IT サービス産業の構造から考える インド系高度人材の国際移動
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IT サービス産業の構造から考える インド系高度人材の国際移動. 日本国際経済学会 関東支部大会 2010 年 7 月 17 日 於:立教大学 10 号館 大妻女子大学人間関係学部 准教授 齊藤 豊. はじめに. 近年、アナリー・サクセニアンらの影響により、高度人材の国際移動が頭脳循環として、国際経済学や経営学で取り上げられることが多くなった しかし、高度人材とそのコミュニティーを中心とした頭脳循環は、ソフトウェア産業に長くいた報告者にとって「片手落ち」の感が否めない
IT サービス産業の構造から考える インド系高度人材の国際移動
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ITサービス産業の構造から考えるインド系高度人材の国際移動ITサービス産業の構造から考えるインド系高度人材の国際移動 日本国際経済学会 関東支部大会 2010年7月17日 於:立教大学10号館 大妻女子大学人間関係学部 准教授 齊藤 豊
はじめに • 近年、アナリー・サクセニアンらの影響により、高度人材の国際移動が頭脳循環として、国際経済学や経営学で取り上げられることが多くなった • しかし、高度人材とそのコミュニティーを中心とした頭脳循環は、ソフトウェア産業に長くいた報告者にとって「片手落ち」の感が否めない • サクセニアン理論には企業からの視点が欠けており、企業からの視点を付加することにより実態をより正しく認識した理論が構築できる、と考えられる • 今回の発表では、この企業からの視点を取り入れ、インド系高度人材(ソフトウェア専門技術者)の国際移動をみていく
ITサービス産業 • ITサービス産業の産業構造
ソフトウェア産業の技術 • ソフトウェア産業の技術構造(モジュール化)
ソフトウェア・バリューネットワーク • クリステンセンのバリューネットワークをソフトウェアにフォーカスをあてて再構成 経営情報システム アプリケーション・パッケージ DBMS(基盤ソフトウェア) OS ハードウェア 出典:クレイトン・クリステンセン (2001),63-66ページを参照し、筆者作成
ソフトウェア・バリューネットワーク • 各層のプレイヤー(企業)は、外側に位置する顧客を獲得する必要がある • 経営情報システムを保持する企業はユーザ企業としてアプリケーション・パッケージ企業からアプリケーション製品を購入する • アプリケーション・パッケージ企業は、外側に位置する経営情報システムを保持する企業(受託開発を行う企業を含む)にアプリケーション製品を販売し、内側に位置するDBMS(基盤ソフトウェア)企業から製品を購入し、自社アプリケーション製品内に組み込む
パッケージ・ソフトウェア企業の戦略 • 二つの相反する命題をいかに満たすか • 利用者拡大(市場シェア獲得)のためには製品利用技術を普及させる必要がある • ライバル企業との技術競争に勝つには製品開発技術の優位性を保持しなくてはいけない(アーキテクチャの持続性) • 製品を外部インターフェース層とコア層に分け、外部インターフェース層の利用技術を開発・普及させる技術開発チームと製品コア層を開発する技術開発チームの2チームを保持する • コア技術は特許の取得やソースコードの秘匿などを行い、門外不出とする(アーキテクチャーの模倣困難性)
ソフトウェア・バリューネットワーク • OS、DBMS、アプリケーション・パッケージの各層はコア層と外部インターフェイス層に分かれる 外部インターフェイス(API)層 コア層 外部インターフェイス(API)層 下位層 出典:クレイトン・クリステンセン (2001),63-66ページを参照し、筆者作成
ソフトウェア・モジュール概念図 • コア層と外部インターフェイス層は統合して「 (ソフトウェア)モジュール」と呼ばれる • モジュールは、レゴ・ブロックのようなイメージ 上位層へ接続 コア 外部インター フェイス 下位層 外部インター フェイス 出典:筆者作成
ソフトウェア・モジュールの利点 • モジュール開発企業の利点 • 製品のコア層技術は秘匿したまま、外部インターフェイスを介してモジュールを利用させることができる • 製品アーキテクチャーに則った外部インターフェイスを提供し続ければ、長期に顧客を囲い込むことができる • 上位層・下位層を選ばないというオープン化戦略と一度掴んだ顧客を離さないという囲い込み戦略の両立 • モジュール利用(受託開発)企業の利点 • 外部インターフェースの引数設定だけでパッケージ・アプリケーションを利用することができる • パッケージ製品がUpgradeを行っても一定期間は下位互換が保障される • 同一利用技術を多数の顧客に横展開することで生産性が向上する
パッケージ製品技術開発 • 外部インターフェース層技術開発 • コア層技術をある程度理解し、コア層の機能を効果的に動かす外部インターフェース(API)の利用方法を開発する • ユーザ企業やシステム・インテグレーター企業と頻繁にコンタクトし、自社製品の利用方法(外部インターフェースの効果的な使い方)を伝える(利用技術) • コア層技術開発 • 製品の中核技術の開発(コア層技術) • 例:DBMSにおけるレコード・レベル・ロック機能 • 社外の技術者や技術コミュニティとの接触は制限され、外部と技術的なミーティングを行う場合はNDA(守秘義務契約)を結ぶ
ソフトウェア・モジュールと専門技術者 • (モジュール)利用技術に携わる専門技術者 • パッケージ企業に属する専門技術者 • 外部インターフェース層の仕様を熟知した専門技術者 • 外部インターフェースを利用したアプリケーションを開発する専門技術者 • 外部インターフェースの教育・コンサルタントに携わる専門技術者 • 受託開発企業に属する専門技術者 • パッケージ製品を顧客企業に適用させる専門技術者 • パッケージ製品の周辺製品を開発する専門技術者 • (モジュール)コア技術に携わる専門技術者 • パッケージ企業の製品開発部門に属する専門技術者
ソフトウェア多国籍企業の国際進出 • コア層技術を守り、かつ、製品をグローバルに拡げる
専門技術者の国際移動 • 二通りの国際移動 • 多国籍企業による国際移動 • ソフトウェア多国籍大企業の思惑を実現するために専門技術者の国際配置を考える • 個人意志による国際移動 • ソフトウェア多国籍企業の思惑を利用する形で個人の利得を考える • サクセニアン理論 • 個人意志による国際移動が中心であり、地域ごとのコミュニティがポジティブな影響を与えている • なぜ、多国籍企業による専門技術者の国際移動を無視するのか?
インド・アメリカ間における国際移動 • インド人専門技術者のアメリカ入国データの検証 • 専門技術者向けビザであるH-1Bの申請認可(petition)データによる検証 • H-1Bビザの取得にはスポンサー企業が必要 • 多国籍大企業がスポンサーの場合は、在外子会社から本社開発部門への人事異動が中心 • 中小企業の場合は、個人の意志による国際移動(出稼ぎ、永住権取得などの目的) • インド人専門技術者のアメリカ入国データを検証することで、ソフトウェア産業における専門技術者の国際移動のトレンドをみていく
非移住入国状況 • 2009年度移民統計年報 Table28 1Includes GB, GT, WB, and WT admissions. 2Includes B1, B2 and a limited number of Border Crossing Card (BCC) admissions. 3Includes principals, spouses, and children (F1, F2, J1, J2, M1, and M2 admissions). 4Includes principals, spouses, and children (E1 to E3, H1B, H1B1, H1C, H2A, H2B, H2R, H3, H4, I1, L1, L2, O1 to O3, P1 to P4, Q1, R1, R2, TD and TN admissions). 5Includes principals, spouses, and children (A1 to A3, G1 to G5, and N1 to N7 admissions). 出典:Yearbook of Immigration Statistics: 2009 http://www.dhs.gov/files/statistics/publications/YrBk09NI.shtm 参照日:2010/6/15
入国パターン • ビジネス目的の旅行者(B1)として入国 • 専門技術者(H-1B)として入国 • ビザ失効時に帰国、もしくは、他のビザ、永住権への切り替えを行う • 企業転勤者(L1)として入国 • 極めて優秀な研究者(O1,O2)として入国 • 投資家等の資格(E1,E2)で入国 • 学生の留学としてアメリカに入国し、その後、ワーキング・ビザに切り替える
頭脳循環の対象者(専門技術者) • 旅行者(B1)として入国する者は、母国に拠点を持ち、母国からの頭脳流出者とは認識されないので頭脳循環を行っているとは言えない • 狭義の頭脳循環者は、極めて優秀な研究者(O1,O2)のみを指す • 広義の頭脳循環者は、極めて優秀な研究者(O1,O2)に加えて、専門技術者(H-1B )を含み、一部の企業内転勤者、投資家を含む • 留学生(F1)は、頭脳循環者予備軍とみなし、ワーキングビザへ切り替えたときに頭脳循環者となるものが出てくる
H-1Bビザによる入国 • H-1Bは、専門技術者に与えられるビザ • 企業スポンサーが必要であり、その職種、給与にかんして労働省(DOL)による事前審査が必要である。給与水準はアメリカの同一職種、同一地域での平均給与と同等でなければならない (Labor Condition Application (LCA) )※この情報は、申請単位で見ることができる • ビザの期間は3年。原則として1回更新することができるので合計6年間、アメリカに滞在することができる • H-1Bの申請・承認状況(Petition Approved)は、入国管理局(USCIS)の提供している情報により、申請単位で見ることができる。(H-1B Approved Petitioners Fiscal Year 2009 ほか) • H-1Bによる入国状況(Admissions)は、国土安全保障省(DHS)の年報(YearbookofImmigration Statistics)により見ることができる。(注:Admissionsは入国した回数であり人数ではない)
H-1Bビザの取得(初回) • H-1Bビザを初めて申請し、承認された者の数は、インドが1位であり、2003-2009年の7年間では、全体の28-39%を占めている。2位の中国とは大きく離れている 出典:USCIS
H-1Bビザの取得(継続) • H-1Bビザを既に保持している者による継続申請の承認状況も初回と同じように承認された者の数はインドが1位であり、2003-2009年の7年間では、全体の40-54%を占めている。2位の中国とは初回以上に大きく離れている 出典:USCIS
H-1Bビザ申請承認状況 • 2009年度(10月-9月)のH-1Bビザ申請承認 • 申請承認者数は86,000名(表中の合計と一致しないのは、表中の合計に含まれないデータ(TaxID番号の記入漏れなど個票レベルでのミス)が存在するためである) • 1社で500人以上のH-1Bビザを承認された企業は6社であり、インド系企業3社、アメリカ系企業3社となっているが、アメリカ系企業もインドからの労働力移動を目的としていると推測できる • 1社で10名未満のH-1Bビザを承認された企業は約26,000社であり、全企業数の96%を占めている。また1社当たり10名未満の承認者に該当する者は全承認者数の51%を占めている
H-1Bビザ申請承認状況 出典:USCIS (筆者が表に加工)
H-1Bビザ申請承認状況 全申請承認者数(85,133人)に対して、500人以上のH-1Bビザ大量 発給を受けた企業は、わずか0.02% 出典:USCIS (筆者がグラフ化)
H-1Bビザ申請承認状況 • 500人以上のH-1Bビザ大量発給を受けた企業数は全企業数のわずか0.02%であるが、全申請承認者数の6.94%の専門技術者を擁している 出典:USCIS (筆者がグラフ化)
H-1Bビザ申請承認状況 • 2009年度H-1Bビザ申請承認者数上位20社 • ICT系多国籍企業が上位を占めている • インド関係企業が多い 出典:USCIS (筆者 が一部改変)
ソフトウェア産業俯瞰 • ソフトウェア産業は、パッケージ企業と受託ソフトウェア開発企業、ICT活用サービス企業の三者の協調によって成り立っている(棲み分け) • 専門技術者はそれぞれに適した企業で働いており、国際移動を行っている • コア技術開発を行う技術者の数は非常に少ない • 大手多国籍企業を含め、大多数の専門技術者は利用技術の開発・普及・利用に従事している • パッケージ企業はグローバル拠点で自社製品の利用技術を開発しており、現地専門技術者を雇用している。この中の優秀な人材は本社に国際移動させ、利用技術の開発、もしくはコア技術の開発に従事させる • 受託ソフトウェア開発企業およびICT活用サービス企業のうち、大手は優秀な人材をアメリカに国際移動させるが、それ以外の多くの企業はアメリカに自らの希望(留学、個人企業など)でいった専門技術者をこれらの企業が雇用するということが多い
ソフトウェア産業俯瞰 出典:筆者作成
まとめ • 大手パッケージ・ソフトウェア開発企業の製品開発戦略は、コア層と外部インターフェイス層をモジュール化した製品を開発し、コア技術をブラックボックス化することで秘匿し、外部インターフェイスを公開・普及啓発することにより、デファクト・スタンダード化によるグローバル販売を目論んでいる、という一石二鳥、一挙両得なものである • この大手パッケージ・ソフトウェア開発企業の戦略にのって顧客企業向けの受託ソフトウェア開発を行うビジネスは、1990年代にインドからアメリカへ専門技術者を派遣していた企業にも好都合で、インド人専門技術者がモジュール利用技術を習得し、それを母国に持ち帰り、普及させることで、インド国内にオフショア・アウトソーシング・ビジネスを隆盛させる一因となっている • このように専門技術者の国際移動は多国籍企業の影響下にある。よって、シリコンバレーを中心としたアメリカ・インド間の頭脳循環を考察する場合、サクセニアン理論だけでは片手落ちであり、ソフトウェア産業多国籍企業の思惑を考慮しなくてはならない
参考資料 • 参照URL (参照日:2010年6月15日) • 労働省(DOL) http://www.flcdatacenter.com/CaseH1B.aspx • 入国管理局(USCIS)(H-1B Approved Petitioners Fiscal Year 2009 ほか)http://www.uscis.gov/portal/site/uscis/menuitem.eb1d4c2a3e5b9ac89243c6a7543f6d1a/?vgnextoid=9a1d9ddf801b3210VgnVCM100000b92ca60aRCRD&vgnextchannel=9a1d9ddf801b3210VgnVCM100000b92ca60aRCRD • 国土安全保障省(DHS)(YearbookofImmigration Statistics)http://www.dhs.gov/files/statistics/publications/yearbook.shtm
参考資料 • 参考文献 • Saxenian, AnnaLee 1994, Regional Advantage: Culture and Competition in Silicon Valley and Route 128. Harvard University Press,. [大前研一(翻訳)『現代の二都物語―なぜシリコンバレーは復活し、,ボストン・ルート128は沈んだか』講談社, 1995年] • ―――――――― 1999, Silicon Valley’s New Immigrant Entrepreneurs. Public Policy Institute of California. 参照日:2006年8月2日, 参照URL:http://www.ppic.org/content/pubs/report/R_699ASR.pdf • ―――――――― 2000ab, ‘The Bangalore Boom:From Brain Drain to Brain Circulation?’, Kenniston, Kenneth and Kumar, Deepak(eds.) 2000 Bridging the Digital Divide: Lessons from India. Bangalore, National Institute of Advanced Study参照日:2008年10月14日, 10/14/2008 参照URL:http://people.ischool.berkeley.edu/~anno/Papers/ • ―――――――― 2000bc, ‘Bangalore: The Silicon Valley of Asia? Prepared for Conference on Indian Economic Prospects’ Advancing Policy Reform, Center for Research on Economic Development and Policy Reform, Stanford, May 2000. 参照日:2008年10月14日, 10/14/2008 参照URL:http://people.ischool.berkeley.edu/~anno/Papers/ • ―――――――― 2002a,’Brain Circulation: How High-Skill Immigration Makes Everyone Better Off’ THE BROOKINGS REVIEW Winter 2002 Vol.20 No.1, pp. 28-31
参考資料 • ―――――――― 2002b, ‘Brain Circulation and Chinese Chipmakers: The Silicon Valley-Hsinchu-Shanghai Triangle’ Draft 参照日:2008年10月14日, 10/14/2008 参照URL:http://people.ischool.berkeley.edu/~anno/Papers/ • ―――――――― 2002c, ‘Local and Global Networks of Immigrant Professionals in Silicon Valley’ Public Policy Institute of California., 参照日:2007年9月/30日/2007, 参照URL:http://www.ppic.org/content/pubs/report/R_502ASR.pdf, 2008年 • ―――――――― 2006, The New Argonauts: Regional Advantage in a Global Economy. Harvard University Press., [本山康之, 星野岳穂(監修), 酒井泰介(翻訳)『最新・経済地理学 グローバル経済と地域の優位性』日経BP社, 2008年] • 小川紘一(2009)「製品アーキテクチャのダイナミズムから見たインターネット・システムとシスコシステムズの標準化ビジネスモデル・知財マネージメント」東京大学 知的資産経営総括寄付講座 • クレイトン・クリステンセン 著, 伊豆原 弓訳, 玉田 俊平太 監修(2001)『イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社 • 夏目 啓二編著(2010)『アジアICT企業の競争力―ICT人材の形成と国際移動』ミネルヴァ書房