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日本における 国民の司法参加 の現状と展望. 東京大学 井 上 正 仁. はじめに. ○台湾では,「人民觀審制度」をめぐって議論 ○日本では, 2004 年 5 月,「裁判員制度」を導入する法律制定 ⇒ 5 年の準備期間を経て, 2009 年 5 月施行, 3 年近く経過 2012 年 2 月末までに裁判員裁判を受けた被告人は 3,423 人 ○背景事情,考え方,導入の趣旨の異同 ⇒類似点と相違点 ○日本での実施状況,知見,課題 ⇒台湾での議論に資する ・ 2011 年 4 ~ 5 月 司法院,最高法院,台湾大学,東海大学等で講演
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日本における国民の司法参加の現状と展望 東京大学 井 上 正 仁
はじめに ○台湾では,「人民觀審制度」をめぐって議論 ○日本では,2004年5月,「裁判員制度」を導入する法律制定 ⇒5年の準備期間を経て,2009年5月施行,3年近く経過 2012年2月末までに裁判員裁判を受けた被告人は3,423人 ○背景事情,考え方,導入の趣旨の異同 ⇒類似点と相違点 ○日本での実施状況,知見,課題 ⇒台湾での議論に資する ・2011年4~5月 司法院,最高法院,台湾大学,東海大学等で講演 ・2011年11月 頼浩敏司法院長が率いる調査団来日 ⇒最新の情報を提供
Ⅰ 裁判員制度とは 1.概要 ○原則6名の裁判員(一般国民からくじで事件毎に選出)+3名の裁判官 第一審の公判審理に出席 ⇒裁判官とともに,有罪・無罪の認定,有罪の場合の量刑 ○重大な刑事事件を対象 ・死刑または無期の懲役・禁錮に当たる罪 ・短期1年以上の懲役・禁錮に当たる罪で,故意の犯罪行為により被害者死亡 ○被告人の拒否不可,自認事件も対象 ○裁判員は裁判官と基本的同等の権限(表決権も) ・法令解釈,訴訟手続上の決定は裁判官の専権
2.導入の趣旨 ・・・司法制度改革⇒国民的基盤の強化2.導入の趣旨 ・・・司法制度改革⇒国民的基盤の強化 ・国民自身と司法制度にとっての効用 国民自身が裁判の主体として参加し,責任を分担 ①司法や社会の安全・安心を自らの事柄として認識,自ら支える意識 ②司法との一体感・親近性⇒司法への信頼 ・刑事司法にとっての効用 ・法律専門家だけで行っていた刑事裁判,緻密で確実 ・他面,①国民の感覚と乖離する面(ex.量刑) ②国民には理解困難,時間もかかる ①一般国民の良識・感覚を反映 ⇒国民に支持される,より良いものに ②国民に開かれ,分かりやすく,迅速なものに
3.なぜ陪審制度ではないのか? ○陪審制度採用論も ・「官僚司法」批判と司法の「民主化」の主張 民主政(多数決原理)における司法の役割の独自性 ・誤判防止策としての陪審論 ⇒ 根拠不十分 ○前提とする刑事司法の現状についての評価 総体として良質の実績 ただ,国民の感覚の反映少ない ⇒国民が参加し,その良識や感覚を反映させることにより 裁判がより良いものに ⇒裁判官と国民から選ばれた者の協同・・・陪審との相違 ・新鮮な感覚の反映 ⇒事件ごとの選任・・・参審との相違
4.憲法上問題はないのか? ○旧憲法(1890年)時代 旧憲法(1890年)24条「法律ニ定メタル裁判官ノ裁判」を受ける権利 ⇒有力説: 陪審の評決に拘束力を認めるのは違憲 ⇒旧陪審法(1923年制定,1928~1943年実施) 裁判所が陪審の評決結果を不当と考えるときは陪審の更新可能 *韓国憲法「法官による裁判」を受ける権利 ⇒陪審員の評決に拘束力を与えない国民参与裁判制度を試行 ○現憲法(1947年) 「裁判所において裁判を受ける」権利と文言変更 ⇒拘束力付与は違憲とする考え方もなお有力であった ・憲法の第7章「司法」では裁判官についてのみ規定 ・裁判官の独立の保障 ○制度導入時の考え方(井上など) ・憲法は,裁判官を裁判所の基本的構成要素とするが,これに国民が加 わることを排除していない ・裁判官の独立の保障 ⇒個々の裁判官が独立して職権を行使できること 法定のルールにより少数意見の裁判官が多数意見に従うことは,これ に背馳しない
○導入後も違憲論 ・・・多岐にわたる根拠付け ○最高裁により合憲性確認 東京高裁合憲判決(2010年4月22日) ⇒最高裁大法廷合憲判決(2011年11月16日) 最高裁第二小法廷判決(2012年1月13日)
東京高裁2010年4月22日判決高刑集63巻1号1頁 ①被告人の裁判を受ける権利(憲法32条,37条)の侵害なし ○憲法が裁判官を下級裁判所の基本的構成員として想定していることは 明らかだが,裁判官以外の者をその構成員とすることを禁じていない。 ○「裁判官の裁判」を受ける権利を保障していた旧憲法とは異なり,憲法 32条が「裁判所における裁判」を受ける権利を保障していることや,憲 法と同時に制定された裁判所法3条3項が「刑事について陪審の制度を設 けることを妨げない」と規定していること ⇒国民の参加する裁判を許容し,あるいは排除しないのが立法者の意図 ○裁判員が関与することについての種々の措置 ⇒独立して職権を行使 する公平な裁判所による法に従った迅速な裁判を受けることを被告人 に保障するという憲法の趣旨に沿う。 (次頁に続く)
最高裁大法廷2011年11月16日判決裁判所時報1544号1頁最高裁大法廷2011年11月16日判決裁判所時報1544号1頁 1.憲法上,国民の司法参加が一般的に禁じられているとは解されない (1) ・明文規定の置かれていないことが直ちに禁止を意味するものとはいえない ・憲法上,刑事裁判に国民の司法参加が許容されているか否かは 憲法が採用する統治の基本原理や刑事裁判の諸原則 憲法制定当時の歴史的状況を含めた憲法制定の経緯 憲法の関連規定の文理 を総合的に検討して判断されるべき (2) ・基本的人権の保障を重視した憲法では,特に31条~39条で適正手続の保障, 裁判を受ける権利,公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利等,適正な 刑事裁判を実現するための諸原則を規定 ⇒刑事裁判に当たって厳格に遵守される必要 ⇒高度の法的専門性が必要 ・三権分立の原則の下に,第6章で,裁判官の職権行使の独立と身分保障につい て周到な規定 ⇒憲法は,刑事裁判の基本的な担い手として裁判官を想定 (次頁に続く)
(3) ・他方,歴史的,国際的に見ると,欧米諸国においては,上記手続的保障とともに, 民主主義の発展に伴い,国民が直接司法に参加することにより裁判の国民的 基盤を強化し,その正統性を確保しようとする流れ ⇒憲法制定当時には,欧米の民主主義国家の多くは陪審制か参審制を採用 ・我が国でも,陪審法の下で開始された陪審裁判が2043年以降停止状態 ⇒このような時代背景と国民主権の基本原理の下で,憲法制定の過程において国 民の司法参加が許容されるか否かについても関心 ①旧憲法の「裁判官による裁判」から「裁判所における裁判」への表現変更 ②下級裁判所については裁判官のみで構成される旨不明示 ⇒当時の政府部内では,陪審制や参審制の採用も可能と理解 ・「刑事について陪審の制度を設けることを妨げない」と規定する裁判所法3条3項 も上記の経緯に符号 (4) 国民の司法参加と適正な刑事裁判を実現するための諸原則とは,十分調和可能 ⇒・憲法上国民の司法参加がおよそ禁じられていると解すべき理由なし ・国民の司法参加制度の合憲性は,制度の具体的内容が,適正な刑事裁判を 実現するための諸原則に抵触するか否かによって決せられるべき (次頁に続く)
2.裁判員制度の具体的内容も憲法に適合 (1) 憲法上の刑事裁判の諸原則確保の上で支障なし ・ 裁判員裁判対象事件を取り扱う裁判体は,裁判官と,公平性,中立性を確 保できるよう配慮された手続の下に選任された裁判員とによって構成 裁判員の関与する判断は,司法作用の内容をなすが,必ずしもあらかじめ 法律的な知識,経験を有することが不可欠な事項ではない 裁判長は,裁判員が職責を十分に果たすことができるよう配慮する責務 ⇒裁判員が,様々な視点や感覚を反映させつつ,裁判官との協議を通じて良 識ある結論に達することは,十分期待可能 ・他方,憲法が定める刑事裁判の諸原則の保障は,裁判官が判断 ⇒公平な「裁判所」における法と証拠に基づく適正な裁判が行われること(憲法 31条, 32条, 37条1項)は制度的に十分保障されている上, 裁判官は刑事裁判の基本的な担い手とされているものと認められる (次頁に続く)
(2) 裁判官の独立を保障した憲法76条3項に反しない ・憲法が一般的に国民の司法参加を許容しており,裁判員法が憲法に適合する ようこれを法制化したものである以上,裁判員法が規定する評決制度の下 で,裁判官が時に自らの意見と異なる結論に従わざるを得ない場合があると しても,それは憲法に適合する法律に拘束される結果であるから,憲法76条 3項に反しない ・裁判l員制度の下でも,法令の解釈や訴訟手続に関する判断は裁判官の権限 ⇒裁判官を裁判の基本的な担い手として,法に基づく公正中立な裁判の実 現が図られており,同項の趣旨に反しない。 ・ 憲法が国民の司法参加を許容している以上,裁判官の多数意見が常に裁判 の結論でなければならないとは解されない 裁判員の加わる評決の対象が限定されている上,評議に当たって裁判長が 十分な説明を行うこと,評決では多数意見の中に少なくとも1人の裁判官が 加わっていることが必要とされていること ⇒被告人の権利保護という観点からの配慮 ⇒裁判官のみによる裁判の場合と結論を異にするおそれがあるからといって, 憲法上許容されない構成であるとはいえない (次頁に続く)
(3) 特別裁判所を禁止した76条2項に反しない 裁判員の加わる裁判体は,地方裁判所に属し,その第1審判決に対しては, 高等裁判所への控訴および最高裁判所への上告が可能であるから,特別 裁判所に当たらないことは明白 (4) 憲法18条後段の「苦役」の禁止に反しない ・裁判員の職務等は,参政権と同様の権限を国民に付与するものであり,これ を「苦役jということは必ずしも適切でない ・国民の負担の過重を避けるため,類型的な辞退事由の設定に加え,個々人 の事情を踏まえて辞退を認める柔軟な制度が整備され,かつ,旅費・ 日当 等の支給による経済的な負担軽減措置
最高裁第二小廷2012年1月13日判決 ○裁判員制度による審理裁判を受けるか否かについて被告人に 選択権が認められていないからといって,同制度が憲法32条, 37条に違反するものではない。 憲法は,刑事裁判における国民の司法参加を許容しており,憲法の定 める適正な刑事裁判を実現するための諸原則が確保されている限り, その内容を立法政策に委ねている ⇒裁判員制度においては,公平な裁判所における法と証拠に基づく適 正な裁判が制度的に保障されているなど,上記の諸原則が確保さ れている(最高裁2011年11月15日大法廷判決の趣旨に徴して明ら か
2.裁判員制度の実施状況 (1) 概 況 ○2009年5月21日の裁判員法施行から34ヵ月 同年8月の初の裁判員裁判(東京地裁)から32ヵ月 ○2011年10月末までに ・起訴人員4,458名中終局人員2,949名(66.2%) ・同年11月末までに,起訴4,665件中終局裁判3,372件(72.3%)
(2)対象事件 ○地方裁判所管轄事件の約2% 2010年に全国の地方裁判所に起訴された通常第一審事件の被告人 86,387名中,裁判員裁判の対象となったのは1,797名(2.0%) ○罪名別トップ3(2009.5~2011.10) 起訴被告人数(A)でも,終局裁判被告人数(B)でも, ①強盗致傷(A:25.0%,B:24.3%), ②殺人(A:21.0%,B:22.7%) ③現住建造物等放火(A:9.3%,B:9.1%) ○対象事件からの除外(裁判員法3条1項)は1件のみ *組織暴力団の内部抗争による殺人事件,暴力団関係者から接触を受けた 証人予定者が出廷を拒否 ⇒市民が恐怖 ⇒裁判員確保困難
裁判員制度対象事件罪名別裁判所新受人員(2009.5~2011.10)裁判員制度対象事件罪名別裁判所新受人員(2009.5~2011.10) 総数 4.458 実施状況速報(~2011.10)1頁のデータに拠る。
裁判員対象事件罪名別第一審終局人員数(2009.5~2011.10)裁判員対象事件罪名別第一審終局人員数(2009.5~2011.10) 総数 2,949 実施状況速報(~2011.10)2頁のデータに拠る。
(3)裁判員の選任 ○裁判官1名+裁判員4名構成の裁判体による裁判は0件 ○裁判員6名+補充裁判員2名が選ばれるのが典型 ○2011年7月末までの実績 ・候補者名簿への登載: 延べ約95万6千人(年30万人前後) ・具体的事件の裁判員候補者としての選定: 約24万5千人 ・裁判員選任のための裁判所への呼出し: 約11万2千人 ・選任手続への出席: 約9万人(出席率80.0%) ・裁判員としての選任: 1万7千人弱 補充裁判員としての選任: 6千人弱 裁判員裁判に参加: 計約2万2千人 (2010年の実績では,1年間に裁判員・補充裁判員に選任される確率は 全国で10,000人に1人 地域により4,761人に1人~33,333人に1人)
344,900名 295,036名 選任過程の実績 2009年用 2010年用 285,530名 315,940名 2011年用 2012年用 245,206名 179,612名 呼び出さない措置 65,594名 89,854名 (出席率80.0%) 裁判員16,590名 補充裁判員5,812名 呼出し取消し 67,354名 *「選定」以下(青ラベル)の数字は2009年8月~2011年10月の実績〔実施状況速報(~2011.10)5,7頁〕。
○国民の協力度 ○開始前は疑問視する声も ・各種アンケート結果・・・積極的に参加するとの答え少数 ○実績 ・出席率80%超 ○前提として ・負担軽減措置(繁忙期回避の調整,職場での不利益取扱い禁止等) ・相当余裕のある数の候補者を選定(平均84名/件〔2010年〕) 重大,複雑困難,長期事件では,450名,180名,160名という事例も ・事前の調査票・質問票への回答を基に緩やかに辞退認容 (48.4%〔同上〕) ○選任された裁判員の性別,年齢,職業に偏りなし ○裁判員経験後はほとんどの人が肯定評価
裁判員制度実施前と後での国民の参加意欲の変化裁判員制度実施前と後での国民の参加意欲の変化 2008年意識調査22頁,2011年意識調査49頁のデータに拠る。
裁判員の属性:性別・年代別(2010年) 2010年中に裁判員を経験した者(8.673名)に対する最高裁判所のアンケート調査結果(回答者8,285名,回収率96.5%)による。
裁判員経験者の経験前と後の気持ち(2010年)裁判員経験者の経験前と後の気持ち(2010年) 前 31.1% 95.2% 後 2010年アンケート6頁,29頁のデータに拠る。⇒2011年上半期アンケートでも著しい変化なし。
(4) 審理期間等 ○当初,公訴事実にほとんど争いのない(量刑のみ争点の)事件が 先行 ○公判前整理手続に相当の期間 公判は大半の事件で3~5日 長くても1ヵ月以内(公判審理に充てられるのは10日以内)に終了 ○ほぼ連日開廷 週末を間に入れて設定する例も ⇒裁判員の家事,リフレッシュ,整理の時間
裁判員職務従事日数別終局件数 実施状況速報(~2011.10 )7頁のデータに拠る。
○2010年春頃から,争いのある事件や死刑等重刑の求刑が○2010年春頃から,争いのある事件や死刑等重刑の求刑が 予想される重大事件の公判が開始 ・全審理期間(特に公判前整理手続期間)がかなり長くなる 実審理期間・公判開廷回数もやや増 ・死刑の求刑が予想される事件では評議にも十分な期間を設定 ☆現在までの最長:裁判員選任から判決まで100日間(2012.1.10~4.13,さいたま 地裁,3件の殺人を含む10件〔首都圏連続不審死事件〕。公判は平日のみ,2日開廷1日 休みのペース。結審から判決宣告まで約1ヵ月設定) 次位は65日,60日(鹿児島老夫婦殺し事件)
審理期間・開廷回数(平均)の推移 *全審理期間=裁判所の事件受理~終局裁判 **実審理期間=第1回公判~終局裁判。 ☆算定の基礎となった事件には,裁判員裁判対象事件以外の事件について公判を開始した後に,対象事件と併合され,裁判員の参加する合議体で審理されたものが含まれている。
長期裁判員裁判事例 *他に,3つの殺人・強盗殺人等が3区分の区分審理され,全体を合わせて40日間を要した 例(2011.9~12,仙台地裁)もあった。
(5) 公判前整理手続 ○公判前整理手続は全般的には順調 ・期日回数は3~5回 両当事者の準備や証拠開示等のために期日と期日の間に日数を置く結果, 開始から終了まで4~7ヵ月かかることが多い ・争いのある事件や難事件,公判前(精神)鑑定が行われる事件 より長期間 ⇒長期化の傾向 ・証拠開示は,検察官も一般的には緩やかに開示する方向 ・争点整理・審理計画策定も,全般的には実効的 ・一部の弁護人には,裁判所が審理期間の短縮を重視し過ぎるという不満も ・両当事者に,裁判所が証拠採用を絞り過ぎるという不満も
(6) 公判の審理 (a) 法廷等 裁判員裁判法廷(北海道・釧路地方裁判所における模擬裁判) 〈裁判所広報パンフレットから〉
法廷に設置されたディスプレイ(広島地方裁判所)法廷に設置されたディスプレイ(広島地方裁判所) (裁判所パンフレットから)
○法廷で見て聞いて分かる弁論・立証が浸透 ・冒頭陳述は1~2枚のメモを配布(表やチャート等を使用) 争点,要証事実と証拠との関係明示 ・被告人側も冒頭陳述 ・争いのない事件の場合,検察側立証は書証の限定的使用 ・調書使用の増加傾向 ⇒最高裁長官も注意 ・証人尋問・被告人質問は,証人が裁判員の方を向いて答えられるよう 質問者が立ち位置を工夫 ・鑑定結果などの提示・尋問には,適宜,図,イラスト等を活用 ・被害者の遺体や負傷状況等の写真の展示は必要最小限の範囲・部分に 限定
○裁判官も,証言等の分かりにくい点や不十分な点につき○裁判官も,証言等の分かりにくい点や不十分な点につき 即座に補充質問,独自の視点からの質問も多い ○裁判員も比較的積極的に質問 ・質問し易いように,証人の証言・被告人の陳述の後,休憩を入れ, 緊張をほぐしたり,整理の時間を取る配慮も ・両当事者の質問とは別の視点からの的を射た質問も少なくない ○裁判員の集中力確保・疲労防止のため,比較的頻繁に休憩 ○裁判員の理解を容易にするため,争点ごとに審理,評議する という措置を取った例も (2011.10~12,水戸地裁。殺人等の罪につき被告人の犯人性と殺意の有無が争点と なる事件で,公判前整理手続の結果,先ず犯人性について審理し,中間評議で結論 を出した後,次に殺意の有無について審理し,最後に判決の言い渡しをするという 審理日程を決定)
裁判員にとって審理は理解しやすさかったか?裁判員にとって審理は理解しやすさかったか? (2010年中に実施の裁判員裁判で裁判員を務めた人に対するアンケート結果)
法廷での手続全般について分かりにくかった点・理由法廷での手続全般について分かりにくかった点・理由 (2010年中に実施の裁判員裁判で裁判員を務めた人に対するアンケート結果)
裁判官・検察官・弁護人の法廷での説明等の評価裁判官・検察官・弁護人の法廷での説明等の評価 (2010年中に実施の裁判員裁判で裁判員を務めた人に対するアンケート結果)
○弁護人の説明,発言等の分かりやすさについての評価低い○弁護人の説明,発言等の分かりやすさについての評価低い ・被告人の弁解・主張自体の分かりにくさ ⇒弁護人はそれに沿った防御を余儀なくされる ・刑事弁護は,基本的に,個々の弁護士の活動 ⇒個々の考え方・流儀 サポート体制不十分 ・弁護士会も,個々の弁護士の集まり ⇒裁判所,検察庁のような組織的・継続的な取組みや指導が必ずし も容易でない。 ⇒弁護人の能力・熟度にバラつき ⇒弁護人複数選任 弁護士会も,事例・ノウハウの蓄積,研修の高度化 ○経年変化 ・検察官の分かりやすさの評価低下 ・・・供述調書多用の影響?
表27 理解容易度評価の経年変化 表25,表26のデータ,および平成21年アンケート調査結果報告書5頁, 平成23年(1~6月)アンケート調査結果報告書7頁のデータに拠る。
(7) 評議 評議室(津地方裁判所) (裁判所パンフレットから)
○頻繁に中間評議 ・当日の審理の整理,要点についての裁判官との質疑 裁判官による説明等 ○最終評議は1~2日(7~9時間)がほとんど ⇒死刑事件や深刻な争いのある事件の例外(前述) ○裁判員の満足度は全般的に高い ・裁判官による意見の押し付けの不満は少ない
最終評議の時間別判決人員 実施状況速報(~2011.10)8頁のデータに拠る。
評議についての裁判員経験者の評価 議論の充実度 評議の雰囲気 (2010年中に実施の裁判員裁判で裁判員を務めた人に対するアンケート結果)
(8) 判 決 (a) 有罪・無罪の認定 終局区分別人員(2009.8~2011.10) 実施状況(~2011.10)3頁のデータに拠る。
○争いのない事件が先行 ⇒当初,無罪判決なし ○争いのある事件の公判が開始 ⇒初の無罪判決(千葉地裁2010年6月22日判決) 2011年10月末までに10件 *2011年7月1日現在,裁判員裁判での全面無罪は8件のうち5件は覚せい剤 密輸事件〔朝日新聞2011.7.2朝刊38面〕 一部無罪判決,縮小認定判決も ○少年被告人に対する裁判員裁判で家庭裁判所への移送(少年法55条)が 相当とされたのは1件(東京地裁2011年6月30日決定)
(b) 量刑 ○法定刑の幅大きく,裁判員には「相場感」なし⇒最もとまどう点 ・検察官の求刑が一つの手掛かり ・弁護人も最終弁論で意見を述べるように ・最高裁事務総局「量刑検索システム」開発 ・2008年4月以降に言い渡された裁判員裁判対象罪種に係る事件の 判決のデータを集積 ⇒ 10数項目(ex. 計画性の有無,凶器の種類等)入力すれば,類 似事件の量刑の範囲・分布状況がグラフで示される ・検察官,弁護人も利用可能 ⇒・一般国民の感覚を反映するという趣旨に反しないか? 裁判員経験者のごく一部に不満も ・他方,「量刑不当」は控訴理由となり得る