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Eco-Health project in Lao PDR. ラオス中南部のメコン川流域の農村 地域における漁労活動とタイ肝吸虫症. 生態史研究会 地球研 2008 年 10 月 10 日. 友川幸(広島大学 学術振興会特別研究員). 背景. ラオス中南部のメコン川流域では,淡水魚の捕獲が主要な生業となっており,同時にその摂取が日々の食生活において貴重な蛋白源となっている. 近年,メコン川の支流で捕獲されるコイ科の魚を生で摂取することで感染するタイ肝吸虫症が,深刻な公衆衛生上の問題となりつつある..
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Eco-Health project in Lao PDR ラオス中南部のメコン川流域の農村 地域における漁労活動とタイ肝吸虫症 生態史研究会 地球研 2008年10月10日 友川幸(広島大学 学術振興会特別研究員)
背景 • ラオス中南部のメコン川流域では,淡水魚の捕獲が主要な生業となっており,同時にその摂取が日々の食生活において貴重な蛋白源となっている. • 近年,メコン川の支流で捕獲されるコイ科の魚を生で摂取することで感染するタイ肝吸虫症が,深刻な公衆衛生上の問題となりつつある. ラオスの食文化を保持しつつ, タイ肝吸虫感染を予防する方法は・・・?
報告の内容 • 肝吸虫(タイ肝吸虫)とは? • これまでのタイ肝吸虫症研究のレビュー • これまでに門司プロで実施した調査 - 流行地の住民の魚の摂取状況 - 児童のタイ肝吸虫感染に関わる要因の同定 • 今後の調査・研究の課題
肝吸虫(Liver fluke)とは? 肝吸虫は,ヒト,イヌ,ネコなどの哺乳類を終宿主と して胆管に寄生する寄生虫の一種. ◆ 肝吸虫の種類 ・シナ肝吸虫(Clonorchis sinesis) 日本,中国,台湾,韓国,ベトナム ・ネコ肝吸虫(Opisthorchis felineus) ロシアと東ヨーロッパ ・タイ肝吸虫(Opisthorchis viverrini:Ov) タイ東北部,ラオスの中部および南部のメコン川流域 肝吸虫の流行地の分布
タイ肝吸虫(Opisthorchis viverrini: Ov)とは? 【感染原因】 メタセルカリアが寄生して いるコイ科の魚の生摂取 終宿主(ヒト) ※水や貝の摂取による感染の危険性はない 第2宿主 Ov 感染者から虫卵排出 メタセルカリア 第1宿主 ミラシジウム セルカリア (WHOラオス事務所作成のポスターを筆者が改変)
これまでのOv研究のレビュー • 感染状況の把握 ・感染者数:ラオスでは推定約200万人(1992年)・・・人口約500万人 ・流行地:タイ東北部,ラオス中部・南部のメコン川流域 ・感染率:流行地の成人の80%以上が感染(小学校児童:60%) ・感染の特徴:感染の開始時期⇒幼少期(小学校就学前) 感染強度⇒加齢とともに上昇,50代以降で女性<男性 再感染率⇒投薬治療後3ヶ月間で約20% • Ov感染の臨床症状と健康被害 ・臨床症状:初期には自覚症状なし ・健康被害:感染強度の増加とともに重篤な肝障害,肝硬変, 胆管癌,肝臓癌の発生リスクが上昇 ※肝臓がんは,タイのガンの中で一番多い
これまでのOv研究のレビュー • 感染に関わる要因の同定(人間にフォーカス) 魚の生摂取,トイレの不保持(サラワン県の13村を対象) 魚の生摂取習慣の有無とOV感染が関連 • メタセルカリアの寄生状況の把握(魚にフォーカス) メタセルカリアが寄生しているコイ科の魚の特定(約50種類) 寄生状況の季節差,魚種による差 • 保存・調理によるメタセルカリアの死滅状況の把握 加熱,塩漬け,酢漬け等の加工でメタセルカリアは死滅 • Ov感染による経済的損失の推定
Ov感染の対策活動の歴史と課題(タイ) ◆第2段階(1968-87年) 投薬による駆虫活動と,加熱調理法の実演,鍋の配布を行う予防教育を統合. →Ovの感染率を大幅に下げることに成功. ◆第1段階(1951-68年) 投薬による駆虫活動→Ovの感染率の低下には至らず ◆第3段階(1988年-現在) Ov感染の対策活動が国家の公衆衛生活動計画(1992-96年)に導入. 【目的】Ov感染に対する住民の認識の向上 【方法】300万人を超える住民に対する徹底した定期的な駆虫,住民の栄養状態 の改善,トイレの設置 →行政と住民の協働で,感染率が34.6%(1988年)→24.1%(1991年)に減少 ◆対策活動の課題 対象地域住民の便検査の提出状況が芳しくないこと 予防教育教材の不足および方法論の未確立の問題 駆虫後の再感染率が高いこと 伝統的な行事における魚を生で摂取する習慣の変容は容易ではないこと
Ov感染対策活動の歴史と課題(ラオス) ◆1989年(南部のコーン地域) 保健省とWHOが協力.児童対象の住血吸虫感染対策活動の一環 学校や地域の住民代表の協力により,大規模な駆虫活動と, 予防教育を実施→Ov感染率が低下 ◆1990年代後半(中部のカムワン県) Ov感染の対策活動を実施 投薬による駆虫後の再感染率が極めて高いことが判明 →感染の危険性の高い魚種の特定 感染の危険性の高い魚の調理法による魚の摂取の回避 ◆1990年代(小学校の保健衛生教育の中に導入) ◆現在 母子保健,マラリア・腸管寄生虫対策が公衆衛生活動の中心 →Ovi感染に対する対策活動は十分に進められていない
ラオスにおけるOv研究の課題 研究課題:人間×魚,調理法×メタセルカリア寄生している魚 どんな魚を?どんな調理法で?どのくらい?誰が? O.v感染の予防教育では,単に生魚の摂取を禁止するのではなく,疫学的根拠に基づく情報の提示と,社会・経済的,および人類学的見地からの検討をもとに,専門家によって十分に調査,実験された効果的な魚の調理法や,魚の保存技術が提案されるべきである(WHO1995). ◆生摂取とはどのような摂取法なのか? ◆生摂取されている魚がOv感染の危険性のある魚なのか? ◆幼少期からの感染が 認められているが・・・子どもの感染×要因 ・魚の摂取習慣とO.v感染との関係 ・Ov感染の危険性がある魚の摂取習慣とO.v感染との関係 ・O.v感染に影響を及ぼす社会・経済的要因 ・魚の生摂取に影響を及ぼす社会・経済的要因
これまでに門司プロで実施した調査 ◆2003-2004年 感染状況の把握 ・流行地の児童のタイ肝吸虫感染状況の把握 ◆2005年-2007年 健康教育のための情報収集 ・児童のタイ肝吸虫感染に関わる要因の検討 ◆2007年-2008年 健康教育のための情報収集 ・児童・教師のタイ肝吸虫感染に関するKAP ・児童の生魚の摂取に関するKAP
2003-2004年:流行地の児童のタイ肝吸虫感染状況の把握2003-2004年:流行地の児童のタイ肝吸虫感染状況の把握 流行地の児童の年齢別のO.v感染状況 (%) (n=729) (金田,2006)
児童のタイ肝吸虫感染に関わる要因の検討 ◆予備調査(半構造的な面接調査,魚の調理法の観察): Ov感染の危険性が高い魚の調理法とリスクフィッシュの選出 ◆本調査(ケースコントロールスタディ:構造的な面接調査): 1)社会・経済的状況 2)魚の入手状況 3)児童と親の魚の摂取習慣 4)親が与える影響(O.vに関する知識,意識など) 5)児童のリスクフィッシュの摂取習慣 1)-4)に関する項目と 児童のOv感染との関係 ラオス中南部の児童のOv感染に対する対策活動の提案
予備調査 対象地域における魚の調理法に関する調査(2006年2月) 方法:魚の調理法に関する半構造的な面接調査と調理の観察 WHO(1995)の報告( 50℃で5時間,70℃で30分間,80℃以上で5分間 ) に基づき,加熱の温度と時間により分類 ◆Ov感染の危険性のある魚の調理法 Koi-pa dip(魚肉を薄切り) 生調理 Laap- pa dip(魚肉をペースト状)
予備調査 対象地域におけるリスクフィッシュの選出(2006年3月) 方法:⇒文献検討(メタセルカリアが寄生している魚:46種を選出) ⇒精選(写真があり,学名とラオス語名が一致する魚:23種を選出) ⇒半構造的な面接調査(頻繁に生で摂取されている魚:9種を選出)
対象地域の住民が頻繁に生で摂取している魚の上位10種 リスクフィッシュ リスクのない魚 表中の○はあり,×はなし (n=118 頻繁に生で摂取していると回答した人の割合)
本調査:方法 ケースコントロールスタディ(2006年9月から12月) ◆対象者の選出 1.対象地域の全小学生730名を対象に便検査を2回実施 感染群:便検査①で便20mg中に20個 以上の虫卵を保有していた児童 非感染群:便検査①と②で2回とも虫卵を保有していなかった児童 2.感染群と非感染群を年齢,性別,居住地域 でマッチング 3.59ペア(男子30,女子29ペア),計118名の児童(5-16歳)を選出 ◆方法 対象児童の養育者(親)に対する構造的な面接調査 回答者の内訳:児童の母親:110名, 父親:1名, 祖母: 7名 平均年齢:感染群41.1±7.9歳,非感染群40.6±8.4歳(有意差なし)
本調査:方法 構造的面接調査の項目 1)社会・経済的状況と児童のOv感染の関係 家族の人数・性別,家畜・電気製品・衛生施設の保有数など 2)魚の入手状況と児童のOv感染の関係 釣りの頻度,場所,養殖池の有無と養殖魚の保有数など 3)児童と親に関する魚の摂取習慣と児童のOv感染の関係 魚の摂取頻度・摂取の好み,調理法別の摂取経験・頻度 4)児童のOv感染に親が与える影響 親のOvに関する知識,児童の魚の生摂取に関する親の意識など 5)児童のリスクフィッシュの摂取習慣と児童のOv感染の関係 リスクフィッシュ(9種)の調理法別の摂取経験と摂取頻度,好みなど
本調査:結果 社会・経済的状況,魚の入手状況と児童のO.v感染の関係 Wilcoxonの符号付順位検定
本調査:結果 感染の有無別の魚の摂取頻度
本調査:結果 児童に関する魚の調理法別の摂取経験 (摂取経験があると回答した児童の人数 ) Mc Nemar の検定 学童期からすでに多くの児童が魚を生で摂取している 生調理での摂取経験のある児童のOv感染の危険性は6.60倍
本調査:結果 児童と親の魚の調理法別の摂取頻度 (1ヶ月あたりの摂取日数 ) Wilcoxonの符号付順位検定 親子ともに生調理での摂取頻度に関してのみ両群間に有意差あり
感染の有無別の魚の生摂取の好み P<0.001 P<0.001
本調査:結果 親のO.v感染に関する知識と危機意識 (ある,知っている,思うと回答した人数の割合) Mc Nemar の検定 全項目で有意差なし
本調査:結果 児童のO.v感染に影響を及ぼす要因 (多重ロジスティック回帰分析:尤度比による変数増加法)
本調査:結果 リスクフィッシュに関する児童の調理法別の摂取経験 有意差あり:6種 有意差あり:1種 生調理 加熱調理 * * * * * * * (摂取経験があると回答した児童の数) P<0.05 ■ 感染群(n=59)■ 非感染群(n=59) *
メタセルカリアの寄生の有無別の魚の生摂取状況とOv感染メタセルカリアの寄生の有無別の魚の生摂取状況とOv感染 • スイスチームのデータとの比較
どんな魚が危ないか? • ロジスティック回帰分析の結果 Pa-xiew ao(Raw eating rate 43%) Pa-xiew ao(Raw eating rate 33%)
本調査:考察 【文化的背景】 男性が漁労活動を行う 考察 【経済的状況】 バイクや冷蔵庫の 所有数が少ない (現金収入が少ない) 【魚の入手状況】 頻繁に 漁労活動を行う 【社会的状況】 家族の人数や 男性の人数が多い 【魚の生摂取習慣】 頻繁に魚を摂取する 児童が魚を 生で摂取する ことを好む 【親の影響】 親が頻繁に魚を生で 摂取する 親が魚を生で摂取 することを好む 児童が魚を 生で摂取した経験がある 生で頻繁に摂取する 単にリスクフィッシュを 摂取することではなく 生で摂取することが 児童のOv感染に関連する リスクフィッシュを 生で摂取する 児童のOv感染
本調査:結果のまとめ 結果のまとめ 1)現金収入の少なさ,頻繁な漁労活動がOv感染に影響 ⇒漁労活動を頻繁に行う住民への予防教育 2)学童期からの頻繁な魚の生摂取がOv感染に影響 ⇒魚の生摂取習慣が定着する前の乳幼児を持つ親への予防教育 3)児童の魚の生摂取に親が与える影響が大きい ⇒児童とその親の双方を対象にした予防教育 4)児童のリスクフィッシュの生摂取がOv感染に関連 ⇒感染の危険性の高い魚種や調理法の通知,加熱調理の推奨 Ov感染の危険性を知る,リスクフィッシュを知る,見分ける,生摂取する魚を選ぶなど 5)頻繁な漁労活動,リスクフィッシュの生摂取がOv感染に関連 ⇒予防教育育教材の開発に住民の知識(魚の特徴や調理法)を活用 ラオスの食文化を保持しつつ,Ov 感染の回避を目指す
今後の調査・研究の課題 魚の生摂取 メタセルカリアが 寄生した魚 ◆どのような調理をすれば メタセルカリアを死滅させる ことができるか? ◆どんな人がよく魚を生で 摂取しているのか? ◆どんな魚をいつ,どこから,ど のように捕獲しているのか? ◆どの魚にメタセルカリアが 寄生しているか? (魚の大きさ,季節, 捕獲場所による違い等) 予防知識・技術の普及 ◆誰に,何を,どこで,いつ,誰が,どのように? トイレの普及 / 治療システムの確立
ありがとうございました. 【連絡先】 友川幸 sachitjp@hotmail.com