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東アジア国際協力概論 ~ 経済協力・ODA・日本・中国・世界~. 2006 年 6 月 26 ・ 27 日 京都大学大学院経済学研究科 附属プロジェクトセンター助教授 宮﨑 卓. 本講義の目的. ODAを含む経済協力の全体像を理解する ODAを含む経済協力の歴史:それぞれの時代が直面する問題にどう取り組んできたかを理解する ODA、特にプロジェクト援助の具体的実務の概要を理解、法律面・財務面・政策面といった要素への理解を深める 東アジアの中で日々その存在感を大きくしてきている中国に対する経済協力をケースとして、その歴史・現況を理解、今後の展望につき自ら考える.
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東アジア国際協力概論~経済協力・ODA・日本・中国・世界~東アジア国際協力概論~経済協力・ODA・日本・中国・世界~ 2006年6月26・27日 京都大学大学院経済学研究科 附属プロジェクトセンター助教授 宮﨑 卓
本講義の目的 • ODAを含む経済協力の全体像を理解する • ODAを含む経済協力の歴史:それぞれの時代が直面する問題にどう取り組んできたかを理解する • ODA、特にプロジェクト援助の具体的実務の概要を理解、法律面・財務面・政策面といった要素への理解を深める • 東アジアの中で日々その存在感を大きくしてきている中国に対する経済協力をケースとして、その歴史・現況を理解、今後の展望につき自ら考える
本講義の構成 • 経済協力の全体像 • 経済協力の歴史・理念 • 開発援助の実務 • ケーススタディ~中国向け円借款
はじめに:経済協力は何故必要か • 経済発展は何故必要か • 「先進国」が「途上国」に対し援助・協力することが何故必要か
経済発展は何故必要か • 貧困問題 • 平均寿命 • 幼児死亡率 • 生きていく上での「選択の幅」 • 労働の受ける「評価」 • ⇒経済発展は貧困緩和のための「十分条件ではないが、必要条件ではある
「先進国」が「途上国」に対し援助・協力することが何故必要か「先進国」が「途上国」に対し援助・協力することが何故必要か • 途上国だけでは解決できない問題:①技能の制約②貯蓄の制約(I-Sギャップ)③外貨の制約 • 途上国が経済発展することは先進国側にとってもメリットあり(eg.市場の開拓) • 世界にとって望ましい発展の経路(環境・エネルギー問題など)の必要性
経済協力とは何か • 「経済協力」=「開発途上国の経済発展を支援すること」であるが、政府が行うODA、民間の営利団体(企業など)が行う協力、非営利団体(NPO)が行うもの、等等、一言で経済協力といっても多岐にわたる • 関連する用語としては、「開発援助」、 「開発協力」、 「国際協力」などが挙げられるが、それらとの差異を明らかにするためにも、まず経済協力の内容・分類に注目する
経済協力の分類 • 以下、協力の「主体」、「目的」、「条件」を基準として分類を試みる※なおこれらの分類は、OECD開発援助委員会(Development Co-operation Directorate (DAC), Organisation for Economic Co-operation and Development )の分類に拠るもので、国際的に広く通用しているもの)
経済協力の4分類 • 1/4 ODA(Official Development Assistance:政府開発援助) • 2/4 OOF(Other Official Flows: その他の政府資金) • 3/4 PF(Private Flows: 民間資金) • 4/4 民間非営利団体による贈与(Grants by Private Voluntary Agencies)
経済協力の4分類 • 1/4 ODA(Official Development Assistance:政府開発援助) • 2/4 OOF(Other Official Flows: その他の政府資金) • 3/4 PF(Private Flows: 民間資金) • 4/4 民間非営利団体による贈与(Grants by Private Voluntary Agencies)
4分類- 1/4 ODAとは 次の3つの要件を満たすものと定義されている • 1/3 政府ないし政府の実施機関によって供与されること(主体⇒”Official”) • 2/3 開発途上国の経済開発や福祉の向上に寄与することを主たる目的としていること (目的⇒”Development”) • 3/3 資金協力については、その供与条件が開発途上国にとって重い負担にならないようになっており、グラント・エレメント(Grant Element:G.E.) が25%以上であること(条件⇒”Assistance”)
【コラム】グラントエレメント(G.E.)とは【コラム】グラントエレメント(G.E.)とは • 借款条件の緩和度、即ち通常の民間銀行からの融資と比較して、借手である途上国にとってどれくらい優遇されたものであるかを示す指標。資金約束の額面価値から、必要な元本償還や利子支払いの合計額の割引現在価値(標準割引率は10%/年を使用)を差し引いて得られ、高いほど借入人(開発途上国)にとって有利。 • 後述の無償資金協力、技術協力はいずれも返済が必要ない「贈与」のため、 G.E.は100%、ODAに分類される。 • 一方返済が必要な「借款」であっても、低金利且つ長期間であればG.E.は高くなることから、円借款のようにODAに分類されるケースがありうる。
【コラム】現在価値(present value)について • 現在価値:仮に市場金利が10%で安定しているとすると 現在のX円は、n年後にはX(1+0.1)n に等しくなると考えられる • 逆に言えばn年におけるY円の現時点での実質価値は Y/(1+0.1)nに等しく、これが「純現在価値(net present value)である。 • (後述する、プロジェクトの経済的・財務的効果を評価する際の指標である「内部収益率」もこの指標を用いて定義される)
経済協力の4分類 • 1/4 ODA(Official Development Assistance:政府開発援助) • 2/4 OOF(Other Official Flows: その他の政府資金) • 3/4 PF(Private Flows: 民間資金) • 4/4 民間非営利団体による贈与(Grants by Private Voluntary Agencies)
4分類- 2/4 OOFとは ODAの場合と異なり明確な定義はなされていないが、以下のとおり定義可能 • 1/3 政府ないし政府の実施機関によって供与されること(主体) • 2/3 開発途上国の経済開発や福祉の向上に寄与することを主たる目的としていること (目的) • 3/3 グラント・エレメント(G.E.) が25%未満であること(条件)=ODAに比べ厳しい条件である
経済協力の4分類 • 1/4 ODA(Official Development Assistance:政府開発援助) • 2/4 OOF(Other Official Flows: その他の政府資金) • 3/4 PF(Private Flows: 民間資金) • 4/4 民間非営利団体による贈与(Grants by Private Voluntary Agencies)
4分類- 3/4 PFとは • 特に制度として規定されていないが、企業の存在意義たる利潤極大化の観点からも、以下のとおり • 短期的な利潤極大化と長期的な市場解発の観点からの途上国発展への貢献 • 社会的責任(CSR:(Corporate Social Responsibility)の観点
経済協力の4分類 • 1/4 ODA(Official Development Assistance:政府開発援助) • 2/4 OOF(Other Official Flows: その他の政府資金) • 3/4 PF(Private Flows: 民間資金) • 4/4 民間非営利団体による贈与(Grants by Private Voluntary Agencies)
4分類-4 民間非営利団体による贈与 • 同じく制度としての規定はないものの、広く見られる。 • なお民間非営利団体は、特に上述のODAと結びつくケースも見られる。
世界全体の途上国への資金の流れを見ると、90年にはODAが全資金流入量の約44%を占めていたのに対し、2000年には約26%世界全体の途上国への資金の流れを見ると、90年にはODAが全資金流入量の約44%を占めていたのに対し、2000年には約26% • 一方、その間にその他の政府資金(OOF)や民間資金の金額はほぼ倍増、ODA以外の資金は全体の約4分の3を占める
【コラム】経済協力をめぐる諸用語 • カバーする範囲が狭い順に:「開発援助」:上記4分類中の1(ODA)及び4(民間非営利団体による贈与)「開発協力」≒「経済協力」(但し後者は先進国間でも使われうる)「国際協力」:経済発展に関わらないものも含まれうる(eg.文化面での協力など) • 但し、これらの用語は必ずしも厳密に使い分けられているとは限らない
その他の分類基準 • 二国間/多国間 • 有償/無償
世界の主要二国間/多国間援助機関 • 世界銀行(IDA、IBRD) • アジア開発銀行 • 米州開発銀行 • アフリカ開発銀行 • UNDP • KfW、GTZ(ドイツ) • DFID(英国) • USAID(米国) • AFD(フランス) • CIDA(カナダ) • AUSAID(オーストラリア) etc..
以下、金額面、および条件面から、経済協力としての影響力の最も大きなODA、しかも日本と途上国に絞って議論を進めることとする以下、金額面、および条件面から、経済協力としての影響力の最も大きなODA、しかも日本と途上国に絞って議論を進めることとする
無償資金協力 (ODA・二国間・贈与1) • 特に開発の遅れの目立つ地域・国を優先。 • 対象分野:保健・医療、生活用水の確保、農村・農業開発等、人間の基礎的な生活に欠かせない、いわゆる基礎的生活分野(Basic Human Needs :BHN)及び人造り分野を主とする一方、道路、橋、通信施設等、経済・社会基盤を形成するインフラストラクチャー分野についても、財政事情等を考慮して、ケース・バイ・ケースで対応。 • 実施体制:外務省が国際協力機構(JICA)の協力を得て実施。
技術協力 (ODA・二国間・贈与・2) • 開発途上国の国造りを推進するための「人造り」(人材育成と技術向上)を目的とした援助。具体的には専門家派遣、研修員受入れ、技術移転に必要な機材の供与、これら3つを組み合わせた技術協力プロジェクト、青年海外協力隊員の派遣、及び開発調査といった形態。 • 途上国全般を対象とし、分野としても基礎生活分野から高度な先端分野に至る広範囲。 • 技術協力の実施は、JICAが大半を担当。
【コラム】技術協力と無償資金協力 • この分類についてはいままでのように明確な線引きに基づくものではない。∵ともにODA、二国間、無償資金協力という面で共通している。 • 以下の2点が相互に異なる点である • 技術協力は人の行き来を主眼としているのに対し、無償資金協力は資金の流れを主としている • 実施主体が前者は国際協力機構(JICA)、後者は日本政府(外務省)である
有償資金協力/円借款 (ODA・二国間・有償) • 開発途上国政府等に対して、低利で長期の緩やかな条件で開発資金を貸付けるもの • 対象分野:それぞれの国の発展の土台としての経済・社会基盤の整備に必要な資金の援助 • 借款であるという性質から、これらの国々が経済的に自立するための自助努力を支援するもの。 • 円借款の実施は、国際協力銀行(JBIC)がその殆ど全てを担当。
(4)国際機関への出資・拠出金 • 国際機関の活動の場でもわが国の積極的なリーダーシップを実現すべく力を入れているもの • 国際機関は、①開発に必要な資金を融資する「国際開発金融機関」と、②主に経済、社会、人道問題に関連する活動を行う「国連諸機関」に大別される。①への出資・拠出は主に財務省が、②への分担金・拠出は主に外務省が担当。
図表5 主要国ODA供与状況(対GNI比)図表5 主要国ODA供与状況(対GNI比)
図表6 主要国ODA供与状況(国民1人あたり金額)図表6 主要国ODA供与状況(国民1人あたり金額)
経済協力の全体像 • 経済協力の歴史・理念 • 経済協力の実務 • ケーススタディ~中国向け円借款
経済協力の歴史 • 南北問題の「誕生」 • 60年代 数量的ゴールの設定 • 70年代 • 80年代 • 90年代~
南北問題の「誕生」以前 • 南北問題(North-South Problem):先進地域と発展途上地域との問題=世界の経済力の偏りの深刻な意味⇒第二次大戦後しばらく経って始めて認識されるに至った • 植民体制の下では「国内問題」 • 第2次大戦による先進地域の疲弊にともなう相対的均等化 • 東西対立=冷戦問題の先鋭化
経済援助の原点としてのマーシャル・プラン • 第二次大戦後疲弊した西欧諸国に対する米国の援助 • マーシャル国務長官(当時) • 規模の大きさ(102.6億ドル/3年間) • 効果のめざましさ • (対象は高度に発達した近代的経済)
南北問題の登場 • 東西間の緊張⇒同様に重要な「南北問題」(サー・オリバー・フランクス、1960年) • 植民地独立後の経済問題の先鋭化
1960年代 • 1961年9月国連総会 米国大統領ジョン・F・ケネディ演説~「第一次国連開発の10年」 • 途上国開発のための総合的長期戦略の国際的共有 • 数量目標を始めて設定(=途上国内での貯蓄と所要資金量との差) • 米国が世界の援助の3分の2を占める • USAID(米)、IDA、DAC前身、Kfw(西独)
1970年代 • 途上国経済のパフォーマンスに難あり • 「第二次国連開発の10年」~具体的な政策手段をも勘案 • 「新国際経済秩序」:石油危機~資源ナショナリズム、不公平の是正 • ベーシック・ヒューマン・ニーズ(Basic Human Needs: BHN)の重視へ:トリックル・ダウン(trickle down)仮説への疑念
1980年代 • 「第三次国連開発の10年」 • 二度にわたる石油危機(’70年代)を経て国際経済体制大きく変化 • 国連の役割縮小⇒世界銀行、DACへ • 途上国における放漫財政等に起因する累積債務問題⇒「構造調整アプローチ」の登場(後述)
1990年代 • 「持続可能な開発」 • 「参加型開発」
経済協力の歴史~日本の経済協力 • 戦後「被援助国」からのスタート • 1946~51 米国からのガリオア・エロア援助(約20億ドル) • 1953~60年代 世界銀行からの第二の大口借入国(東名・名神高速、東海道新幹線、黒部第四水力発電など)
援助する側へ • 1954年~コロンボプラン加盟 • 技術協力を開始 • 賠償や輸出信用が主、ODAの要素に乏しかった