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ベジタリアンの健康 ー禅宗修行僧の食生活よりー. 秋田栄養短期大学 東口みづか. 研究の背景. 肉食忌避の戒律に則り伝統的な食生活が営まれているとされる禅宗 修行僧の食事が、生活習慣病の予防に有効であるとの指摘は少なく ない。しかし、実際に禅宗僧堂で生活している修行僧を対象として食 事調査や健康調査を行った報告は少なく、未だ不明な点が多い。 1. 禅宗僧堂における食生活の実態 2 .禅宗僧堂における食事日記の栄養学的解析 3 .禅宗修行僧の栄養摂取状況と健康状態 4 .青年期および中年期禅宗修行僧における血清脂質、血糖値の生理学的相違. 研究内容.
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ベジタリアンの健康ー禅宗修行僧の食生活よりーベジタリアンの健康ー禅宗修行僧の食生活よりー 秋田栄養短期大学 東口みづか
研究の背景 肉食忌避の戒律に則り伝統的な食生活が営まれているとされる禅宗 修行僧の食事が、生活習慣病の予防に有効であるとの指摘は少なく ない。しかし、実際に禅宗僧堂で生活している修行僧を対象として食 事調査や健康調査を行った報告は少なく、未だ不明な点が多い。 1. 禅宗僧堂における食生活の実態 2.禅宗僧堂における食事日記の栄養学的解析 3.禅宗修行僧の栄養摂取状況と健康状態 4.青年期および中年期禅宗修行僧における血清脂質、血糖値の生理学的相違 研究内容
1. 禅宗僧堂における食生活の実態 これまで書籍、文献等に記されることなく、公にされてこなかった禅宗修行僧の食生活の実態について理解を深めるため、僧堂で典座の経験のある僧侶を対象に、出し汁の使用状況に関する項目を含む、修行僧の食生活全般についての聞き取り調査を行う。
調査方法 1. 期間 1999年6~7月 2. 対象 規模の異なる僧堂の元典座(食事係)各1名 A僧堂:修行僧数200名以上 B僧堂:修行僧数 5名以下 3. 方法 聞き取り調査 4. 項目 1) 食事 2) 献立 3) 食材 4) 設備と食器 5) 調理技術と知識 6) 出し汁
聞き取り調査の結果:A僧堂 ・ 献立は、前日典座らによる会議において、過去の記録帳を基に行事や食材の在庫、御用商店の都合などを考慮の上決定されており、これに従って食材の購入、調理が極めて合理的かつ規則的に行われる。 ・ 使用する食材はすべて植物性食品であり、動物性食品を調理することは一切ない。 ・ 厨房には、一般的な給食施設と同様の大量調理のできる設備が整っており、保健所の指導もあり衛生管理を厳しく行っている。調理には炊飯器、ミキサー、オーブンなどの電化製品も利用している。 ・ 典座に配役された修行僧は、一週間の見習期間中に、古参の典座より鍋の磨き方や炊事道具の整理の仕方、調理技術まで一通り個別に教育される。その後は自己の修練により技術を磨いていく。
聞き取り調査の結果:B僧堂 ・ 200坪の畑を有しており、そこで収穫される野菜の種類や量を考慮して献立を作成しているため、収穫時期によって何日も同じ野菜の献立が続くことが多い。また、信徒からの贈答品によって献立が決まる場合もある。現金収入は托鉢に頼っているため経済的に困窮しており、砂糖、みりんなどの甘味料はほとんど使用できず、煮物は手間がかかり使用する燃料がかさむためほとんど作っていない。 ・ 最低限必要な食材に限り最も価格の安い店で購入している。贈答品も生活する上で大きな役割を果たしており、修行僧の健康面を気遣ってあえて動物性食品を施す信徒もいる。寄進された動物性食品は献立に取り入れられる。 ・ 電化製品は一切なく、かまどを利用して煮炊きを行っている。燃料となる薪は、山内で拾い集めたものや材木店、造園店より廃材を譲り受けたものを使用している。 ・ 料理技術を個別に教育されるようなことはなく、基本的に古参典座の調理を見習うことで技術を習得する。そのため典座の料理への興味によって技術が異なり、個人差が大きい。
まとめ 1. 僧堂の経済格差は、動物性食品の使用の有無、献立の充実度や安定度に大きな影響を及ぼし、栄養素等摂取状況にも大きく影響することが示唆された。 2. 僧堂の規模の違いは、経済格差や労働力の相違といった状況をもたらし、ひいては調理技術や知識における教育制度の有無にも大きく影響を及ぼすことが示唆された。 3. 僧堂の経済格差は、出し汁の使用状況に影響を及ぼすものと考えられる。
2.禅宗僧堂における食事日記の栄養学的解析2.禅宗僧堂における食事日記の栄養学的解析 禅宗僧堂で生活するすべての修行僧が共通で摂取している食事内容をもとに、1日3食の食事から得られる栄養・食品摂取量や食品の使用頻度・特性を把握する。
調査方法 曹洞宗のA僧堂(修行僧数約250名)の食事日記を入手 注)献立名、食品名、盛り付ける器の記載はあるが、分量や作り方 の記載はない <栄養・食品摂取量> 1.資料 2、5、7、11月の各月4~11日 の7日間、合計28日分 2.方法 記載内容をもとに献立を再現 し、食品の使用重量から栄 養・食品摂取量を算出 <食品の使用頻度・特性> 1.資料 約1年分=311日分 2.方法 摂取状況が良好である食品に ついて小食、中食、薬石別、 使用料理別に使用頻度を算出 3.統計解析 対応分析
<小食> 菜粥(餅入り) 煮物三点盛り(凍り豆腐、里芋、ぜんまい) 煮豆 食事日記の記載内容をもとに再現した食事の一例 <中食> 麦飯 みそ汁(油揚げ、たけのこ、小松菜、わかめ) うの花(おから、人参、ごぼう、グリンピース ひじき) <薬石> わかめ飯 みそ汁(じゃが芋、大豆、油揚げ、わかめ) 煮物三点盛り(長芋、かぼちゃ、刻み昆布) 酢の物(きゅうり、うど、にんじん、焼き麩)
食事日記の記載内容から算出した栄養素等摂取量食事日記の記載内容から算出した栄養素等摂取量
食事日記の記載内容から算出した食品群別摂取量食事日記の記載内容から算出した食品群別摂取量
まとめ 1.栄養素等摂取量はいずれの栄養素とも非常に低い値であった。特にビタミンB12で顕著であり、コレステロールにいたってはほとんど摂取されていなかった。 2.修行僧はおかわりや間食により不足している栄養素等を補っている可能性がある。 3.動物性食品は摂取されておらず、穀類、きのこ類、海藻類の摂取状況が非常に良好であった。 4.薬石は小食、中食と比較して献立内容等が比較的自由であった。限られた食材を飽きずにおいしく食べる工夫が認められた。
3.禅宗修行僧の栄養摂取状況と健康状態 禅宗僧堂で生活する修行僧について栄養調査および血液検査を含む健康調査を行い、栄養摂取状況と健康状態の実態を把握するとともに、影響を及ぼす要因について検討する。
調査方法:対象 禅宗修行僧の1日 1.禅宗修行僧:20歳代、47名 1)動物性食品非摂取群:21名 A僧堂9名、B僧堂12名 2)動物性食品摂取群:26名 C僧堂7名、D僧堂6名 E僧堂13名 2.男子大学生:20歳代、50名 運動習慣あり
調査方法:食事調査 1.禅宗修行僧:連続した3日間 1)小食、中食、薬石 各禅宗僧堂の典座に料理名および食品名の記録と食事の写 真撮影を依頼し、その記載内容から分量を推量した。 2)おかわり、間食 禅宗修行僧に料理名および食品名と分量の記録を依頼した。 2.男子大学生:連続した3日間 料理名および食品名、分量の記載と食前食後の写真撮影 依頼した。各対象者にスケールを貸与して食前食後の料理 および食品の重量を測定してもらい、その重量差を実際に 摂取した分量とした。
調査方法:身体・精神状況調査 1.身体計測 :身長、体重、体脂肪率 2.エネルギー消費量 :生活活動調査(3日間)の内容から算出 3.安静時エネルギー消費量 :METAVINEⓇ(VINE社)にて測定 4.一般血液、生化学検査 1) 白血球数 2) 赤血球数 3) ヘモグロビン 4) ヘマトクリット血小板数 5) 総たんぱく 6) アルブミン 7) 総コレステロール 8) HDL-コレステロール 9) 中性脂肪 10)血糖甲状腺刺激ホルモン 11)遊離トリヨードサイロニン 12)遊離サイロキシン 5. 健康に関するQOL評価 :SF-36v2日本語版を使用したアンケート調査
男子大学生の食事調査票および生活活動調査票男子大学生の食事調査票および生活活動調査票
<小食> 玄米粥 たくあん、梅干し ごま塩 <中食> 麦飯 みそ汁(豆腐、わかめ) 肉じゃが風煮物(じゃが芋、人参、グリンピース しらたき、グルテン) 漬物 <薬石> 大根飯 すまし汁(豆腐、わかめ、庄内麩) 煮物三点盛り(油揚げ、ぜんまい、れんこん) 酢の物(もやし、はるさめ、わかめ) 漬物 動物性食品非摂取群の食事の一例
<小食> 玄米粥 たくあん、梅干し、酢大豆 わかめふりかけ、ごま塩、ゆかり <中食> 白飯 みそ汁(えのきだけ、小松菜) 伊達巻 フライドポテト <薬石> 白飯 みそ汁(豆腐、油揚げ) 皿うどん(揚げ麺、白菜、人参、ピーマン 玉ねぎ、ベーコン) お浸し(小松菜、かつお節) 動物性食品摂取群の食事の一例
動物性食品非摂取群および摂取群、男子大学生の身体特性、エネルギー消費量、安静時エネルギー消費量動物性食品非摂取群および摂取群、男子大学生の身体特性、エネルギー消費量、安静時エネルギー消費量
動物性食品非摂取群および摂取群、男子大学生の栄養素等摂取量動物性食品非摂取群および摂取群、男子大学生の栄養素等摂取量
動物性食品非摂取群および摂取群、男子大学生の一般血液検査値、生化学検査値動物性食品非摂取群および摂取群、男子大学生の一般血液検査値、生化学検査値
動物性食品非摂取群および摂取群、男子大学生の健康に関するQOL評価値動物性食品非摂取群および摂取群、男子大学生の健康に関するQOL評価値
まとめ 1.動物性食品非摂取群、摂取群ともに栄養摂取状況は高炭水化物、高食物繊維、低脂肪、低コレステロール傾向があり、特に非摂取群で顕著であった。 2.非摂取群、摂取群ともに一般血液検査値および生化学検査値は良好であることから、健康状態に問題が生じる可能性は低いものと考えられた。 3.禅宗修行僧の生活は身体の痛み、全体的健康感、活力、心の健康といったQOLに負の影響をもたらすものと考えられるが、食生活以外の要素(例えば集団で生活することでのストレス等)が関連している可能性がある。
4.青年期および中年期禅宗修行僧における血清脂質、血糖値の生理学的相違4.青年期および中年期禅宗修行僧における血清脂質、血糖値の生理学的相違 生活環境や生活習慣が相似していることから、社会・経済的要因および精神・身体的要因の影響を除外した上での検討が可能であると思われる青年期および中年期修行僧について、血清脂質、血糖値を比較し、加齢による身体の生理変化による影響を検討する。
調査方法 1.対象 :禅宗修行僧18名(動物性食品摂取群) 青年期12名(平均年齢24.2歳) 中年期 6名(平均年齢57.6歳) 2.栄養・食品摂取量 3.身体計測 4.エネルギー消費量 5.一般血液、生化学検査 6. 健康に関するQOL評価 修行期間に 有意差なし 先の調査と同様
青年期および中年期修行僧の身体特性とエネルギー消費量青年期および中年期修行僧の身体特性とエネルギー消費量
青年期および中年期修行僧の健康に関するQOL評価値青年期および中年期修行僧の健康に関するQOL評価値
青年期および中年期修行僧の血清脂質および血糖値青年期および中年期修行僧の血清脂質および血糖値
まとめ 1.BMI、体脂肪率、エネルギー消費量、栄養素等摂取量、健康関連QOLにおいて青年期修行僧と中年期修行僧間で有意差は認められなかった。 2.HDLコレステロール、中性脂肪で有意差は認められなかったものの、総コレステロール、血糖では青年期修行僧よりも中年期修行僧で有意に高い値を示した 。このことから、総コレステロールおよび血糖値は、加齢による身体の生理変化の影響を受ける可能性が示唆された。
終わりに 1.これまでほとんど報告されることのなかった禅宗僧堂で作られ摂取される食事の特性について、また禅宗修行僧の栄養摂取状況と健康状態について明らかにすることができた。 2.本研究の被験者は僧堂で集団生活をしている禅宗修行僧である。したがって、本研究で得られたデータは、普通の調査研究であればデータ解析の段階で調整せざるを得ない交絡因子が、調査開始時点ですでに除外されているという点で精度が高いと言える。 3.今後は、本研究のデータを用いて一般人の健康増進・疾病予防に貢献できる研究を行っていきたい。
調査にご協力いただきました禅宗修行僧の皆様、調査の交渉にご尽力を賜りました元駒澤大学理事長池野秀一先生、ご指導・ご助言を賜りました女子栄養大学名誉教授菅原龍幸先生、同じく松本仲子先生、駒沢女子大学准教授篠原能子先生に心より感謝申し上げます。調査にご協力いただきました禅宗修行僧の皆様、調査の交渉にご尽力を賜りました元駒澤大学理事長池野秀一先生、ご指導・ご助言を賜りました女子栄養大学名誉教授菅原龍幸先生、同じく松本仲子先生、駒沢女子大学准教授篠原能子先生に心より感謝申し上げます。 <料理の記録と写真撮影をお願いした典座の方々>