経済学部 柳瀬 明彦
伝統的貿易理論の問題点と新しい貿易理論 • 伝統的貿易理論:比較優位に基づいて貿易が行われる • リカード・モデル:比較優位の決定要因は国の間の生産技術の違い • ヘクシャー=オリーン・モデル:比較優位の決定要因は国の間の生産要素賦存状況の違い • ⇒ 生産技術と要素賦存状況がともに似通った国の間では貿易は起きない,ということになる • しかし,現実的には似通った国同士の貿易が活発に行われている • 伝統的貿易理論では説明できない • ⇒ 「規模の経済」に基づく新しい貿易理論
規模の経済 • 規模の経済(economies of scale): • 生産規模の拡大 ⇒ 生産性の上昇・生産費用(平均費用)の低下 • 規模の経済の発生要因 • 莫大な固定費用(fixed cost)の存在 • 規模に関する収穫逓増(increasing returns to scale)
規模の経済(つづき) • 規模の経済の発生要因 (1) 莫大な固定費用の存在 • 費用曲線:C(x)=c・x + Fとする • c>0:限界費用(xを1単位増加→費用はc円増加) • F>0:固定費用(生産量と無関係に一定額支払う) • 平均費用:AC(x)=C(x)/x=c+F/x AC,MC AC c MC O X
規模の経済(つづき) • 規模の経済の発生要因 (2) 規模に関する収穫逓増(IRS) • IRSの生産関数: • IRSの生産関数の例(生産要素が労働のみの場合):F(L)=L2 • ⇒ 生産費用:w・L=w・X1/2=C(X) • ⇒ 平均費用AC(X)=C(X)/Xは,X↑に伴い低下 X F(L)=L2 O L
産業全体の規模の経済 • 産業全体においてIRSに基づく規模の経済が発生する源泉: • マーシャルの外部経済 • マーシャル(A. Marshall)『経済学原理』1890年 • 個別企業の生産技術は規模に関して収穫一定(CRS)だが,産業全体の生産量↑⇒産業規模の拡大による効果が個別企業の生産性にプラスの効果 • シリコンバレーや企業城下町などの産業の集積 • 情報伝達の効率化,熟練労働市場の共通化,原材料や部品等の調達費用や輸送費用の低下 • 個別企業の生産技術それ自体がIRS • 完全競争は成立しない ⇒ 不完全競争(独占,寡占,独占的競争)
マーシャルの外部経済と貿易 • X財産業:マーシャルの外部経済による規模の経済が発生 • 個別企業の生産関数: • li:個別企業の労働投入量(生産要素は労働のみと仮定) • f(X):労働生産性(個別企業にとっては所与) • 個別企業の生産関数を産業全体で集計: • f(X)=X1/2とすると,産業全体の生産関数: • Y財産業:規模の経済は発生しない • 個別企業&産業全体の生産関数:
マーシャルの外部経済と貿易(つづき) • 生産可能性フロンティア(PPF) • X財産業の生産関数:X=LX2 • Y財産業の生産関数:Y=LY • 労働の完全雇用:LX+LY=L • 原点に対して凸の形状 • 限界変形率: Y L O L2 X
マーシャルの外部経済と貿易(つづき) • 自給自足(閉鎖経済)均衡 • p:X財価格(Y財はニュメレール) • X財部門の個別企業の利潤:πi=(p・X1/2-w)・li⇒ 利潤最大化条件:p・X1/2=w • Y財部門の代表的企業の利潤最大化条件:1=w • 生産の均衡点では,pとMRTは一致しない: • 代表的消費者の効用最大化条件:MRS=p Y uA A pA O X
マーシャルの外部経済と貿易(つづき) • pA<(>)pw ⇒ 自国はX財(Y財)に比較優位 • PPFが原点に対して凸 ⇒ 自由貿易の下での生産点はPPFの端点 (各国は,どちらかの財に完全特化) • pA<pw ⇒ 自国はX財に完全特化 • pA>pw ⇒ 自国はY財に完全特化 • どちらの財に特化しても,自国は貿易利益を得る • X財(規模の経済性が存在する財)に特化した方が,より高い厚生水準を達成 • 国際貿易 ⇒ 世界全体で効率的な生産が達成される
uF Y Y uF C uA uA A A C pw pw pA pA O O X X pA<pw ⇒ X財に特化 pA>pw ⇒ Y財に特化
マーシャルの外部経済と貿易(つづき) • 消費者の選好と生産技術が同一の2国を考える • 各国の特化パターンを決める要因: • 外部性の強さ • 国のサイズ(労働賦存量) ⇒ これらがともに同程度の場合,特化パターンは偶然に決定 • 初期条件がその後の貿易パターンに影響(累積的メカニズム) • 自国が外国に比べてX財をより多く生産 ⇒ 規模の経済が働き,自国は外国よりも低い費用でX財を生産 ⇒ 比較優位 • 初期条件を決定する要因:歴史的経緯,制度など • 政策的に有利な初期条件を作り出すことは可能 • 補助金などによる産業保護・育成政策
独占的競争と産業内貿易 • 個別企業の生産技術自体がIRSの性質を持っている場合(企業に内部的な規模の経済) • 完全競争は成立しない • 例:F(L)=L2⇒ 費用関数:C(X)=w・X1/2 • ⇒平均費用:AC(X)=w/(X1/2),限界費用:MC(X)=C’(X)=w/(2X1/2) • 完全競争の下では p=MC(X)⇒ AC(X)>MC(X) なので,企業の利潤は負 • 不完全競争 • 規模の経済の程度と財に対する需要に比べて大 ⇒ 市場はある1企業による独占 • 少数の企業による寡占の可能性 • 製品差別化 ⇒ 産業内貿易
独占的競争と産業内貿易(つづき) • 独占的競争(monopolistic competition) • 製品差別化(product differentiation): • 各企業の製品は互いに密接な代替品だが,付属部品やデザインなどで差別化が図られている • 製品独特の魅力,ブランド化 • ⇒ 各企業は自社の製品について独自の顧客を持つので、価格支配力(「独占」的) • 潜在的に多数の企業&自由な参入・退出(「競争」的) • 新規参入企業:同じ財を生産して競争を激化させるよりも,新たに差別化された製品を開発・生産して価格支配力を行使しようとする • 独占的競争:産業内貿易(水平的産業内貿易)の発生を説明
独占的競争と産業内貿易(つづき) • 産業間貿易(Inter-Industry Trade) • 異なる産業間の一方向の貿易 • 例:農産物輸出国と工業製品輸出国との間の貿易 • 産業内貿易(Intra-Industry Trade) • 同一産業に属する財・サービスの双方向の貿易 • 例:自動車,機械など • 水平的(horizontal)IITと垂直的(vertical)IIT • 水平的IIT:デザインなどが異なるものの機能としてはほとんど同じものを,双方向に取引 • 例:日本とドイツが互いに完成車を輸出 • 垂直的IIT:同じ産業に属するものの,機能が異なる製品(部品と完成品など)を相互取引 • 例:日本が中国に半導体を輸出、それをもとに組み立てられたPCを中国から輸入
Fukao, K., H. Ishido, and K. Ito(2003),“Vertical intra-industry trade and foreign direct investment in East Asia” (Journal of the Japanese and International Economies 17, pp.468–506) より
独占的競争と産業内貿易(つづき) • EU域内貿易と東アジア域内貿易とを比較(2000年) • EU域内の貿易の特徴: • 産業間貿易が全体の約1/3、産業内貿易が約2/3 • 水平的産業内貿易の割合が高い(貿易額全体の約1/4) • 東アジア域内の貿易の特徴: • 産業間貿易が全体の約7割(工業製品に着目すれば,産業内貿易の比率はもっと高い) • 産業内貿易の割合が高まっているが、垂直的産業内貿易が中心(貿易額全体の約2割)
Ando, M. (2006),“Fragmentation and vertical intra-industry trade in East Asia” (North American Journal of Economics and Finance 17, pp.257–281) より
独占的競争と産業内貿易(つづき) • 水平的産業内貿易:独占的競争モデルで説明可能 • 生産において規模の経済が発生 ⇒ 国内で生産される財の種類(バラエティ)に限りが出る • その一方で、消費者は多様な製品を欲している • 2国間の貿易自由化 ⇒ 差別化された製品の相互貿易により、両国の消費者は閉鎖経済に比べて豊富になった製品バラエティにより、効用水準↑
独占的競争と産業内貿易(つづき) • 水平的IITと貿易利益 • 消費の多様化による利益 • 閉鎖経済の下では消費できなかった,新たな種類の製品を消費することが可能 • 商品選択の幅が広がり,自分の好みにより近い製品を消費可能 • 国産品と似通った製品が輸入されることで、製品市場における競争が激化 ⇒ 製品価格の低下によっても消費者は利益を受ける • 水平的産業内貿易:生産技術および要素賦存が似通った国の間で,活発に行われる(例:EU加盟国間)
規模の経済と垂直的産業内貿易 • 中間財(加工品や部品)の貿易↑ • 垂直的産業内貿易の拡大 • 工程間分業が進展し,企業の生産・流通ネットワークが一国にとどまらず国際化 • 多国籍企業を中心に形成される国際的な生産ネットワーク • オフショアリング(国内で生産されていた製品やサービスを企業が海外から購入すること) • フラグメンテーション(もともと1か所で行われていた生産活動を複数の生産ブロックに分解し,それぞれの活動に適した立地条件のところに分散立地させること) 『通商白書2008』より
規模の経済と垂直的産業内貿易(つづき) • フラグメンテーションの理論 • 生産ブロック(ひとかたまりの生産プロセス)のうち,労働(土地)集約的なブロックを賃金(地代)の安い国に立地させることにより,人件費↓ • ただし,異なった国に分散した生産ブロックを結ぶためには,輸送費や通信費などのサービス・リンク・コスト(service link costs)がかかる • 前者は可変費(生産量に伴って変化),後者は固定費 ⇒ 生産量が十分大きければ、フラグメンテーションが行われる • フラグメンテーション:国境を越えて空間的に広がる生産プロセスを結合して,規模の経済を発揮させるもの • 低価格・高品質の通信・輸送手段が提供可能になると,フラグメンテーションは進展 • サービス・リンク・コストの低下 • 政府の政策的介入の重要性(貿易障壁の撤廃や規制緩和)
総生産費 フラグメンテーション のない場合 A A’ B フラグメンテーションのある場合 O’ SLC SLCの低下 O 生産量 X これよりも大きな生産量では、 フラグメンテーションが選択される