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円周率を廻る数理. 目次. はじめに 定義と近似値(アルキメデスの方法) マーダヴァ - グレゴリ - ライプニッツの級数 バーゼル問題 円周率と素数. はじめに. 円周率は、円の面積や球の表面積・体積の公式にも等しく登場し、小学校の算数で登場して以来親しみ易く馴染み深い数のひとつですが、長く豊かな研究の歴史を有し、今も尚汲めども尽きぬ魅力と不思議を湛えています。今回は、円周率に纏わる古今の興味深い話題を解説・紹介するとともに、素数研究に関する現代数学の最高峰とも云える「リーマン予想」を導く契機となった「素数と円周率の関係」 についても触れたいと思います。. 定義と近似値.
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目次 • はじめに • 定義と近似値(アルキメデスの方法) • マーダヴァ-グレゴリ-ライプニッツの級数 • バーゼル問題 • 円周率と素数
はじめに • 円周率は、円の面積や球の表面積・体積の公式にも等しく登場し、小学校の算数で登場して以来親しみ易く馴染み深い数のひとつですが、長く豊かな研究の歴史を有し、今も尚汲めども尽きぬ魅力と不思議を湛えています。今回は、円周率に纏わる古今の興味深い話題を解説・紹介するとともに、素数研究に関する現代数学の最高峰とも云える「リーマン予想」を導く契機となった「素数と円周率の関係」 についても触れたいと思います。
定義と近似値 • 円周率は「円周と直径の比」として定義され、ギリシャ文字のπで表します。円に内接する正六角形の六辺の長さの和は直径の丁度3倍であることから、円周率が3を若干上回る値であることは視覚的かつ直感的に理解できます。紀元前3世紀、ギリシャのアルキメデスは円周率の近似値として3.14を得ました。また、円周率が無理数であることはランベルトにより1761年に証明されました。
アルキメデス Archimedes (BC287-BC212) ギリシャの数学者,物理学者,発明家.シチリア島のシラクサ生まれ.著作「砂粒を数えるもの」の中に宇宙の大きさに関する記述があります.また,他の著作において,面積や体積の高度な理論,円周率の計算,“てこの原理と重心の理論”,アルキメデスの原理を含む流体静力学等について論じています.当時の傑出した数理科学者であり,浮力に関する“アルキメデスの原理”を発見したさいに風呂場から「Eureka!:ユーレカ」(見つけたぞ!)とさけびながら飛び出したという逸話が有名.
円周率 • 3.141592653589793238462643383279502884197169399375105820974944592307816406286208998628034825342117067982148086513282306647093844609550582231725359408128481117450284102701938521105559644622948954930381964428810975665933446128475648233786783165271201909145648566923460348610454326648213393607260249141273724587006606315588174881520920962829254091715364367892590360011330530548820466521384146951941511609433057270365759591953092186117381932611793105118548074462379962749567351885752724891227938183011949129833673362440656643086021394946395224737190702179860943702770539217176293176752384674818467669405132000568127145263560827785771342757789609173637178721468440901224953430146549585371050792279689258923542019956112129021960864034418159813629774771309960518707211349999998372978049951059731732816096318595024459455346908302642522308253344685035261931188171010003137838752886587533208381420617177669147303598253490428755468731159562863882353787593751957781857780532171226806613001927876611195909216420199・・・・・・・
円に内接する正多角形と外接する正多角形を考えることにより、以下の不等式*が得られ、(内接・外接する)正多角形の辺の数が増せば多角形の周は円周に近づきますから、不等式*の左右両辺の値は中央の円周の長さに限りなく近づくと考えられます。前述のアルキメデスによる近似計算はこの方法で得られたものです。正多角形の辺の数を増やしていくと周長の算出は煩雑を極めますが、オランダの数学者ルドルフ(次のスライド)はこの方法を辺の数が2の62乗の正多角形にまで適用して、小数点以下35桁まで円周率の近似値を求めました。この業績により、ドイツでは円周率のことをルドルフの数と呼ぶことがあります。円に内接する正多角形と外接する正多角形を考えることにより、以下の不等式*が得られ、(内接・外接する)正多角形の辺の数が増せば多角形の周は円周に近づきますから、不等式*の左右両辺の値は中央の円周の長さに限りなく近づくと考えられます。前述のアルキメデスによる近似計算はこの方法で得られたものです。正多角形の辺の数を増やしていくと周長の算出は煩雑を極めますが、オランダの数学者ルドルフ(次のスライド)はこの方法を辺の数が2の62乗の正多角形にまで適用して、小数点以下35桁まで円周率の近似値を求めました。この業績により、ドイツでは円周率のことをルドルフの数と呼ぶことがあります。 (内接正多角形の周長)<(円周の長さ)<(外接正多角形の周長)*
ドイツでは円周率の代名詞ともなった数学者ルドルフドイツでは円周率の代名詞ともなった数学者ルドルフ
円周率計算の歴史 • 紀元前3世紀、アルキメデスにより、3.14・・・ • 1600年頃、ルドルフ・ファン・コイレンの35桁。 • 1670年代、無限級数表示(MGL級数)。 • 1700年頃以降、逆正接公式。 • 1706年、マチンの100桁。 • 1940年代以降、計算機による計算。 • 現在では、1兆桁を超える。 「円周率の計算は科学である」(金田康正・かなだやすまさ)
マーダヴァ-グレゴリ-ライプニッツの級数 (円に内接・外接する)正多角形の周長で円周の長さを近似するアルキメデスの方法は、オランダの数学者ルドルフの生涯を費やしての近似値計算(1600年頃)によってクライマックスに達するとともに、この方法での人力による計算の限界が見えたとも云えるでしょう。事実、円周率の近似値計算の新局面が以下の(マーダヴァ・グレゴリ・ライプニッツの級数、略してMGL級数と呼ばれる)無限級数によってもたらされることになるのです。
この無限級数の右辺の「奇数の逆数の交代和」という極めて簡素で美しい姿が幾多の数学者を魅了し、また、(美しさとは裏腹の)収束の遅さがそれを克服するための努力と成果という形で数学の発展に大いに寄与することにもなったのです。この無限級数の右辺の「奇数の逆数の交代和」という極めて簡素で美しい姿が幾多の数学者を魅了し、また、(美しさとは裏腹の)収束の遅さがそれを克服するための努力と成果という形で数学の発展に大いに寄与することにもなったのです。 無限級数が緩慢に収束する様子を視覚化し、この級数に寄せられた学者の言明に耳を傾けてみましょう。
この級数は収束緩慢で、 円周率の計算には不適当である。 (高木貞治『解析概論』) The series is, while beautifully elegant in appearance, utterly worthless for numerical calculations since it converges very slowly. ("An Imaginary Tale" by Paul J. Nahin)
この級数は、上記の等式を発見した学者 に因んで、「グレゴリ-ライプニッツの級数」 あるいは 「マーダヴァ-グレゴリ-ライプニッツの級数」 と呼ばれますが、これらの学者についての 業績等についての簡単な解説を以下に記します。
James Gregory (1638-1675)
James Gregory • 生: Nov 1638 in Aberdeen, Scotland 歿: Oct 1675 in Edinburgh, Scotland
グレゴリは1663年に世界初の 反射式望遠鏡を作ったことで有名。 1667年に『円と双曲線の正しい求積』を出版しました。そこには無限小解析(微積分)の重要な成果が含まれていました。グレゴリ級数の発見は1671年のことです。 1674年にエディンバラで数学の教授となるも、間もなく盲目となり、1年後に36歳の若さで没。
ニュートン以前にすでに求積法(積分)と接線(微分)の問題が逆の関係にあることや,テイラー展開などを知っていたといわれます。 ただ、残念ながらグレゴリは図形の問題にのみ限定して考察したため、「微積分発見」には至らず。もし彼が問題を 解析的に,物理学 と関連づけて考えていたら 「微積分発見」 の栄誉は彼に与えられていたかも知れません。
G. W. Leibniz (1646-1716)
ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツGottfried Wilhelm Leibniz 1646年7月1日- 1716年11月14日 ドイツ・ライプツィヒ生まれの哲学者・数学者。 ライプニッツは哲学者、数学者、科学者など幅広い分野で活躍した学者・思想家として知られているが、また政治家であり、外交官でもありました。17世紀の様々な学問(法学、政治学、歴史学、神学、哲学、数学、経済学、自然哲学(物理学)、論理学等)を統一し、体系化しようとし、その業績は法典改革、モナド論、微積分法、微積分記号の考案、論理計算の創始、ベルリン科学アカデミーの創設、等々、多岐にわたります。ライプニッツは稀代の知的巨人ということが出来るでしょう。
2進法を研究したのも彼の業績であり、また、彼は中国の古典『易経』に関心をもっており、1703年、イエズス会宣教師ブーヴェから六十四卦を配列した先天図を送られ、そこに自らが編み出していた2進法の計算術があることを見いだしています。2進法を研究したのも彼の業績であり、また、彼は中国の古典『易経』に関心をもっており、1703年、イエズス会宣教師ブーヴェから六十四卦を配列した先天図を送られ、そこに自らが編み出していた2進法の計算術があることを見いだしています。
インドの数学者マーダヴァについて 円周率に関するライプニツ級数(グレゴリ級数)は収束が緩慢であり、それ自体では(円周率の)数値計算には向かないというのが通説であるが、インドの数学者Madhava ofSangamagrama(1350-1425)はグレゴリやライプニツに遥か先立ち、同級数に収束改良を巧みに施して円周率を小数第13位まで求めた。 南インド西海岸のケーララ地方には、14世紀から16世紀にかけて、マーダヴァ(1350-1425, http://en.wikipedia.org/wiki/Madhava_of_Sangamagrama)を初めとして師弟関係で結ばれた一連の数学・天文学者が輩出した。マーダヴァ学派とも呼ばれる彼らは、ヨーロッパのグレゴリ(1638-1675)、ライプニッツ(1646-1716)、ニュートン(1642-1727)等に先立つこと200~300年、独自の幾何学的方法で、円周率、および正弦・余弦・逆正接関数などの級数展開を得ていた(楠葉隆徳・林隆夫・矢野道雄共著,『インド数学研究』, 恒星社厚生閣, 1997年)。とりわけ、MGL級数の補正項付加による級数改良は同学派の研究成果の白眉であり、「MGL級数の第n部分和に(第3番目の)補正を施すことで、項数n=60程度の計算で円周率を小数第12位まで求め得た」ことは特筆に値する。因みに、円周率の計算に関してヨーロッパでは漸く1579年にフランソワ・ビエタが(アルキメデス以来の)円に内接・外接する正多角形の周の計算から円周率を小数第9位まで求めたといった段階であった。
インド数学におけるマーダヴァ学派の驚嘆すべき業績については、近年の研究で漸くその姿が明らかになりつつありますが、ここではこれ以上は立ち入らず、「マーダヴァの収束改良の方法が(収束が緩慢な)一般の級数に対しても通用する収束改良の原理を確立することができる」ことを指摘するにとどめます。インド数学におけるマーダヴァ学派の驚嘆すべき業績については、近年の研究で漸くその姿が明らかになりつつありますが、ここではこれ以上は立ち入らず、「マーダヴァの収束改良の方法が(収束が緩慢な)一般の級数に対しても通用する収束改良の原理を確立することができる」ことを指摘するにとどめます。
バーゼル問題 グレゴリとライプニッツがMGL級数を得たと云われる1670年代のヨーロッパ数学に時空を戻すと、そこでは「バーゼル問題」と呼ばれるひとつの求和問題(無限級数の和を求める問題)が数学者の注目を集めていました。
バーゼル問題 「平方数の逆数和を求めよ」 (1644年に提起) 平方数の逆数和を求めることが懸案となり、レオンハルト・オイラーが1735年に上記の等式を証明し、解決。
L. Euler (1707-1783)
オランダのルドルフが円周率の近似値の高精度計算を遂行できた背景には、16世紀後半に小数・十進数を普及させたベルギーの数学者ステヴィンや対数を導入したスコットランドのネイピアらの業績があります。大航海時代にあって、航海や測量等の実用性の観点から高度な数値計算技術が整い、こうして高められた計算技法が無限に纏わる真理の探求へと人々を誘ったと考えられます。オランダのルドルフが円周率の近似値の高精度計算を遂行できた背景には、16世紀後半に小数・十進数を普及させたベルギーの数学者ステヴィンや対数を導入したスコットランドのネイピアらの業績があります。大航海時代にあって、航海や測量等の実用性の観点から高度な数値計算技術が整い、こうして高められた計算技法が無限に纏わる真理の探求へと人々を誘ったと考えられます。
小数・十進法 対数・小数点 1548 ~ 1620 1550 ~ 1617 大航海時代 15世紀中ごろから17世紀中ごろまで Simon Stevin John Napier
バーゼル問題は、バーゼル大学教授であったヤコブ・ベルヌーイが広く数学界に知らしめられた問題であるので、その名があると云われます。この難問はベルヌーイ自身もついに解決できないまま世を去り、その解決は18世紀に持ち越されました。結局,オイラーの登場により,問題提出から約90 年経った1735 年,平方数の逆数和が円周率で書けることが明らかとなりました。この結果は、素数分布論において本質的な役割を果たすリーマンゼータ関数ζ(s)の特殊値ζ(2)の算出を意味し、「素数と円周率の関係」として以下のように表現することが可能です。
円周率πは、円という高い対称性を備えた図形に内在する一個の無理数に他なりませんが、その値の探求やπを含む関係式の発見は微分積分学の発展を促し、またそれが、広範な数学の領域においてさらに多くのπの出現の場を与えています。円周率πは、数学の要所に顔を見せるという多面性とともに、πの在処を源泉にして数学の新たな理論が湧き上がるという不思議が人々を魅了しているように思えます。円周率πは、円という高い対称性を備えた図形に内在する一個の無理数に他なりませんが、その値の探求やπを含む関係式の発見は微分積分学の発展を促し、またそれが、広範な数学の領域においてさらに多くのπの出現の場を与えています。円周率πは、数学の要所に顔を見せるという多面性とともに、πの在処を源泉にして数学の新たな理論が湧き上がるという不思議が人々を魅了しているように思えます。 最後に、全数学のなかでも最も神秘的で美しいとされるオイラーの等式を再び掲げ、旧ドイツ紙幣に記された円周率πを含む関数(ガウス分布の確率密度関数)をお目に掛けて講義の締めくくりとします。