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森林土壌学・土壌環境管理学 第五回目講義 「緑のダム」効果と土壌のはたらき. 1 . 森林がもっている様々な公益的機能(多面的機能). ・ 水源かん養保安林 ・土砂流出防備保安林 ・土砂崩壊防備保安林 ・飛砂防備保安林 ・風害防備保安林 ・なだれ防止保安林 ・落石防止保安林 ・魚つき保安林 ・航行目標保安林 ・保健保安林 全部で17種類が保安林として指定。. 保安林の面積は平成16年には1 , 133万 ha 日本の森林面積の45%、国土面積の30%を占めている。. 表1 全国および兵庫県の森林と保安林 (面積の単位:千 ha ).
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森林土壌学・土壌環境管理学 第五回目講義 「緑のダム」効果と土壌のはたらき
1.森林がもっている様々な公益的機能(多面的機能)1.森林がもっている様々な公益的機能(多面的機能) ・水源かん養保安林 ・土砂流出防備保安林 ・土砂崩壊防備保安林 ・飛砂防備保安林 ・風害防備保安林 ・なだれ防止保安林 ・落石防止保安林 ・魚つき保安林 ・航行目標保安林 ・保健保安林 全部で17種類が保安林として指定。 保安林の面積は平成16年には1,133万ha日本の森林面積の45%、国土面積の30%を占めている。
表1 全国および兵庫県の森林と保安林 (面積の単位:千ha)表1 全国および兵庫県の森林と保安林 (面積の単位:千ha) 日本の国土の67%は森林に覆われており、その45%は保安林である。 過去数十年間は森林面積に大きな増減は無い。 保安林の大半は水源かん養保安林である。 保安林面積の種別推移 「林業白書」より抜粋
日本の国土の67%は森林。 森林の45%は保安林で、その大半は「水源かん養林」。 過去数十年間も森林面積に大きな増減は無い。 でも豪雨時の洪水被害は無くならない! 森林の洪水緩和機能には限界があり、ダム建設は必要! 森林面積は変化していないが、植林されたのち放置されて いる森林が多い。 森林を整備すればダム建設はいらない! ほんとうは、どちらだろうか?
2.森林の水源かん養機能って? 豪雨時の河川の増水(直接流出量)を軽減 = 洪水緩和 無降雨時の河川の水量(基底流量)を安定 = 渇水緩和 『河川流量の平準化(時間的な流出の遅延)』 「降った雨を地中に蓄えて,ゆっくりと流し出す機能」は、「洪水緩和機能」や「渇水緩和機能」と同じことを意味しているように聞こえるが・・・・・, 実は両者の意味は微妙に異なっている. 「緑のダム」という言葉をどちらの意味で使うかで,その評価が異なる.
直接流 基底流 直接流 基底流 直接流出:降雨時に直接河川へ流出するために増加する水量 基底流出:無降雨の低水位時の流出量
直接流 直接流 豪雨時における河川の増水量(直接流出量)を軽減 = 洪水緩和機能
基底流 基底流 無降雨時における低水量(基底流量)の安定的供給 = 渇水緩和
集水域(流域) 量水堰 水の集る範囲を集水域あるいは流域と言う。この集水域(流域)の出口に水量を計測する堰(せき)を造り、降雨により供給された水の収支を測定すると水源かん養機能がわかる。
集水域(流域)での水量観測によって得られたデータの一連の出口に水量を計測する堰(せき)を造り、降雨により供給された水の収支を測定すると水源かん養機能がわかる。集水域(流域)での水量観測によって得られたデータの一連の出口に水量を計測する堰(せき)を造り、降雨により供給された水の収支を測定すると水源かん養機能がわかる。 ハイドログラフの一例 降雨にともなって河川流量が急激に増加したのち40時間目には再びもとの流れに戻っているのがわかる。
3.森林に降った雨水の動き 降雨によって発生した流出を直接流出という。これに対して直接流出しなかった雨水は、一時的に森林内に貯留されるが、これを損失雨量という。 損失雨量は、遮断貯留量、窪地貯留量および土壌水分貯留量の3成分から成っている。しかし、窪地貯留量はごくわずかであり、遮断貯留と土壌水分貯留の和と考えることができる。 損失雨量=遮断貯留 + 土壌水分貯留
土地の被覆条件別の水収支山崎ら(1984)より引用土地の被覆条件別の水収支山崎ら(1984)より引用 森林があると、降雨の1/2~2/3は蒸発散で失われる。このため直接使える水は少なくなる。 裸地では降雨の半分程度が地表流出となり基底流出の安定供給には貢献しない。
●:スギ,▲:ヒノキ スギ、ヒノキ植林地における林齢と蒸発散量の関係
森林には『水源かん養機能』がある。 だから、森林の樹木を伐採すると、河川の水量が減るのは? 事実は逆である! 水を貯めてゆっくり流すことと、利用できる水資源が増えることは別である。 森林を伐採した方が年間流出量は増加する。 ・森林を皆伐すると流出量が20~25%程度は増加 ・森林の蒸発散量が多いのは、樹冠に着いた水の蒸発が 多いためである。
地表面に到達した雨水の動きと流出のメカニズム(1)地表面に到達した雨水の動きと流出のメカニズム(1) 水のしみ込みやすさ 土壌にしみ込んだ水が下のほうへ移動するとき,土壌中の全てのすき間(孔隙)を水が満たした状態で、「しみこんだ水の流れ易さ」の指標が飽和透水係数あるいは最終浸透能であらわす。
土地の被覆条件別の最終浸透能「森林水文学」塚本編より引用土地の被覆条件別の最終浸透能「森林水文学」塚本編より引用
日本で洪水被害が発生する時、どのぐらいの雨が降ったか?日本で洪水被害が発生する時、どのぐらいの雨が降ったか?
森林土壌の最終浸透能(透水性)> 降雨の強さ森林土壌の最終浸透能(透水性)> 降雨の強さ 最大級の降雨があっても、全て地中に浸透するので ホートン型地表流は発生しない! 森林土壌の最終浸透能は広葉樹天然林でも、針葉樹人工林でも、200mm/時を超えている。 その一方で、最大時間雨量記録は187mm/時と最大浸透能よりも小さい。 森林には洪水緩和機能がある。 しかし、現在以上の洪水緩和機能は期待できない。
(mm) 流出量 イベントあたりの雨量(mm) 川俣ダム流域(集水域面積110.8km2)での降雨と流出量の関係 地表面に到達した雨水の動きと流出のメカニズム(2) 森林率78%で広葉樹65%、針葉樹35% 1回の降雨(イベント)での雨量と直接流量との関係
(mm) 流出量 保水機能あり (流出<降雨) 保水機能なし (流出=降雨) イベント(ひと雨)あたりの雨量(mm) 川俣ダム流域(集水域面積110.8km2)での降雨と流出量の関係 毎年降る雨の範囲 流域が森林に覆われていても、一度の雨が80~90mmを超えると洪水緩和機能は期待できない。
これまでは,大雨のときに渓流が増水するのは,地表面が水を浸透する能力=(浸透能)を降雨強度が上回り,その結果,浸透し切れなかった余剰水が地表面を流れ下るようになるためだと考えられていた.これまでは,大雨のときに渓流が増水するのは,地表面が水を浸透する能力=(浸透能)を降雨強度が上回り,その結果,浸透し切れなかった余剰水が地表面を流れ下るようになるためだと考えられていた. このようなメカニズムで発生する地表流をホートン型地表流という. ところが、現実の森林斜面では,一般に浸透能が、林内雨の強度よりも大きく,大雨のときも水はすべて一度地下に浸透し,ホートン型地表流は通常発生しないことが明らかになった. しかし、現実には、ある一定以上の降雨(80~100mm/イベント)があると、流域からの流出量イコール降雨量となる事実が明らかになってきた。 これは飽和地表流といわれるものが発生するからである。飽和地表流は、地下水面が上昇して地表に到達した際に発生する地表流で,大雨時に集水域の斜面下部,や渓流の近傍などで観察されている.
森林のもつ洪水緩和機能には限界がある。 1回の降雨が少ない時には、直接流出が抑えられるが、 90mmを超えるような場合には、降雨が直接流出する。 森林土壌の貯水(保水)能力には限界があり、土壌の隙間(空隙)が水で満たされて、地下水面が上昇すると、浸透できない水が地表面を流れる。(飽和型地表流の発生) 雨の降り始め 相当量の降雨があったのち
土壌の貯水能力とは、降雨を一時的に貯留してから流出させる機能をもつ土壌の孔隙量であり、「保水容量」ともいう。土壌の貯水能力とは、降雨を一時的に貯留してから流出させる機能をもつ土壌の孔隙量であり、「保水容量」ともいう。 森林土壌の保水容量は、降雨換算で数10~数100mm程度 (平均的には150~300mmと推定される。) 保水容量は、森林ではなく、土壌の機能であり、深さや地質、立地条件に左右され、数百年かけて森林に作り出されてきたものである。 保水容量は水を保持できる最大量であり、実際の森林土壌は雨が降らなくても水分を含んでいるので、さらに少ない。 森林の洪水緩和機能には限界がある。 数十年に一度の豪雨時にはダムがないと 水害は防げない。
土壌の深さが150cmでも、300mm程度の雨しか貯留できない。土壌の深さが150cmでも、300mm程度の雨しか貯留できない。 森 林 土 壌 の 保 水 容 量 (mm) 人工造林地と天然林など森林の種類によって土壌の深さが違うのか? 手入れ不足だと森林土壌は浅くなるのか?
地表面に到達した雨水の動きと流出のメカニズム(3)地表面に到達した雨水の動きと流出のメカニズム(3) 従来の「土壌浸透能」は、穏かな散水試験の結果から 得られたデータである(実際の降雨を再現していない。) 雨水は樹冠に溜まって大きな雨滴なり高い位置から地面を叩く。 下層植生や落葉の堆積がない森林では、雨滴が土壌団粒を破壊して、「土壌クラスト」と呼ばれる皮膜を形成する。 時間雨量が25~30mm程度でも地表流が発生する。
土壌クラスト(土膜) 雨滴が土壌表面に衝突する際の衝撃力により,土壌表面の粒子が細分化され,粒径が非常に細かくなった粒子が土壌表面の隙間を目詰まりさせ,浸透能を低下させる現象
スギの大径木が優占するスギ天然林(高知県魚梁瀬学術保護林)スギの大径木が優占するスギ天然林(高知県魚梁瀬学術保護林)
スギ、ヒノキとブナなどの広葉樹が混交している天然林スギ、ヒノキとブナなどの広葉樹が混交している天然林
スギ、ヒノキの手入れをしていない人工造林地を間伐したり、広葉樹林へ転換すれば、土壌の浸透能は大きく増加する。スギ、ヒノキの手入れをしていない人工造林地を間伐したり、広葉樹林へ転換すれば、土壌の浸透能は大きく増加する。 土壌の浸透能が増加すれば、地表面流の発生が抑えられ、急激な直接流出が防げる。 人工造林された針葉樹林を広葉樹へ変換したり間伐を行えば、洪水緩和機能は増加する。 ダムに頼らなくても洪水は防げる。
列状間伐をして広葉樹との混交林へ誘導する作業をした森林(岡山県加茂町)列状間伐をして広葉樹との混交林へ誘導する作業をした森林(岡山県加茂町)
台風による暴風被害で樹木が倒されたあとの大雨で土砂崩壊を起こしたスギ人工林斜面台風による暴風被害で樹木が倒されたあとの大雨で土砂崩壊を起こしたスギ人工林斜面 ※土壌は非常に浅く、すぐに岩盤が現われている。
台風による暴風被害で樹木が倒されたあとの大雨で土砂崩壊を起こしたスギ人工林斜面台風による暴風被害で樹木が倒されたあとの大雨で土砂崩壊を起こしたスギ人工林斜面 ※適度な下草が生えている斜面でも土砂崩れが発生している。
財団法人 日本ダム協会 http://wwwsoc.nii.ac.jp/jdf/ ダム便覧 → 知識を深める・テーマ別ページ → ■ダムと森林 ■「緑のダム」があればダムは不要か ■森林の保水力には限界 国土交通省河川局 http://www.mlit.go.jp/river/index.html 重要課題への考え方を提案 オピニオン → ■「緑のダム」が整備されればダムは不要か ●「緑のダム」推進(ダム無用論) ●貯水機能は期待できないが、土砂崩壊防備機能があるのでダムの機能維持には森林が必要
ダムの建設 某環境NPOのホームページから抜粋ダムの建設 某環境NPOのホームページから抜粋 これまで世界中で多くのダムが建設されてきました。これからも多くのダムが造られることでしょう。 ダムを建設する目的のひとつに、水資源の確保(利水)があげられます。しかし実際には、ダムの建設そのものが水資源の枯渇と水質の汚染を引き起こすことがあるのです。 ダムが建設されるのは、非常に大きな保水能力がある森林地帯です。山間部に降った雨は、いったん森林に蓄えられます。根、幹、葉そしてスポンジ状の土は大量の水を保持することができます。つまり、森林地帯はそれ自体が巨大な自然のダムといえるのです。 蓄えられた水は、少しずつ地下水として流出し、渓流となり、それらが集まって河川となり、やがて海へと達します。この水は森林地帯の土壌を通過するとき、十分な栄養分を溶かしこんでいます。この栄養分があるからこそ、下流の農業と漁業が栄えることができるのです。 (以下、省略)
自然のダムと人工のダム 某環境NPOのホームページから抜粋 日本の森林の総貯水量は480億トンといわれています。これは、日本最大の貯水量を誇る奥只見ダム(6億トン)の80倍です。この自然のダムである森林地帯を切り崩し水没させ、巨大な人工のダムを造っています。 さらにダムの上流では建築材や紙を作るために大量の森林が伐採されています。このため上流で降った雨がむき出しになった土砂を洗い流してダムに流れ込みます。やがてダムは大量の土砂で埋まって使えなくなってしまうのです。 また、ダムでせき止められた水の水質が悪化します。もともと森林地帯であったダムの水には栄養分が多く含まれています。このため、たちまち富栄養化状態になり、藻が異常繁殖したり、赤潮が発生したりします。この汚れた水を・・・(以下、省略)
「緑のダム」があればダムは不要か? 次のキーワードを4つ以上含めて、科学的根拠にもとづく 自分の主張を展開しなさい。 ・損失雨量 ・土壌水分貯留量 ・土壌の浸透能(透水係数) ・土壌保水力(保水容量) ・ホートン型地表流 ・飽和型地表流 ・土壌クラスト ・直接流出量 ・基底流量