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初老期女性うつ病のピットフォール. 前川敏彦 九州大学大学院医学研究院 臨床神経生理学 分野. 【 学術講演会 】 スライド. 演題名:初老期女性うつ病のピットフォール 演者名 前川 敏彦 所属名 九州大学大学院医学研究院 臨床神経生理学 助教. 発表者のCO I 開示. 演題発表に関連し、開示すべき CO I 関係にある 企業等はありません。. 初老期 女性 はうつ病にかかりやすい. 夫の定年退職. 親の介護. 娘 の 出産. 近親者 の 死別. 骨粗しょう症. 認知機能 の 低下. 身体 機能の衰え. 症例 1.
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初老期女性うつ病のピットフォール 前川敏彦 九州大学大学院医学研究院 臨床神経生理学分野
【学術講演会】 スライド 演題名:初老期女性うつ病のピットフォール 演者名 前川 敏彦 所属名 九州大学大学院医学研究院 臨床神経生理学 助教 発表者のCO I 開示 演題発表に関連し、開示すべきCO I 関係にある 企業等はありません。
初老期女性はうつ病にかかりやすい 夫の定年退職 親の介護 娘の出産 近親者の死別 骨粗しょう症 認知機能の低下 身体機能の衰え
症例1 • 66歳,女性 元事務職。 • [主訴]体がきつい,入院したい(本人)。私にはわからないが,本人が希望するので入院させたい(夫)。 • [家族歴]精神疾患の遺伝負因なし。 • [既往歴]糖尿病 • [生活歴]同胞3人の2番目。子供を2人もうけ,定年退職するまで特に問題なく過ごした。 • [病前性格]おとなしい,責任感が強い,世話好き
現病歴 • X-6年,それまでは夫婦共働きであったが,二人とも退職して一緒に自宅で過ごすことが多くなった。夫は社交的ではなく,患者に干渉することが増えた。半年後頃より次第に抑うつ気分,全身倦怠が出現するようになりA総合病院心療内科を受診し,うつ病と診断された。治療によりいったんは回復したが,毎年冬頃になると,「冬眠状態」のように寝込み,家事など一切できない状態を繰り返した。X年6月,例年であれば活動ができる時期であるのに「冬眠状態」から回復しないため入院加療目的で当院に紹介受診となった。
初診時所見 • 夫同伴で受診。化粧はせず,普段着姿で動作は緩慢であった。表情は乏しく,簡単な質問にも返答に時間がかかったが疎通はなんとか可能であり,夫が経過を補足して病歴を把握することができた。抑うつ気分の他に全身倦怠感や意欲低下,食欲低下,浅眠,興味の喪失を訴えた。自責感があり,希死念慮については問えばあると答えた。また,躁病エピソードについては否定した。以上により,うつ病と診断して任意入院となった。
治療経過(前半) • 前医から主剤はフルボキサミン150㎎が処方されていたが, 効果不十分と判断して,クロミプラミンの点滴を5日間行うと同時に,3週間かけてデュロキセチン60㎎に変更した。入院当初は終日臥床がちに過ごしたが,2週間を過ぎた頃より症状の改善を認め,入院1か月後には本人の評価でも「ほぼ普段通り」になった。一方,夫は毎週面会に現れ,患者の世話をしたが,しばしば「お前は一人でなにもできないからだめだ」といったような批判的な言葉を患者に浴びせたりもした。
治療経過(後半) • その後,患者が外泊から戻るたびに落ち込み気分や自己評価の低下を認めたため,外泊後は主治医と担当看護師が患者・夫と共に外泊を振り返り,病状の説明を行った上で,自宅で支持的な環境を作るようにアドバイスを繰り返した。入院3か月後,自宅でも症状が軽快したことを確認して退院し,紹介元のA心療内科へ転医した。
治療経過図 クロミプラミン DIV フルボキサミン デュロキセチン 気分 入院 退院
考察 • 典型的な症状を呈した反復性うつ病症例であり,基本的方針は定型的なものであったが,症状改善後は自宅での夫と関係が治療の焦点となった。長年の結婚生活で構築された夫婦関係はすぐには変化しなかったが,約2か月かけて外泊中の振り返りを繰り返し行うことで少しずつ夫の患者に対する関わり方も変化した。高齢の夫婦は閉鎖的な二者関係となりやすく,一方がうつ病を発症した場合,医療者の教育的介入が有効と思われた。
症例2 • 62歳,女性 元ミシン内職。 • [主訴]私が悪いんです。すみません(本人) 。いつもと様子が違って落ち着かず目が離せない(妹)。 • [家族歴]精神疾患の遺伝負因なし。 • [既往歴]特記なし。 • [生活歴]同胞6人の1番目。子供を1人もうけたが,本人が28歳の時に離婚し,子供が自立した後は母親と二人暮らし。 • [病前性格]内向的,大人しい。
現病歴 • X-20年3月,不眠,焦燥感,集中力低下を主訴に当院初診。うつ病の診断で外来通院して安定していた。X-1年12月,同居していた母親(認知症)が行方不明となり,2週間後崖下で死体で発見された。その後,抑うつ気分,不眠,感情失禁など症状増悪を認めたが,本人希望により処方変更はしていなかった。X年5月急に不眠,焦燥が出現し,裸足で玄関前に立ち尽くしたり,「赤ちゃんがいる」などと異常な行動や言動が出現した。兄弟に付き添われて予約外に受診し,せん妄,うつ病性混迷状態を疑われてそのまま医療保護入院となった。
入院時現症 • 化粧はせず,くたびれた様子の老女。服装はシャツにズボン,前傾姿勢で歩く。右太腿と右前腕に内出血があった。促されて座るが,視線は中をぼんやりとみることが多く,質問に対してあいまい苦笑したり,「すみません」などと見当違いの返答をした。
入院後経過 • 入院時血液検査で,BS 489mg/dl, K 2.1mEq/l, CPK 1025U/l, Cl 91eEq/lを認め,補液,インスリン投与したところ,疎通は即座に改善した。 • [考察]うつ病性混迷を疑って,医療保護入院となった慢性うつ病の女性症例だったが,血液検査から高血糖と脱水によるせん妄が示唆され,補液等で症状は消失した。身体合併症による精神症状の可能性は常に考慮しておく必要があると思われた。
症例3 • 62歳,女性 専業主婦。 • [主訴]周囲がなにか話していても分からないことがある。言葉が出ない。 • [家族歴]精神疾患の遺伝負因なし。 • [既往歴]メニエール病 • [生活歴]同胞3人の2番目。短大卒業後,銀行事務員を経て,結婚し子供を3人もうけ,45歳から銀行事務のパートをしていた。現在は夫,息子と3人暮らし。 • [病前性格]まじめ,世話好き。
現病歴 • X-4年,後頭部痛が時々出現するようになったが,受診はしていなかった。X-1年8月,頭重感,意欲低下が増悪し,A内科医院でうつ病と診断された。セルトラリン等が処方されたが,改善なく,X-1年11月B総合病院精神科に転医した。X年6月,夜間自宅で20秒程度の意識消失発作があり,救急搬送された。その後,当院に精査目的で紹介受診となった。
初診時所見 • 夫同伴で受診。表情は穏やかで,疎通良好。動作はスムーズで,質問に対する反応の遅れや,的外れな返答もなかった。気分については,抑うつ気分や意欲低下を訴えた。意識消失発作は週に1回程度出現していた。 • 身長:150cm,体重:42㎏
治療経過 • 脳波検査で左側頭部からてんかん性異常波を認め,側頭葉てんかんと診断した。カルバマゼピン200mg投与し,意識消失発作は出現しなくなった。抑うつ気分や意欲低下も改善したため,抗うつ薬等は中止した。
治療経過図 カルバマゼピン セルトラリン エスシタロプラム スルピリド エチゾラム ゾルピデム 気分 意識消失発作 初診 紹介受診
結語 • 初老期うつ病女性を3例紹介した。 • 初老期女性にはうつ病の誘因となる特徴的なライフイベントがいくつかあるが,うつ病の他に身体合併症による精神症状の可能性を常に考慮しておくべきである。