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「そんな」や「なんか」はなぜ低評価に偏るか?. 経験基盤的ヒエラルキー構造 からの説明. 中俣尚己 NAKAMATA Naoki (京都外国語大学) n_nakama@kufs.ac.jp. 1. はじめに. 本発表で扱う対象 語義として低評価の意味を持っていないにもかかわらず,使用されると事態全体に対して低評価の判断を下すという意味に偏る日本語の機能語 ( 1 )a. そんな 宝物, 価値がない 。 b.?? そんな 宝物, 価値がある 。. 同様の例. a. その程度 のことは, 私でもできる。 b.?? その程度 のことは, 私にはとてもでき
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「そんな」や「なんか」はなぜ低評価に偏るか?「そんな」や「なんか」はなぜ低評価に偏るか? 経験基盤的ヒエラルキー構造からの説明 中俣尚己 NAKAMATA Naoki (京都外国語大学)n_nakama@kufs.ac.jp
1. はじめに 本発表で扱う対象 語義として低評価の意味を持っていないにもかかわらず,使用されると事態全体に対して低評価の判断を下すという意味に偏る日本語の機能語 (1)a.そんな宝物,価値がない。 b.??そんな宝物,価値がある。
同様の例 a.その程度のことは,私でもできる。b.??その程度のことは,私にはとてもでき ない。 a.の低評価性は,「その」と「程度」の意味からは合成的に説明できない。
さらに…… 日本語には使用において低評価に偏る減少が,品詞カテゴリーを越えて確認される。 連体詞「そんな」 とりたて助詞「など」「なんか」「ばかり」 並列助詞「だの」「やら」「や」 終助詞「し」 →統一的な説明,予測的な説明
本発表の構成 1. はじめに 2. 「そんな」と経験基盤的 ヒエラルキー構造 3. 他形式への適用 4. おわりに
2. 「そんな」と経験基盤的ヒエラルキー構造2. 「そんな」と経験基盤的ヒエラルキー構造
低評価の例 (2) お年寄りがこれからの人生に悲観して自殺してしまうそんな世の中が果たして本当に理想の未来なのでしょうか (CSJ S06F0226) 名詞句自体が低評価
低評価の例 (3) マリンブルーコバルトブルーサファイアブルートルコブルーいつ行っても違う海の色に出会いますそんな海の色もいつかは消えてしまうのか(『日本語話し言葉コーパス』S04F0040) 名詞句は低評価ではないが,後の命題全体が低評価
高評価の例 このディズニーワールドは子供は勿論大人から大人もそして女性も男性もそれぞれが本当に心から楽しんでるという感じがこっちに伝わってきますそんな人達からパワー貰い夢の世界を体験した私達は益々ディズニーがそして(Fあの)アメリカがそして勿論人が大好きになりました『日本語話し言葉コーパス』S01F0050
評価なしの例 もう春の段階でもう高校生達と一緒にもう野球の練習に参加させていただいておりましたでそんな春の三月の末ぐらいのことだったと思います 『日本語話し言葉コーパス』S02M0092
2.2 先行研究 • 鈴木(2006:94) 「そんなX…」文の基本的な機能:「そんなX」文は,先行文脈で述べられたところの性質・特徴を持つ事物Xを表し,その性質・特徴を,何らかのより一般化された概念としてまとめあげる働きをする。指し示された性質・特徴の他に,それと類似の性質・特徴も暗に示されることになる。「そんなX…」文では「そんなX」にまつわる何らかの言述が行われる。
本研究において重要なポイント 1.「そんな」は先行文脈で述べられた事物の属性に注目する 2.まとめあげ,つまり集合化が行われる
集合化とは? a. 太郎が持っている,そのカバンがほしい。 b. 太郎がもっている,そんなカバンがほしい。 a.では太郎が持っているカバン自体を「その」が指し示しているのに対し,b.では太郎が持っているカバンから何らかの属性が抽出され,その属性を持つカバンの集合を指し示している。(b.は同じカバンでなくてもよい)
否定的意味のメカニズム? • 「そんなX…」文における「そんなX」に「価値・意味がない」という否定的な感情・評価的意味が伴う場合:「そんなX」は,先行文脈で述べられたところの性質・特徴を持つ事物Xを表す。指し示された性質・特徴の客観的なプラス・マイナスの価値に関わらず,それは話者から見て,何らかの意味で価値・意味がないものとして一般化され,まとめあげられる。(鈴木2006:102)
疑問:なぜ「低」評価なのか? 評価にはプラスもマイナスもあるのに,なぜ「低い」ほうにまとめあげられるのか?
疑問:「その程度」 「その程度の」「そのぐらいの」の低評価性をどう説明するか?
2.3 経験基盤的ヒエラルキー構造 • 「そんな」のキーワード,「属性」と「集合化」から必然的に低評価が生まれるプロセスを考える。 • →経験基盤的ヒエラルキー構造
上位にあるもの 下位にあるもの 我々の経験に基づく,「上位にあるものは数が少なく,下位にあるものは数が多い」 という知識
国王 貴族 平民
社長 重役 平社員
ヒエラルキーの下層にあるもの = 数が多い 集合化することでヒエラルキー下層というレッテルを貼ることが可能になる →低評価
「そんな」の機能 事物の属性に注目し,それと同様の属性をもつ事物を集合化する働き ここに経験基盤的ヒエラルキー構造が適用される 「ヒエラルキー下層にある属性である」という意味が読み込まれてしまう。→低評価
「その程度の」の機能 事物の属性に注目し,それと同様の属性をもつ事物を指す。ただし,特定の事物ではなく,その属性をもつ事物は一つとは限らない。
「その程度の」の機能 事物の属性に注目し,それと同様の属性をもつ事物を集合化する働き ここに経験基盤的ヒエラルキー構造が適用される 「ヒエラルキー下層にある属性である」という意味が読み込まれてしまう。→低評価
この説明の利点 低評価の意味はあくまでも集合化のプロセスとその背後にある経験基盤的ヒエラルキー構造から生まれるので,「その」「程度」の語義に求める必要はない。
3. 他の形式への適用 2.で述べたことは「そんな」がなぜ低評価の意味に偏るかを説明するために作り出された一仮説にすぎない。そこで,本研究では低評価の意味の発生メカニズムをもう少し一般的な形で規定し,その条件に当てはまる他の形式にも応用が利くことを予測的に示す。
仮説の提案 (4) ある語が「属性に注目し,同様の事物を集合化する」という機能を持つ時,経験基盤的ヒエラルキー構造の影響から低評価の意味を獲得する。
属性に注目しなければ,集合化しても低評価にはならない属性に注目しなければ,集合化しても低評価にはならない a. 子供が遊んでいる。 b. 子供たちが遊んでいる。 先生+学生のグループでも使える 先生たちはまだ?
仮説の提案 (4) ある語が「属性に注目し,同様の事物を集合化する」という機能を持つ時,経験基盤的ヒエラルキー構造の影響から低評価の意味を獲得する。
3.1. 「なんか」「など」 (5) 本当は合併なんかしたくないんだ。(『毎日新聞』2002年2月15日朝刊) (6) やっぱりみんなはその候補を見に来ているので私など眼中にないのは分かっていながらも(Fあの)誰よりも緊張していたような感じでした(CSJ S01F1221)
「なんか」「など」の機能 「なんか」「など」は複数化の機能をもつ a.コーヒーはいかがですか? b.コーヒー{なんか/など},いかがですか? • 選択肢が他にもあり,コーヒーはグループの中の一要素 • その選択肢とは「食後に飲むような液体」であり,カレーやスパゲッティとは考えられない • つまり,前の要素の属性に注目し,その属性をもつ他の要素を暗示させる
「なんか」「など」の機能 事物の属性に注目し,それと同様の属性をもつ事物を集合化する働き ここに経験基盤的ヒエラルキー構造が適用される 「ヒエラルキー下層にある属性である」という意味が読み込まれてしまう。→低評価
3.2 「ばかり」 (7)a. 昨年はメディアで国際政治学者や軍事評論家ばかりが目に付いた。専門知識に裏付けられた言論は必要だが、門外漢がモノを言いにくい雰囲気もあったように思う。 (『毎日新聞』2002年1月6日朝刊) b.昨年はメディアで国際政治学者や軍事評論家だけが目に付いた。
わかりやすい例 (8)a. 実力ばかりがものを言う業界 b. 実力だけがものを言う業界
「ばかりに」 接続助詞化した「ばかりに」は必ず後に低評価の事態が来る(グループ・ジャマシイ1998) (9)a.勉強をさぼったばかりに,合格しなかった。 b.?勉強をさぼっただけに,合格しなかった。 c.*頑張って勉強したばかりに,合格できた。 d. 頑張って勉強しただけに,合格できた。
「ばかり」の機能 「複数性の制約」 {男/*僕}ばかりが暮らすアパート (茂木2002:173) 「ばかり」は,自者名詞句が表す事物と述語との叙述関係によって捉えられる事柄を一つ一つ数え,その数が多いことを表す。 (茂木2002:73)
「ばかり」は探索の集合 定延(2001)によれば,「ばかり」は探索の集合。 挙げられた要素が複数回探索されることで,その要素が複数化,集合化される。
男ばかりが住むアパート 住人 住人 住人 男だ! また男だ! 少なくとも要素が「男である」という属性をもっているかどうかは注目している。 男の集合
「ばかり」の機能 事物の属性に注目し,それと同様の属性をもつ事物を集合化する働き ここに経験基盤的ヒエラルキー構造が適用される 「ヒエラルキー下層にある属性である」という意味が読み込まれてしまう。→低評価
3.3「だの」「やら」「や」 「だの」の低評価性は語彙的意味として定着。 「~だの~だの」は話者が当該の事態を望ましくないもの,または心理的に距離のあるものとして捉え述べる際に,その例となる顕著な事物を並立的に列挙し例示する働きをする。 (鈴木2004:69)
「だの」 (10) 愛だの恋だの{くだらない/?すばらしい}。 だから世間の大部分の人は、悪くならなければ社会で成功はしないと信じており、たまに正直で純粋な人を見ると、坊っちゃんだの小僧だのと軽べつする。(『毎日新聞』2002年2月8日朝刊)
「やら」 (11) 「初物」のとまどいやら,慣れ親しんだ独・伊と異なる英語テキストの歌いにくさやらもおそらくあって,なお手探りの感触も残る演奏ではあったかも知れない。 (『毎日新聞』2002年3月12日夕刊)
「やら」 こうして,「やら」は「と」や「や」と比べて,おおくのばあい否定的な評価をおびているといるだろう。 (沈1996:33)
「や」 「や」は普通の名詞に接続した時は特に低評価の意味はもたないが,数量詞に接続した場合に「少ない」という意味に偏る。
「や」 (12) 2度や3度見直した{くらいでは不十分だ/?から十分だ} 数が増えても「少ない」という評価。 a. 100万や200万は{はした金だ/問題なく払える}。 b.?100万や200万は{大金だ/とても払えない}。
「だの」「やら」「や」の機能 「だの」「やら」「や」は中俣(2009)によれば属性に注目して名詞句を並列する働きをもつ。 「や」の使用条件は聞き手が要素間に共通の属性を発見できることである。「や」は集合の外延ではなく,内包に注目する形式であるといえる。 (中俣2009)
属性に注目することの証拠 a. 今からぞうきんかけるから,机の上のティッシュの箱{や/やら}クッキーを片付けて。 b.??初めまして。ボランティア{や/やら}遊びが大好きです。よろしくお願いします。 a.は邪魔という属性が読み取れる。
「だの」「やら」「や」の機能 事物の属性に注目し,それと同様の属性をもつ事物を集合化する働き ここに経験基盤的ヒエラルキー構造が適用される 「ヒエラルキー下層にある属性である」という意味が読み込まれてしまう。→低評価
3.4 「し」 関西方言における終助詞化した「し」 (13)a. うーわ,水漏れしてるし! b. ?うーわ!宝くじあたってるし! 終助詞化した「し」は驚き,発見を表すが, この時低評価に偏りやすい。 (※年齢差あり)