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医療資源の偏在が北海道中頓別町における 患者の受診行動と医療費に与える影響について ~過去 5 年間における国民健康保険レセプトデータに基づく実証分析~. 青山学院大学・国際マネジメント研究科 2008 年 11 月 26 日 国立社会保障・人口問題研究所 野口晴子. 本研究における問題意識. 地域医療崩壊の背景の 1 つとして、過疎地や不採算部門への医療サービスの提供、高度先進医療や地方への医師派遣など、民間医療機関では提供が困難な医療サービスの供給拠点として、これまで中心的役割を担っていた自治体病院が経営困難に陥っているという事情がある。
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医療資源の偏在が北海道中頓別町における患者の受診行動と医療費に与える影響について~過去5年間における国民健康保険レセプトデータに基づく実証分析~医療資源の偏在が北海道中頓別町における患者の受診行動と医療費に与える影響について~過去5年間における国民健康保険レセプトデータに基づく実証分析~ 青山学院大学・国際マネジメント研究科 2008年11月26日 国立社会保障・人口問題研究所 野口晴子
本研究における問題意識 • 地域医療崩壊の背景の1つとして、過疎地や不採算部門への医療サービスの提供、高度先進医療や地方への医師派遣など、民間医療機関では提供が困難な医療サービスの供給拠点として、これまで中心的役割を担っていた自治体病院が経営困難に陥っているという事情がある。 • 平成18年6月15日に成立した「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」により、とりわけ既に財政状況が悪化している地方において、自治体病院の経営悪化は地方財政に更なる負荷をかける。 • 地域医療の崩壊(本稿では、自治体病院の閉鎖)と一概にいっても、地域住民に対するその影響の深刻度は、当該地域及びその周辺部における医療資源の集中度や日常的な住民の受診行動パターンにより大きく異なる。 • また、住民間でも個人属性によりその影響は異なる。
研究の目的 • 北海道中頓別町における国民健康保険レセプトデータ(以下、国保レセプトデータと略す)を用いて、中頓別を中心とした広域地域における医療資源の偏在が患者の受診行動と医療費に与える効果を定量的に検証する。 • 仮に中頓別町内に医療機関が無かった場合、患者の受診行動と医療費にどういった影響があるかについて単純なシミュレーションを行う。
分析の方法(1)-操作変数法による二段階推定 ①第1段階では、患者の受診行動を示す指標として、中頓別町内における患者の居住地区から受診した医療機関までの直線距離(d)を用い、従属変数とする(距離関数)。 ②推計を行うに当たり、患者の居住地区は患者属性に関わり無くランダムに配置されていると仮定して、患者の居住地区から町内の医療機関が集中する中頓別地区までの直線距離(r)を第1段階における操作変数とする。 ③ Zは、r、及び、医療資源を中心とした地域と患者の属性(第2段階(2)におけるX)を含む説明変数である。πはそれぞれの説明変数について推定される係数群であり、vは第1段階における誤差項である。
分析の方法(2)-操作変数法による二段階推定 ①第2段階では、 (1)から導出された患者の移動距離の推定値( )を説明変数として投入し、医療費と診療実日数(y)に与える効果を検証する。 ②yは、患者の1ヶ月当たり診療報酬合計点数、1ヶ月当たり診療実日数、1日当たりの診療報酬点数の3つを用い、それぞれの従属変数についての回帰分析を個別に行う。 ③βはそれぞれの説明変数について推定される係数群であり、 は患者の移動距離に対する推計値、εは第2段階における誤差項である。 ④操作変数の有効性:
分析の方法(3)-患者の移動距離に対する仮説 • 患者の移動距離( )が長くなるほど、医療サービスの需要に伴う機会費用としての通院時間は長くなるが、これはもっぱら患者側の負担する移動コストであって、医療費を示す診療報酬点数に直接的には反映されない。 • しかし、入院であれば家族による世話や見舞いにかかる機会費用が増加し入院日数を短縮し、入院外であれば通院回数を減らそうとするかもしれない。 • 入院日数や通院回数の減少は1日又は1回当たりの診療内容を密にし、自動的に1日又は1回当たりの医療費を引き上げる可能性がある。 • あるいは、患者の移動距離( )の長さは、患者がより質の高い医療資源を求めた結果の行動であるとするならば、入院日数や通院回数が減る以上に1日又は1回当たりの医療費が増加し、総医療費を引き上げることになる。 • さらに、移動距離の機会費用は入院よりも入院外における方が高いと考えられる。
分析で用いるデータ(1) • 北海道宗谷地区枝幸郡中頓別町における5年間(2003年4月1日-2007年3月31日)の国保レセプト(N=84,364)のうち、病院及び診療所での受診レセのみ(N=58,390)を対象 • <除外サンプル>薬局(N=19,196)、歯科(N=5,338)、針灸・整骨院(N=1,209)、住所など受診医療機関属性が特定できないサンプル(N=22,487) • 分析対象となるのは、延べで入院レセ数が2,069(入院レセ総数3,874:利用率53.4%)、入院外レセ数が34,065(入院外レセ総数80,490:利用率42.3%)である。
分析で用いるデータ(2) • WAM NET(www.wam.go.jp)の病院・診療所情報 ①患者の居住地区から受診した医療機関(住所)までの距離 ②医療機関の一般病床数(病院or有床・無床診療所) ③医療機関の救命救急入院料の有無 ④医療機関の特定集中治療室管理料の有無 ⑤検査・治療・手術に関する基準の有無
分析で用いるデータ(3) ⑤検査・治療・手術に関する基準の有無=>主成分得点 <検査>心臓カテーテル法による諸検査の血管内視鏡検査、画像診断管理加算1、画像診断管理加算2、遠隔画像診断、ポジトロン断層撮影(PET)、単純CT撮影及び単純MRI撮影、特殊CT撮影及び特殊MRI撮影 <治療>心大血管疾患リハビリテーション料(I)、心大血管疾患リハビリテーション料(II)、脳血管疾患等リハビリテーション料(I)、脳血管疾患等リハビリテーション料(II)、運動器リハビリテーション料(I)、運動器リハビリテーション料(II)、呼吸器リハビリテーション料(I)、呼吸器リハビリテーション料(II) <手術>内視鏡下椎弓切除術、内視鏡下椎間板摘出(切除)術(後方切除術に限る)、脳刺激装置植込術、頭蓋内電極植込術又は脳刺激装置交換術、脊髄刺激装置植込術又は脊髄刺激装置交換術、経皮的冠動脈形成術(高速回転式経皮経管アテレクトミーカテーテルによるもの)、経皮的中隔心筋焼灼術、ペースメーカー移植術、ペースメーカー交換術、両心室ペースメーカー移植術、両心室ペースメーカー交換術、埋込型除細動器移植術及び埋込型除細動器交換術、大動脈バルーンパンピング法( IABP法)、補助人工心臓、生体部分肝移植術、体外衝撃波胆石破砕術、体外衝撃波腎・尿管結石破砕術、腹腔鏡下前立腺悪性腫瘍手術
受診地域別の年間診療実日数総計と診療報酬点数総計との相関(入院)受診地域別の年間診療実日数総計と診療報酬点数総計との相関(入院)
受診地域別の年間診療実日数総計と診療報酬点数総計との相関(外来)受診地域別の年間診療実日数総計と診療報酬点数総計との相関(外来)
居住地区別・医療機関所在地別レセプト件数から計測した実効率及び越境受診率(入院)居住地区別・医療機関所在地別レセプト件数から計測した実効率及び越境受診率(入院)
中頓別地区から患者居住地区までの距離と中頓別町内実効率との相関(入院)中頓別地区から患者居住地区までの距離と中頓別町内実効率との相関(入院)
中頓別地区から患者居住地区までの距離と上川中部への越境受診率との相関(入院)中頓別地区から患者居住地区までの距離と上川中部への越境受診率との相関(入院)
中頓別地区から患者居住地区までの距離と上川北部への越境受診率との相関(入院)中頓別地区から患者居住地区までの距離と上川北部への越境受診率との相関(入院)
中頓別地区から患者居住地区までの距離と中頓別町内実効率との相関(入院外)中頓別地区から患者居住地区までの距離と中頓別町内実効率との相関(入院外)
中頓別地区から患者居住地区までの距離と上川中部への越境受診率との相関(入院外)中頓別地区から患者居住地区までの距離と上川中部への越境受診率との相関(入院外)
中頓別地区から患者居住地区までの距離と上川北部への越境受診率との相関(入院外)中頓別地区から患者居住地区までの距離と上川北部への越境受診率との相関(入院外)
基本統計量(2-2):患者居住地区別・医療機関属性基本統計量(2-2):患者居住地区別・医療機関属性
中頓別町外における医療施設選択の推定行動範囲(1)-中頓別町入院レセ平均中頓別町外における医療施設選択の推定行動範囲(1)-中頓別町入院レセ平均
中頓別町外における医療施設選択の推定行動範囲(2)-中頓別入院レセ中頓別町外における医療施設選択の推定行動範囲(2)-中頓別入院レセ
中頓別町外における医療施設選択の推定行動範囲(3)-兵安入院レセ中頓別町外における医療施設選択の推定行動範囲(3)-兵安入院レセ
中頓別町外における医療施設選択の推定行動範囲(4)-松音知入院レセ中頓別町外における医療施設選択の推定行動範囲(4)-松音知入院レセ
中頓別町外における医療施設選択の推定行動範囲(5)-小頓別入院レセ中頓別町外における医療施設選択の推定行動範囲(5)-小頓別入院レセ
中頓別町外における医療施設選択の推定行動範囲(1)-中頓別町入院外レセ平均中頓別町外における医療施設選択の推定行動範囲(1)-中頓別町入院外レセ平均
95% confidential interval=(95.61, 113.73) 中頓別町外における医療施設選択の推定行動範囲(2)-中頓別入院外レセ Appendix図表9-1:過去5年間の国保レセプトを用いた中頓別町外における医療施設選択の推定行動範囲 (中頓別町・中頓別地区外来レセ平均:N=6365/24001(中頓別町外の医療施設利用率:26.5%))
95% confidential interval=(96.19, 119.93) 中頓別町外における医療施設選択の推定行動範囲(3)-兵安入院外レセ Appendix図表9-6:過去5年間の国保レセプトを用いた中頓別町外における医療施設選択の推定行動範囲 (中頓別町・兵安地区外来レセ平均:N=1738/4218(中頓別町外の医療施設利用率:41.2%))
95% confidential interval=(77.46,103.38) 中頓別町外における医療施設選択の推定行動範囲(4)-松音知入院外レセ Appendix図表9-10:過去5年間の国保レセプトを用いた中頓別町外における医療施設選択の推定行動範囲 (中頓別町・松音知地区外来レセ平均:N=660/1700(中頓別町外の医療施設利用率:38.8%))
95% confidential interval=(54.94,79.03) 中頓別町外における医療施設選択の推定行動範囲(5)-小頓別入院外レセ Appendix図表9-15:過去5年間の国保レセプトを用いた中頓別町外における医療施設選択の推定行動範囲 (中頓別町・小頓別地区外来レセ平均:N=1350/2025(中頓別町外の医療施設利用率:66.7%))
仮に中頓別町内に医療機関が存在しない場合の患者の受診行動及び医療費のシミュレーション仮に中頓別町内に医療機関が存在しない場合の患者の受診行動及び医療費のシミュレーション
結果の考察(1) • 中頓別町を含む宗谷医療圏の実効性は、たとえば泉田(2000)によって検証された千葉県・長野県・福岡県の都市部での約8-9割からみると低いが、3県の農村部と比較すると大体同程度か又は比較的高い水準にある。 • 中頓別町の国保患者については、宗谷医療圏における実効率のほとんどを中頓別町内の医療機関、とりわけ、中頓別町国民健康保険病院が担っている。
結果の考察(2) • 中頓別町の国保患者の受診行動は、入院・入院外ともに、病床数や検査・治療・手術等の医療資源に有意に依存している。 • 入院に関しては、病床数100床以上の中・大病院、救命救急、特定集中治療室、検査と治療の主成分得点の高さが受診行動範囲を拡大する誘因になっている。 • 入院外に関しても、病床数100床以上の中・大病院、特定集中治療室、リハビリを中心とした治療の主成分得点の高さが受診行動範囲を拡大する誘因になっている。 • 逆に、入院・入院外ともに、20床以上100床未満の病院や手術の主成分得点については、移動距離を短縮させる傾向にある。 • 患者属性では、入院・入院外ともに、診療日からの日数が90日を越えている慢性的な病態の場合に、医療距離が短い傾向にあることがわかる。
結果の考察(3) • 第2次医療圏の実効性を視覚的に検証した結果、中頓別町を含む宗谷医療圏が中頓別町以北に設置されているのに対して、患者の受診行動は同一医療圏内よりもむしろ、中頓別町から南側に隣接する上川支庁、とりわけ、名寄市や士別市を含む上川北部へ広がっていることがわかる。泉田(2000)が指摘するように、国民健康保険における市区町村の保険者機能を考えると、これは財政上非効率的であり、二次医療圏については設定の仕方を今一度検討する必要がある。
結果の考察(4) • 操作変数法による二段階推定の結果、入院・入院外ともに、患者と医療機関属性を調整した上で、患者の移動距離が1ヶ月当たり診療報酬に対して有意に正の効果がある。 • 入院については、患者の移動距離が1km広がると、単純パネル回帰で114点、同時決定パネル回帰では132点医療費が増加する。 • 入院外については、患者の移動距離が1km広がるとそれぞれ9点と7点医療費が増加する。 • この結果は、おそらく、移動距離が伸びることで患者の機会費用が上がるため診療実日数が若干下がるが、その分1日の診療内容が密になることで単位当たりの診療報酬点数が増加し、結果的に1ヵ月間の医療費を押し上げていると考えられる。 • 1日当たりの診療報酬が増加する理由としては、遠方まで来たのだからより密度の高い医療サービスを受けることで便益を上げようとする患者主導のものなのか、あるいは、医療資源の集中した都市部での受診により需要が誘発されているのか、この結果からは判断できない。
結果の考察(5) • 単純なシミュレーションを行った結果、仮に中頓別町内に医療施設が無かった場合、患者の移動距離は、入院で56kmから109kmまで広がり、患者1人当たり1ヶ月間の医療費が約33万円から40万円、中頓別町全体では約1,100万円から1,300万円、1年間で約1.3億円が1.6億円まで増加する。また、入院外についても、移動距離は21kmから61kmまで広がり、患者1人当たり1ヶ月間の医療費が21,000円から24,000円、中頓別町全体では約1,100万円から1,200万円、1年間で約1.3億円が1.5億円まで増加することになる。 • 以上の結果から、中頓別町内から医療施設が無くなることは、患者の受診行動範囲を必然的に拡大し、患者にとって機会費用が大きくなるばかりではなく、国民健康保険の保険者としての中頓別町の財政に更なる負荷をかけることになる。したがって、中頓別町の国保患者に限って言えば自治体病院を存続させることが町民の利益と町の財政の双方を維持することにつながるであろう。
今後の課題(1) • 本稿で得られた結論は、北海道宗谷地区の過疎地域である中頓別町固有の結果であって、一般化することは決してできない。しかし、地域や住民の属性にかかわらず地域医療の実態と今後の課題を客観的・実証的に検討できるような普遍的な分析のフレームワークを構築する作業は今後とも行わなければならない。 • 本稿では、患者の居住区から中頓別地区までの距離(r)によって患者の受診行動範囲が変化することから、を操作変数としたが、とりわけ入院のモデルについての有効性は疑わしい。より適切な操作変数を模索するか、あるいは、操作変数法以外の統計的手法を用いるかは本研究の今後の課題としたい。
今後の課題(2) • 本稿で試みたように、患者の受診行動と医療費との関係性を解明するためには、omitted variablesや内生性という統計学上の諸問題のモデルへの影響をできるだけ小さくするような工夫をする必要がある。たとえば、本稿においても、限定されたサンプルによる分析結果ではあるが、疾病分類の有無により回帰分析の結果が大きく左右される。そういった統計学上の諸問題に対処する可能性を広げる意味でも、今後、レセプトデータに代表されるような医療資源の収集・整備・活用のあり方を検討していく必要があるだろう。