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京都大学大学院理学 研究科 最先端 科学の体験型学習 講座 ( ELCAS ). 電気 を流す 有機物 (低温物質科学研究センター) 分子性材料分科 http:// mms.ltm.kyoto-u.ac.jp / index.html http:// mms.ltm.kyoto-u.ac.jp / yamochi / jpn / index.html. はじめに 原子の構造 イオン結合と共有結合 共有結合 分子のイオン化と多重結合 芳香族性 電気 を流す 有機物 何故ナフタレンは電気を流さない ? 電荷 移動 錯体 ( TTF )( TCNQ )
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京都大学大学院理学研究科 最先端科学の体験型学習講座(ELCAS) 電気を流す有機物 (低温物質科学研究センター) 分子性材料分科 http://mms.ltm.kyoto-u.ac.jp/index.html http://mms.ltm.kyoto-u.ac.jp/yamochi/jpn/index.html はじめに 原子の構造 イオン結合と共有結合 共有結合 分子のイオン化と多重結合 芳香族性 電気を流す有機物 何故ナフタレンは電気を流さない? 電荷移動錯体 (TTF)(TCNQ) 絶縁化の抑制 最近楽しんでいること
はじめに − 有機物は絶縁体? r(Wcm) 銀 1.4710-8 銅1.5510-8 10-8 アルミニウム 2.5010-8 10-4 金 3.210-8 (TTF)(TCNQ)210-3 100 鉄 8.910-8 ニクロム(Ni80:Cr20)10-6 104 ポリアニリン 5100 グラファイト 1.410-5 108 セレン 110-2 Na(TCNQ)103 ゲルマニウム4.610-1 1012 ソーダ硝子 1013 1014 テフロン 1016 1019 1016 パイレックス 1015 1016 1020 ナフタレン 1019 二酸化ケイ素 1021 酸化アルミニウム 1022 比抵抗値は、日本化学会編, 化学便覧 基礎編 改訂5版, 丸善, 2004, および,日本化学会編 実験化学講座続 1巻, 丸善,1966 より
はじめに − 物質の構成要素 人間 1-2m 細胞1~100 μm 巨大分子 遺伝子(DNA) 直径 2nm (長さ: ヒトの染色体23対に含まれる遺伝子の総和で1-2m) 低分子 ベンゼン(C6H6) 直径 600-700pm 原子(水素原子) 100pm =1Å 長さの単位 100 m 10-3 mm 10-6 mm 10-9 nm 10-10 Å 10-12 pm
原子の構造 − 原子核と電子の軌道 原子古代ギリシャ原子論 =分割できないもの 現在の理解 = 原子核 +電子 原子核:1fm[10-15 m]の大きさ ・・・ 陽子(+1) と 中性子 電子(-1): 原子核周りの軌道を回る 軌道の大きさが1Å[10-10 m]桁 K殻 L殻 M殻 軌道 K殻 ・・・ 2個までの電子を収容 L殻 ・・・ 8個までの電子を収容 M殻・・・ 18個までの電子を収容 内殻軌道ほど安定 K殻に近い程、電子は居心地が良い
原子の構造 − 周期律 K殻:2電子で満席 +18 +10 +12 +13 +15 +17 +14 +16 +11 +2 +4 +3 +1 +9 +8 +7 +6 +5 He ヘリウム H 水素 N 窒素 F フッ素 Ne ネオン Li リチウム Be ベリリウム B ホウ素 C 炭素 O 酸素 Si ケイ素 Al アルミニウム Mg マグネシウム Na ナトリウム Ar アルゴン Cl 塩素 S 硫黄 P リン L殻:8電子で満席 M殻: まだ空席があるけれど、8電子
原子の構造− オクテット則 原子が電子を失う(受取る)と ・・・ 電荷を持った粒子(イオン)となる 電子を放出しやすい原子: リチウム, ナトリウム,… 電子を受取りやすい原子: フッ素, 塩素,… 第1周期 第2周期 +2 +17 +15 +16 +1 +17 +11 +18 +13 +11 +12 +14 +4 +3 +6 +5 +10 +9 +8 +7 He ヘリウム H 水素 C 炭素 B ホウ素 Be ベリリウム Li リチウム N 窒素 F フッ素 O 酸素 Ne ネオン Ar アルゴン S 硫黄 Si ケイ素 Al アルミニウム Mg マグネシウム Na ナトリウム Cl 塩素 P リン 第3周期 食塩 =NaCl= + 一番外の軌道が8電子で満たされていたい! 周期表の右端の状態になりたい Na+ ネオンと同じ電子数 Cl- アルゴンと同じ電子数
イオン結合と共有結合 − オクテット則 +2 +15 +16 +17 +1 +1 +1 +1 +1 +18 +14 +13 +12 +11 +4 +3 +6 +5 +10 +9 +8 +7 He ヘリウム H 水素 C 炭素 B ホウ素 Be ベリリウム O 酸素 Ne ネオン N 窒素 Li リチウム F フッ素 Ar アルゴン Cl 塩素 Si ケイ素 Al アルミニウム Mg マグネシウム Na ナトリウム S 硫黄 P リン NaCl=Na++Cl- Na+の陽電荷 ~Cl-の負電荷 静電引力 イオン結合 水素分子 H2 ×H++H-: ふたつの水素原子にイオン化のしやすさの差が無い 〇 軌道を重ね合わせれば He型の電子構造 共有結合 + →
共有結合−電子の軌道 共有結合 ・原子軌道(原子周りの電子の軌道)の重なりあい ・ 2電子1組の結合 + → HH H2 教科書では結合軌道しか描かないけれど… 原子軌道の形: 数式で表現できる 共有結合:2個の原子軌道から分子の軌道を作っている 数学的には分子の軌道も2個出来るはず ひとつの軌道には2個の電子が収容される エネルギー的に低い軌道に電子が入る → 結合する事で全体として安定化 (だから結合する) +1 +1 +1 +1 イオン結合 原子軌道での電子出入り+静電引力 原子間での軌道の重なりは考えなくて良い
化学結合−共有結合の方向性 メタン分子 = 炭素(C)1個 + 水素(H)4個; 最も単純な炭化水素 + 4 CH4 炭素(メタン)は4面体構造 炭素のL殻は空間を4等分 する方向に軌道(結合手)を伸ばしている (電子を2個づつ収容できる4軌道) +6 +6 +1 +1 +1 +1 +1 4面体構造:4個の1重結合を持つ炭素では保持される エタン H3C-CH3 炭素原子同士で 4面体の頂点を共有
ちょっと寄り道 − 水分子の形 水分子 = 酸素(O)1個 + 水素(H)2個 + 2 酸素のL殻は 結合手: 空間を4等分する方向 各水素原子と1個づつ電子を共有 残り4電子:他の原子とは共有されていない → 折れ曲ったH-O-H結合 +8 +1 +1 +1 +8 水素結合 共有結合に使われていない結合手 = 他の水分子の水素が接近したがる 氷(固体の水)の中で、… → 酸素原子が折れ曲った 6角形を形作る分子配置
化学結合−多重結合 × 炭素正四面体の 頂点2箇所を共有 エチレン C2H4(H2C=CH2) は平面分子 2重結合を作る時、 炭素の4個の軌道が3+1個の2組に分類される ひとつ目の結合を作る軌道: 空間を3等分 ふたつ目の結合を作る軌道: ひとつ目の軌道と直交 π π結合: 下合わせて結合ひとつ 上下のふくらみ 両方合わせて1組
化学結合−多重結合 2重結合のイメージ (直感的に) 上下左右前後に穴の開いたサイコロ2個を2本の針金をそれぞれ1往復させて2重に結べ。 1本の針金は、両方のサイコロで、同じ相対関係の穴を通すこと。 2本の針金は、異なる相対関係の穴を通すこと。 1本目はサイコロの隣り合う面の穴を貫通させた 2本目はサイコロの平行な2面の穴を貫通させた 同じ1往復の針金(結合)でも、 ほぼサイコロの重心間を結ぶものと、 上下の面を結ぶものがある 共有結合の結合手(軌道)の形も1種類に限定される必要はない
分子のイオン化 − 多重結合 ・ ・ ・ 原子軌道 分子軌道 11 10 9 8 7 6 軌道の形 原子軌道の足し合せ 収容電子数 どの軌道も2個まで K殻 安定 L殻 エチレン分子の軌道 水素 K殻 1軌道 4原子 炭素 K殻 1軌道 2原子 L殻 3軌道2原子 (ひとつ目の結合用) L殻 1軌道2原子 (ふたつ目の結合用) 合計 =14軌道 電子の数: 水素 14 炭素 62 合計 =16電子 M殻 電子は K→L→M殻 の順に詰まる 収容電子数 K殻 2個 L殻 8個 M殻 18個 π ・ ・ ・ イオン化 通常は最外殻軌道 イオン化:π結合の軌道から 注: この分子軌道の図は正確ではありません。原子軌道の特徴を強調しすぎた図になっています。
ちょっと寄り道 − 物質の色とは? 光 = エネルギーの波; 波長がある (nm=10-9m) 高エネルギー 低エネルギー 可視光 g線←X線← 紫外線 近赤外線→赤外線→遠赤外線→電波 380 450 495 570 590 620 750 nm 紫 青 緑 黄 橙 赤 軌道のエネルギー差 = 光のエネルギー → 光が吸収され電子がより不安定な (高いエネルギーの) 軌道に移る クロロフィル(葉緑素) 緑色の領域だけが吸収されない → 緑色に見える
芳香属性 ベンゼン C6H6 平面分子, 炭素-炭素結合は総て同じ長さ 隣合せの炭素どうしに反応性の差は無い = 極限構造式: ふたつの間を共鳴 軌道:C=C-CとC-C=Cに区別なし 電子: 環状の軌道中を自由に運動している(非局在化)
芳香属性 − 環状軌道の収容電子数 ベンゼン C6H6中のひとつの炭素(6電子)を見ると 炭素 L殻(ふたつ目の結合) 炭素 L殻(ひとつ目の結合) 炭素 K殻 は結合している水素、 隣の炭素からの電子 6個の電子が環状の軌道中に非局在化 • 芳香属性環状に単結合と二重結合が交互に並んだ時 • 4n+2個の電子なら環全体に非局在化(居心地が良い) 芳香属性を獲得しようとする反応例 ふたつ目の結合用L殻電子5個 +負電荷をもたらす電子1個 =6電子
ここまでのまとめ 物質 ・・・ 分子 ・・・ 原子 ・・・ 原子核 + 電子 原子軌道: 原子中の 電子の軌道 K殻(2電子収容),L殻(8電子収容),M殻(18電子収容) オクテット則: 最外殻は周期表の一番右の状態になりたい イオン結合: 電子の放出, 収容による原子のイオン化 → 静電引力 共有結合: 原子軌道を重ね合わせ、電子を共有する → オクテット則の実現 +1 +1 分子軌道: 分子中で電子が収容される軌道 原子軌道の足し合わせ, 各軌道2電子を収容 π 2重結合: ひとつ目の結合とふたつ目の結合(π結合)は別格 電子の入っていない一番安定な軌道と 入った一番不安定な軌道 ・・・ π結合の軌道 芳香族性: 環状に単結合と二重結合が交互に並んだ時 4n+2個の電子があるのが安定
何故ナフタレンは電気を流さない? − 動く電子とその経路 分子間での軌道重なり → π結合の軌道が重なり合っている → 電子が飛び移れるはず 実際には絶縁体 ∵隣の分子の π結合用の 軌道は満席 の結晶構造 活性化エネルギー 無しに電子を動 かすには? 予め幾つか電子を 取除いておく
電荷移動錯体 − 電子供与体 ナトリウム: 電子を放出し易い (電子供与体) 塩素: 電子を受取り易い (電子受容体) 有機分子どうしでも電子授受のし易さに差を付けられる? → Yes 置換基(分子の中の部分構造)の電子押出し・取込み能力を使う 芳香属性による電子供与能 (テトラチアフルバレン,TTF) +16 7電子/環 1電子放出すれば 4n+2電子 硫黄 K殻 2電子 L殻 8電子 M殻 6電子 + 平面内3方向 π結合用の軌道 炭素と:2電子共有 電子は2個 電子供与性 空いた結合手:2電子
TTF•TCNQ – 最初の金属的電荷移動錯体 同種分子がπ結合用の軌道を重ねながら 等間隔に配列 もし、TTFとTCNQが交互に積み 重なっていたら→ 金属になれない 隣分子の同じ軌道に空席有 金属
TTF•TCNQ–金属-絶縁体転移 54K (-219ºC)で絶縁体に相転移 << 流れていた川の水が凍った!>> 分子の配列を歪ませて電子が 2個1組でペアを形成(Peierls転移) 1方向にしか電気を流せない物質 ↓ 種々のメカニズムで絶縁化しやすい 図は P.M.Horn,D. Guidotti, Phys. Rev. B16(1), 491-501 (1977) に記載されたデータを基に作成
絶縁化の抑制 – その前に – 金属的錯体を作るには 隣分子の同じ軌道に空席有 同一軌道に電子がふたつ入ると マイナス電荷同士の静電反発 (U) 各分子が1電子持っていたら (電荷移動量 =1) 電子移動 静電反発不安定化 しにくい ! 小さな電荷移動量なら電子同士の静電反発が無く金属になるか? 同種分子がπ結合用の軌道を重ねながら等間隔に配列 の条件を満たせるならば金属になり得るが、...
金属的錯体を与えるドナー・アクセプターの組合せ金属的錯体を与えるドナー・アクセプターの組合せ イオン性錯体 (d ≈ 1) 部分電荷移動錯体 (d=1/2~2/3) DDD AAA構造を取り易い all R = H 1:1錯体について 異なるR 異なる酸化還元電位 異なる電子供与体・受容体としての強さ 中性錯体(d ≈ 0) 一般に DADA型構造 酸化還元電位差(ED–EA)が -0.02~0.34 V = 電子供与体・受容体としての強さが適切な組合せ ○高導電性錯体・●金属的錯体 図は G.Saito,J.P.Ferraris, Bull.Chem.Soc.Jpn.,53(8),2141-2145 (1977) に記載されたデータを基に作成
絶縁化の抑制 – 有機(分子性)超伝導体 TMTSF 初の有機超伝導体 臨界温度 ~1K TTFの相互作用 分子面垂直方向: 強 分子横方向: 弱 C60(フラーレン) 全方向にπ結合用の 軌道が張出している 臨界温度 max. 33K 増強 → 2方向に 相互作用 硫黄より大きな原子 硫黄原子の数を増す 臨界温度は大気圧下での測定値 絶対温度(K) = 摂氏 (ºC)+273.15 BEDT-TTF(ET) 多様な有機超伝導体 臨界温度 max. 12.3K だいぶ後になって気づきました。配布資料ではここの符号を間違えていました。このスライドの符号が正しいです。
最近楽しんでいること –EDO-TTF錯体 (作製) 電解合成 (エチルアルコール溶液) EDO-TTF+ [(CH3CH2CH2CH2)4N](PF6) (EDO-TTF)2(PF6) 0.5 mA 12日間 陽極 + 電子 + (EDO-TTF)2(PF6) A. Ota, H. Yamochi, G. Saito, J. Mater. Chem., 12, 2600 (2002)
最近楽しんでいること –EDO-TTF錯体 (物性) 280K 複数の機構が同時に働く相転移 絶縁体状態(1.410-5Scm-1) 金属状態(60Scm-1) パルス光(0.1ps)照射 高導電性状態 超高速応答: 0.1psで応答 1.5psで準安定状態 高効率:1光子で50-500分子が応答 ps= ピコ秒 =1兆分の1秒 1ヶ所で始まった相転移が超高速に結晶中を広がって行く ⇒ 動的状態の研究
電気を流す有機物 (有機)分子の多様性 → 多様な錯体 → 多様な物理現象 超伝導の種類も色々, 奇妙な相転移を起す物質 物質開拓 → 新現象探索 → 新学問分野 金属と絶縁体の中間近傍に位置する物質 これまでに知られていなかった相転移現象 微弱な刺激に迅速・巨大な応答 ⇒ 動的挙動の科学,実用材料の基 電気を流す有機物を研究するには、… 化学 (有機化学, 物理化学, 分析化学) 物理学 (物性物理学; 実験, 理論) ・・・ 広い範囲の科学 研究協力者・好奇心
次回の実験に向けて TTFとクロラニルの錯体を作製する TTFとTCNQの錯体を作製する 電荷移動錯体の紫外-可視-近赤外領域の光吸収を観測する 実験チーム 錯体作製:2人1組 2組づつ同じ実験 白衣、保護メガネを必ず持参する事 貴重品を身に着けられる服装で出席する事 実験手順の予告と宿題 ・TTFとクロラニル、TTFとTCNQはそれぞれ1:1の物質量比で混合します。 ・いずれの錯体作製でも、TTFは0.1g使用します。 ・物質量比を1:1とするために必要なクロラニル、および、TCNQの質量を計算して来てください。 原子量 (g/モル) C 12.01 H 1.01 N 14.01 O 16.00 S 32.07 塩素(Cl)の原子量を書き忘れていました。35.45です。 配布資料では組成式に誤りがありました。 ヒント:TTFの分子量は、12.016+1.014+32.07 4=204.38 従って、 0.1g のTTF は、物質量に換算すると0.1204.38 モル
低温物質科学研究センター Research Center for Low Temperature and Materials Sciences 分子性材料開拓・解析研究分野 Division of Molecular Materials Science