1.09k likes | 1.38k Views
薬剤疫学. 日本薬剤疫学会. 1. 薬学の中の薬剤疫学 薬物療法の変遷とこれからの 薬剤師職能の展開. 薬物療法の過去. 医師の独自の裁量により医薬品が選択され、患者は医師の指示通りに使用する 薬剤師による医薬品情報活動により、より客観的な薬物療法が行われるようになった 患者の自己決定権、セカンドオピニオンの採用、医療訴訟などを背景にインフォームドコンセント(説明、理解と同意)のもとに薬物療法が行われるようになってきた. 薬物療法の現在. 医薬品の適正使用が定義され、薬物療法は医師、薬剤師ならびに患者が参加して行われることとされた。 医師は患者に適切な医薬品を選択する。
E N D
薬剤疫学 日本薬剤疫学会
1.薬学の中の薬剤疫学薬物療法の変遷とこれからの薬剤師職能の展開1.薬学の中の薬剤疫学薬物療法の変遷とこれからの薬剤師職能の展開
薬物療法の過去 • 医師の独自の裁量により医薬品が選択され、患者は医師の指示通りに使用する • 薬剤師による医薬品情報活動により、より客観的な薬物療法が行われるようになった • 患者の自己決定権、セカンドオピニオンの採用、医療訴訟などを背景にインフォームドコンセント(説明、理解と同意)のもとに薬物療法が行われるようになってきた
薬物療法の現在 • 医薬品の適正使用が定義され、薬物療法は医師、薬剤師ならびに患者が参加して行われることとされた。 • 医師は患者に適切な医薬品を選択する。 • 薬剤師は患者に用法、用量、予想される副作用を説明する。 • 患者は説明を理解した上で指示通りに使用して、その結果を医師に報告する。医師はそれに基づいて処方を修正する。
薬物療法の将来 • 「個の医療」の展開 • 薬物動態学、薬力学さらにゲノム薬理学の研究の発展により、患者個人の遺伝子解析による薬物代謝酵素の解析が行われ、より適切な医薬品の選択、投与法の指示が可能となる • 医師の処方設計を支援し、同時に患者に服薬指導を行う薬剤師の存在は必要不可欠なものとなる
薬剤師機能の展開 • 医療法、薬事法、薬剤師法がこの3年間で順次改正され、その方向はすべて良質で安全な医療における薬剤師の機能を期待したものである • 医療用医薬品のみでなく一般用医薬品においても来局者への説明責任が課せられ、薬剤師の機能は技術面は当然であるが患者や来局者への適切な情報提供も重要な部分を占めることとなる
薬剤師機能の展開 2 • 薬剤師は医療機関での薬物療法を処方せんに基づいて薬剤疫学的な解析により有効性を立証することが可能となる • 将来の薬剤師は特定医師の、特定医療機関の医薬品使用実態を薬剤疫学的に解析する能力を備える必要がある
薬剤師機能の展開 3 • 法的にも、機能を支える技術面での発展を自らの機能に活かせる薬剤師の教育が必要となってきている • 薬学教育が6年制となって卒業生は即戦力として期待されている • 薬学教育の充実の必要性が指摘されているが、その中でも薬剤疫学の知識と実際に解析できる能力を身につけさせることは必要である
薬剤師機能の展開 4 • 薬剤師は薬剤師機能の発揮に最善の努力をする必要がある。 • 薬剤師法第8条が改正されて罰則規定が設けられた。 • 戒告、業務停止、免許取り消し • その中に「知識・技術の欠如による過失」に対しても罰則が適用されることとなっている • 薬剤師はUPDATEな知識・技術の獲得と実行に努めなければならない
薬剤師の職能と薬剤疫学 • 薬剤疫学は、「人の集団における薬物の使用とその効果や影響を研究する研究領域」 • 医薬品の開発、使用実態調査、有効性や安全性を評価する方法論や技法を修得するもので、その結果からより有効な医薬品の選択を可能とするものである。 • 薬剤師の大きな武器となりうる。
日本薬剤疫学会 薬剤疫学領域の研究発展およびその成果の普及を図ることを目的とする。 ホームページ:http://www.jspe.jp/index.html 【理事長挨拶】薬を安全かつ効果的に使用するためには、薬の承認前はもとより市販後についても法制度の整備が欠かせません。よりよい制度作りには薬剤疫学研究の成果が不可欠です。疫学研究を専門とする医師、薬剤師、統計家はもとより、より多くの医療関係者の学会への参加を願ってやみません。
薬剤疫学とは 「人の集団における健康の状況あるいは健康に影響する事象の発生を取り上げ、その分布および規定因子を研究して健康問題の制御に応用する学問」
薬剤疫学の目的・意義 「健康問題の制御」 → リスクを小さく、ベネフィットを大きくする医薬品の使い方 →適正使用の確立 市販後医薬品の使用を適正化すること
Strom教授の定義 「人の集団における薬物の使用とその効果や影響を研究する学問」 意味:市販後医薬品の使用実態を研究し、有効性と安全性を評価する
市販前の臨床試験の限界 • Five “TOOs” • 症例数が少ない(Too Few) • 投薬方法が単純(Too Simple) • 投薬期間が短い(Too brief) • 対象者の年齢制限(Too median-aged) • 特殊な患者の除外(Too Narrow) 市販後の有効性、安全性を予測するためには不完全
市販後の調査の重要性 • 市販前に不十分であった有効性と安全性の評価を補う • 使用実態における有効性と安全性の状況を評価し、監視する。 • どのような人の集団に使われているか。 • その集団での有効性と安全性の評価をする。 • 薬剤疫学の考え方と方法論が有効となる。
Pharmacovigilance • Pharmacovigilance:医薬品安全監視 • 「医薬品の有害作用又は関連する諸問題の検出、評価、理解及び防止に関する科学及び活動」 • 医薬品が使用されて医療現場で使用されつと新たな情報が生まれ、それは医薬品のベネフィット又はリスクに影響する可能性がある。
Pharmacovigilanceと薬剤疫学 • 疫学的手法は、対象集団における有害事象の評価における主要な方法である。 • 薬剤疫学研究、特に観察(非介入)研究は、医薬品安全性監視の重要な方法である。 • 観察研究デザインの主なものに、断面的研究、症例対照研究及びコホート研究(後向き及び前向き研究)がある。
Pharmacovigilanceと薬剤疫学(2) • 医薬品安全性監視活動によって得られた情報の評価は、医薬品の安全な使用を保証するために必須である。 • 医薬品使用者へ適切にフィードバックを可能にする医薬品安全性監視によって、患者のリスクを低減することによってベネフィットとリスクのバランスを改善することができる。
安全性研究と有効性研究 • 安全性研究:「有害事象」の発生を調査して、使用者集団の発生率の上昇を検出する。 • 有効性研究:長期使用に伴う合併症発生率の低下を検出する。(長期予後問題) • いずれも、集団を対象とした薬剤疫学研究
薬剤疫学研究の対象集団 • 一般に「有害事象」の発生率はごく低い • 多数の人の集団が必要 • 無作為に比較群を設定できない • 比較に用いる集団にバイアスが存在する 薬剤疫学研究では • 集団のバイアスを極力少なくする。 • バイアスを考慮して解析する方法を用いる。
薬剤疫学の二つの側面 • 疫学的側面(適切な実験デザイン) • 統計学的側面(適切な統計解析) これまでの結果を正確に読む(論文を批判的に読む)ためにも必要
疫学研究の分類 • 記述疫学と分析疫学 • 記述疫学:有害事象の頻度の記述 • 分析疫学:特定のリスク要因(曝露、薬剤)と特性のアウトカム(有害事象)との関連性に関する仮説の検討 • 観察研究と介入研究(実験研究) • 観察研究:研究者は介入せず観察する • 介入研究:研究者の管理下である種の実験的介入
3.1 記述疫学 • 有害事象などの頻度の記述 • 性別、年齢などの人口学的変数で定義された集団間で比較されることが多い • 有害事象ケースの集積 • 有害事象のリスク要因を発見する第一歩
3.2 分析疫学 • 仮説の検証のため • 特定の薬剤などと特定の有害事象の因果関係 • 薬剤による合併症予防効果 • リスク要因とアウトカム発生の関連性の検証を目的とする
3.3 分析疫学の方法論コホート研究と症例対照研究3.3 分析疫学の方法論コホート研究と症例対照研究
コホート研究 • リスク要因に曝露している群と曝露していない群に分ける。 • 両群をある期間にわたって追跡する • アウトカムが発生するかどうかを観察する。 • 曝露群と非曝露群で発生頻度や累積発生率を比較する。 相対リスク、寄与リスクを求めることができる。
コホート研究 • 定義した対象集団から抽出した標本(コホート)を追跡、観察して健康事象の発生を記述する、疫学的手法 追跡 曝露群 イベント発生率 比較 非曝露群 イベント発生率 現在未来 過去 現在
前向きコホート、後ろ向きコホート • 前向きコホート:現在から追跡を開始する • 後ろ向きコホート:過去に追跡開始時点があり、現在に向かって追跡する。 • 過去に曝露に関する正確な記録があるときに可能
閉じたコホート、開いたコホート • 閉じたコホート:定義された対象集団から曝露群、非曝露群が設定されてアウトカムの発生について追跡が開始する。 • 開いたコホート:標本は調査開始時には固定されず、調査期間途中で対象者が出入りする。
ケースコントロール研究 • アウトカムを発生した群(ケース群)と発生しなかった群(コントロール群)にわける • 問題となるリスク要因の曝露歴を調査 • 両群の曝露率を比較する 発生率や累積発生率は求められない。 発生率が低い場合は、オッズ比が近似値となる コホート研究よりもバイアスの影響を受けやすい。
ケース・コントロール研究デザイン 曝露あり 曝露なし 過去の曝露 の有無を調査 ケース群 アウトカムの発生あり 曝露あり 曝露なし コントロール群 アウトカムの発生なし オッズ比の計算 過去 現在
対象集団の設定 • 対象集団の設定の仕方で研究の質は大きく異なる。 • 対象集団が明確に定義できない場合は、バイアスが混入している可能性が高い • ケース・コントロール研究はコホート研究の枠組みで行うとよい。(コホート内ケース・コントロール研究)
コホート内ケース・コントロール研究 • ネステッド・ケース・コントロール研究(nested case-control study) • ケース・リファレンス研究(case-reference study) • ケース・コホート研究(case-cohort study) • コホート内でケースが発生した時点でケース外の全コホートから、性別や年齢などをマッチングさせて1~数名のコントロール群を無作為に抽出して選択する。
その他の分析疫学的手法断面研究と生態学的研究その他の分析疫学的手法断面研究と生態学的研究 • 断面研究:定義された対称集団で、ある時点でのアウトカムの状態と曝露の状態の関連性を調査 • アウトカムと曝露との時間的な関係を確かめられない。 • 生態学的研究:復習の集団出の曝露の測定値と複数の集団でのアウトカムの測定値との相関を調査 • 因果関係を検討するには弱いデザイン
3.4 介入研究(実験研究) • 研究者の介入による群間比較 • 無作為化を行うと研究の質が上がる。 • 無作為化比較試験(Randomized Controlled Trial:RCT)はバイアスや潜在的誤差が入りにくいデザイン • 問題点 • 労力と費用がかかる • 倫理的問題(リスク要因が有害事象、有効性が低い方法と比較する場合)
無作為化群間比較試験の構造 被検薬群 介入 前 後 臨床試験の対象集団 標本集団 比較可能性 無作為 割り付け 選択基準 除外基準 前 後 一般可能性 対照薬群 二重盲検法 統計解析 目的とする集団
群間比較試験で重要な要素 • 無作為化:比較対象とする群間の比較可能性の確保 • 二重盲検化:試験実施中のバイアス混入の防止 • 統計解析:観察された差の偶然変動が小さいことの保証
3.5 エンドポイント • 一次エンドポイント(主要評価項目) • 試験の目的そのもの • 検証し、確認されたことは事実として認識される • 二次エンドポイント(副次評価項目) • 一次エンドポイント以外に探索的に検討する項目 • 事実として認識されず、示唆にとどまる
エンドポイント • 真のエンドポイント • 主要評価項目のイベントの発生(たとえば、心筋梗塞、脳卒中など) • 代用エンドポイント(サロゲート・エンドポイント) • 主要評価項目のイベントの発生がまれで結果を得るのに時間がかかる場合に用いられる(不整脈を心筋梗塞の代用エンドポイントに用いる) • 代用エンドポイントは真のエンドポイントとの関連性が強いことが明らかであること
4.1 頻度の測定 • リウマチ薬副作用で134人死亡(Asahi.com:2005/02/12) • これだけでは重大な副作用かどうかを判断できない。 【他に必要な情報】 • この薬は何人くらいに使われたのか • この薬はどのような患者に使われているのか • 重篤な疾患、高齢者など • 死亡報告の仕方 • 他の類薬での死亡は
状態の頻度についての指数 • 時点有病率(point prevalence) ある時点での有害事象を持っている人の割合 • 期間有病率(period prevalence) ある期間の間で有害事象を持っていた人の割合
発生の頻度についての指数 • 累積発生率(cumulative incidence rate) 定義された集団において有害事象を発症した人の割合 • 発生率(incidence rate) 定義された集団での有害事象を発生した新ケース数をその集団の全ての人が経験した時間の合計で割った値
4.2 頻度の比較 • 適切な比較対照群を設定して比較することで有病率や発生率が多いのか、少ないかを評価できる。 • 考えている集団を「曝露群」、比較対象となる集団を「非曝露群」とする。
相対リスク(relative risk: RR) 曝露群と非曝露群の発生頻度の「比」 • 累積発生比(cumulative incidence rate ratio) • 単にリスク比(risk ratio)ともいう • 発生率比(incidence rate ratio)
オッズ比(odds ratio: OR) • 累積発生率の近似値として用いられる • 有害事象の頻度がまれな場合はオッズ比は累積発生率比のよい近似値となる。
寄与リスク(attributable risk: AR) 曝露群と非曝露群との発生頻度の「差」 • 累積発生率差(cumulative incidence rate difference) • 発生率差(incidence rate difference)