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最近のシックハウス裁判事例. 弁護士法人匠総合法律事務所 弁護士 秋野 卓生. 東京地方裁判所 平成21年10月1日判決. 判例1. 【 事案の概要 】 マンションに用いられている建材から放散されたホルムアルデヒドよりシックハウス症候群及び化学物質過敏症に罹患 瑕疵担保、売買契約の錯誤無効又は瑕疵担保ないし債務不履行に基づく解除による原状回復を根拠とする売買代金の返還を請求. 本件マンションの建築時点においては、 ① ホルムアルデヒドの有害性は社会問題として広く周知されており、
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最近のシックハウス裁判事例 弁護士法人匠総合法律事務所 弁護士 秋野 卓生
東京地方裁判所 平成21年10月1日判決 判例1 【事案の概要】マンションに用いられている建材から放散されたホルムアルデヒドよりシックハウス症候群及び化学物質過敏症に罹患 瑕疵担保、売買契約の錯誤無効又は瑕疵担保ないし債務不履行に基づく解除による原状回復を根拠とする売買代金の返還を請求
本件マンションの建築時点においては、 ① ホルムアルデヒドの有害性は社会問題として広く周知されており、 ② 社団法人住宅生産団体連合会は、内装仕上げ材について用いる合板類をF1等級までのものとすると定め、 ③ 大手開発業者も同様の動きをとっていたのであるから、建設に関与する専門業者であれば、ホルムアルデヒドを放散する建材を使用することに基づく被害の発生を予見し、その放散量が最も少ないF1等級の建材を選択することは当時においても十分可能であった。
*ホルムアルデヒドの放散が最小限になるようF1等級の建材を用いるべき*ホルムアルデヒドの放散が最小限になるようF1等級の建材を用いるべき *F2等級などホルムアルデヒドを多量に放散することが危惧される建材を用いる場合、 購入の是非を選択する機会を付与or引渡前にホルムアルデヒド室内濃度を測定し適切な対処をすべき
本件マンションを直接設計、施工していないが・・・本件マンションを直接設計、施工していないが・・・ • 被告は、マンション開発を専門とする業者であって、安全な建物を建築するよう配慮すべき 設計者、施工者と同等の注意義務を負うというべきである。 *買主は、シックハウス症候群を発症するような潜在的危険性の有無などは通常知ることができない。
開発業者は、設計及び施工を注文するに当たり、建材を選択する意思決定の自由を有していたのに対し、 開発業者は、設計及び施工を注文するに当たり、建材を選択する意思決定の自由を有していたのに対し、 原告は、いかなる建材が使用されており、それによっていかなる結果が生じるかということについて、十分検討するだけの情報を与えられていない立場にある 結果の発生は、専ら開発業者、設計業者及び施工業者の支配下にある 開発業者は、設計者及び施工者と同様、生命、身体及び重要な財産を侵害しないような基本的安全性を確保する義務を負うべきである。
被告の過失及び因果関係を認めた上で、 ①売買代金及びこれに関する費用の4割 ②逸失利益(ライプニッツ方式) ③慰謝料の合計3683万4353円を損害と認め、うち消滅時効にかからない3662万3303円について賠償を認めた。
横浜地方裁判所平成10年2月25日判決 判例2 【事案の概要】 建物賃借人が賃借した建物内に異常の刺激臭が充満し、やむなく退去した 貸主の債務不履行責任に基づき、支払った賃料及び礼金、悪臭のための医療費、精神的苦痛による慰謝料等の損害賠償を求めた。
横浜地裁は、室内に揮発した化学物質と健康被害との因果関係は認めたが、賃貸人の過失責任は以下の理由をもって否定した。横浜地裁は、室内に揮発した化学物質と健康被害との因果関係は認めたが、賃貸人の過失責任は以下の理由をもって否定した。 ①化学物質過敏症は最近において注目されたが、未だ、学会で完全に認知されていないこと。 ②本件建物建築当時、一般住宅建築につき施主、施行者がこの症状の発症の可能性を現実に予見することは不可能ないし著しく困難であったこと ③本件建物に使用された新建材等は一般的なもので特殊なものでないこと ④化学物質過敏症は一旦発症すると極めて微量な化学物質に反応し、これを完全に防止するためには新建材を使用しない建物を建築する外なく、一般的には経済的に問題のあること ⑤化学物質過敏症の発症は、各人の体質とも関係し、必ずしもすべての人が同一環境のもとで必然的に発生するものでないこと ⑥また、賃貸人は、賃借人に換気に注意するよう指示した外に、空気清浄機の設置をしていること
札幌地方裁判所平成14年12月27日判決 判例3 【事案の概要】 請負業者が注文住宅を建築し、同住宅に注文者が入居した際、その住宅内の大量の化学物質により化学物質過敏症に罹患した 注文者が請負人に対し 不法行為又は債務不履行に基づく 損害賠償 を求めた
札幌地裁は化学物質過敏症の罹患と本件建物に入居したこととの間の因果関係は認めたものの、請負人の過失責任は以下の理由をもって否定した。札幌地裁は化学物質過敏症の罹患と本件建物に入居したこととの間の因果関係は認めたものの、請負人の過失責任は以下の理由をもって否定した。 • ①建物内において、0.1ppm程度のホルムアルデヒドを放出することが、平成8年10月ないし平成9年2月当時において違法であり、あるいは契約上の義務に違反すると認めることは困難である。 • ②一般的な化学物質過敏症の発生機序についての情報は、豊富な臨床経験を持つ宮田医師も経験に基づいてされたものであり、平成8年10月ないし平成9年2月当時、原告がこれらの情報を得ることは、著しく困難であった。
東京地方裁判所平成15年5月20日判決 判例4 【判決の概要】 • 被告である施工会社が取り付けたシステムキッチンから漏水事故が発生したので、被告はその対処方法として雑排水が染みた土台や大引きに防腐剤であるクレオソート油を塗布した このクレオソート油から大量の化学物質が室内に揮発し、原告ら夫婦が化学物質過敏症に罹患した。
東京地裁は被害者の化学物質過敏症の罹患と施工業者のクレオソート油の塗布との因果関係を認めたものの施工業者の過失責任は以下の理由をもって否定した。東京地裁は被害者の化学物質過敏症の罹患と施工業者のクレオソート油の塗布との因果関係を認めたものの施工業者の過失責任は以下の理由をもって否定した。 • 判決は「本件で使用されたクレオソート油の缶には、注意書きがあり、被告は、クレオソート油の身体への毒性があることを予見することができ、これを居住中の家屋の床下に塗布した場合には、その臭気により住人等に頭痛等の症状が発現する場合があることを予見する事ができたというべきである。」と認定したが、 • 「上記注意書きによるクレオソート臭の吸引による結果の予見の範囲は、一時的な頭痛等や吸引自体による直接的な神経症状を来す事にあり、これ以上に、原告らが化学物質過敏症となり、前記認定のような慢性的疾患に罹患するという結果まで予見し得たとまでは直ちに認め難い。」と判示し、施工業者の過失を否定した。
東京高等裁判所平成15年10月2日判決 判例5 同事案は、【判例4】の東京地方裁判所判決の控訴審判決である。 結論は、東京地裁判決を踏襲。
東京地方裁判所平成15年9月1日判決 判例6 • 【事案の概要】 • 賃借人は化学物質過敏症に既に罹患していて、その事実を仲介業者に告げ、賃借物件を探したにもかかわらず、アパートに設置されていた畳が農薬畳であったため、健康が損なわれ、住み続けることが困難になった。
*本人訴訟であったため、主張立証が十分に尽くされていない。*本人訴訟であったため、主張立証が十分に尽くされていない。 • 判決は「本件畳の存在が原因となって被告(居住者)の健康が害される結果になったという蓋然性を完全に否定することはできない。」としながらも、「この事実を確定的に認定することは困難であるというべきである。」と判示して因果関係を否定した。
東京地方裁判所平成16年3月17日判決 判例7 • 【事案の概要】 • 施工業者が行った内装工事により、室内空気汚染が発生し、これにより居住者が化学物質過敏症に罹患した。 • 被害者が喫煙の習慣があった事から、施工業者は、喫煙が原因で化学物質過敏症に罹患したものであり、内装工事が原因ではない等の主張を行った。 • また、室内空気汚染の存在については、内装工事終了後20日程度経過した時点で測定が行われ、厚生労働省の指針値を超える化学物質は検出されていない。
被害者の化学物質過敏症の罹患と施工との因果関係は肯定された。被害者の化学物質過敏症の罹患と施工との因果関係は肯定された。 • 結論的には施工業者の過失が否定されているが、平成13年当時の内装施工業者が負うべき法的義務として「被告会社には、工事に起因する室内空気汚染が発生しないように、使用する建材や接着剤を慎重に選択し、施工方法に配慮するとともに、原告に対し、化学物質過敏症の予防対策をとるべき義務があったということができる。」と明確に判示しており、注目に値する判決である。
神戸地方裁判所平成17年4月28日判決 判例8 【事案の概要】 • 隣家の床下にシロアリ駆除剤が散布され,それが床下換気扇を通じて,被害者宅に飛散して被害者において健康被害が生じた。 *使用された駆除剤の主成分であるフェノブカルブという化学物質(厚生労働省において室内濃度指針値を策定している物質)。
裁判所は、シロアリ駆除剤の散布と健康被害との間の因果関係を否定した。裁判所は、シロアリ駆除剤の散布と健康被害との間の因果関係を否定した。 • 被告側は飛散実験を行い、散布の衝撃で駆除剤の膜であるマイクロカプセルが破壊されることはほとんどないことを基礎づける資料と共に,隣家の床下とできるだけ同一環境にて飛散実験を行い,散布14日程度後には,定量下限未満,正確な数値を測定できないほどの微量であるという参考数値であることを立証し、原告宅に微量のフェノブカルブが存在していたとしても,それはホームセンターの妨害虫剤として販売されていることから,本件駆除剤散布のためだけとは言い得ないということを強く裁判所にアピールした結果、因果関係が否定されるに至ったものである。
札幌高等裁判所平成17年7月15日判決 判例9 • 請負契約の瑕疵担保責任について、本件建物に居住した結果,控訴人にシックハウス被害という生命,身体の侵害を伴う損害が生じたとして,損害額5202万0335円を請求している。 • これは,請負代金3142万5894円(前提事実)を超えるものであり,民法の瑕疵担保責任は,このような生命,身体の侵害を伴う損害賠償まで想定していないと解される。そうだとすると,控訴人のシックハウス被害に関する損害賠償請求は,控訴人が主張する契約の合意の存在が認定できる場合に,不完全履行に基づく損害賠償請求ができるものの,瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求はできないと解するのが相当である。と判示している。 • この判決は、シックハウスによる健康被害については不完全履行による債務不履行責任を追求すべきと言う法理論を明確にした。
東京地方裁判所平成17年12月5日判決 判例10 【事案の概要】 マンション販売会社が「環境物質対策基準に適合した住宅」との表示を付して販売したマンションがシックハウスであった事案で、購入者が瑕疵担保責任に基づく契約解除と損害賠償を主張した事案である。
「被告は、環境物質対策基準であるJASのFC0基準及びJISのE0・E1を充足するフローリング材等を使用した物件である旨を本件チラシ等にうたって申込みの誘引をなし、原告らがこのような本件チラシ等を検討の上、被告に対して本件建物購入を申し込んだ結果、本件売買契約が成立したのである。 「被告は、環境物質対策基準であるJASのFC0基準及びJISのE0・E1を充足するフローリング材等を使用した物件である旨を本件チラシ等にうたって申込みの誘引をなし、原告らがこのような本件チラシ等を検討の上、被告に対して本件建物購入を申し込んだ結果、本件売買契約が成立したのである。 • 「環境物質の放散につき、契約当時行政レベルで推奨されていた水準の室内濃度に抑制されたものであることが前提とされていた。」 • 厚生労働省の指針値以上にホルムアルデヒドが放散していた建物には瑕疵がある。
東京地方裁判所平成19年10月10日判決 判例11 【事案の概要】 • 平成13年12月21日付建物建築請負契約(平成14年9月28日引渡)した建物 ホルムアルデヒドの指針値超過を理由に 瑕疵担保責任等に基づく損害賠償請求
ホルムアルデヒド放散量 ・・・施主は,8回に渡る測定の結果,ほぼ全ての測定において,全室で空気中のホルムアルデヒド濃度が,ガイドライン値(厚労省)を超えたと主張 • 施工業者は,建材として,ホルムアルデヒドの品質等級のうち,Fc0,E0に当たる最上級の製品を使用 • 入居時から何か鼻につく臭いを感じ,2階北側の寝室で寝起きしていた原告らの長女は,入居から2,3日で寝込むほど体調が悪化し,原告らの体調も悪化→北里研究所病院においてシックハウス症候群との診断を受ける
主な争点 【争点①】建築に当たり,シックハウス症候群に罹患することがないようにし,そのために,ホルムアルデヒド濃度を厚生労働省指針値以下に抑え,放散量が限りなく0に近い建材を使用し,かつ1時間0.5回の換気量を確保することの合意はあるか。 【争点②】本件建物の建材及び換気機能に瑕疵はあるか。 解体費用・・・230万円 改修費用・・・約2200万円 を請求
主な争点 【争点③】安全配慮義務として,シックハウス症候群を発症させてはならない義務を負うか。 後遺障害等級第11級の1(両眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの)に準じて,各々に慰謝料として331万円の支払を請求
【争点①】合意の有無 シックハウス症候群に対する強い関心あり。 シックハウス症候群を防ぐため, ◆天然素材を使用して欲しい! ◆全館換気システムを導入して欲しい! 施主 これに対し,営業マンの説明は・・・
原告の主張 ①以前は,建材として使用する合板の接着に使うホルムアルデヒドを原因として問題が生ずることがあった ②現在は,被告が使用する建材はすべてホルムアルデヒド・ゼロのものである ③クロスの接着剤についてもホルムアルデヒドを含まないものを使用している ④よって,シックハウス症候群等の健康被害の起きることはないなどと説明
裁判所の認定 ①以前のいわゆる新建材と呼ばれる合板については,接着に使うホルムアルデヒド等により健康被害が生ずるという問題もあった ②被告が使用する標準の建材についてはそのような問題はないこと ③さらに,接着剤を全く使用していない自然素材を使うという方法もあるが,それらの建材は大変高価であること ④漆喰の壁は職人の手間賃が高く,現在ではほとんど使われておらず,被告が使用するクロスも十分安心できるものであること
ならば,コストの問題もあるし,営業マンも問題ないと言うからこれで合意しよう。ならば,コストの問題もあるし,営業マンも問題ないと言うからこれで合意しよう。 ・一部にのみ無垢材を使用 ・壁の仕上げはすべてクロスを使用 施主 平成13年12月21日 建築請負契約締結 原告らとしては・・・ ホルムアルデヒド濃度を厚生労働省指針値以下に抑え,放散量が限りなく0に近い建材を使用し,かつ1時間0.5回の換気量を確保するという合意をした。
裁判所の判断 (ⅰ)ホルムアルデヒドは,家具,塗料,衣類にも使用されている。 (ⅱ)指針値は,元々一過性の体調不良を想定して指摘された基準であり,より低い濃度においてもシックハウス症候群に罹患する可能性があること。 (ⅲ)室内の空気中のホルムアルデヒド濃度を完全にガイドライン値以下に抑えることができるとは限らない。 およそ原告らがシックハウス症候群に罹患することがないようにするとか,本件建物の室内の空気中のホルムアルデヒド濃度がガイドライン値を超えないようにするということは,現在の医学的知見及び建築施工等の技術水準を前提とする限り,いまだどのようにすれば実現し得るのかが明らかになっていない事柄であるといわざるを得ない。
† 裁判所の立てた規範 † • 「施主が上記のような結果を求める特別な理由があって,これを実現することが契約内容である旨具体的に明示した要求がされ,施工者が,あえてこれを承諾したことを認め得るような明確な根拠がない限り,上記二つの要素が契約内容として合意されていると認めることは,意思表示の合理的解釈としても,また経験則上からも,困難である。」 • 「明確な根拠がない限り,原因物質の放散が限りなく0に近い建材を使用することの合意を認めることは困難」
本件では~建材について~ • 見積書,仕上げ表等に記載が無い • 特約書・念書・覚書等も存在しない(原告らがこれらの書面作成を要望したような事情もない) • 契約書にもガイドライン値の記載も無い • 打合せ過程 【業者の回答・説明内容】 「通常は,被告の建物によりシックハウス症候群に罹患することがないこと,ホルムアルデヒドを全く放散しない自然素材のみを使用すると,材料費や手間賃も高額化し,コストがかかるので,通常の建材も交え,ただし,上級のものを使用する旨説明したに止まる」 建材に関し施主の主張するような合意はない!
本件では~換気機能について~ • 0.5回/時という数値基準を明示したのは改正建築基準法以外に見当たらない • 建築基準法が改正された平成14年7月当時までは,0.5回/時という数値は,一般的な通有性を有していたと認めることはできない • 0.5回/時という合意は,明確な根拠が必要 • しかし,上記合意内容を記載した書面は存在しない 換気に関し施主の主張するような合意はない!
【争点②】建材・換気機能の瑕疵 † 契約違反がないことは争点①のとおり † 「通常の性能」といえるか否か? ◆建材について ・Fc0,E0にあたる最上級の建材 ・指針値以下を完全抑止は不可 ◆換気機能について ・24時間セントラル換気システムの設置 ・換気回数は0.3回/時が確保されている ⇒通常の性能を有している! 瑕疵該当性なし!!
【争点③】安全配慮義務 • 最上位の建材を使用しても,室内空気中のホルムアルデヒド濃度を,完全にガイドライン値以下に抑えることができるとは限らない • 居住者の体質や体調に左右され完全防止不可能 安全配慮義務はない! 過失の有無,因果関係の有無等については判断せず
小括 例えば・・・ 1 説明義務違反の主張 自然素材はコストがかかるので,施主も悩む・・・ ⇒営業マン「うちの標準仕様の建材・クロス・ 接着剤でも大丈夫!」 ところが,ガイドライン値を超えるホルムアルデヒドが検出された!! 「説明と違うじゃないか!!」 説明義務違反を主張していれば,施主が勝訴していた可能性がある!!
コストと仕様のせめぎ合い • 健康に配慮すれば,全て自然素材を使用した方が良いことは明らか • 健康住宅は欲しいけど,費用がかかりすぎるという施主の思い • 契約を取りたいという営業マンの思い 「うちの標準仕様でも健康には全く問題ありません。 ホルムアルデヒドなんて生じません!」 オーバーな営業トークで契約締結へ 裁判になったときに,説明義務違反を問われる可能性!
居住者らにシックハウス症候群を発症させてはならないという安全配慮義務居住者らにシックハウス症候群を発症させてはならないという安全配慮義務 2 安全配慮義務違反の構成 ⇒立証のハードルが高い! 居住者らが健康を害することがないよう配慮する義務 ⇒立証のハードルが低い! 原告勝訴の可能性
東京地方裁判所平成19年2月16日判決 判例12 【事案の概要】 ◆スケルトンにてマンションの一室を購入した後に,内部・内装工事につき,設計・施工を行う(同マンションの他の居室は業者による通常施工) ◆もともと,施主の奥さんは化学物質に対して敏感な体質 シックハウス対策を施した住宅の施工を依頼することに 施主が主導する形で打ち合わせが行われた
営業担当者とVOCの発生原因にならない素材を選択することを話し合い,了解をとる。営業担当者とVOCの発生原因にならない素材を選択することを話し合い,了解をとる。 • その際,営業担当者は, ◆販売担当した一戸建の物件で,顧客からシックハウスだという訴えがあった経験があること ◆その顧客に付き添って,化学物質過敏症の治療で有名な北里研究所病院に行った経験があること などを施主らに話し,同時にシックハウス,また住居によっても,引き起こされるとされる化学物質過敏症についての話もした。 営業担当者
1. 契約内容 平成13年10月9日【請負契約上の特約】 • 建材や施工材としてトルエン,キシレン,ホルムアルデヒド等の揮発性有機化合物を含まないもののみ使用すること(シックハウス対策) ⇒品番等も仕様書において詳細に特定 • あらかじめ施主の了解を得ることなく変更した場合には,工事をやり直すこと • 床の施工については,接着剤を使用することなく,釘打ちで施工すること グレードの高い合意の成立
2. 施工後の状況 • 転居後,施主の奥さんの体調に異変 • 上記特約に反し,床の施工につき,施主らの承諾を得ることなく,接着剤を使用し,かつ,その報告を施主にすることなく,さらには施工記録等にも記載しなかったことが判明 (この点については施工者側謝罪) • 裁判へ
主な争点 【争点①】 本件建物の床の施工につき,使用された材料に,トルエンを含有する接着剤が使用されたのか。 【争点②】 本件建物に入居したことにより化学物質過敏症に罹患したのか。 →医師は化学物質過敏状態に基づく中枢神経・自律神経機能障害と診断(ブーステストもしていた)
【争点①】接着剤 1.室内空気測定 ①施主側(平成14年9月23日・測定バッジによる測定《byベターリビング》 ) 【結果】トルエン濃度 0.35ppm ※ 指針値超!(指針値0.07ppm) ②施工者側(平成14年12月24日・通常仕様により施工された他のマンション居室の室内濃度測定) 【結果】トルエン濃度 0.0062ppm,0.0008ppm ※ 指針値内! 現実に使用した接着剤の成分表を見る限りトルエンは含まれていない!
当事務所の考え • 室内空気測定の結果の違い 測定した季節の違い,測定した時期の違い(施工後の期間の差)で説明がつく • 接着剤使用という契約違反は明らか • 施工ミス・契約違反がなければ,トルエン濃度0.35ppmはありえない! 接着剤以外の原因があるのでは? ⇒調査するも,分からず・・・
当事務所の思惑 • 施工者から鑑定申請 ⇒接着剤を鑑定すれば事実は明らかになる! ◆接着剤は2~3年も経てば当初から成分が変化してしまう ◆鑑定すれば,被告が主張する接着剤成分と異なる成分が検出されるはず! 「施工者が主張していた接着剤とは違うものが使用されているに違いない(少なくとも被告主張の接着剤であることは分からない)。施工者は嘘つきじゃないか!」という主張をしたかった。しかし・・・ 施主,鑑定を拒否(奥さんの具合が悪化することを懸念)
2.裁判所の判断 (ⅰ)建物の他の部分にトルエンが含まれた建材等は使用されてなく,トルエンは揮発性が高いことから,完成後3ヶ月以上経っているのに①の数値は疑問。 (→測定方法に関する客観的な証拠無し) (ⅱ)①の測定結果につき,トルエン含有率が何%程度の接着剤が何g程度使用され,その含有トルエンが全て揮発したとして何日程度でそのような現象が発生するのか,について科学的根拠に基づいた具体的な立証がない。 発生源が問題となった床の接着剤であると特定することは不可能と判示!
【争点②】入居と化学物質過敏症との関連性 【北里研究所病院の問診票】 ①入居以前から,新装のホームセンターやモデルルームでめまい等を感じ,気分悪い ②平成14年夏ころ,殺虫剤を掛けられて一日中症状が消えなかったことがあったときから,合成洗剤の臭いにも,吐き気,息苦しさ,頭痛, ③平成8年ころより,筋肉のこわばり,息苦しさ,皮膚の乾燥等の症状が悪化 ④憎悪因子として,8回に渡る引っ越しや排気ガス等と考えていると述べていた。 「本件建物に入居する以前から,低レベルの化学物質の暴露によって多様な症状が繰り返し出現していたものであり,既に同症状は慢性化しつつあったことが伺われる」