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生態学的感染症理解 -適応、進化、共生への道

生態学的感染症理解 -適応、進化、共生への道. 山本太郎 長崎大学熱帯医学研究所 国際保健学分野. 本日の話の流れ. 自己紹介 研究所・研究室の紹介 生態学的感染症理解について 歴史 適応 進化 共生への道. 山本 太郎. プロフィール: 医師 長期海外赴任: ジンバブエ,アメリカ,ハイチ(得がたい体験をした) こんなところで勉強してきました: 長崎大学医学部 長崎大学医学部大学院(ウイルス学専攻) (長崎) 東京大学大学院(国際保健学専攻) (東京) ハーバード公衆衛生大学院(武見フェロー) (ボストン) こんなところで働いてきました:

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生態学的感染症理解 -適応、進化、共生への道

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Presentation Transcript


  1. 生態学的感染症理解-適応、進化、共生への道生態学的感染症理解-適応、進化、共生への道 山本太郎 長崎大学熱帯医学研究所 国際保健学分野

  2. 本日の話の流れ • 自己紹介 • 研究所・研究室の紹介 • 生態学的感染症理解について • 歴史 • 適応 • 進化 • 共生への道

  3. 山本 太郎 プロフィール:医師 長期海外赴任:ジンバブエ,アメリカ,ハイチ(得がたい体験をした) こんなところで勉強してきました: 長崎大学医学部 長崎大学医学部大学院(ウイルス学専攻) (長崎) 東京大学大学院(国際保健学専攻) (東京) ハーバード公衆衛生大学院(武見フェロー) (ボストン) こんなところで働いてきました: 市立札幌病院救急部 (札幌) 長崎大学熱帯医学研究所・助手 (長崎) ジンバブエ国保健省・チーフアドバイザー (アフリカ) 京都大学大学院医学研究科 ・助教授 (京都) コーネル大学・ベイル医学校 ・准教授 (ニューヨーク) WHO(世界保健機関)・コンサルタント (マニラ) ハイチ・カポジ肉腫・日和見感染症研究所・上席研究員 (ハイチ) 外務省・国際協力局・課長補佐 (東京) 長崎大学熱帯医学研究所国際保健学分野・主任教授 (長崎)

  4. 長崎大学熱帯医学研究所 • 1943(S17)年3月:長崎医科大学附属東亜風土病研究所発足 同仁会漢口診療防疫班医院 概観(写真上)と班員(写真下) 新京訪問時の長崎医科大学長

  5. 長崎大学熱帯医学研究所 • 1946(S21)年4月:長崎医科大学風土病研究所へ改組 • 1949(S24)年5月:新制長崎大学へ移行 長崎大学附置風土病研究所 五島列島における寄生虫症の研究 天草における肺吸虫症の疫学的研究

  6. 長崎大学熱帯医学研究所 • 1943(S17)年3月:長崎医科大学附属東亜風土病研究所発足 • 1946(S21)年4月:長崎医科大学風土病研究所へ改組 • 1949(S24)年5月:新制長崎大学へ移行 長崎大学附置風土病研究所 • 1964 Dr. K. Hayashi Viral diseases in East Africa • 1965 Prof. D. Katamine Parasitic diseases in Tanzania • 1966 Prof. H. Fukumi Viral and parasitic diseases in East Africa • 1967(S42)年6月:風土病研究所を「熱帯医学研究所」へ改組

  7. 熱帯医学研究所以降 1973:天然痘根絶計画への参加 (エチオピア) 1974-1976:住血吸虫症対策に関する研究 (ケニア) 1977-2001:カポジ肉腫及び関連疾病研究 (ケニア) 1990-2005:エイズに関する研究 (ウガンダ) 1995-1999:住血吸虫症対策に関する研究 (タンザニア) 1996-2001:マラリアと住血吸虫症対策 (ジンバブエ) 2006-:ナイロビ拠点、ハノイ拠点の設置

  8. 熱帯医学研究所環境医学部門「国際保健学」分野熱帯医学研究所環境医学部門「国際保健学」分野 • 研究   (感染分子の進化・適応、環境医学、医療生態学) • 教育   (博士課程、医学部、修士課程、研修コース) • 社会貢献(国際貢献) • 公共政策への提言 • 開発現場での活動 • 人づくり

  9. Social responsibility • Policy development through • G8 summit • TICAD • International collaboration through • MOFA • JICA • NGO/NPO on the ground and at the national level

  10. Research activities There are three major units in our dept. • Environment and health • Climate change • Land usage/Deforestation • Asian (Yellow) dust • Medical ecology • Malaria • Dengue fever • HIV • Evolution biology and molecular evolution • HTLV-1 • Tuberculosis • Leprosy

  11. Umbrella Concept of Our Interests Our interest in research in infectious disease is to understand natural history of infectious diseases over both time and space, through the appreciation to interaction between infectious agents and hosts, or human being in this case, as well as environment. Agents and hosts are creatures in nature, have its own strategy to survive, affect each other, and evolve in the surrounding environments.

  12. 「われわれはどこから来たのか われわれは何者か われわれはどこへ行くのか」「われわれはどこから来たのか われわれは何者か われわれはどこへ行くのか」 (ポール・ゴーギャン) “D'où Venons Nous / Que Sommes Nous / Où Allons Nous“P. Gauguin / 1897(!)

  13.  「健康と病気は、生物学的、文化的資源を持つ人間の集団が、その環境にいかに適応したかという有効性の尺度である」 リチャード・リーバン(医療人類学者)

  14. 生態学的感染症理解われわれはどこから来たのか生態学的感染症理解われわれはどこから来たのか

  15.  二つ目の研究は、1846年に行われたフェロー諸島の麻疹流行についての研究。 二つ目の研究は、1846年に行われたフェロー諸島の麻疹流行についての研究。 • 1846年、フェロー諸島において、麻疹が流行し、7800人の住人のうち6000人近くが感染した。 •  当時、現場で調査を行ったパナムは、二つの事実に気づいた。第1に、65歳以上の住人の発症がほとんどなかったこと。第2に、直近の麻疹流行が65年前の1781年であったこと。1781年以降、フェロー諸島において麻疹流行はなく、麻疹に対する集団免疫がフェロー諸島住民の間で低下していたと推測した。一方、1846年の流行についていえば、外部から麻疹が持ち込まれた可能性が高いと報告した。 •  後に有名になるこの報告書は、本人の意図とは別に、感染症と人類史について多くの示唆を与えるものとなった。パナムの報告書が与えた示唆とは、数千人規模の人口では、麻疹は流行を維持できないということに他ならなかった。後の研究によって麻疹の恒常的流行には、25万人規模の人口が必要だということが明らかになるが、そうした人口規模は、農耕・定住が始まって始めて可能となったのである。 農耕以前の人類の健康を推測させる二つの研究 •  一つの研究は、イェール大学感染症疫学教室教授であったブラックらは、アマゾン先住民を対象として行った研究。 •  ブラックらは、まず、感染症を二つに分類した。一つは結核のような慢性の感染症。もう一つは、感染した後、短期間で免疫を獲得して回復するか死亡する急性感染症。麻疹や風疹、おたふく風邪、インフルエンザなど。 •  二つ異なる種類の感染症について流行状況を調べた結果、ブラックらは、アマゾン先住民社会において、急性感染症は、流行を維持できないことがわかったという。一方で、長期間持続感染する感染症は社会に風土病的に根付いていることも明らかとなった。 •  ブラックらはこうした結果から、麻疹や風疹、おたふく風邪といった急性感染症は、人類がある一定以上の人口規模を持つようになって始めて、流行を繰り返すようになったと考えた。 (フェロー諸島)

  16. ブラックとパナム、二つの研究が示唆するものブラックとパナム、二つの研究が示唆するもの • 農耕・定住以前の人間社会では、麻疹、風疹、おたふく風邪といった急性感染症の流行は、極めて稀であったに違いないこと。 • この事実は、二つのことを示唆するものとなっている。 • 第一の示唆は、急性感染症が、人類進化に対する淘汰圧として働いた可能性が低いということ。 • 第二の示唆は、急性感染症は乳幼児期の感染症であることから、農耕・定住以前の人類は、妊娠・出産に関わる病気を除けば、比較的健康な乳幼児期を送っていた可能性が高いということ。 • 農耕以前の社会において、癌や循環器病を引き起す環境要因が、現代社会と比較して少なかったに違いないことを考えれば、当時の人類の健康状態は、私たちが想像するよりはるかに「健康」だったかもしれない。「健康」が環境への適応の尺度だと考えれば、人類は環境に対しある種の適応を果たしていたのかもしれないということになる。

  17. 家畜からの贈り物 人間の病気 最も近い病原体を持つ動物   麻疹 ウシ、イヌ   天然痘 ウシ   インフルエンザ 水禽(アヒル)、ブタ   百日咳 ブタ、イヌ

  18. 農耕の開始 食料増産 定住 人口増加 (感染症流行の土壌を提供) (促進) 野生動物の家畜化 (麻疹・天然痘・百日咳・インフルエンザなど) ヒト社会に ある種の感染症 が根付いた

  19. ウイルスのヒトへの適応段階 代表例 第1段階 適応準備段階ともいえる段階であり、感染症は家畜や獣から引っかき傷やかみ傷を通して直接感染するが、ヒトからヒトへの感染はみられない。感染は単発的な発生のみで終息する lレプトスピラ症 l猫引っかき病 第2段階 適応初期段階ともいえる段階であり、ヒトからヒトへの感染が起こる。ただし、この段階は適応の初期段階に過ぎず、感染効率が低いためやがて流行は終息に向かう lオニョン・ニョン熱 (1959,東アフリカ) l新型レプトスピラ症 (第二次大戦中,アメリカ) 第3段階 適応後期段階というべき段階であり、以前は動物のあいだで流行していた感染症がヒトへの適応を果たし、定期的な流行を引き起こす lラッサ熱(1969,ナイジェリア) lライム病(1962,アメリカ) lエボラ出血熱 (1976,スーダン南部) 第4段階 ヒトに対し適応したため、もはやヒトのなかでしか存在できない感染症がこの段階の感染症 l天然痘,エイズ, l梅毒 最終段階 ヒトという種のなかから消えていく感染症 成人T細胞白血病

  20. 感染症が広がるということその生物現象への社会学的関与R0=β×κ×D感染症が広がるということその生物現象への社会学的関与R0=β×κ×D

  21. 基本再生産数 基本再生産数( R0 )は以下の式で与えられる: 定義:「基本再生産数」とは,ある1人の感染者が完全な感受性集団に入ってきたとき、その感染者から平均で何人が感染するかという数 • 論理的には以下の3つのシナリオが考えられる • R0 < 1: 流行は起こらない • R0 = 1: 流行は終息もしないが拡大もしない • R0 > 1: 流行は拡大する • R0=β×κ×D •   -β=1回の接触あたりの感染確率 •   - κ=単位時間あたりの接触頻度 •   -D=感染力を有する期間 (1+2+0+1+3+2+1+1+2+1+2)/10=1.5

  22. HIVを例として、基本再生産数を考える R0=β×κ×D β=1回の接触あたりの感染確率 κ=一定時間あたりの接触頻度 D=感染力を有する期間 β は、1回の性的接触あたりの感染確率。 性感染症の合併がない場合(0.01ー 0.001) Dは、感染力を有する期間 感染直後から死亡までの期間 (治療が行われない状況では平均で約15年) κ は、接触頻度を現すパラメータ。この場合は、ある時間単位の中での新たなパートナーの数となる。 → 新たなパートナーの数は、別な言葉でいえば、誰と誰がどのように性的交流をしているかによって規定される。 → そして、この交流パターンは、所属する社会グループによって異なると同時に、時代や社会によって大きく異なる。例えば、農耕の開始以前と以降でも異なる。日本社会とパプア・ニュギニア社会でも異なる。性産業従事者とそうでない人の間でも異なる。

  23. フリースケール・ネットワーク定義:一部のノードが膨大なリンクを持つ一方で、大多数のノードは僅かなリンクしか持たないネットワーク構造フリースケール・ネットワーク定義:一部のノードが膨大なリンクを持つ一方で、大多数のノードは僅かなリンクしか持たないネットワーク構造 (ランダムグラフとスケールフリーグラフ)

  24. 人々の暮らし、社会を知ることの重要性-基本再生産数が教えてくれること人々の暮らし、社会を知ることの重要性-基本再生産数が教えてくれること • 繰り返しになるが、このことは、感染症の流行は、人々の交流パターン、つまり、社会構造のあり方、人々の暮らしぶりによって規定されていることを示しており、 • そうしたことの理解が重要であることを示している。 • ここまでは、ある感染症が流行するか否かに、社会のあり方が影響していると述べてきたが、 • 実は最近、どのような感染症が流行するかは、そのときの社会構造を含めた社会のあり方が規定しているのではないかとさえ思うことがある。

  25. 感染症が社会に与えたインパクト-スペイン風邪(1918年) -中世ヨーロッパのペスト -コロンブス以降の新世界感染症が社会に与えたインパクト-スペイン風邪(1918年) -中世ヨーロッパのペスト -コロンブス以降の新世界

  26. 人のインフルエンザの原因 • インフルエンザウイルスの感染によるが、自然宿主は水鳥 A型            流行する                    (時に世界的流行を引き起こす) B型            流行する C型          流行的発生ではない • A型インフルエンザウイルスは 144種類の亜型 (HA16種類、NA9種類)が存在する

  27. 20世紀における新型インフルエンザ登場の歴史20世紀における新型インフルエンザ登場の歴史 1968年 香港型 100-400万人死亡 1957年 アジア型 A(H3N2) Credit: US National Museum of Health and Medicine 100-400万人死亡 A(H2N2) 1918年 スペイン型 4000万-1億人死亡 A(H1N1)

  28. 20世紀に出現した新型インフルエンザウイルス亜型の系譜20世紀に出現した新型インフルエンザウイルス亜型の系譜 スペイン風邪 1918 1957 1968 1977 ???? アジア風邪 H1N1 ソ連風邪(H1N1 in 1950) H2N2 H3N2 H5N1 香港風邪

  29. History of Influenza Pandemic 1781 49 yrs 1830 59 yrs 1889 29 yrs 1918 39 yrs 1957 11 yrs 1968 20??

  30. US mortality data, 1900-90 1918: Worst health event since "black death" of 14th century 1918

  31. 1918年のアメリカ • 「まず木工職人と家具職人をかき集め、棺作りを始めさせておくこと。次に、街にたむろする労務者をかき集めて墓穴を掘らせておくこと。そうしておけば、少なくとも埋葬が間に合わず死体がどんどんたまっていくという事態は避けられるはずだ」(アメリカ東海岸の公衆衛生担当者たちが米国内の他地域の担当者に対して送ったアドバイス) • 「病院へ運ばれてきた当初、通常のインフルエンザに罹患しているだけのように思われた兵士たちは、しかし数時間のうちにこれまで見たこともないような急激な肺炎症状を示した。入院数時間後には耳から顔全体にチアノーゼが広がり、白人と黒人を区別することさえできなくなった」(診察した医師の記録) • 「何よりもわたしたちを驚かせ、怯えさせた症状は皮下気腫の存在だった。皮下に空気が溜まり、それが体全体に広がっていく。破裂した肺から漏れでた空気は、患者が寝返りを打つたびに、プチ、プチと音を立てた」(看護婦の記録)

  32. Pandemic Influenza in 1918

  33. スペイン風邪(1918-19年)による推計死亡者数スペイン風邪(1918-19年)による推計死亡者数 世界全体 4880万人-1億人 アジア 2600万人-3600万人 インド 1850万人 中国 400万人-950万人 ヨーロッパ 230万人 アフリカ 238万人 西半球 154万人 米国 68万人 日本 39万人 Johnson & Mueller(2002)改変

  34. 感染症が社会に与えたインパクト-スペイン風邪(1918年)-中世ヨーロッパのペスト -コロンブス以降の新世界感染症が社会に与えたインパクト-スペイン風邪(1918年)-中世ヨーロッパのペスト -コロンブス以降の新世界

  35. モンゴル帝国勃興とペスト • チンギス・ハーン(在位一二〇六-一二二七年)が建設したモンゴル帝国支配下において、ユーラシアを横断する隊商交通網の発展は頂点を迎えた。モンゴル帝国の勢力が絶頂に達した一三世紀後半には、その版図は、現在の中国全土とロシアの大半、中央アジア、イラン、イラクを包含するものであった。その版図が、一大交通網で結ばれた。 • こうした交通の発達は、ヒマラヤ山麓の風土病であったペストを、ユーラシア大陸全体に広げることに貢献した。 • ヨーロッパにおけるこの時期の人口急増がペスト流行に格好の土壌を提供することになった。 (シルクロード) (モンゴル帝国の最大版図)

  36. 文明間における疾病交換と均質化 • 歴史研究家ウィリアム・H・マクニールによれば、文明は感染症を貯蔵する装置として機能し、感染症の定期的流行は集団に免疫を付与しているという。それぞれの文明は固有の感染症を貯蔵し、文明圏に属している人々に固有の免疫を付与する。こうした固有の疾病構成をもったそれぞれの文明を『疾病文明圏』と呼ぶ。異なる疾病文明圏の間では、戦争や交易といった異文化接触を通して疾病交換が行なわれる。それによって、それぞれの『疾病文明圏』を構成する疾病数は増加する。と同時にそれぞれの疾病文明圏における疾病レパートリーは均質化していく。というのがマクニールの主張である。 • ヒマラヤ山麓地方の風土病であったペスト、その中世ヨーロッパでの大流行も、疾病文明圏という視点に立てば、ユーラシア大陸での疾病交換と均質化の過程だったとみることができるのかもしれない。

  37. ペストがもたらした社会変化 • 大きな被害を出したペスト流行は、当時のヨーロッパ社会にさまざまな影響を与えた。 • 第一に、労働力の急激な減少は、賃金の上昇をもたらした。農民は流動的となり、農奴やそれに依存した荘園制の崩壊が加速した。 • 第二に、教会は、その権威を失い、一方で国家意識が高揚してきた。 • 第三に、人材の払底は、本来であれば登用されることのない人材の登用をもたらした。 • そうした事態が社会や思想の枠組みを変えた。封建的身分制度は、実質的に解体へと向かうことになった。それは同時に、新しい価値への模索へと繋がっていった。 • 半世紀にわたる黒死病流行の恐怖の後、ヨーロッパは、ある意味で静謐で平和な時間を迎えた。それが内面的な思索を深めさ、文芸復興(ルネサンス)へと繋がっていく。新たな技術は、人々を、新大陸やアフリカといった新たな世界へと押し出した。 • それが新たな疫学的均衡の撹乱を引き起こすことになった。

  38. 感染症が社会に与えたインパクト-スペイン風邪(1918年) -中世ヨーロッパのペスト-コロンブス以降の新世界感染症が社会に与えたインパクト-スペイン風邪(1918年) -中世ヨーロッパのペスト-コロンブス以降の新世界

  39. 文明間における疾病交換と均質化 • ペストを例として見た、ユーラシア大陸内での疾病交換と均質化の過程は、新大陸と旧大陸の間でも見られることになった。 • コロンブスの新大陸発見以後の新大陸先住民は、ヨーロッパ人が、中近東やインド、中国、あるいはその他地域の他文明と接触することによってそれまでに経験し、乗り越えてきた、 4000年以上にわたって積み重ねてきた疾病交換の歴史を一気に体験することになった。 • 新大陸の住民は、世界史上、例を見ない惨禍に見舞われた。新大陸住民の人口は10分の1にまで、減少したという。惨禍の大きさは、ペストの流行や、麻疹の流行をはるかにしのぐ規模であった。

  40. なぜ、ヨーロッパ人が新大陸を征服できたたかなぜ、ヨーロッパ人が新大陸を征服できたたか • マクニールによれば、当時、疫病が神の怒りだとする解釈は、旧約聖書を始めとするキリスト教の教えだったという。その点、スペイン人も新大陸住民も一致していたという。その神の怒りが、新大陸住民にあれほど無慈悲な力を振るったにもかかわらず、スペイン人たちには、ほとんど影響を与えなかった。スペイン人たちは、おそらく幼児期に感染し免疫を獲得していたからである。この事実が、新大陸住民に大きな困惑をもたらした。征服者であるスペイン人たちが一方的に神の恩寵を受けているという事実に、先住民は慄いたに違いない。どれほど人数が少なく、その行為がどれほど残忍かつ卑劣であったとしても、それに抗う力は、先住民たちには残っていなかった。 • 「聖なる理法も自然の秩序も、はっきりと原住民の伝統と信仰を非としている以上、抵抗ということにどんな根拠が残っていたというのか。スペインの征服事業が異常なほどの容易さだったこと、また、わずか数百人の男が広大な地域と数百万人の人間をがっちり支配し得た事実は、このように考えて始めて理解できる」 (「疾病と世界史」佐々木昭夫訳 中公文庫(下))

  41. 生態学的視点から見た「疾病と健康」 「健康と病気は、生物学的、文化的資源を持つ人間の集団が、その環境にいかに適応したかという有効性の尺度である」 リチャード・リーバン(医療人類学者) 狩猟・採取社会は、私たちが想像するより健康的な社会であったかもしれない。   そして奇妙なことだが、人間の罹患する疾病の種類と頻度を増加させたのは、農業と家畜の発明であった。農業と家畜飼育により可能となった確実な食糧供給とそれに伴う人口増加、定住は、感染症の広範な増加をもたらした。 もしかすると私たち人類は、いまだ、農業定住といった環境変化への適応途上かも知れない。

  42. 生態学的感染症理解われわれはどこにいるのか生態学的感染症理解われわれはどこにいるのか

  43. 野生動物からの贈り物 人間の病気 最も近い病原体を持つ動物   麻疹 ウシ、イヌ   結核 ウシ   天然痘 ウシ   インフルエンザ 水禽(アヒル)、ブタ   百日咳 ブタ、イヌ エボラコウモリ?   エイズ アフリカ・ミドリザル SARS コウモリ??

  44. 2010年6月8日現在:感染者499名・死亡者295名

  45. 開発原病と再興感染症 Developo-genic diseases • 灌漑・ダム→住血吸虫症・オンコセルカ症(河川盲目症)等 • ナセル湖(エジプトースーダン国境)・アコソンボダム(ガーナ)・三峡ダム(中国)等 • 土地開墾(ゴム農園など)→原生林の伐採→ハマダラ蚊の成育促進→マラリア等 • 道路建設・港湾建設→トリパノソーマ症(睡眠病)・エイズ等 • 都市化→過密なスラムの誕生→結核・赤痢等

  46.  コンゴ共和国で、エボラ出血熱のためゴリラ(ニシローランドゴリラ)が大量死した(独マックスプランク研究所)。同国のロッシ保護区西部(2700平方キロ)では、5000頭以上が最近5年間でほぼ全滅したと推定。アフリカ最大のゴリラ生息地で絶滅の恐れが急激に高まっている。  研究チームは、同国とガボンの国境付近の住民にエボラが流行した01年以降、人だけでなく周辺の森でゴリラも相次いで死んだことに注目。流行地に近いロッシ保護区やその周辺でゴリラの感染や生息状況を調べた。 その結果、同保護区西部では、エボラ流行前に1平方キロ当たり約2頭生息していたゴリラが、ほとんど観察できなくなった。また、02年10月から4カ月間に個体識別できた143頭中、130頭がエボラのため死んだとみられ、致死率は90%を超えた。 【毎日新聞 田中泰義】  ▽アフリカの感染症に詳しい山本太郎・外務省多国間協力課課長補佐(医療生態学)の話。「ゴリラやチンパンジーなどの霊長類が絶滅に向かうと、ウイルスは自らの生き残りをかけ、新たな宿主を求めることがある。その時、人類が新たな宿主になる可能性がある」 エボラとゴリラ CREDIT: M. WATSON/ WWW.ARDEA.COM

  47. 生態学的視点から見た「疾病と健康」 「健康と病気は、生物学的、文化的資源を持つ人間の集団が、その環境にいかに適応したかという有効性の尺度である」 リチャード・リーバン(医療人類学者) 狩猟・採取社会は、私たちが想像するより健康的な社会であったかもしれない。そして奇妙なことだが、人間の罹患する疾病の種類と頻度を増加させたのは、農業と家畜の発明であった。農業と家畜飼育により可能となった確実な食糧供給とそれに伴う人口増加、定住は、感染症の広範な増加をもたらした。 もしかすると私たち人類は、いまだ、農業定住といった環境変化への適応途上かも知れない。   そして、現在の私たちはといえば、農耕社会への適応途上に加えて、産業化、グローバル化、開発を始めとする環境への急激な負荷、それが引き起す地球温暖化といった、環境変化に直面しつつある。

  48. 環境変化→疫学的均衡の撹乱→ →疾病の交換と均質化→新たな平衡の模索 例えば、農耕・定住・野生動物の家畜化・人口増加・人口密度の増加 例えば、産業革命・都市人口の増加・密閉された工場 例えば、開発・グローバル化・小さくなる地球

  49. 生態学的感染症理解われわれはどこへ行くのか(向かうべきか)共生(symbiosis)という考え方生態学的感染症理解われわれはどこへ行くのか(向かうべきか)共生(symbiosis)という考え方

  50. HIV流行のシュミレーション 【性的交流が活発な場合】 【性的交流が穏やかな場合】 (Y2):弱毒HIV-1株 (Y2):弱毒HIV-1株 (Y1):強毒HIV-1株 (Y1):強毒HIV-1株

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